2016.12.21
作業場やDIYスペースでの防火と非常時の対応
最近オークランドで起きた悲劇*は、すべてのMakerに対する悲痛な警告でもある。Makerの境界が広がり、どこでメイキングの活動が行われるかわからない今、安全性に関する訓練を行い、自分たちや周囲の人たちの安全を守らなければいけない。火は人類のもっとも古い道具であるが、それでも恐ろしい事態にならないように十分に警戒し準備しておく必要がある。これについては、多くの人が考えたり書いたりしている。私が何よりも強く推薦するのは Gui Cavalcantiの記事(英語)だ。
* 日本語版編注:カリフォルニア州オークランドの倉庫「Ghost Ship」で現地時間2016年12月2日深夜に開かれていたパーティー中に発生した火災のこと。この火災では36名の方が犠牲になりました。現場となった倉庫はアーティストの住居やスタジオとして利用されており、建物内に多数置かれた家具などが避難の妨げになり、消火設備も設置されていなかったと報じられています。その背景などを紹介した記事も日本語で読めますので、詳しいことを知りたい方は「オークランド 火災」で検索してみてください。
Makerムーブメントでの大きな要素に、人を集めて何かを作るという活動がある。共同製作、メイカースペース、ガレージ、Maker Faireなどは、この数年間で大きく数を増やしている。これらの場所で多くのイベントが開かれ、教育または娯楽のために大勢の人が集まる。なかには「危険」な作品を製作したり展示したりすることも珍しくない。私たちには、そうした参加者や見学者たちの安全を守る義務があるのだ。
家の中でも、ガレージでも、メイカースペースでも、倉庫でも、守らなければならない防火のために念頭に置くべき点がいくつかある。簡単に言えば、火元、燃料、対応、避難だ。どの要素も、詳しく語れば1冊の本になる程度の内容があるのだが、ここではみなさんの作業場に適用できるよう、その基礎的な部分だけを解説しよう。
火元
火元は、裸火や熱源など、見れば明らかだ。しかし、摩擦、化学反応、電気抵抗、熱放射など目に見えない火元もある。思いも寄らないものから発火するものだ。例を挙げよう。
・電動工具の刃が摩擦で熱くなる。
・ファイバーグラスのレジンを大量使用すると発熱する。
・太陽の光を反射または集光する物質。
・電気コードが熱くなるデバイス(電話機を接続すると温かくなる充電器など)。
見た目に危なそうなところから緊急事態が発生するものと思い込むのは危険だ。わかりづらい、または目に見えない部分に潜む火元こそ重大事故に繋がる恐れがある。古い建物の設備が火元になることもある。米国防火境界(NFPA)によると、倉庫での失火の原因は、電気配線のショートと照明設備がもっとも多いということだ。場所もツールのひとつだ。きっちりと整備しておこう。
タコ足配線のコンセントは危険。しかし見つけやすいので対応も容易だ。Adobe Stock – © ermess
火元になる恐れのある場所を特定して管理しておくことは、作業場を安全に保つための基本だ。可能性のある場所をすべてリストアップするのは難しいが、作業、収納、規格の面から考えるとわかりやすい。
・ツールを使用しているときに熱を発する部分に気を使っているか?
・化学薬品、バッテリー、塗料、製作途中のプロジェクトは正しく保管されているか?
・コンセントにソケットを繋ぎすぎていないか?(デバイスや回路の消費電力をよく見て、適正な負荷で使うようにする)
作業場を見回して、こうしたことを考えてみよう。
燃料
火元が燃料に接すると火が起きる。可燃物はどこにでもある。燃料、布、溶剤、洗剤、塗料、木材、紙、プラスティックと、切りがない。燃えやすいものをすべて取り除くというのは現実的ではないが、その露出を管理することはできる。まずは、火元から離して可燃物を保管し、換気を良くすることが重要だ。作業の状況をよく見て、火元になり得るものと可燃物が接触していないか(特に危険なのが可燃ガス)を確認しよう。
積み上げられたパレットと廃材。Adobe Stock – © 2207918
密集した作業場では、ツールと燃料が混在してしまいがちだ。急いでいるときなど、アセトンを拭き取った雑巾をその辺に投げてしまいそうになる。寒い作業場では、換気のために窓やドアを開け放しておくことは難しい。だがそれが可燃ガスを溜めてしまうことになる。熱源と可燃物を意識して分けることは必須だ。
みなさんの作業場を歩いてみて、燃える恐れのあるものをすべて探してみてほしい。そして想像力を働かせて、それがどのようにして着火するかを考えてほしい。燃えにくいものもあるだろうが、意外に燃えやすいものもあったりして驚くことだろう。リスクを低減させる方向で作業場を整理しよう。
火への対応、警告、消火
切削機械から出た熱い切り屑がおが屑の中に入って何時間もくすぶり、やがて発火することが考えられる。火事の兆候、一般的には煙だが、それを感じたなら、すぐに警告を発することが重要だ。作業場の大きさに関わらず、煙感知器は必ず設置すること。しかし、すると今度は、警報を鳴らしてしまいそうな作業をするときに、利用者が煙感知器のスイッチを切ってしまうという新たな問題が起きる。そうすることが適切である状況は非常に希だ。煙感知器を切るためには、通常は消防署の許可が必要になる。適切な対処法は、換気を良くするか、その作業を屋外でやるかだ。
壁に並べられた消火器。Adobe Stock – © singhanart
火事を見たら、間を置かずに対処しなければいけない。作業場には、適切な消火器を、常に手の届く場所に設置しておくことが大切だ。作業場に初めて来た人でも探さずに済むように、よく目立つ場所に置いておこう。起こる恐れのある火災の種類と、その対処策は事前に考えておくべきことだ。
アメリカでは、火災は次の5つに分類されている。
図はWikipedia英語版から転載/日本語版編注:A=一般的な固形の可燃物、B=可燃性の液体とガス、C=通電している電気製品、D=可燃性の金属、K=油脂)
いろいろな種類の消火器があり、それそれに対応する火災が異なっている。一部を紹介しよう。
・もっとも一般的なのが、ABC粉末消火器だ。この3つはそれぞれ対応する火災が異なるが、腐食剤、第一リン酸アンモニウムを使用しているので健康被害が出る恐れがある。
・加圧水消化器は、タイプAの火災に向いているが、電気または油の火災に対してはかえって非常に危険となる。
・CO2消火器は、タイプBとCに向いているが、タイプAにはあまり効果がなく、価格が高い。
・重炭酸ナトリウム消火器もBとCに有効で、タイプKのキッチンの火災用としても売り出されるようになっている。第一リン酸アンモニウムよりは安全なため、人がいる近くで使用しても、あまり外はない。ただし、タイプAには向かない。
1つで完璧という消火器はないが、内容が重複しても、足りないよりはいい。起こりうる火災の種類を特定して、それに対応する消火器を準備しておきたい。水や砂も有効だ。火災が起きてから慌てて考えるのでは遅すぎる。よくわからないときは、粉末のABC消火器を用意しておこう。
使用する消火器のタイプに関わらず、それがちゃんと充填されていて、いつでも使える状態になっていて、使う人が正しく使えることが大切だ。これは火災が起きる前に確かめておく必要がある。そこを利用するMakerたちと火災訓練をして、緊急時にどう対応するかを確かめておこう。
避難、いかにして全員を外に出すか
時間をかけて作業場を見回し、非常口になり得る場所と、火災が起きそうな場所を特定しておく。また、火災が起きたときに、人々がどこからどう脱出できるかも考えておく。最悪のシナリオは(オークランドの火災でもそうだったが)、唯一の出口がふさがれていることだ。別のドアや窓から脱出できないならば、唯一の出口を必ず通行可能にしておかなければならない。
煙と炎と恐怖が、人の動きを制限してしまう。非常口は、低い態勢からも見えるように、また停電してもわかるようにしておき、その場所に慣れていない人でも安全に脱出できるようにしておこう。
点灯している避難口のサイン。Adobe Stock – © Uzfoto
非常口は救急隊員の入口ともなる。ホースや救命道具を持った救急隊員がスムーズに通れるだろうか? メイカースペースや倉庫の場合、駐車場が満杯で消防自動車や救急車が入れないということも考えられる。救急隊を呼ぶことはないかもしれないが、万一のことを想定して、彼らが活動しやすい状態にしておくことも大切だ。
その場所に合った安全を
火災に対する安全策の基本は場所によって変わることはないが、それぞれに合った対策というものもある。自宅の工房とメイカースペースでは状況が異なるし、倉庫とオフィスとでも異なる。本質的な危険は同じでも、場所によってその特質も優先度も変わる。
ガレージや自宅内などの小さなスペースでは、機能、工具、電化製品などがひしめいているために危険度は増す。そうした場所では、火元と可燃物との位置関係をよく考えておく必要がある。また、小さなスペースでは、火を扱う作業は屋外で行うようにするとよいだろう。
狭い混み合った工房で溶接をしている男性。Adobe Stock – © olly
オフィスや工業団地内のプロトタイピング工房などの中規模のスペースでは、最優先事項が異なる。オフィスでは、全員を速やかに建物の外に脱出させることが最優先になる。ほとんどのオフィスはビルの中にあり、ビルには通常、その地域の安全基準に従って、消火器、警報器、スプリンクラーなどの設備が整っている。オフィスを利用しているなら、自分や他の利用者がどこに集合するかが決まっているので、全員が脱出したことが確認できる。工業団地内の木工作業所やCNC工房などの、工作機械や熱を使う工具を使う場所では、脱出プランは必須だが、小さな火災には自分たちで対処できるように準備しておくことも重要になってくる。
大規模なスペースでは、特別な準備が必要になる。前にも述べたが、古い電気配線が原因で起こる火災が倉庫ではもっとも多いとされている(ちなみに、放火と同じ率だそうだ)。また古い場所では、棚や引っ込んだ場所に古い機械や、さらに悪いことに薬剤や塗料などが保管されていることがある。非常口と消火器を確保すると同時に、スペース内をよく見てまわり、そうした問題が大きくならないように確かめておこう。
アーティスティックな自由と必要な規制とのバランス
オークランドの事件の悲しい点は、その原因が、事前に簡単に特定できていたはずのことだからだ。少なくとも、死者を出さずに済んだはずだ。残念なことに、そのメイカースペースが使っていた場所にあった。そこは基準を満たしていなかったのだ。今これを書きながら、Maker Faireの安全コーディネーターであり、安全管理者を職業とし、築80年の教会を改装して自宅にし、安全なファイヤーアートの作り方の本を書き、かつては消防自警団の団員であった私は、偽善者のように感じている。
20代のころ、私は倉庫(ウェアハウス)に住んでいた。まるで幽霊船のような場所だった。Gui Cavalcantiが「ウェアホーム」と呼んだような、タラハッシーやオースティンのアーティスト向けの倉庫に暮らしながら仕事をしていた。そのころ、そして今でも信じているが、そうした場所から受ける膨大な想像力は社会にも影響を与える。若かった私は、歳を取っても、束縛されないクリエイティブな文化の価値を忘れないでほしいと思っていた。
宝石職人が金を溶かして宝飾品を作っている。Adobe Stock – © nd3000
そうしたスペースは、北アメリカには無数にある。そこの住人やアーティストたちは、専門家を雇い、安全性について説明を受けることが可能だろうか? もちろんだ。だが、それをすれば、法律や規制に従って改装しなければならなくなる。経費も何千何万ドルとかかってしまうだろう。それができるのは裕福な「ジェントリファイヤー」**だ。彼らはクリエイティブだが収入の少ないアーティストやMakerたちを追い出してしまう。
**日本語版編注:貧困層に多く住む地域に豊かな人々が流入し、その地域の家賃の相場が上がり、それまで暮らしていた人々が住居を失ったりすることを「ジェントリフィケーション」と呼ぶ。「ジェントリファイヤー」とは、貧困地域に流入する豊かな人々のこと。
では、危険な場所で暮らしたり活動することに目をつぶればよいのだろうか? それは間違っている。リスクを低減させるために制限が加わるとしても、命は大切にしなければならない。それなら、金を持たないアーティストやMakerは住む場所を失ってしまうのか? そんなことはないと、私は心の底から思う。
陶芸家がろくろを使っている。Adobe Stock – © Grigory Bruev
その中間地点の例がある。大きくてオープンな作業場を共同で使う共同組合やコレクティブ(労働者が運営する共同体)だ。会員制のメイカースペースで、オースティンのBurning Flipside Warehouseがそれにあたる。バーニングマンに影響を受けた人たちのコミュニティで、資産を分け合っている。活動を制限する規制に従うべきで、そこに住むべきではないのだろうが、彼らはオープンで、積極的に場所や資産を分かち合っている。アートを通じてつながり合い、機会や知識をシェアすることも重要だ。オークランドの悲劇を重大に感じるなら、誰もが安全に創作活動ができるよう、助け合うことを考えてほしい。
オークランドの火災は、多くのアーティストやMakerの住まいを奪った。私たちはコミュニティとして、必要な義務を負うだけでなく、互いに助け合う方法のひとつとして、安全を意識することが重要だ。世界は創造と発明のための場所をもっと必要としている。自分たちの作品と同じくらい、安全についても大切にするよう心がけよう。
[原文]