Fabrication

2012.07.13

ROA(冒険利益率)を最大化させる方法

Text by kanai


私たちMakerの挑戦の成功度を測るために、何か新しい尺度が必要だと私は考える。新しい物差しだ。私が提案したいのは「冒険利益率」だ。たぶん手で触れないものだけど、ROI(投資利益率)と同じぐらい大切なものだ。そんなわけで、私のROAを報告しよう。
「失礼ですが、これはあなたの手荷物?」
案の定、運輸保安局の職員が探知機の背後から私たちに向かって歩いてきた。Ericと私は目配せをしてニヤリと笑った。私たちはもう慣れっこになっていたので、彼らを責めたりはしない。プラスティックの管や電子回路や電池が詰め込まれた黄色いペリカンケースがX線探知機の中を通ってくれば、誰だって怪しいと思うだろう。むしろ、このままスルーだったら逆にこっちが心配になる。
「中身はなんです?」と運輸保安局員が尋ねた。「尖ったものはありませんか?」
「尖った物は入ってません」とEricは答えた。「中身は水中ロボットです。私たちはキーラーゴの沖合にあるAquarius Undersea Laboratoryに行くところです。そこで今週、NASAのNEEMO計画に参加する予定なんです。このロボットをそこでテストするんですよ」
私たちは顔がにやけるのを抑えることはできなかった。この瞬間は、私たちにとっても、この運輸保安局員にとっても、現実離れした感覚だったはずだ。つまり、最高にクールだったということだ。
その日の朝、私はDIY Dronesの創設者、Chris Andersonのこんなツイートを読んでいた。

「来週のAVC大会のために@Sparkfunに送ろうと軍隊っぽいペリカンケースにドローンを詰め込んだら、ものすごくワクワクしてきた」
私も同じだった。 ChrisとDIY Dronesの連中が同じ気持ちになっていると知ってうれしかった。そこで私は、他の人たちはどうだったろうと考えた。まずはMakerBotだ。彼らはメトロポリタン美術館で展示物をスキャンして3Dプリントするというイベントを開いた。次はOru Kayakと開発者のAnton Willisと先月サンフランシスコ湾で行った「製品テスト」のことを考えた。さらに、先週のJellyfish Artのツアーのことも考えた。そこでは創設者のAlex And onが上下逆さまに泳ぐクラゲの繁殖に挑戦している。
そうしたグループのことを想像するうちに、私にはあることが見えてきた。Makerのグループや会社は、みんな思いっきり楽しんでいる! ということだ。
こうした気持ちにならない人が多いことに、私は衝撃を受けた。TechShopで物作りを楽しもうという人が、もっと増えてもいいはずなのに。起業はリスキーで、失敗する可能性が高いと統計的にもわかっているのなら、どうしてみんな、ありきたりな通販サイトやFacebookのパクリを作るようなことで時間を無駄にするのだろう。なぜもっと、みんながビックリするような、今まで見たこともないようなものを作ろうとしないのか。もっとワクワクする楽しいことを、たとえ失敗しても世界がもっと明るく刺激的になるようなことをしないのだろう。
Makerムーブメントとラピッドプロトタイピング用のツールが身近になったことで、まったく新しい可能性の世界が開かれた。現在の新興企業はまったく創造的でないと批判する記事を多く目にする。なかでもAlexis MadrigalのThe Jig is UpやSteve BlankのWhy Facebook is Killing Silicon Valleyは有名だが、どんな未来になって欲しいかを語る記事はほとんど見かけない。
ここで私はひとつの考えを示したい。本当に創造性のある新興企業は、「何を」よりも「どうやって」に重点を置いているようだ。製品と同じぐらい、作るプロセスが大切なのだ。彼らはコミュニティを大切にして、オープンで、クラウドソースで、受容的だ。そしてなにより、そうした企業は思いっきり楽しむことが好きな人やグループから生まれている。
私のOpenROVプロジェクトの相棒、Eric Stackpoleと私は、これをビジネスにしようと考えたことは一度もない。つねに冒険だと考えてきた。私たちが共通の友達に紹介されて初めて出会ったとき、どちらも大好きな仕事を持っていた。そのとき私たちは、お互いの夢の冒険について、そしてそれを実現するためには何が必要なのかをみっちり3時間話し合った。もし、誰にでも買える値段で優秀なROVがあったら、どうだろう。そいつをインターネットでコントロールしながら世界の珊瑚礁を冒険できたらどうだろう。何千人もの人がそれを使い、互いの体験やデータをインターネットで交換できるようになったらどうだろう。

写真提供:SpaceAppsChallenge
Ericと私は、互いの冒険の方向性が重なっていることに気づいた。あのときの会話が、今でも私たちのすべての行動の原動力になっている。厳しい決断を迫られたときは、必ず、あのときに戻って共通の価値観を確かめ合うことにしている。
あの当時、OpenROVをオープンソースにして、オープンハードウェアプロジェクトにすることには何の抵抗もなかった。私たちはDIY DronesやMakerBotの仕事を見てきたし、同じように水中散歩を楽しみたいと思っている人たちのコミュニティに出会えると思っていた。実際、出会うことができた。そして、毎日人数が増えている。
今、私たちにとっての最大の障害は、自然の中を動くOpenROVの数が少ないということだ。この問題は、Kickstarterを利用してキットを普及して、より多くの人をプロジェクトに参加させることで解決できたらと考えている。私たちは、このROV を「そこそこ」のレベルまで作り上げるために、骨身を惜しまずがんばってきた。まだまだやるべきことは多い。コンパスや水圧計を組み込む時間もなかった。海水中での性能についても、まだまだ改良の余地がある(今のところブラシレスモータはいい感じだ)。形ももっと流体力学的に洗練させなければならない。でも、そうした問題は私たちよりもコミュニティのほうが早く解決してくれるに違いない。そろそろ出荷の段階だ!
もちろん、OpenROVプロジェクトが予定どおり、データ共有プラットフォームとしての性能を発揮できるようになり、水中のテレプレゼンス・ハブになるまで成長を続けるためには、確かな基盤が必要だ。Ericも私もそこはよく理解しているが、最初の会話の気持ちも忘れたくない。Tim O’Reillyもこう話している。

「お金は旅行中のガソリンのようなものだ。旅先でのガス欠はいやだが、ガソリンスタンド巡りもつまらない。お金は大切だが、お金が目的になってはいけない」

私たちは、十分に価値のあるものを作っているという自負がある。すべてうまくいくはずだ。だが、OpenROVプロジェクトのもっとも大切な部分は、このプロジェクトをとおして出会った素晴らしい人々と、彼らと過ごした時間だ。
私たちは、世界一裕福なミニ潜水艦製造業者になろうとしているわけではない。この会社をFacebookや巨大企業に売り渡すつもりもない。私たちはただ、ROAを最大化したいだけだ。それは自分のためでもあり、コミュニティのためでもある。私のこうした考え方に賛同して、ROIにROAを組み入れる新興企業が増えてくれることを期待したい。
– David Lang
原文