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2016.04.21

『鋼鉄地帯』発売記念、西澤 丞さんメールインタビュー「鉄の熱さまで感じられる写真集になった」

Text by tamura


『鋼鉄地帯(日本の現場「製鉄篇」)』西澤丞、太田出版、価格2980円+税

2013年に『イプシロン・ザ・ロケット』をオライリー・ジャパンから出版した写真家の西澤 丞さんの最新作『鋼鉄地帯』が4月19日に太田出版から出版されました。今回は西澤さんのご協力を得て、写真集に掲載された写真をmakezine.jpに掲載。併せて今回の写真集や「現場」への思いをメールインタビューでお聞きしました。

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JFE西日本製鉄所/倉敷の高炉

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JFE西日本製鉄所/福山の高炉

今回の撮影場所について教えて下さい。

写真は、すべてJFEスチール株式会社の製鉄所と工場にて撮影させていただきました。4ヶ所の製鉄所と1ヶ所の工場です。同じ「製鉄所」と言っても、製鉄所ごとに表情が異なりますので、JFEスチール株式会社のすべての製鉄所にお邪魔しました。

今回製鉄所を撮影の対象として選んだ理由を聞かせてください。

私は、人々の暮らしを支える「日本の現場」を大きなテーマとして掲げていて、小さなテーマごとに写真集としてまとめようと考えています。小さなテーマは、すでに実現したロケットや製鉄以外にもいくつかあって、実現できそうなテーマから取り組んでいますが、実現させるにはタイミングや出版社や取材先に企画が通るかなどの様々な要素が関係してきます。

『イプシロン・ザ・ロケット』の場合は、ロケットの製作中から打ち上げまでをまとめたいという構想から、必然的に制作の時期も決まっていて、撮影許可なども間に合い、すべての要素が揃って本として送り出すことができました。今回の「製鉄」は、実現させるために10年くらい前から動いていたのですが、取材先の撮影許可と出版社の企画採用などの必要な条件が整い、ようやく実現できたのです。

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JFE東日本製鉄所/千葉の熱延工程

撮影にはどのぐらいの期間がかかったのでしょうか。

全部で13日ですが、ロケハンの日やインタビューの時間を除くと実質11日くらいでしょうか。周囲が何キロもあるような製鉄所を何ヶ所も回ると、とても短い時間です。ただ、私の撮影の場合は、自由に撮影できるわけではなく、広報の方や現場の方に同行していただきながらの撮影になりますので、その方たちを拘束する時間という観点で考えますと、とても長い時間の撮影だったとも言えます。

今回の写真集の見どころを教えてください。

一般に、製鉄所は見学は可能でも撮影は一切禁止です。私の撮影では、撮影時にも撮影後にも取材先のチェックを受けるという特別な環境のもとで実現しています。また、今回は、「作業員目線で撮影させてほしい」とお願いして撮影していますので、まるで現場でいるような迫力のある写真を撮影できました。ですので、写真として貴重であるだけでなく、まるで現場で一緒に働いているかのように鉄の熱さまで感じていただけるのではないかと思います。

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JFE東日本製鉄所/京浜の連鋳工程

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JFE東日本製鉄所/千葉の高炉の出銑工程

製鉄の現場は危険だったのではないでしょうか。

ご質問のように、今回の写真をご覧になった方からは、「撮影していて危なくないの?」というご質問をいただくことが何度もありました。写真に迫力があるからこそいただく質問だと思いますが、「安全」については、撮影時の最優先課題としていますので、安心してご覧ください。万が一が想定される状況下では、リモコンによる撮影を行うなどして、安全を確保しているのです。

現場で撮影を行う際に、心がけていることは何かありますか?

「安全第一」が一番大事で、その次が「作業優先」です。安全は、自分のためということではなく、取材先に迷惑をかけないためです。「作業優先」については、現場の方々にとって取材への対応は、自分の時間を取られる「邪魔な仕事」である場合が多いものですから、現場の方々の負担を最小限に抑えるためです。

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JFE東日本製鉄所/京浜の厚板冷却工程

写真を通じて西澤さんがどんなことを伝えたいのか教えて下さい。

大きなテーマとしては、自分たちの暮らしを支えている現場がどのようなところかということをきちんと知っていただきたいと思っていますが、今回の「製鉄」では、ものづくりのスタートラインであり、最終的な製品、例えば自動車などの性能を左右する素材を作っている現場が実際にはどのような場所なのかを知っていただければいいなと思っています。

これまで多くの「日本の現場」に行っていますが、実際の現場は、想像していたイメージと異なる場合がほとんどです。例えば、マイナスのイメージだけが行き渡っている産業であっても、実際にはイメージとまったく違う場合もあるのですが、イメージだけで判断されることで日本を支える現場で働く人がいなくなってしまうのであれば、この国が間違った未来を選択してしまうことになってしまいます。私が、写真を撮影し発表することで、マイナスの「思い込み」や「誤解」を少しでも解消できるのであれば、また違う未来が見えてくるのではないかと思って撮影を続けています。