Electronics

2015.08.07

BBCのMicro:bitがイギリスのすべての11歳と12歳の子どもたちに無料配布される

Text by Alasdair Allan
Translated by kanai

The new BBC MicroBit (Credit: Rory Cellan-Jones/BBC News)
新しいBBC Micro:bit(写真: Rory Cellan-Jones/BBC News)

BBCはMicro:bit 最終デザインを発表した。これは子どもたちにテクノロジーでクリエイティブになってもらおうと意図して作られたボードだ。BBCのMake it Digitalキャンペーンの大きな要素であり、35年間続いてきたBBCの教育活動のなかでももっとも意欲的なものだ。

みなさんの多くは、70〜80年代にBASICでプログラミングを初体験したはずだ。TRS-80や Apple IIやBBC Microなどを使って。光る蛍光画面を見ながら、ハッキングや、自分なりのスペースインベーダーのプログラムを書いたりして時を忘れて遊んでいた。BBC Microはイギリスの学校でお馴染みの機種だ。それが、今でもイギリスでのコンピューター教育の基本になっているという長生きなレガシーでもある。

「Micro:bit は携帯電話や植木鉢や Raspberry Pi など何にでもつなげられるので、BBC Micro がイギリスのゲーム業界に貢献したように、モノのインターネットに貢献するでしょう」

BBC MicroはARMを生みだしたマシンでもある。同社のプロセッサーは、今や携帯電話やタブレットなどに広く普及している。しかし、最初のARMの役割は、BBC Microのセカンドプロセッサーだった。

「ARMの技術が最初に作られたBBCとAcorn Computersが35年前に協同開発したBBC Microが、どんどんモノがつながっている今の最前線で活躍している人たちを育てました」 — Simon Segars(ARM CEO)

オリジナルのBBC Microと異なり、Micro:bitはイギリスに住む11歳と12歳のすべての子どもたちに配布される。無料でだ。技術的な仕様も、将来、非営利団体が生産できるようにオープンソース化される。また、今年の末には Micro:bit がイギリス国内で、もしかしたら世界中で市販される。

One of ARM's engineers helped design its hardware while on a flight over Russia (Credit: ARM)
ARMの開発者のひとりがロシアへの飛行中にMicro:bitのハードウェアデザインに参加した。(写真:ARM)

しかし、今日発表された最終デザインは、3月に発表されたオリジナルのプロトタイプとはかけ離れている。これには、プロジェクト開始時の論争が関係しているのかもしれない。初期の開発チームのメンバー間でいさかいがあったのだ。そのため、メンバー数名とともにCodebugボードがスピンアウトしてKickstarterキャンペーンに打って出ることとなったのだ。

最終的なMicro:bitボードは、ARM Cortex M0プロセッサーをベースに、プログラム可能な25個の赤色LEDと、加速度センサーと磁気センサーを内蔵している。ただし、プロトタイプと異なり、背面にはCR2032電池用のスロットはない。そのかわりに、USBから電源が取れるようになり、外部電池パックが付属する。これでなんとか、ウェアラブルデバイスとしての形になった。

The BBC Micro:bit explained. (Credit: BBC)
BBC Micro:bitの概要(写真:BBC)

面白いことに、このボードにはNordic Semiconductor製のnRF51822チップセットと共に、Bluetooth LEも搭載されている。それにより、Micro:bit同士での通信も可能であり、ほとんどのスマートホンやタブレットとも通信できる。

「大勢のエンジニアが頑張ってこの驚きのハードウェアを作りました。しかし、最大の難関はユーザー本位のデザインという点でした。エンジニアや大人のためではありません。対象年齢を熟慮し、正しい種を植えることができたと思っています。これを使って長い間、遊んだり、実験したり、学ぶことで、種は生長し、日常の役に立つ技術となり、ガジェット製作の能力が身につきます」 — Daniel Hirschmann(Technology Will Save Us 協同創設者)

最終的に、このボードには3つのI/O「リング」が付けられた。これはMicro:bitと外部のハードウェアをワニ口クリップやバナナプラグを使って接続できる。さらに、GNDと+3Vの電源「リング」もある。同じ方法で電源を供給できるのだ。これまで話には出てこなかったが、20ピンのエッジコネクターがあり、I/Oリングの3つのピンを使うだけでは得られない、ARMの高度な機能も引き出せるようになっている。

ソフトウェア面では、BBCはMicrosoftと共同で、ドラッグアンドドロップでプログラムが組めるプログラミングインターフェイス TouchDevelopを開発した。AndroidやiOSアプリを使ってスマ—トフォンからプログラムができるインターフェイスは現在開発中だ。Code KingdomsによるJavascriptのプログラミング環境も準備中だ。

オリジナルのBBC Microと同じように、BBCはMicro:bitを学校でのデジタルリテラシー教育に役立てたいと考えている。

「Microがデジタル世代に刺激を与えたように、BBC Micro:bitは新しい世代に刺激を与え、イギリスでのデジタル創造性の時代を築きます。必要なのは好奇心と創造性と想像力だけ。そのための道具は私たちが提供します。これはイギリスに改革をもたらすパワーとなります」 — Tony Hall(BBCジェネラルディレクター)

Raspberry Piも同じ目的を持っている。Makerコミュニティで人気だが、本来は子どものための小さくて安価なコンピュータであり、学校でのコンピュータ教育の改革を目指したものだった。

この数年で、Raspberry Pi財団は、Googleなどの企業の協力を受けて、その目標に向かって大きく前進した。少なくとも、多くの人にBBC Microの精神は受け継がれている。だから、BBCはRaspberry Pi財団と、またはArduinoなどの既存のプラットフォームと組むべきだったのではないかという疑問が湧く。

「すでに、素晴らしいプラットフォームがたくさんあります。Micro:bitは、すでに充実したエコシステムのなかに割って入るものではありません。これは、7年生の子どもたち(11歳から12歳)を対象として開発されたものです。今ある多くのプラットフォームは創造的表現やフィジカルテクノロジーのためのものですが、特定の年齢の子どもたちや、子どもたちにこのスキルを身につけさせたいと考える教師や父兄には、まだまだ敷居の高い存在なのです」— Daniel Hirschmann(Technology Will Save Us 共同創設者)

今日の発表を聞いて、失望した人も一部にはいた。オリジナルのBBC Microは、あの当時、大変に画期的なものだった。しかし、Micro:bitはそうとは言えない。マイクロコントローラーボードとしては優れているが、「特別」とは言えない。

「BBCが学校にデジタルリテラシー教育を提案することは素晴らしい。しかし、ひとつ重要なことを見落としている。Micro:bitは子どもたちが欲しいコンピュータではないということだ。なぜなら、コンピュータを使わなければアクセスできないからだ。プログラミングの勉強は、プログラムを読むことから始まる。そしてそれをコンピュータに打ち込むことで行われる」

「子どもたちが欲しがっているコンピューターはスマートフォンでありタブレットだ。それらでは、Micro:bitでできることがすべてできる。しかも、タッチパネルがあり、人間が読んだり理解できるアウトプットとインプットがある。それがあって初めて、子どもたちは遊び場でコードをやりとりできるのだ。すべての子どもたちが四六時中アクセスできるスマートホンやタブレットを作る方法を、もっと先を見据えて考えるべきだ。それは簡単にプログラムできるものでなければならない。そうなれば革命的だ」 — Tom Igoe(ニューヨーク大学 ITP、Arduino.cc共同創設者)

BBCがハードウェアに関してもっと革新的なことができたはずであることは確かだが、ハードウェア自体がダメだとは言えない。Micro:bit が成功するかどうかは、カリキュラムで使用する際にこれをサポートする材料にかかっている。

「見てわかるとおり、私はマイクロコントローラーの大ファンだ。子どもたちにプログラミングを教えたいというBBCの意気込みには拍手を贈る。しかし、プログラミングはデジタルリテラシーのほんの一部にすぎない。私たちは子どもたちに、コンピューターは万能ではないと教えなければならない。与えられた文脈の中で、どのようなコンピューターが適しているかを判断し、それが現実世界をどう感じ、現実世界とどう交信させるかを考えることも同じぐらいに重要だ。BBC のカリキュラムにそれが含まれることを願っている」 — Tom Igoe

これは、Micro:bitの開発でBBCと協力関係にあるTechnology Will Save Usよくわかっていることだ。

Technology Will Save Usの創設者であるBethany KobyとDaniel Hirschmannは、どちらもMicro:bitを単なるプログラミングを教えるだけのものとは思っていない。今の世代のコンピュータは、フィジカルコンピューティングが大変に重要だ。コンピューティングと現実世界との関わり合いを考えることだと言う。

「Micro:bit は子どもたちに提供される。学校にではない。学校でも家でもこれを使って遊べるようにだ。彼らの興味のある部分に直接飛びつけるように作られている。それを制限するのは本人の想像力だけだ。このプロジェクトをローンチしたときには、即座に大きなコミュニティができた。この小さくてフィジカルなデジタルプラットフォームを使うみんなで協力し合って、自信を付け、アイデアを積み重ねていける」— Daniel Hirschmann

Micro:bitが成功するかどうかを決めるのは早計だ。それにはあと何年もかかる。同様に、BBC Microや、アメリカでのApple IIやTRS-80が私たち世代に与えた社会的影響を判断できるのは、あれから35年も経った今だからこそだ。これはまだ1日も経っていないのだ。

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