Crafts

2016.08.09

シェフにもハッカースペースが必要な5つの理由

Text by Dan Mills
Translated by kanai

フードハッカー(名詞)
ものすごい食べ物を発見し作り出すこと愛する好奇心旺盛な人、または新しい画期的な食べ物のアイデアのための知識や直感を得たいと思う人。

今はシェフになるには最高の時代だ。私は食べ物と料理をすることが大好きで、ここ数年、さまざまな料理技術や道具がレストランでは一般的になり、家庭でもそれが使えるようになってきていることに大変な魅力を感じている。かつてはハイエンドの化学実験室にしかなかった真空調理器が、今では普通のパン捏ね器よりも安く売られるようになり、だんだん一般家庭でも当たり前のものになりつつある。その一方で、かつては一部の職人にしかできなかったカカオ豆からチョコレートバーを作るといった昔ながらの技法も、YouTubeを見れば、またはブログを読んだりフォーラムで聞いたりしながら、一般の人でもできるようになった。

私は、料理の腕を磨き、料理用具を集めるようになって、フードハッカーも、よく考えられた、きちんと設計された専用のスペースが必要であると、徐々に考えるようになった。だから私は、料理専用のメイカースペース「Tinker Kitchen」を作ったのだ。そこで、フードメイカースペースが必要な5つの理由を解説しよう。

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1. 特殊な調理器具が使える

普通のメイカースペースに3Dプリンターやバンドーソーがあるように、料理のハッカースペースでは、一般家庭では手に入らない器具や材料が使える。

ハイエンドのレストランでは、ここ数年、さまざまな実験室の機材や技術を取り込んできている。それに、食品科学に関する理解も深まっている。今やシェフは、味と食感をイノベーティブに創造し、El BulliAlineaのレシピにも見られる、あり得ないようなものが作れるようになっている。なのでフードハッカースペースには、遠心分離器、ロータリーエバポレーター、スプレー、フリーズドライ装置などの機材を揃え、ジェル、フォーム、液体の球体化のための食材も揃っていることが望ましい。

実験室の機材だけではない。ほとんどの料理人は、コーヒー豆のロースト、カカオ豆からチョコレートを作る、チーズの熟成、肉の保存、パスタの押し出しなどなど、従来の調理技術に必要な道具も持っていない。これらは、食品業界のプロのために用意されたものだ。そうした器具の家庭用バージョンともなると、品質がかなり劣る。フードハッカースペースには、誰でもが思いついた料理をDIYできるよう、そうした食品を作るための業務用または職人用の機材が必要となる。

こうした機材を家に持っている人は少ない。大変に高価だからだ。また大きかったり重かったり、取り扱いが難しかったり、それでいて、ごくたまにしか使わない。だからフードハッカースペースでは、みんなのスペースとして、誰もが利用できるように、そうした機材のための専用の場所もあるとよい。

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2. フードハッカーに対応した設計

普通のハッカースペース、業務用のキッチン、料理学校などがあるが、フードハッカーのための場所には、もっと特別な環境が必要だ。

通常のハッカースペースにはたくさんの機材があるが、料理用の設備は少ない。フードハッカーに対応したスペースを作るなら、そして食品を安全に扱えるようにするには、レストラン並みの食品の安全基準をクリアできるように作らなければならない。

業務用キッチンも適切ではない。時間で貸してくれるところがあるが、そうした場所は大量の料理をするために作られている。ハッカースペースに求められるリラックスした雰囲気とは対照的な場所だ。フードハッカーたちは、無駄話をしたり、新しいアイデアを学んだり試したり、人とつながったり、食べ物を楽しみたいのだ。

料理学校という場所もある。そこにはリラックスした雰囲気はあるが、いろいろ試したり、研究したり、長い時間をかけて実験するようには作られていない。それはやはり、会員制のハッカースペースで、無制限に機材が使える環境が望ましい。

フードハッカースペースは、ハッカースペースのモデルを食品や料理の方向に発展させたものだ。それこそフードハッカーが欲しがっているものだ。

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3. 学際的な探求

フードハッカーの理想的なスペースは、いろいろな活動、機材、人、アイデアが集まる場所だ。料理を習うこともできる。また、料理に近い分野の実験もできる。たとえば、食べられるアート作品とか、新しい料理器具を開発するとか、料理の撮影などだ。

食べられるアートインスタレーションを専門に作っているアーティストをご存知だろうか。フードアーティストは、フルーツを使った絵画や、いろいろなマシュマロで作った天井や、食べられるコーヒーカップなどを作っている。フードハッカースペースは、フードアーティストたちがこうしたアイデアを試すのに最適な場所でもあるべきだ。

また、フードハッカースペースは、新しい料理道具の開発ができる場所でもありたい。今、私たちは、食品対応のシリコンを開発している。これがあれば、料理道具の実物大のプロトタイプが素早くできるようになる。

今日では、多くのフードハッカーたちが、自分たちが作ったものを、InstagramやSnapchatやYouTubeといったソーシャルメディアで配信したいと考えている。料理の写真は、それ自体が専門分野だ。優れた料理の写真を撮るには、それ専用の特別な道具や技術がいる。私たちは、自分たちのハッカースペースを写真またはビデオのスタジオにもできるようにしてある。フードハッカーたちは、自分たちで作った料理を並べ、ライティングをして、編集をして、最高の写真を作っている。

ハッカースペースでは、学際的な交流を促す場所でもあるべきだ。それにより、すべての会員にとってスペースは、より楽しく価値のあるものとなる。

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4. 学んで試せる場所

食品について学ぶ場としてのフードハッカースペースは、通常の料理学校よりもずっと価値が高く、参加しやすいスペースであるべきだ。

いわゆる料理学校は、食品業界の入口として料理人に調理技術を教えるところだ。しかし、アマチュアの料理人からすると、少し方向性が違う。授業料は高く、1年から2年かかり、時間も多く取られる(通常はフルタイムだ)。

趣味としての料理教室もある。小さなグループに対して、特定のトピックを教えるものだ。しかし、この形式では学ぶ側が、教室にあるものと同じ器具を家に持っていなければ、家に帰って実践ができない。同じ器具を使って続けて練習することができなければ、学ぶのは難しい。

もうひとつ、自宅のキッチンで独学するという方法もある。時間とアクセスには問題がないが、家庭のキッチンでは専門的な道具が揃っていない。多くの場合、それではとても心細い。

参加のしやすさ、専門知識、練習ができること、励まし合ってフィードバックも得られること、これらを備えたフードハッカースペースは、どこよりも優れた学びの場となる。

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5. 料理コミュニティ

ハッカースペースは、単に機材や場所をみんなで使うだけのものではない。そこはコミュニティのハブとなる。同じ趣味を持つ人たちがつながりあって、互いから学び、アイデアを交換し、プロジェクトのヒントを得る。

ひとりで料理をするのではつまらない。フードハッカースペースでなら、定期的に料理ミートアップを開催できる。毎月のアイスクリームクラブでもいい。または、みんなでディナーパーティーを開くのもいいだろう。有名なスペインのgastronomic societies”(aka Txoko)のような料理コンテストを開くレストランもある。参加チームにレストランの料理人がついて実験的な料理を披露する。自分の新しい料理を仲間の料理人たちに公開できるのだ。それを見た料理人はそこから新しい料理のヒントを見つけるかもしれない。

ただ、ほかの人がやっていることを見るだけでもいい。そこから、次に試したいことのヒントが得られる。コーヒー片手に、フードハッカースペースをぶらぶらするだけでも、必ず何かしらの収穫があるはずだ。

料理を楽しもう!

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原文