Crafts

2014.08.21

Sonar +D 2014(DIY MUSIC in Europe)

Text by guest

バルセロナ在住の音楽ライター、類家 利直さんにヨーロッパのDIY MUSICシーンについてレポートしていただくシリーズの2回目です。1回目はこちら

今年もバルセロナにSonarの季節がやってきた。Sonarはエレクトロニック・ミュージックを中心としたライヴやDJのステージを楽しむ音楽フェスティバルで東京含む世界数都市で行われている。会場内には Sonar +Dというスペースが設けられ、音楽系ハッカソンとして有名なMusic Hack Dayや様々な団体・企業の展示やワークショップ、アーティストや音楽関係者によるカンファレンスなども行なわれ、バルセロナのSonarでは音楽のテクニカルな側面にもスポットを当てている。

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今年は森林がモチーフになっていて、各出展ブースが材木で囲まれて、新しい音楽機材などに触れていても、木の匂いがほんのり漂いリラックスできるようになっていた。前回からSonarの昼の部が広い会場に移ったメリットを生かし、今年は場所を取る大きなアート・インスタレーション作品の展示やパフォーマンスも行われていた。

上の動画はカナダのサウンド・アーティストMachine Variationによるパフォーマンス。材木で組まれた装置にはよく見ると小さなマイクが垂れ下がっていて、そこから取り込んだ音をMax/MSP上でプロセッシングしている。最初に作ったものは腕に抱えられるほどの大きさだったが、カナダからバルセロナまでこの大がかりな装置を持ち込んだもので、今回は1日30分、3日間に渡って1日3回ずつ合計9回のパフォーマンスを行わなければいけない。これまでは北米のエレクトロニック・ミュージックのフェスティバルで主にパフォーマンスされてきた。Nicolas BernierとMartin Messierの2人は共に作曲家で、パフォーマンスは予めコンポーズされ、二人の動きは即興ではなくほぼ決められている。とはいえ、全身を使って、二人で息を合わせて装置の中を動き回ることは容易ではない。装置自体が奏でるアコースティックな音とコンピューターを通して処理された音、そしてパフォーマンス自体を聴衆に見せるという要素が複雑に計算されていた。こんなに回数を熟すのは初めて、大変で筋肉が付きそうだよ、とNicolasは微笑ましくぼやいていた。

MoobeatというKinectでセンシングした動きで音楽の各トラックのパラメーターをコントロールするアプリケーション。今回PioneerやKorgのような知られた企業による既に商品化された製品のデモンストレーションもあったが、地元バルセロナを中心にヨーロッパのスタートアップ企業やクリエーターたちによるファンディング待ちの展示も多くあった。


バークリー音楽院の研究グループによるヴァーチャル指揮システム。KinectとMax for Liveを組み合わせて、指揮の動きでトラックの再生や鉄琴の自動演奏をコントロールする。

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オーストリアのリンツ芸術デザイン大学(University of art and design of Linz)による展示ブースも非常に充実していた。上はボリュームやエフェクトをオレンジ絞り器で調節できるAcidable。絞ったオレンジジュースは下の蛇口から出して飲めるようになっている。その他にも溝が刻まれた板をさすることで音を左右に振ったりしながら演奏できるTangible scoreなどビデオでは中々面白さが伝わらないが、音楽デバイスとして実際に触ってみると案外使えそうなものが多かった。後から調べて気が付いたが、現在彼らInteractive digital artsのコースはReactableを開発した主要な研究者の一人が主導している。

Sonar +Dのスペースは年々大きくなっているが、ロンドンのクイーンメリー大学による初心者向けワークショップやMITのMedia labの展示などがあり、今回は音楽テクノロジーで有名な大学は大体一通り出展しに来ていた(例外としてフランスのIRCAMなどがあるが、それでも多い。)

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そして地元バルセロナのトップランナーであるポンペウ・ファブラ大学の展示。派手になった新型Reactable、色々機能がついたり新しいインターフェースが考案されている。

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電導性のインクが刷り込まれた紙を使った音楽用インターフェイス。3Dプリンターで作ったケースの中のArduinoと繋げて、単にボリュームを上下させたり、トラックを再生させたりするだけだったが、誰でも切って貼るだけでできる気軽さがいい。

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すぐさっと外して紙製のコントローラーの裏側を見せてくれた。カッターナイフとハサミさえあれば子供でも回路をデザインできる。

そして音楽系ハッカソンMusic Hack Day in Barcelonaもフェスティバル期間中にSonarとポンペウ・ファブラ大学との共催でかなり地味に開催されている。外でビール飲んで日光浴しながら皆が音楽を楽しんでいる間、全く関係ないように会場の一画にはラップトップに向かってハッカソン参加者たちが作業をしていた。

今回は東京からバルセロナに短期留学中の日本人参加者の主導したグループが3つの賞を取って大健闘。菊川裕也らのグループによる作品Brachioradialisがスペイン通産観光省(Ministro de industria, energia y turismo)、Sonar +D、Xth Senseから各賞を受賞した。

センサ値の解析と各部の信号をOSCでやり取りするシステムの中枢はopenFrameworks。腕からの筋組織の振動を信号に換えるためにXth Senceを使い、腕に付けたLEDブレスレットとビジュアルはPuredataで連動させ、ビジュアルの処理そのものはProcessingを通す。そしてXth Senceのオーディオ信号はさらにMax for Liveを通して処理されている。

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靴に付けられたモーションセンサーはArduinoを通じて、サンプラーのMaschineのビートと靴に付けられたLEDブレスレットとをトリガーする。

まるで世に出回ってる使えそうなものをほとんど全部を使ったような作品だ。なぜこんなに沢山使わなければいけなくなったかというと、機能的に必要になっただけではなく、グループで役割分担をする上で各人が使えるツールが限られていたため、最終的に使用するアプリケーションが増えてしまったとのことだ。結果的には、上の動画のように成功を収めた。

HodorizerはGame of throneのセリフがいつもHodor(ホドー)というキャラクターをパロディのネタに用い、楽曲の歌の部分を全て「ホドー、ホドー」という歌詞に変えてしまうツール。楽曲の音声部分を解析し、ピッチ検出して「ホドー」にピッチシフト/タイムストレッチを行い、歌を抜いたトラックに元の歌のピッチと節をつけて「ホドー」を入れる。面白いには面白い。だが、やっていることは無意味だ(音声処理の実装という点では優れているかもしれないが。)このグループ4名のうち2名のインド人は昨年のMusic Hack Dayでどんな音楽もAPIを使ってインド音楽化してしまう脱力アプリケーション「Hindfy」という作品で賞を取っていたが、いずれも共通するのは、曲を解析して原曲の世界観を著しく破壊しそこそこに音楽に聴こえるように作り変えてしまうという音楽家が戦慄しそうなハックであるという点だ。

目撃情報によると、スペイン人たち(ヨーロッパ諸国・中南米含む)が皆帰ってしまった後、深夜も残って作業を続けていたのはインド人と日本人のグループだけだったらしい。インド人と我々日本人が働き過ぎておかしくなってるのか、他がハッカソンらしくもっと働くべきなのか。個人的にテクノロジーの進展の光と影を見る思いだった。

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5月にストックホルムで行われたMIDI HACKに続き、SonarにもやってきたNative Instrumentsのプロトタイプ制作チーム。今回もレゴのパターンをカメラで読み取ってシーケンスするハックを行っていた。何だまたか、と一瞬訝しく思ったが、よく見ると上部の透明なパネル部分がパズルのように3×3のマス目でスライドする仕組みになっていて、パターンをまとめて移動できるような仕組みになっており、さらに音の出力の方にはLittlebitsのシンセキットが接続されている。今回LittlebitsはSonar +Dの展示スペースで初めて一般に向けて展示されていたが、Native Instrumentsはどこからかいち早く入手したらしい(当日来ていたLittlebitsとKorgのスタッフたちも知らなかった。)レゴとLittlebitsという相性の良さそうな組み合わせをいち早く取り入れるそのセンスが憎い。

ビールの空き缶をケーブルに繋げて簾のようにつりさげ、音を演奏する作品。ArduinoとRaspberry Piにつながっている。ケーブルを繋げて簡単なタッチセンサが作れるため、既にバナナなど様々なオブジェクトを音のトリガーにする作品はごまんとあるが、この作品はビール缶の安っぽさが際立ち素朴だが実に面白い。これを作ったのは今回バルセロナのMusic Hack DayをオーガナイズしたRobert Kayeで、彼は昨年もBartendroというカクテル生成マシーンを使ったハックを行うなど、酒に関係したハックを行っていた。なぜか尋ねてみたところ、「今年は何しようかなって思って、たまたまビールを手にした時に思いついただけなんだ。来年はコーヒーでリラックスして何か作るつもり」と語っていた。

今回Sonarに参加して4回目になるが、会場が大きくなったこともありSonar +Dのスペースも年々充実してきている。また毎年見ていると、ビジュアルの処理の速度やインターフェースなど、前の年と比べても少しずつ工夫され改良されている作品やプロダクトもあり、そういった進歩を目の当たりにするのは楽しい。音楽系の企業の他に、一般の層があまり接点を持つ機会がない大学やスタートアップなども広く参加していて、音楽フェスティバルに参加している音楽ファン、そしてアーティストにとっても新しい音楽テクノロジーに触れる機会になっている。今年は3日間で昼夜合わせて99か国から109000人が訪れたと発表されているが、それだけの様々な層の多くの人々にアプローチできる可能性を持った貴重な機会であると言えるだろう。

─ 類家 利直