2014.05.20
早くて安いホットグルー注入式ソリッドプリントのストレステスト
ソリッド(インフィル100%)なモデルをプリントすると、強度は抜群に強くなる。しかし、インフィルを高く設定すると、プリントにかかる時間が非常に長くなり、当然、素材もたくさん使う。
そこで私たち、Lantern Roboticsでは、面白いソリューションを考えた。Hot Melt Adhesive(HMA)を注入するというものだ。HMA(一般にホットグルーと一般に呼ばれている)は、摂氏180度前後で溶ける熱可塑性樹脂だ。これならプリントに注入しても、プリントが熱で変形したりはしない。
結果としては、完全にソリッドな、安くて早い、しかもシェルを調整すれば、固くも柔らかくもなるオブジェクトができる。やり方を説明しよう。
必要なもの:
・ホットグルーガン(ABSで使うなら高温型、PLAなら低温型)
・ホットグルースティック(どんなものでもいい)
・ドリルまたはピンバイス
Step 1
インフィル0%でプリントする。我々の場合、シェルは3から4が最適だった。
Step 2
2つの穴を開ける。ひとつはホットグルーを注入する口。もうひとつは空気抜きの穴だ。穴の大きさはグルーガンの先端がピッタリ合わさるぐらい。そうすることで適度な背圧がかかり、漏れも防げる。
Step 3:
プリントにHMAを注入する。空気穴から溢れるまで入れて、あとは冷ます。
コツ
- この方法は、中央が空洞なもの、または大きな空洞があるものに向いている。
- 先端が金属のグルーガン(上の写真参照)を使うと確実な作業ができる。
- PLAに注入するときは、できる限り低い温度で行う。
- くっついたHMAはイソプロピルアルコールでたいてい落とせる。これを覚えておけば、掃除をするとき、またはモデルの外側にHMAが付着してしまったときに役に立つ。
- 大きなモデルの場合は、数カ所に穴を開ける。
- 最初からデザインに穴を設けておけば、より正確に充填ができる。
- 屋外や高温の場所で行うときは、穴をABS+アセトンで塞ぐ。
良い点は?
価格:HMAは、3Dプリンター販売店で買うフィラメントに比べると劇的に安い。
素材 | 平均価格 |
HMA (Hot Melt Adhesive) | $5-$7.50 / kg |
ABS – ホビー向けプリンター用スプール | $30-$50 /kg |
PLA – ホビー向けプリンター用スプール | $30-$50 / kg |
ABS – 業務用カートリッジ | $200+ /kg |
ホットグルースティックは自分で作ることもできる。自作すれば、長さや色や素材も選べて、コストもずっと安くなる。
時間:空洞のモデルは中身をプリントしなくてよいため、プリント時間はうんと短くなる(もちろん、全体のサイズにもよるが)。
ユニークな特徴:HMAは固いがゴムのような弾力もある。そのため、これを注入したオブジェクトは、内側からホットグルーが支えているので割れにくくなる。
・スナップフィットさせるパーツや、ある程度の柔軟性が欲しいパーツによい。
・シェルを調整すると、注入後のオブジェクトの固さや弾力を調整できる。シェル1から2でオブジェクトはしなやかになり、シェル3から4で固くなり、歯車や構造材に使えるようになる。
強度はどうか?
HMAを注入したプリントと、インフィルを高めたプリントとの強さを比較するために、圧縮強度と引っ張り強度の簡単なテストを行った。テスト用に、ABSの組とPLAの組を用意した。
圧縮テスト
本来、耐荷重テストのデータを取るためには、プリントの形状、構造、インフィルの量、プリント温度、ロード方向などなど無数の可変要素を揃える必要があり、正確に計測するための専用の装置も必要なのだが、ここではテスト範囲を限定して、テスト用オブジェクトもひとつに絞って簡易に行うことにした。テストに使ったオブジェクトは 60ミリのロボットホイールだ。
ダイヤルゲージと目盛り付きの万力を使って、それぞれのホイールの歪み、割れ、弾性反発、破断を調べた。
下の写真は圧縮テスト後のホイールだ。左がABS、右がPLA。
上からインフィルのパーセンテージは、100%、HMA、50%、0%
下の表は、この質問に答えるものだ。
どの時点でホールが変形するか、割れるか、または外側が剥がれて使い物にならなくなるのか?
ABS:ABSインフィル50%(abs50)がもっとも強かった。2番目がHMA充填だ。
abs50の内部の空間がabsHMAと同じように働き圧力に耐えたようだ。しかし、abs50はabsHMAよりも元の形を保っている。
abs100の結果は意外だった。圧力を加えていくなかで原型をもっともよく保っていたのだが、ある時点で予想に反して潰れてしまった。
(余談だが、abs100は突然に潰れたものだから、ダイヤルゲージが壊れてしまった)
PLA:PLAの場合は少し結果が違っていた。pla100は、このテストに限って言えば非常にわかりやすかった。
破壊しようと思って万力を限界まで締め付けたのだが、pla100はわずかに歪んだ程度だった。安全を考慮し、また実際に無理だったので、pla100の数値は未定のままだ。
それはともかく、plaHMAはそこそこの性能を示してくれた。
脆いPLAにHMAを充填すると、弾力性が備わるということも特筆しておきたい。
引っ張り強度の比較
引っ張り強度のテストでは、単純に破断する負荷を測定するだけにしたので、より正確な数値が得られた。
測定装置も簡単明瞭だ。高さ6フィート(約180センチ)の木枠と、550ポンド(約250キログラム)まで測れるバネ秤と、低電圧で動くように配線を改造した3500ポンド(約1600キログラム)のウインチを使った。テスト用ホイールは、秤とウインチにつながる鉄のブラケットに固定した。
このテストの様子を詳しくご覧になりたい方は、ビデオを見てほしい。
ABS:ご覧のとおり、ABS HMAはABS 100%とABS 50%のちょうど中間の強度という結果になった。ほとんどの用途において、HMA充填には十二分の強度があることがわかる。
通常、鑑賞用のモデルの場合は、インフィルは10%から15%で十分だ。大半のスライシングソフトでは、インフィルの設定はデフォルトで30%前後になっている。インフィル70%とか80%というのは、構造体用のパーツをプリントするときに使う値だ。したがって、HMA充填方式では実用的な強度が得られると言える。
PLA:PLA HMAの場合はABS HMAほどの性能は得られなかった。
このテストだけでは何とも言えないが、PLAにHMA充填したものは、強く引っ張られるような部分には向かないようだ。
結論
HMA充填のワザをあなたの3Dプリント技術に加えれば、お財布にもスケジュールにも優しい強い味方になる。アート作品ばかりでなく、マウント、ブラケット、ホイール、歯車などの実用的なパーツにおいても、安くて効果的な技法だと言える。
– Hunter Nance
[原文]