2019.02.01
Teenage Engineeringの折り曲げて作る「貧者のモジュラーシンセ」
Teenage Engineering社がパネルを折り曲げて組み立てるだけという簡単で安価なモジュラー・センセサイザーの組み立てキット16、170、400をオンライン限定で発売した。マニュアルを見ながら折り曲げるだけで15分ほどで完成させて遊べるところは、(ダンボール素材ではなくアルミ板だが)まるでシンセサイザー版Nintendo Laboのようであり、また自分で家具を組み立てるIKEA方式をも彷彿とさせる(実際Teenage Engineeringは昨年IKEAとFREKVENSというホームパーティー用サウンドシステムでコラボレーションしている)。
同社のポケットに収まる小さなサイズのシンセサイザー、Pocket Operatorシリーズのモジュール版という位置づけで、あえて型番は数字だけになっている。EuroRack規格のケースにもマウントでき、また各操作部分はプログラマブルでパラメーターは後から変更できる。
先週アメリカで開催されたNAMM 2019では、昨年発表されこれまた話題になったポータブルなシンセサイザー(音だけでなく映像もコントロールする)OP-Zと接続して実機デモが行われていた。現在はキットとしてまとめて売られているが、将来的には各モジュールを20ドルから100ドル以下の価格でバラ売りする予定もあるそうだ。
近年電子楽器の世界ではモジュラーシンセサイザーがちょっとした流行で、さまざまな組み立てキットが各社から発売されたり、日本でもTokyo Festival of Modularのようなモジュラーシンセサイザーに特化したイベントが盛況を博していたり、組み立てを行うワークショップも大小開催されたりしている。
組み立てながら電子回路の仕組みやハンダ付けを学びたい、そういう意気込みのある人にはそういった組み立てキットもいいのだが、電子工作の初心者向けではないし、一通り揃えるために費用がかかり、資金力のない個人が一から始めるには敷居が高い。しかしTeenage Engineering社は、組み立てるだけにして安価に出してしまった。「Poor man’s synth(貧者のためのシンセ)」と銘打っているが、経済的にも手間をかける時間的な余裕もないユーザーにとって、これ以上敷居を低くできないというところまで低くしてしまったところが斬新だ。
既に組み立て済みのものを購入するならいざ知らず、自分で部品を組み立て改造するような本格的なモジュラーシンセサイザーの導入への道は長い。まず電源やケースを買い、それからオシレーター、フィルター、LFOといったモジュールを買い込んで、消費電力を考えながらマウントしていく。音楽制作のために、クリエイティブな曲作りをする機材を揃えたいだけなら既成品の電子楽器を買うだけでもいい。たいていの楽器は楽しく簡単に使えるように設計されているはずだ。
それでも愛好家たちはなぜ電子楽器の進化の歴史の大河をさかのぼるが如く、モジュラーシンセサイザーを手を出すのか。いつも垢抜けてオシャレな製品ばかり出すTeenage Engineering社(実際ファッション業界とも関係が深い)が、お金や時間や技術などの面でプレッシャーを感じずにモジュラーシンセサイザーを始める方法があるんだ、と今回一石を投じたその意味について、考えてみる価値はあると思う。