2014.04.25
[MAKE: PROJECTS]宇宙食アイスクリームの作り方
“宇宙食アイスクリーム”は、博物館のミュージアムショップの定番お土産として、子どものころの記憶にへばり付いているけど、同じくらい歯にへばり付くんだよね。ぽろぽろと崩れやすくて、パリパリしてるのに、口に入れるとすぐに溶けて、本物のアイスクリームみたいに甘くてとろみのある食感に変わる。宇宙食アイスクリームという名前とは裏腹に、本物の宇宙飛行士は、店で売っているような形で食べたことがない。ぽろぽろと崩れるものは、無重力空間では小さな破片が船内を漂ってしまい、肺に吸い込んでしまう危険性があるからだ。アポロ7号では、最初から開発したフリーズドライアイスクリームを圧縮してゼラチンでコーティングしたものを持って行ったが、それ以降のミッションでは、凍った本物のアイスクリームを持っていくようになった。
お土産のアイスクリームはフリーズドライ製法で作られている。管理された環境でアイスクリームを乾燥させるのだ。低温低圧の特定の条件で、アイスクリームの中の氷の結晶は、水に融解することなく気化する。氷が溶ければアイスクリームは濃厚な液体となって全体の形状が崩れ密度が高くなるのだが、そのまま気化すると小さな空洞が残り、全体の構造は保たれる。これと同じ現象が、裸のまま冷凍庫に入れた食品にも起きる。”冷凍焼け”というやつだ。
私は、ずっと前から宇宙食アイスクリームを自分で作ってみたかった。気がつけば、私の工房にある奇妙な装置を分解したり組み立てたりして、必要な部品がすべて揃っていた。フリーズドライアイスクリームを作る装置で鍵となる部品は次のとおりだ。真空ポンプ、口径の広いバキュームホース、銅管と保温瓶で作った冷却トラップ、アイスクリームを入れるガラスのジャー、タングステン電球。では、私がネットでかき集めた情報と試行錯誤から開発した基本的な作り方を紹介しよう。
ステップ1. 真空ポンプをセットする。
- まずは、フリーズドライシステム全体の気圧を下げるために真空ポンプをつなぐ。氷が気化する現象は昇華と呼ばれる。これは低圧の環境でしか起こらない。
- アイスクリームを皿に盛ってキッチンのカウンターに放置しておくと溶ける。なぜなら、その気温と気圧のもとでは、水の物質の状態は液体になろうとするからだ。しかし、気圧が低ければ、熱力学の法則に従って、固体は直接気体に変化する。
- うまく気化させるための温度と気圧は、その物質のタイプと原子結合の数によって異なる。宇宙食アイスクリーム愛好家にとって幸いなのは、水の昇華は比較的簡単にできることだ。温度は摂氏マイナス15度、気圧は500ミリトル(66.66パスカル)だ。
- 初めてこれを試したとき、改造したウォータークーラーとエタノールとドライアイスを使ってアイスクリームをマイナス30度まで冷やしたのだが、そこまでする必要はない。フリーザーから出したままで大丈夫だ。それでマイナス15度かちょっと低いぐらいになっている。
ステップ2. 冷却トラップをつなぐ
- 気圧を下げる準備ができたら、気化した水を集める場所を作る必要がある。真空ポンプの中に水を入れるのはよくない。真空ポンプでチャンバー内の気圧を下げると、そのままでは気化した水がポンプに吸い込まれる。それがポンプの内部を錆びさせたり、いろいろな故障の原因になるのだ。そこで、冷却トラップを入れてやる。つまり、チャンバーとポンプをつなぐホースの中間に冷たい部分を作るのだ。アイスクリームから気化した水分をそこで凍らせることで、水がポンプに入って悪さをするのを防ぐという装置だ。
- 私は、3/4インチのU字型の銅管で冷却トラップを作った。それを、アルコールとドライアイスを入れた保温瓶に浸ける。瓶の中はアイスクリームよりも温度が低くなっている。マイナス70度という非常に低温なので、気化した水分はここに氷結する。温度が低いので、その氷が気化する心配もない。
- バキュームホースはなるべく太いものを使う。低い気圧の中では、気化した水分が流れにくいからだ。私は3/4インチ径のホースを McMaster-Carr(mcmaster.com)で購入して使った。建築系のプロジェクトでは、このショップがとても便利だ。
Step #3: フリーズドライ・チャンバーをつなぐ
- ポンプと冷却トラップをセットしたら、ガラスのジャーにアイスクリームをひとすくい入れて、冷却トラップを付けたバキュームホースをチャンバーにつなぐ。ポンプのスイッチを入れ、大気圧(380ミリトール)の1/2000にまで減圧する。
- この時点でアイスクリームのフリーズドライ化が始まる。しかし、水が気化するときに温度が奪われるため(気化熱)、気化が遅くなってしまう。
- そのため、適切にフリーズドライ化が進むように、静かにアイスクリームを温めてやる。私は40ワットのタングステン電球で、アイスクリームのジャーの外から照らして温めた。
- 結果 — 約12時間後! — 宇宙食アイスクリームができた。味は、私が記憶しているそのままだった。
– Ben Krasnow
[原文]