Electronics

2014.09.16

音響ミラー:過去の軍事技術をアートで再現

Text by kanai

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写真:Signal

レーダーが発明される前、イギリス軍は接近する敵機を察知するための音響ミラーの研究を行っていた。画面に光が点滅するかわりに、戦略的に配置されたコンクリートのパラボラが周囲の音を集めて、飛行機のエンジン音など、遠くの音を聞こえやすくするという単純なものだ。

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写真:アボッツクリフの音響ミラー。撮影:Andrew Grantham。

この魅力的で原始的で印象的な過去の遺物(これはまだイギリスの海岸に立っているのだが)の存在を知ったアーティスト、Tim Brunigesは、ギャラリーの中にこれのインタラクティブな一組を復元した。今年の初め、ブルックリンのSignal galleryで開かれたMIRRORSという作品展で、Brunigesは2.7メートル四方の音響ミラーを木材とコンクリートで作り、パラボラの中央にはマイクを埋め込んだ。2つの音響ミラーは向かい合わせに配置され、この洞窟のようなギャラリーを訪れた人はインタラクティブな体験ができるようになっている。

MIRRORS from Tim Bruniges on Vimeo.

彫刻作品としては、イースター島の古代の石像と1980年代の大きなラジカセを混ぜ合わせたようなものに見える。20世紀の伝統とテクノロジーとの間の緊張を視覚的に表現しているようだ。Brunigesはこれに21世紀のテクノロジー要素を追加した。音響ミラーのマイクで拾われたライブサウンドは、いくつものデジタルエフェクトをかけられ、スピーカーから増幅して流される。イギリス軍オリジナルの音響ミラーに加えたこの改良によって、ミラーで反射した音と、スピーカーから少し遅れて聞こえる音の区別がつかなくなる聴覚環境を生み出す。これは無限にフィードバックするループとなり、21世紀のリアルとバーチャルとの間の緊張を強調している。

文化的な遺物の復元というだけに止まらず、MIRRORSは、今日我々が暮らしている、物質世界とデジタル世界とが互いに反響しあいながら存在するつかみ所のない空間の、わかりやすいジオラマでもある。サウスウエールズ美術大学で美術学修士号を取ったばかりのBrunigesは、シドニーのArc at COFAで2つ目のMIRRORSを製作した。これから数カ月以内にシドニーかニューヨークを訪れる機会があったら、ぜひとも彼の作品に眼と耳を傾けてほしい。

– Andrew Salomone

原文