Electronics

2017.08.17

Sabreberryシリーズの作者さんとお茶してきた

Text by Takumi Funada

Raspberry Piからイイ音を引き出す拡張基板 “SabreberryDAC ZERO”(前回の記事)の開発者であるタカジンさんにインタビューすることができました。お盆のさなか、品川の喫茶店でいろんな基板を見せてもらいながらの2時間。当初は小1時間の予定だったのが話に花が咲いてかなり超過してしまいました。いちおう念のため前もって説明しておきますと、DACはDigital-to-Analog Converterの略で、ここではRasPiがデコードしたオーディオデータをアンプに渡せるアナログ信号に変換する回路のことです。

現在のお仕事はオーディオ関係ですか?

「いいえ、関係のない仕事です。それでも、趣味でアンプを作ったりしてきました。DACの前はヘッドフォンアンプをいくつか作って頒布したり」

RasPi用のDAC基板を作ろうと思ったきっかけは?

「2013年頃、HiFiBerryの存在を知ったんです。RasPiにはI2Sインタフェイスがあって、本格的なオーディオ機器として使える可能性があることが分かりました。その年末にVolumioのベータ版を入手して、自分でもRasPiのI2Sを調べて、これは使えそうだと思いました。その後の1ヶ月くらいで基板を設計して発表したのが “IRBerryDAC”(写真下)で、たぶん国内初のRasPi用DAC基板です。

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基板上に赤外線受光素子が見えますね。

「赤外線リモコンでコントロールできます。この基板を販売してみたら、すごい売れたんです。想定してなかった売れ行きでした」

何枚くらい売れたんでしょう?

「最初の月に40枚か50枚。基板と部品のキットだったんですが、オプションの実装サービスも提供したところ、それを選ぶ人が多くて、実装もひとりでやっていましたから休日がなくなってしまいました。それで、現在は基板製造だけでなく実装もP板ドットコムにお願いしてます」

話は少し戻りますけど、HiFiBerryを見た後、自分で作ろうと思ったのはなぜですか?

「基板の配線パターンをよく見ると納得できない部分が多かったのです。たとえば、電源ラインはRasPiの3.3Vをそのまま引いてきてセラコンをひとつ付けただけ。これではDACが可哀想……と思いました」

DACが可哀想!

「IRBerryでは、2つの電圧レギュレーターをアナログ用とデジタル用に分けてチップのそばに配置したり、十分な量の電解コンデンサを搭載するなど、オーディオ基板として配慮した設計になっています」

そうしたオーディオファンを納得させる設計が評価されて、続編のSabreberryシリーズは着実にファンを増やしてきましたよね。最新作のSabreberryDAC ZEROはSNSやイベントでよく目にします。Raspberry Pi Zero Wと組み合わせて使っている様子を見ると、すごく欲しくなります。ちなみに、こちらはどのくらい売れているんですか?

「発売直後の1ヶ月半で約200枚です」

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ユーザーはどんなことを期待してSabreberryを買うんでしょうね?

「ヘッドフォンアンプの場合、オーディオメーカーが作る市販品とは差が付きます。自作で越えるのはなかなか難しいと思います。でもDACならそれができるかもしれない。5万円くらいの市販機が相手なら、RasPiとDAC基板で越えられるかもしれないんです。そういうワクワク感を皆さん楽しんでいるんじゃないかな、と思ってます」

やはり基板の設計で音は変わりますか?

「変わりますね。基板だけでもかなり違うと思います」

そうすると、基板設計にも音作りの要素が入ってくると思うのですが、タカジンさんの音作りの基準になっているものは何かありますか?

「今までに自分が使って気に入ったオーディオ機器が基準といえば基準ですね。たとえばヘッドフォンならソニーのMDR-CD-3000。それから、自分の好きな音楽がよく聞こえるかどうかが大事です。私は低音がビシビシ来る音楽が好きで、フュージョンやハイテンポなジャズのエレキベースの音がよく出る機械が好みです」

SabreberryDAC ZEROの次の作品の構想はもうありますか?

「はい、次はアナログです。アンプをもう一度作る予定です」

(品川の喫茶店では次回作の構想についても詳しく伺ったのですが、文章にするとかなり長くなりますので省略します。すいません)

最後にもっと長いスパンでの目標も教えてください。オーディオ機器作りをまた本業にする可能性はあるのでしょうか?

「具体的にはまだ何も決まっていませんが、最終的には音の出るものを作って生きていきたいといつも思っています」

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