DaleとMaker Faire Shenzhen(深セン)のスタッフたち。
Maker Faire Shenzhenは2014年4月の最初の週末に開かれた。これは中国でのMakerムーブメントの盛り上がりを示すものであり、世界のMakerの重要拠点であることを認識させるものだった。近年、深センには、製造を学びたいMakerたちが世界中から集まり、そのエコシステムの豊富な資源を活用している。
Maker Faire Shenzhenは、中国での最初のフルサイズのMaker Faireだ。およそ3万人の人々が並木道を歩き、Makerたちと触れあい、ワークショップに参加し、プレゼンテーションに聞き入っていた。Maker Faire Shenzhenには300人が出展し、120の展示が行われた。主催したのはEric Panと、Seeed Studioの仲間たちだ。そこは中国のMakerたちの強力な創造性を一般に示す場となった。Makerムーブメントは、中国自身が中国に対する認識を変える、また世界が中国をイノベーションの中心地として認識するための大きな役割を果たしている。Maker Faireの創始者として、私はMaker Faire Shenzhenを直に見て、スピーチを行い、中国における作ることの意味を学べたことを、とてもうれしく思う。
中国の Maker にとって大きな一歩となった Maker Faire Shenzhen。
Dale と Maker Faire Shenzhen 実行スタッフの面々。
Makersと3D Roboticsについて語るChris Anderson。
Tom Igoeは、Arduinoプロジェクトの起源とNYUのITPでの学生プロジェクトについて語った。
カナダのアルバータ州カルガリーから来たShannon Hooverと奥さんが、香港バプティスト大学のウェアラブル研究室といっしょにMake Fashionのブースを出展していた。
香港の教師、Brian Smith(左から2人目)は家族と訪れていた。娘のMadyとお友だちもいっしょ。
DFRobotはロボットやいろいろなハードウェアを販売していた。
ArcboticsのJoe Schlesingerは深センに8カ月間住んでいる。
Institute from the FutureのLyn Jeffreyは、中国におけるMakerムーブメントについて語った。
Lyn Jeffreyの話のひとつ、深センにおけるMakerムーブメントと山寨(さんさい)。
Maker Faire Shenzhenの主催者であるSeeed StudioのEric Panがフォーラム参加者に挨拶。
Hacked MatterのSylvia Lindtnerは中国におけるMakerムーブメントの研究者。
Open Source Vehiclesの展示のひとつ、ジーンズを着た車。
wyolum.comのオープンソースプロジェクト、カスタムMaker Faireバッジ。
HXCLR8RのZach Hoeken SmithとDale。
地元の工芸家もMaker Faire Shenzhenに招かれた。
Maker Faire Shenzhenのお土産ブースはSeeed Studioが運営していた。
Ian Lesnet(Dangerous Prototypes)とDale。
Alex Hornsteinが展示していた、とっちらかった3Dプリントロボット。
LittleBitsを代表して参加したBilal Ghalib。
Foxconn会長のVincent Wang。FoxconnはMakerたちと共に歩むと話していた。
私の講演を聞いてくれたシンガポールとマレーシアからきたMakerたち。
Seeed Studioを裏で支えるKevin Lau。このイベントの成功は彼のお陰だ。
「このイベントは私たちにとって、非常に大きな意味があります」とEricはイベント修了後に話してくれた。「成長するエコシステムにとって、とても重要です」
彼によれば、中国のMakerでMaker Faireを見たことがある人は少ないという。だから、それを国内で開催することには大きな価値がある。彼の会社の160人の社員全員が、Kevin LauをリーダーとするMaker Faireの運営チームに参加した。それによって、Seeed Studioのすべての社員が、MakerやMakerコミュニティー直接の関係を持つことができた。「いいトレーニングになりましたよ」と彼は言っていた。
Seeed Studioの製品陳列棚の前に立つEric Pan。
フォーブスが選んだ中国の30歳以下の30人の創業者に選ばれたEric Panは、2008年に自宅アパートでSeeed Studioを創設し、おもに自分たちで作った電子機器の販売によって急成長を遂げた。Makerを相手に製品の開発製造を助けるカスタムサービスも行っている。
商業製造の中心地である深センは、Ericよりも若い。30年前、ここは香港の影に隠れた漁村だった。中国政府はここを経済特区に指定して、資本主義の大実験を行った。それにより、大きな街に成長したのだ。現在、街の中心地にあった工場は郊外に移転し、古い工場は商店や住居や美術館になっている。すべて30年以内に起きたことだ。深センには、Ericのような人たちが中国全土から集まってくる。物事が非常に早く変化する場所だからだ。
Maker Faire Shenzhenの会場はほとんどが屋外で、初日は雨だったために傘が必要だった。雨で出足が鈍ることはなかったが、Makerにとっては、ちょっと辛かった。このMaker Faireで驚いたことはあったかとEricに尋ねると、彼は「雨が止んだことだよ」と答えた。2日目、三連休の3日目となる月曜日は晴れ上がり、イベント日和となった。
Maker Faire Shenzhenには、他のMaker Faireと同様に3Dプリンター、電子機器、乗り物、ゲーム、ロボットなどが出展されていた。Makerたちは商売気が強かったと多くの人が感じていた。最初から、販売目的で作っている人たちが多かった。Eric Panは、商売とは関係のないMakerやプロジェクトが現れるのは、中国のMakerムーブメントが成熟する、もう少し後のことだと考えている。もしそうなら、それはアメリカとは逆の流れだ。アメリカでは、ホビイストが創造性を追求した結果、ビジネスに発展するというのが普通だからだ。
学生のプロジェクトは活動もたくさんあった。なかでも、私が気になった学生プロジェクトが2つある。ひとつは、Frankというテレプレゼンスロボットを作った大学生のグループだ。グループの一人が話してくれたことによれば、展示されているのは第五世代目のFrankだという。南京から来たDexta Roboticsは、Handuino(仮称)というプロジェクトを展示していた。手にはめて、ロボットハンドを操作する装置だ。この会社を創設したAler Guは、去年、高校を卒業したばかりで、今年の秋に機械工学を学ぶためにケンブリッジ大学に留学する前の1年間をこのプロジェクトにあてている。Alerは、ロボットハンドを遠隔操作したい人たちの他に、ゲーム用インターフェイスとしての需要も見込んでいる。間もなく、射出成形版を製造して、Kickstarterキャンペーンを立ち上げる予定だ。
私は、Maker Faire Shenzhenからひとつの重要な問題を持ち帰った。それはKickstarterに関することだ。考えてみてほしい。
あなたがKickstarterであるプロジェクトを立ち上げたとしよう。すると、キャンペーンが終了する前に、中国の誰か他の人間があなたのデザインを見て、それを製品として仕上げて製造する。あなたは、資金が得られた後に、さらに1年かそれ以上をかけて製品化する予定だった。
それは、コピーやクローンだと思うかもしれない。中国では、あらゆるものの材料が幅広く揃っていて、専門の職人も大勢いて、新しいアイデアに飢えているので、世界中のどこよりも早くアイデアを製品化できる。そのスピードと効率が合わさって、中国のイノベーションが推進されている。そんな中国のMakerたちが、西欧諸国で競争力を持つ創造力とデザイン力を身につけたら、何が起きるだろう。
深センには、“山寨”(さんさい)という独自の考え方がある。プレゼンテーションでも、何人かの講演者が取り上げていた問題だ。オーストリア出身でカリフォルニア大学アーバイン校に在籍し、上海の研究グループ、HackedMatterの共同創設者であるSilvia Lindtnerは山寨の研究を行っているが、彼女はそれが中国のMakerムーブメントと並行して発展していると見ている。Sylviaは、山寨について電子メールで詳しく教えてくれた。
山寨は、工場と販売業者と部品製造業者と部品取り引き業者と設計事務所をつなぐ高度に張り巡らされたネットワークによって支えられ、グローバルなMakerムーブメントと互換性を持つオープンな共有関係に根ざしています。David Liは、それは中国的なオープンソースなのだと言っています。カウンターカルチャー的なアイデアによるものではなく、むしろ必要に迫られた製造のためのオープンなアプローチです。たとえば、山寨エコシステムでは、人々はオープンな情報掲示板(公版)、オープンな部品表、そしてオープンなフォームファクターのデザインを活用しています。このオープンな製造プロセスは、AllwinnerやRockchipといった中国企業のイノベーションを加速し、彼らを、Intelなどの多国籍企業と張り合う、非iPadタブレット市場のリーダーに育てあげました。中国市場とRadxaのTom Cubieなどのオープンハードウェアのスタートアップは、山寨オープン製造エコシステムと、グローバルなMakerムーブメントという2つのオープンソースの世界をつなぐ技術を開発し、Makerたちがよりパワフルな製品をデザインできるようにしています。
Maker Faire Shenzhenの最大のニュースは、深セン市内で最大の工場を構えるFoxconnがスポンサーになったことだ。FoxconnのVincent Wang会長はMaker Faireで講演を行い、このイベントに参加して、Makerたちからいろいろ学びたかったのだと話していた。彼の同僚のJack Linによれは、以前のFoxconnならMakerと協力し合おうなどとは思わなかったと言う。しかし、5カ月前、彼らはMaker向けの新しいビジネスを立ち上げた。また、新製品のプロトタイピングに使える新しい製造施設を北京にオープンした。
HackedMatterの共同創設者でインターネットスタートアップのコンサルタントをしているDavid Liは、EricとともにFoxconnにMakerムーブメントについて説明してきたなかの一人だ。Davidによれば、Foxconnなどの企業の保守的な人たちは、Eric Panの中に自分たちを見ているという。「Ericは、30年前に無から製造センターを立ち上げた人たちを、もっと親しみやすくしたバージョンなんです。彼らは、Ericを国際的なブランドと認め、喜んで彼を援助しています」とDavidは言う。彼らは今や大きくなりすぎたため、Ericがやろうとしているようなことはできなくなっている。しかし、Foxconnのような数十億ドル単位の収益のある企業でも、世界が急速に変わりつつあり、未来に確実なものはないとわかっている。Foxconnでさえ「やりたいけれど、まだできずにいることがある」とDavid。
「中国でイノベーティブに」が今回のMaker Faireのテーマだ。プレゼンテーション用ステージの横断幕にもそう書かれていた。中国と、その伝統的な製造業者たちが目指してきたのは、単に工場を経営することではなかった。彼らは新しい製品をいっしょに作るパートナーなのだ。彼らには、その資格はあると認識しながらも、発明者の称号は与えられない。「内面では非常に革新的だけど、外の人たちはそのことを知らないのです」とDavidは言う。
Edisonボードを紹介するIntel Labs ChinaのRandolph Wang。
Intelのような企業は、深センでも非常に大きな存在感がある。Intel Labs ChinaのRandolph Wangは、Edisonというボードを開発中だ。それは、SDカードサイズのコンピューターだ。「Edisonは小さくてパワフルというユニークな組み合わせを提供します」とWangは話す。Edisonには、Makerにとって非常に重要なプラットフォームになる可能性がある。Wangによれば、それはプロトタイプにも使えるし、最終的な製品に組み込むこともできるという。彼は、Intel Labs Chinaの内部で開発されたいくつかの応用例を見せてくれた。そのなかに、Edisonを組み込んだ紙のノートがあった。デモでは、ある人がノートの紙の上にメッセージを書き込むと、Edisonによって電子メールに変換されて送信されていた。そのなかで、手書き文字をいかにしてキャプチャーしてテキスト化するかが説明されていた。Edisonはまだ発売されていないが、しっかりと注目していきたい。
アムステルダムに10年間住んでいるDangerous PrototypesのIan Lesnetは、深センを訪れたとき、「帰りの切符を捨ててここに住むことに決めた」そうだ。もう2年間ここにいる。ArcboticsのJoe Schlesingerは、ロボティクスプラットフォームを作るために約8カ月前にボストンから深センに引っ越してきた。Alex Hornsteinは数年前に、Solar Pocket Factoryを立ち上げるためにボストンから香港に引っ越してきたが、今は深センの近くに住んでいる。彼によれば、彼の3D painterが、Maker Faireに出展されたなかでいちばん汚れるプロジェクトだという。着色したコーンシロップで3Dプリントをするロボットだ。たしかに、ベタベタする液体がテーブルから地面にこぼれ落ちていた。
Zach Hoeken Smithも深センにやって来たアメリカ人の一人だ。彼はMakerBotの共同創設者で、中国での生産を調査するためにMakerBotから派遣されてきたのだが、ここに住み着いてしまった。MakerBotを退社した今も、ここにいる。多くの移住組と同じく、彼も中国語を学び、中国語を愛している。Eric Panによれば、Zachは「ボクよりも中国人らしいよ」とのことだ。彼によれば、Zachはここで生まれ育ったかのようにバイクで街中を走り回っている。自分はそんなことを絶対にしないとEricは言っていた。深センに住んでいると「毎日何か新しいことを学べて、それが最高だ」とZachは言っている。彼はCyril Ebersweilerが深センに立ち上げたハードウェア系スタートアップのアクセラレーター、HAXLR8Rの実務アドバイザーも務めている。HAXLR8Rは、華強北の非常に混み合った(エレベーターに乗ったときの印象だが)オフィスタワーの中にある。現在、グループには11の企業がある。
そのうち2社の人たちとMaker Faireで会うことができた。ひとつはQuitBitだ。着火した回数をカウントして喫煙習慣をモニターし、タバコの本数の削減を助けてくれるというスマートなライターを作っている。Shot Statsは測定器付きのテニスラケットだ。スイングを測定して練習に役立てることができる。
Make Fashionグループは、ウェアラブル製品をたくさん展示していた。香港バプティスト大学、School of Visual ArtsのTrish Flanagan博士は、LED雨傘、ドイツの空港の掲示板に使われているような電子工学的な部品を利用したドレスなど、学生のプロジェクトをたくさん持ち込んでいた(あの大きな掲示板をMaker Faireで使えたらいいなと私はずっと思っている)。カルガリーのMaker Faireで実行委員を務めていたShannon Hooverは、奥さんと一緒に休暇を利用して深センを訪れていたが、首にe-tieを締めていた。彼は今週の初め、Maker Faireの前に、Flanagan博士のWearables Labを見学する香港ツアーをアレンジしてくれた。
HacKIDemiaのStefania Drugaは3カ月にわたり、教師を対象にしたワークショップを開き、作るための新しい方法や道具を紹介しながらアフリカの国々を渡り歩いた。彼女は、訪れた土地のMakerたちに驚かされたという。見学した溶接工房や、一から冷蔵庫を自作した人たちの写真を彼女は見せてくれた。この写真を見てほしい。何度も病気にかかったというから過酷な旅だったようだが、非常に満たされるものでもあった。
Institute for the Futureが主催したMaker Citiesミートアップでは、深セン、上海、北京、テルアビブの街で今が起きていることを発表する、短いプレゼンテーションが行われた。Stefaniaが元気に立ち上がり、北京でのメイキング事情を話した。
Tom Whitwellはイギリスのスタートアップの代表として、イギリス政府が旅費を出資する形で参加していた。デジタル版Timesの編集者だった彼は、Make on Lego InstrumentsのVol4にも記事を書いている。彼は、Clive SinclairからJames Dysonまで、昔と今のイギリスの企業を紹介してプレゼンテーションを行った。200万ユニットが売れたRaspberry Piの話も出た。彼はみんなにこう聞いたイギリス人は他国の人とどう違うか? ユニークな答を期待していたが、彼に言わせると、イギリス人はあまり違わないということだった。「これがグローバルな文化的進歩のひとつです」と彼は言う。それがイギリスやアメリカ、日本や中国、その他の国々を流れてきた文化なのだと。互いの考え方を反映し、新しい視野を開く。
私はいろいろな国から来たMakerたちに会った。日本から来た興奮気味のMasakazu Tks Takasu(高須正和)は、自分の興奮度に合わせて前後に動くウサギの耳を装着していた。彼は自身のFacebookページに「素晴らしい日々だった。私の黄金時代だ」と書いた。シンガポールから来たMakerたちにも会った。その中に、SG MakersのWilliam Hooiもいた。マレーシアの Penang Science Center のグループにも会った。
私の講演を聞いてくれたシンガポールとマレーシアのMakerたち。
MakerママのJulieとおじいさんといっしょにアリゾナから来たJoey Hudyもプレゼンテーションを行った。Maker Faire Shenzhenの後、彼はいくつかの工場を見学して、地元の中学生たちと意見交換を行った。
彼はまた、珍しいものを口にする体験をした。Century Egg(ピータン)だ。100年持つと言われているタマゴの保存食だ。Joeyはこう言っていた。「Zeo(Seeed Studio)が電話を取りだしてボクのリアクションを写真に撮ろうとしたときに気づくべきだった。一生忘れられないユニークな体験だったよ」
彼の感想:
今回の旅は、全体的に驚きの体験で、本当に視野が広がった。ボクが中国の人たちはみな素晴らしく、会ってからたったの11日なのに、ずっと昔から知っているような感じがした。深センを離れるときは、妙な気分になった。故郷を離れるような気持ちだ。中国とその文化を学んだ素晴らしい日々だった。
深センに初めて来た人がみな感じるように、私も、期待していた中国とはまったく違っていて驚いた。オープンでフレンドリーで、一生懸命で活気に溢れ、広大で開放的で、情報に溢れ、楽観的だ。すべて、よい驚きだった。Seeed Studioのスタッフは、イベントのために本当によく働いてくれた。そして、手厚く歓迎してくれた。帰りの香港空港で、私はデトロイトのJeff SturgesとシアトルのDominic Murenにばったり出会った。彼らもまた、Joeyと同じことを言っていた。この旅で、中国が魅力的な新世界であることを発見したそうだ。
空港で、私は中国語の入門書を買った。ここのMakerたちとつながりを保つために、また戻ってきたい。
– Dale Dougherty
[原文]