Science

2013.12.17

市民探検:アマチュア革命

Text by kanai

Roger Hayward, “Reproduced illustrations from The Scientific American Book of Projects for the Amateur Scientist, by C. L. Stong.,” Special Collections & Archives Research Center, accessed November 29, 2013, http://scarc.library.oregonstate.edu/omeka/items/show/4471.
Roger Haywardによる『The Scientific American Book of Projects for the Amateur Scientist』(C. L. Stong著)の復刻イラスト。Special Collections & Archives Research Centerより(2013年11月29日現在)http://scarc.library.oregonstate.edu/omeka/items/show/4471

アマチュアは今、アイデンティティの危機にさらされている。特定の分野のアマチュアのことではなく、アマチュアという考え方全般の問題だ。Merriam-Websterにはこうある

am·a·teur noun \ˈa-mə-(ˌ)tər, -ˌtu̇r, -ˌtyu̇r, -ˌchu̇r, -chər\

: a person who does something (such as a sport or hobby) for pleasure and not as a job(何か[スポーツや趣味など]を仕事ではなく娯楽としてやる人)

: a person who does something poorly : a person who is not skillful at a job or other activity(何かをやるのが下手な人:仕事やその他の活動の技術に劣る人)

この2つの意味がこのまま延長されていくと、完全に自己矛盾を起こす。この言葉の語源、フランス語の「〜を愛する」からすると、どちらも的外れだ。Wikipediaの説明(英語版)は少し方向が違う。レオナルド・ダ・ビンチをアマチュアのアーティスト、チャールズ・ダーウィンをアマチュアの科学者と示している(「技術に劣る」人たちにしてはあまりに豪華だ)。

この言葉の私なりの解釈も、時と共に変わってきていて、やはり定まっていない。子どものころは、ダメな人、または二流の人のことだと思っていた。しかし、Makerの世界にのめり込み、そして今、市民科学の世界に入ってみると、私の見方は変わった。「仕事ではなく娯楽として」の意欲に動かされて、「〜を愛する」に近づいてきた。そして理解の幅が広がってきた。そこには、初心者のつまらないヘマから、ダーウィンの天才的才能まで含まれる。こんな感じだ。

アマチュアとは、公式な機関や正式な指針の外で活動する人のことである。彼らは自己流で物事を行う。かならず無償でとは限らないが、美、真実、娯楽などに、つねに大きな目標を抱いている。

アマチュアは別の方法を見つける人だ。必要性に乏しかったり、援助も資格も賛同も得られないことがある。新しい技術が使えるようになったから、または強い好奇心のために、ただできるからやるだけだったりもする。もっと広い意味では、公的な機関から必要とされていない人とも言える。だからといって、お金にならないというわけではない。実際、自分たちの努力に十分に見合う報酬を得ている人たちも多い。

いつだって、ルールを曲げたり破ったりする人がいる。彼らは可能性の限界を押し広げてくれる。そして今、アマチュアリズムの高まりは、熱気に溢れている。それはアマチュアの伝統から、大規模なアマチュアの革命へと移行しつつある。

それは単独の出来事だけに現れるものではなく、絶え間ない波のように、さまざまな産業や学校からしっかりとした流れとして伝わってくるものだ。そのトレンドは個々のケースで違って見えるのだが、全体は一貫している。そしてその原動力はひとつ。インターネット(と、ネットワークされた愛好家たちのコミュニティ)だ。それは、クリス・アンダーソンが一貫して伝えてきたように、それはロングテールであり、繰り返しだ。それを最初に感じたのは映画と音楽だった。YouTube、Netflix、Amazon、iTunes、Spotifyは、エンターテインメントメディアの製作や配信ができる人の枠を取り払ってしまった。ジャーナリズムも、ブログやTwitterからの現職の業界人たちに加わる圧力を感じた。直近では、Makerムーブメントが製造業の首を動かして、「モノのロングテール」を実現させようとしている。私たちはこうした話を、この10年間、数え切れないほど聞いてきた。次は、「発見」*だ。市民科学や市民探検の姿をしている。ここでも、先頭に立っているのはMakerだ

Roger Hayward, “Reproduced illustrations from The Scientific American Book of Projects for the Amateur Scientist, by C. L. Stong.,” Special Collections & Archives Research Center, accessed November 29, 2013, http://scarc.library.oregonstate.edu/omeka/items/show/4471.
Roger Haywardによる『The Scientific American Book of Projects for the Amateur Scientist』(C. L. Stong著)の復刻イラスト。Special Collections & Archives Research Centerより(2013年11月29日現在)http://scarc.library.oregonstate.edu/omeka/items/show/4471

もちろん、実際はもっと複雑だ。線からはみ出して自由に描いている人たちを、大きな筆で一気に色を塗ってしまうのは乱暴だ。すべてのアマチュアが同じではない。むしろ、違っていることが、ディスカバリーにおけるアマチュア革命を可能にするのだ。カート・ヴォネガットは小説『青ひげ』で、革命を起こすには三つのタイプの専門家が必要だと書いている。

チームは三つのタイプの専門家で構成しなければならない、と彼は言う。そうでなければ革命は、政治的革命であれ科学技術革命であれなんであれ、かならず失敗する。

その専門家のなかでもっとも貴重なのは、正真正銘の天才だと彼は言う。一見するに素晴らしい、奇抜な考えを提示できる人間だ。「ひとりで活動する天才は、かならずや狂人として無視される」と彼は言った。

二つめの専門家のタイプは、ずっと見つけやすい。非常に知性の高い市民で、帰属する社会で確たる地位を築いている人だ。天才的な新しい考え方を理解し高く評価する人であり、その天才を狂人などではないと宣言できる人だ。「この手の人間で一人で活動している者だけが、変化を声高に願うことができる。しかし、その変化の形を説明することができない」とシュレジンガーは言った。

専門家の三つめのタイプは、どんなことでも、どんな馬鹿にも頑固者にも、ほぼすべてにわかりやすく説明できる人だ。「その人はどんなことでも、面白可笑しく話すことができる」とシュレジガー。「ひとりでは、ひとえにその知恵の浅さのために、クリスマスの七面鳥のごとき大嘘つきと思われてしまう」

こうした人たちは、市民探検ムーブメントのなかにたくさんいる。個人としてではなく、アマチュアの個性としてだ。私なりの分類を示そう。

Zero to Makerなアマチュア

先入観を恐れずに言えば、Zero to Makerタイプのアマチュアは、典型的なアマチュアだ。ホワイトハウスによる市民科学の解釈で言われている「普通のアメリカ人」にもっとも近い人たちだ。好奇心に動かされて、新しいツールやリソース(メイカースペース、Zooniverse、MOOCなど)を積極的に利用する。ここに属する人たちが、発見のロングテールを太くしてくれる。なぜなら、彼らにはそれが可能だからだ。

ここに属する人に、Eri Gentryがいる。彼女は大学で経済を学んだのだが、それによって得られたのは科学と生物学に対する強い興味だった。彼女は大学に戻ることはせず、自分のやり方で進むことにした。彼女はシリコンバレーに小さな(しかし成長している)DIYバイオコミュニティに参加し、ミートアップを主催するようになった。彼女のミートアップグループ BioCuriousは、参加者も増えて活動が活発になり、やがて場所を確保して、アメリカで初めてのコミュニティ生物学研究所となった。

Ariel Waldmanも、このタイプに属する一人だ。グラフィックデザイナーの彼女は、NASAで仕事ができる資格など持っていないと思っていた。しかし、NASAの仕事を取れるようになると、宇宙探査は、多岐にわたる共同作業であることに気がついた。その発見をもとに、彼女はSpace Hackを設立して、教育レベルや経験を問わず、誰もが宇宙探査に参加できる、いろいろな方法を人々に示すようになった。

このタイプのアマチュアの特徴に、インフラを作るという傾向がある。彼らは可能性に陶酔し、屋根の上からそれを大声で叫ぶように生まれついている。そうして仲間を集めるのだ。BioCuriousのEriの仲間は(どこのDIYバイオコミュニティでも同じだが)、生物学を自分たちに引き寄せたばかりでなく、生物学コミュニティを作ることで、すべての人にとって生物学を身近なものにようと頑張っている。Arielも同じだ。彼女はNASAで仕事がもらえたところでは満足しなかった。そのチャンスを多くの人に広げたのだ。経験などなくても宇宙探査に参加できるという形でだ。これは、ヴォネガットの三人組のなかの「説明する人」に相当する。

学際的な人

このタイプのアマチュアは説明が難しいが、一度会えばかならずわかる。ヴォネガットの言う「正真正銘の天才」のタイプだ。この数年間で何人かに会ったが、特筆すべきは私の友人、Josh Perfettoだろう。

Joshが何をしているのか、私はいまだに知らない。細かいことは知っているのだが。彼に出会ったのは、私が初めて見学したMaker Faireでのことだった。そこで私は、彼が開発していたOpenPCR のマシンに魅せられた。もっと詳しく知りたくて、私は彼をサンフランシスコ湾でのセーリングに誘った(他に何も思い浮かばなかったのだ)。そのときが彼の初めてのセーリングだった。それから3年もしないうちに、彼は私が知るなかで最高の船乗りになった。彼はそういう男だ。彼は物事を学ばない。吸収するのだ。

OpenPCRを設立する以前、彼は生物学の教育を受けたことがなかった。彼はソフトウェアのプログラマーだったのだ。生物学とバイオテクノロジー用ツールは、彼がたまたま興味を持ったものだった。自らのプログラミングの知識を活かしてArduinoのプログラミングを習得し、そして彼が作ったものは、個人が趣味で開発したバイオ技術というものに対する世界の見方を変えるものだった(現在彼は合成生物学とツールの開発に専念している。それについてはいずれ報告しよう)。

私はこのアマチュアのタイプを「学際的な人」と呼ぶ。入門の障害がなくなると、Joshのような人は、垣根のない新しい好奇心の世界で遊び回ることができる。私のOpenROVでのパートナーであるEric Stackpoleも同じだ。OpenROVを設立する前は、Ericは小型宇宙船の設計をしていた。その彼が、失われた財宝の話に心を奪われ、安価な超小型潜水艦の開発に頭脳を傾けることになったのだ。自分は決してそんなふうにはできないと思う。夢見る気持ちが並外れて強い特別なタイプだ。

日和見主義者

アマチュアの3つめのタイプ、「非常に知性の高い市民で、帰属する社会で確たる地位を築いている人」は、ヴォネガットが思い描いていたより、ずっとエキサイティングな人たちだ。

たとえば、Cory Tobinだ。Coryは、とても頭がよくて活動的な植物生物学者だ。カリフォルニア工科大学の修士課程を間もなく卒業する。プロの世界のエリートコースだ。しかし、Coryは熱心なアマチュアでもある。暇な時間を使ってLA Biohackersグループの創設を手伝っていた。彼は人に尽くすためだけにその活動を行っているわけではない。大学院のカリキュラムにはそぐわない独自の研究をするためのツールと場所が欲しかったのだ。LA Biohackersは、まさに彼のガレージで行っていた実験が大きくなったものだ。

Coryは、窒素をアンモニアに変換するある酵素に関する古い論文を読んでいた。それを応用すれば、特定の遺伝子を隔離することで、肥料の量を減らせるのだ。大変な苦労を重ねて、木炭工場から土のサンプルを採取し、量販店で道具を揃えて自前の生物学研究室を作った彼の研究は、ハーバード大学、ロンドン大学、RWTHアーヘン大学、ミシガン州立大学、ラシオナル・デ・ロサリオ大学の研究者たちの目を引き、共同研究をすることになった。自宅のガレージで質素に行ってた初心者の実験が、凄いことになった。

Cory Tobin's garage experiment.
Cory Tobinの自作実験装置

OpenROVは、この日和見主義者のタイプのアマチュアによって進められている。彼らの経歴(そして彼らの物語)には、水中ロボティクスの知識が詰まっている。外部の資金援助が一切なかったとしても、彼らはそれを作るだろう。彼らは、新しいデジタル製造ツールや安価なオープンソースのマイクロコントローラーや超小型Linuxコンピューターがもたらす新しい可能性に突き動かされている。より安く、より深く、限界を押し戻していくことに彼らは喜びを感じている。

そして、私たちのコミュニティの全員が、彼らの経験からくる恩恵を受けている。

「それで、OpenROV キットを作るのは誰なんだ? ホビイストとか?」

ほぼ毎日、1年間まるまるやってきたが、まだこの質問への答には窮している。

「ええ、まあホビイストです。でも……でも、もっと大きなものなんです」

その人のタイプによっては、OpenROVを作る人は「単なるホビイスト」だと言い切るのは適切ではない。私たちのコミュニティには、大変な技術や経験を持った人たちがいる。私のような新参のMakerには、電気技師としてフルタイムの仕事を持っている人がいてくれる。水中ロボティクスについて知ったばかりの高校生には、引退したROVエンジニアや深海生物学者がいてくれる。もの凄い技術と情熱と知識を持った人たちだ。3かけるたくさんだ。そこに共通する考えは、誰もがつながるべきだということだ。私たちはみんな、私たちの世界を探検するべきなのだ。

ヴォネガットはこう書いている。

「その人たちを集めることができなければ、何かを大変革させるという考えは捨てたほうがよい、と彼は言った」

そのすべての人はもう揃っている。それはOpenROVだけの話ではない。市民探検ムーブメント全体に言えることだ。ありがたいことに、全員が必要とされている。

*原注:「科学」という言葉はしっくりこないので、あまり使いたくない。YouTubeの猫のビデオを「映画」と言わないのと同じだ。市民探検は原野を歩くようなものだ。どうしょうもないガラクタや素晴らしい宝石に満ちている。

– David Lang

原文