「その計画は単純で、単刀直入で、事実の一面だけを見るものだった。しかし、私たちは自分自身に本当のことを伝えることができた。私たちは好奇心の塊だった。私たちの好奇心に際限はなく、ダーウィンやアガシーやリンナエウスやプリニウスと同じぐらい、幅広くどこまでも続いた。私たちは、あらゆるものを、自分たちの目が納得するまで見て、できる限り考え、その見たり考えたりしたことを元に、観察した事実の複製の中に、なんらかの骨組みを築きたかったのだ」
─ ジョン・スタインベック『The Log from the Sea of Cortez』(コルテスの海 航海日誌)
ほぼ75年前、ジョン・スタインベックとエド・”ドク”・リケッツを中心とするグループは、バハ周辺のカリフォルニア沿岸地域とコルテス海を旅して回った。旅の目的は、ドク・リケッツが若いころに書いたサンフランシスコ湾の生物目録を足がかりとした漠然とした科学調査だった。そのほかの目的も含まれていたが、そのほとんどは、歴史的に抑圧されてきた動機である「なぜいけないのか?」から起因するものだった。
スタインベックとリケッツによる『The Log from the Sea of Cortez』(「コルテスの海 航海日誌」、邦訳は「コルテスの海」工作舎/1992年)は、結果として私の大好きな一冊となった。この本をひとつのカテゴリーに分類するのは難しい。生物学、地理、冒険、歴史、友情の物語であり、全体的に好奇心の話だ。これらの要素が動的に混ざり合い、いかにして人々を安全な我が家から水平線の果てへ駆り立てたのかが語られている。またこの本は、コルテス海の非常に詳細な生物種、とりわけ無脊椎動物の記録でもある。
この本を読み終えてすぐ、私はコルテス海の冒険旅行を夢想するようになった。だが21世紀流のやり方でだ。それが実際にどんなものなのかはわからないが、面白いに決まってる。スタインベックの物の見方は、私とかなり共通しているように思える。それは、自然界への憧れ、科学的プロセスへの深い敬意(正式な教育が欠如している点も含む)、知識がないからと言って行動を制限する必要はないという信念から成り立っている。それに、この旅行は、最近増えてきた市民冒険ツールを実際にフィールドで使うための完璧な理由になる。
もちろん、一人では無理だ。この旅行に価値を与えてくれる科学の専門家を加える必要がある。ただし、そのDIY精神を受け継ぎ、楽しさを失わないようにしなければならない。”ドク” リケッツの現代版となるMakerが欲しい。私は、DIYBio.orgとGenefooの共同創設者、Mac Cowellの中にリケッツを見た。私の計画の半分だけ説明したとき、彼はこう言った。「乗った。いつ出発する?」
我々は、1月と決めた。旅に出るには最良の時期だ。そして、カボサンルーカスからラパスまで、82フィート(約25メートル)のスクーナー「Seaward」号をチャーターした。さらに精鋭チームをかき集めた。私のOpenROVの共同創設者、Eric Stackpole、OpenPCR の共同創設者、Josh Perfettoと、その他の数名だ。全員が旅のゴールについてやや不安を覚えていたものの、ツールの実地テストができるチャンスに興奮していた。計画を詰めていくにつれて、現実も具体化してきた。何がしたいのか、自分たちにもよくわかっていないという現実だ。
この旅は、市民探検という大きなトレンドの中の、小さな完結した世界になろうとしている。Makerたちが、さまざまなツールやマシンを自然界に持ち込もうとしているのだ。コルテス海に向かうこの小さなグループとしての、また大きなMakerコミュニティとしての、面白い疑問がたくさん沸き上がってくるだろう。
– こうした探検の準備をどのように行うのか?
– よき科学とはなにか? 我々は役に立つのか?
– 許可や認可が必要なのだろうか?
– ツールはどの程度のものか。どれほど使えるか?
これから数カ月間、探検旅行の準備の様子をお伝えしていこうと思う。すでにそこを旅したことのある専門化やMakerたちの話も聞く。そこから何が得られるかわからないが、楽しみだ。お楽しみに!
「数人の博物学者が専門家を連れて湾に入り、専門家に付いて歩く道すがら、見なくてよいものなど、ひとつもなかった。冒険を求めて湾に入った若者たちのロマンチックな記事がいくつかあるが、もちろん、それはそこにあった」
─ ジョン・スタインベック『The Log from the Sea of Cortez』
– David Lang
訳者から:「Zero to Maker」を連載していたDavid Langの新企画。楽しみだね。
[原文]