2014.08.29
Sketching in Hardware
2006年、私は年1回で開催するフィジカルコンピューティングツールのサミット、Sketching in Hardware を立ち上げた*。40人の優れたデザイナー、開発者、研究者、アーティスト、教育者が集まり、3日間にわたってハードウェア製品を、いかに簡単に開発できるようにして、環境やデジタルアートに応用しやすくするかを話し合う。
ハードウェアは今でも難しい(Hardware is still hard)。しかし、私はこのサミットを立ち上げたときから比較すると、ずいぶん状況は変化した。
- 2006年当時、マイクロコントローラーのブレークアウトボードは、お互いによく似ていたが、Arduinoも含めて少なくとも5種類あった。2009年になると、みんながArduinoのことを話すようになり、2010年にはまた5つのボードのことが話題に上ったが、それぞれが、価格、パワー、サイズなどに関するニッチな居場所を見つけていた。
- 最初のころは、単発のプロジェクトが話題の中心だった。プロトタイプ、アートインスタレーション、デザイン的な冒険などだ。2011年は、最初のひとつを作ることに加えて、100のアイデアを作る方法も話し合われた。2013年には、Sparkfun、Modular Robotics、Central Standard Timing、Sifteoといった製造業者も複数参加し(SparkfunとModular Roboticsは自前の工場も持っている)、製造、資金調達、エレクトロニクスの環境対策などの話題を持ち込んだ。
- 教育関係では、当初は、大学のデザインやアートの学生に、熟練した技術者の指導を受けずにハードウェアをいじってもらうということが話題になっていたが、近年では、正式な技術教育を受けていない実質的にすべてのグループの人々をそれに含めるところまで発展してきた。正式な専門教育を受けていない中学校の子どもたち、ホビイスト、実験の愛好家などだ。
- 最終的な製品の形も変わってきた。2006年は、テーブルの下に隠れる程度の小さな箱の形をしていたが、2013年には、小型のウェアラブルやスマートクロージングや、建物全体に広がるシステムなどに変わった。今年は、人工大動脈や実際に食べられる 3Dプリントしたラズベリーが現れた。もちろん、箱型のデバイスは今も健在だ。
2014年に私が面白いと感じたトレンドと新製品は次のとおりだ。とは言え、Sketchingでの話題をすべて紹介することはできない。とくに深夜のベルリンのビヤガーデンで出た話題となると書き切れない。
- ウェブはハードウェアを食べようとしている。ウェブとソフトウェアを切り離すことができないように、ソフトウェアがハードウェアを食うことが避けられない。デジタルハードウェアの開発は、年を追うごとにウェブ開発に近いものになっている。node.jsを使って小型デバイスのためのRESTfulインターフェイスを作るボードは、ウェブサイトのように振る舞う。それは、Vlad TrifaのEVRYTHNGでのプレゼンテーションやIoT ToolchainsでのAndré Knoerig’のプレゼンテーションで語られているとおりだ。さらに、開発ツールや開発プロセスも、内蔵ハードウェアの開発者が使うものよりも、むしろウェブ開発者が使っているものに似てきている。Phil Van Allenは、今のウェブ開発の手法で、一からNetLabToolkitを作り変えた方法をプレゼンテーションしていたが、これは伝統的な内蔵ハードウェア開発における大変革であり、そこには大きな哲学的な変化が見て取れる。クローズなツールチェーンを使って独自のファームウェアをCで書き、最初から最適化するというのではなく、Githubに揃ってるオープンソースのツールを使えば、もっとずっと安く簡単に製作することに集中できる。性能面でも、心配なところだけ心配すればよい。MarvellとIntelという2つの巨大チップメーカーが、この哲学に従って開発した製品を披露してくれた。Andy CarleはJavaScriptを使ったMarvellのKinomaを紹介した。Seth HunterはIntelのGalileo 2がnode.jsとArduinoとウェブ規格をベースにしていることを説明した。
- 私たちは、ハードウェアを「いかにして」十分に機能させるかについて答えてきた。それが「何を」と「なぜ」の論議につながる。かつては、機能するものさえ作れれば勝ちだった。それがどんな役に立つかは関係なかった。その後、100の製品を作れば大成功という時代があった。そのどちらも今は難しい。しかし、そのプロセスは十分に知れ渡り、人々はもっと大きな注文をするようになった。特注のハードウェアで、異なるメーカーのデバイスに接続する方法だ。Kate Hartmanの研究所は腕時計にしか見えないウェアラブルを開発している。New York TimesのNoah Feehanは会話の内容を理解するスマートなピンを開発している。
- ツールがより洗練されてきた。Arduinoファミリー、Beaglebone、Raspberry Piは、ハードウェアの設計で昔から人々が抱えてきた問題を解決してくれた。同時に、それらが最適なソリューションとならない数多くの状況を洗い出すことにもなった。今年は、汎用のマイクロコントローラーボードでは不十分な状況に対応できる新しいツールがいくつか紹介された。Norman Pohlは、電話の画面をハイジャックして新しいポートを追加するハードウェアと、ボタン電池ひとつで2カ月間作動する超省電力なボードを披露した。Travis LeeとEvan ShapiroはNOAMのデモを行った。これはオープンソースのブローカーで、さまざまな種類のデバイスを大量に同期させて、数年前にSketchingでデビューした Spacebrewのように、大きなネットワークが構築できる。どちらも標準的なウェブパブリッシングの購読型モデルを採用している。
- 私たちのツールは、私たちによりクレイジーな発想を促すようになった。今年発表されたアプリケーションの中には、数年前まで頭で想像するしかできなかったようなものもある。Erik Schweikardtはロボット製造工場をロボットで自動化した。そして彼は、その工場の自動化ロボットのデザインをオープンソース化した。それは彼のビジネスの中核ではないからだ。Pedro Lopesは、我々の筋肉の状態を数量化して読み出すだけでなく、それを使って筋肉をコントロールする方法を探ろうと決めた。スマートフォンとちょっとしたハードウェアで、人の体をあやつ人形のように操れるようになる。そのハードウェアは何で作られているか? オープンソースのSketching in Hardwareツールだ。
ここに紹介したのは、私たちが実際のイベントで見聞きしたことのほんの一部に過ぎない。紹介しきれなかった作品やアイデアについては申し訳なく思う(下のリンクですべて見ることができる)。しかし、いつものことながら、答よりも多くの質問が生まれてしまった。デジタルハードウェアはますます身近になっている。それは素晴らしいことだ。しかし、その身近さのために、どう内蔵するか、どう情報処理を行うか、誰がそれを作り、何に使うのかという疑問が湧く。かつては、数百億ドル規模の大企業のために限られた専門家が行ってきたことが、今では多くの人が簡単にできるようになった。だが、インフラの多くはまだ昔の世界に顔を向けている。この新しい世界では、ハードウェア開発のための新しい投資の形も考えなければいけないし、教え方、製品の流通の方法、その文化的役割も考え直さなければならない。1980年代のデスクトップ・パブリッシングは、数百年続いた印刷業界を効果的にぶち壊し、変革をもたらした。同じように、Sketching in Hardwareは100年続いた電子業界を破壊して変革しようとしている。新しい世界は、どんな姿をしているのだろう。Sketching in Hardware 2015では、もう少し見えてくるだろう。
写真: Vlad Trifa。その他の写真は VladのFlickrページで見ることができます。
すべてのプレゼンテーションがここでダウンロードできます。https://app.box.com/s/hy7zh7450v7rsrcb4tci
Sketching in Hardwareに関する詳細はこちら。http://sketching-in-hardware.com/2014/
* TellartのMatt CottamとSketching in Hardwareを立ち上げたとき、私は彼との会話から大きな影響を受けた。ありがとう、Matt!
– Mike Kuniavsky
[原文]