若さの泉などないなんて、誰が言った? 近ごろのニューヨークの街中は、何台ものテスラやらスマートが走り回って、最新鋭の技術を見せびらかしている(道路の穴を注意深く避けながらね)。しかし、それらより40歳以上も年上で、カナルストリートからバイワリー、ブロードウエイにかけて、路上にある何よりも愛されている車がある。それは何を隠そう、製造ラインから出てきたばかりだ。1970年製フォルクスワーゲンや廃棄されたフォークリフトの部品を使い、完全に電気で走行する車として再び輝く若さを取り戻したのだ。
家庭用のコンセントからわずか2時間で充電が完了する。よく目立つソーラーパネルも少しだけ貢献している。だから、特別に作られた充電ステーションや、マンハッタンに数えるほどしかない、しかも決まって不便な場所にあるガソリンスタンドに頼ることなく、街中のすべてのガレージでエネルギーをチャージできるのだ。しかも、駐車した場所から延長コードを引き出してコンセントにつなげば充電できてしまう。私はそれを初めて見たのは、ウェストフォースストリートのコーヒーショップ、Joeの前に駐車して、ノートパソコンといっしょになって充電しているところだった。
これはシティライフに最適な乗り物かもしれない。自動車が今の時代に生まれていたとしたら、こんな姿になっていただろう。スリーブにはオリジナルの製造年が刻まれているものの、ステレオからはジャクソン5の『帰ってほしいの』やデレク・アンド・ドミノスの『レイラ』といった1970年代のヒットソングしか流れない。
これはDoug Manowitzの秘蔵っ子だ。彼はマンハッタンで35年の経験を持つ建築家として、タウンハウスを一から建ててきた。これは彼にとって最初の改造車ではない。ロングアイランドで子どもたちが大きくなったころ、ガラクタ置き場から拾ってきた芝刈り機の部品を使ってゴーカートや電動バイクを作っていた。延長コードを数珠つなぎにして、90メートルの距離を突っ走り、最後にはコンセントを引き抜いて車が止まる。正しいコンセントの抜き方とは言えないが、人をびっくりさせるには最高だ。
Dougはこうした独創性を家の建築で養ってきた。油圧機械やクレーンなどを使うことで、エネルギーを運動に変換する方法を、常にあらゆるものから学んでいるのだ。フォークリフトの交流モーターを拾ったとき、これを何かに別のことに使えないかと考えた。そして、もっと軽い車両に使えばスピードが出せると気がつくまでに、そう時間はかからなかった。
こうした自動車を作るには、コンパクトでいじりやすいベースが必要であることを知っていた彼は、フォルクスワーゲンのシャシーを選ぶことにした。メキシコシティのタクシーとして何十年もの過酷な扱いにも耐えうるシャシーとして知られている。ほとんどの車は、重い車体とシャシーは一体化されていて、シャシーだけを取り外すことができない。しかしフォルクスワーゲンの場合は、さまざまなボディを載せ替えて使えるようにできている。あの名カルマンギアも同じシャシーが使われているのだ。普通ではない使われ方にも対応できる、大変にユニークな構造だ。
当初、Dougはシンプルなデューンバギーを考えていたのだが、それが昔日の精神を引き継ぐものであるとわかると、彼の手は止まらなくなった。彼は古いハーレーのフェンダーを取り外し、フロントタイヤをカバーできるように2つに切断して入念に仕上げた。前面に雰囲気を与え、可変抵抗のアクセルを踏むレッグスペースを広げるために、フロントには86年製ジャガーのグリルを取り付けた。安定性と衝突安全性を確保するためには、中空鋼材のロールケージを溶接した。フォルクスワーゲンに使用できるトランスミッションなどの部品は、一世代以上のものはなかなか店には置かれていない。それを探すにはeBayが欠かせない存在だと彼は語る。
バッテリーのパワーを大きくしようとすればするほど車体重量が重くなるというジレンマを解消するには、ボディを軽量化することが重要だと彼は考えた。そのための完璧な解決策は、ボートで生活していた友人のDan Eneが教えてくれた。帆布なら軽くて、驚くほど強いという。彼らはフレームに合うように帆布を裁断し、透明プラスティックを貼り付けて、「ガルウィング」式のドアを作った。
モーターを回すには72ボルトの電源が必要だが、Dougは普通の鉛蓄電池ではなく、寒さと振動に強いAGMのゲル電池を使うことにした。12ボルトの電池を6つ、直列につないでモーターに電気を供給する。照明、ウィンカー、ラジオ用には独立した電池が1つ用意される。リアに搭載されたソーラーパネルは、この電池を充電するためのものだ。これはまた、メインの電池をコンセントにつないで充電している間、電池を使い切ってしまわないためにある。どの電気自動車でも、電池の重量は(300キロほどあるが)、車体総重量の大きな部分を占める。Dougは電池の寿命を4年間にわたって600回充電できると見積もった。さらに長持ちさせるために、彼は充電量が50パーセントを切らないようにしている。電池の最大出力と重量の比率を考えると、最高速度は「追い風で104キロ」となる。ニューヨークのタクシーと張り合うには十分すぎる。
Dougはこの車でマンハッタンの外に出たことはないが、走行距離はマンハッタンの端から端まで走って、物見高い通行人を乗せてやるのに十分なほどだ(充電が必要になるまで約48キロ)。彼は私を乗せてウェストヴィレッジをぐるりと走ってくれた。イタリア製スーツの連中から工事現場の職人まで、親指を立てていろいろ聞いてくる。彼がいちばん好きだった乗客は? 「おまわりさんを乗せたよ。そうしたら仲間に出くわして、パークアベニューまでドラッグレースをするハメになった」(彼らは手加減をしなかった)。
彼は車の合法性に気を遣っているので、混雑した公道を走ることもできる。「オールバニ(ニューヨーク州政府)が認めるかぎり、これは単なるフォルクスワーゲンなんだ」と彼は説明する。幸いなことに、シャシーにはまだ有効なシリアルナンバーが入っているので、完全に改造されてはいるが、法的にはヴィンテージカーということになり、保険も軽くて済む。その時代の開発規制に従って作られているとされているため、ヴィンテージなシートベルトも合法だ。賭けてもいい。この車の登録証には「気筒数:0」とあるはずだ。
さて、次はなんだろう? 彼は今、電池のパワーを少し上げることで(最大450キロまで)、モーターの出力を3倍にできないかと考えている。Dougは、カーネル大学からの知り合いである工学科教授の“Jimmy” Chun-Chieh Changと協同で作業を進めているのだが、教授はリン酸鉄リチウムイオン電池をこのプロジェクトに提供してくれた。新しい車はウェストビレッジのガレージで形になりつつある。この車には、彼が溶接して作った固いフレームではなく、起伏に富んだ路面に対応できる柔軟なフレームが必要だ。その力強さを表す外観も必要だ。彼が今頭に思い描いているのは、ジープのボディだ。
– Benjamin Wheeler
[原文]