Y CombinatorのPrototype Dayで話をするPaul Graham(写真:Kevin Hale)
ほんの数年前、私はO’ReillyのWhere 2.0カンファレンスの客席に座り、ベンチャーキャピタルとスタートアップに関する講演を聞いていた。そのとき、有名なベンチャーキャピタルの人間が立ち上がり、その話の流れの中でこう言ったのだ。「我々はハードウェアには投資しない」と。
だが、状況は急激に変化した。まだ、スタンドヒルロードにハードウェアに出資したい投資家たちが長い列を作っているわけではないが、少なくとも会ってくれるようにはなってきた。
一等賞ではなかったが、PCHのHighway1(Brady Forrestが設立したサンフランシスコのハードウェア・スタートアップアクセラレーター)が流れを大きく変える役割を果たしたようだ。さらに、ベンチャー投資家がどのようにハードウェア・スタートアップを扱えばよいか、その模範を示した。Highway1をはじめとする類似のアクセラレーターは、ハードウェア系Makerに起業のための指導や援助を行っている。つまりは、インキュベーターだ。
インキュベーターは、ごく初期のアイデアを育て、その実効性を確かめるために存在しているのだが、今はハードウェア・スタートアップにとって大変に重要なステップだと思われている。ソフトウェアの場合は、アイデアさえ説明できれば、大手ベンチャーキャピタルが耳を傾けてくれる。しかし、ハードウェアの場合はプロトタイプが必要だ。そこで、ハードウェア・インキュベーターが役に立つ。
この業界でもっとも有名なインキュベーター・プログラムはY Combinatorだ。それが今日、彼らが出資しているハードウェア・スタートアップの増加を受けて、追加支援を行うことを発表した。
「YCが成長するに従い、ハードウェア企業への出資もますます増えています。ハードウェア企業には、純粋なソフトウェア企業とはまったく異なるニーズがあります」— Sam Altman(Y Combinatorのプレジデント)
今日の発表のなかには、インキュベーターがハードウェアスタートアップによりよい対応ができるよよう、BoltとAutodeskのPier 9 labと提携したという話もあった。Boltのパートナーとエンジニアリング・スタッフは、製品開発と生産のアドバイスを提供する。そして、インキュベーターの対象となるスタートアップは、AutodeskのPier 9を無料で使うことができ、Boltのスタッフといっしょに作業ができる。
AutodeskのPier 9 Lab(写真:Autodesk)
Pier 9 labに加えて、マウンテンビューのオフィスにあるエレクトロニクス用の小さな屋内工房も使えるようになっている。
もうひとつ、サービス面でのいくつかのディスカウントも受けられるということだ。3D プリント、射出成型、プリント基板の製作と組み立て、さらには製品の写真撮影まで。それでもまだ、ハードウェア企業を支援するためのきめの細かいサービスを検討しているという。
「……いろいろな種類のハードウェア企業と出会いたいと思っていますが、基本的には、Kickstarterもサポートしてくれないような斬新なアイデアを持つ人たちと出会いたいですね」— Sam Altman(Y Combinatorのプレジデント)
Y Combinatorによる今回の発表はニュース性が高い。その内容というよりは、重要なのはその背景にある文脈だ。これほど有名なインキュベーターがハードウェア・スタートアップの支援を発表したこと、つまり積極的にハードウェア系スタートアップを探しに出てきたということは、ベンチャーキャピタルがハードウェアを見る目が本当の意味で変わってきたということだ。そこが大きい。
今こそ、ハードウェアのMakerとなって、新しい産業革命の担い手になるには絶好の時期だ。今すぐ、工具を手に持って始めよう。
訳者から:スタンドヒルロードっていうのは、大手ベンチャーキャピタルが集まっている街のこと。
[原文]