2019.03.25
地雷検知システムから酔い度判定、犬と飼い主をハッピーにするスマート犬小屋まで「Web×IoT メイカーズチャレンジ in 東京」レポート
Web×IoT メイカーズチャレンジ 2018-2019 in 東京(Web×IoT メイカーズチャレンジ実行委員会 提供)
総務省などが主催する「Web×IoT メイカーズチャレンジ」が昨年に続き、今年も全国9都市(札幌、仙台、茨城、前橋、東京、横須賀、鳥取、香川、沖縄)で開催された。東京大会の日程は2/9(土)からハンズオン講習、3/2-3がハッカソン。35名が8チームに分かれ、IoTシステムを使った課題解決にチャレンジした。
IoTを使って課題を解決する
このハッカソンはIoTシステム開発の実践的なスキルアップと無線通信や電波利用に関するリテラシー向上を目的とした人材育成事業として、30歳未満の学生や若手エンジニアを対象としたもの。ハンズオン講習とハッカソンのセットで実施され、未経験者も参加しやすくなっている。
作る作品の条件は「無線の活用を前提として、ネットワークサービスと連携する(あるいはネットワーク経由でコントロールできる)」「Web技術を活用したシステムである」「講習で学んだ技術(Web GPIO API/Web I2C API)にもとづく」もの。作品の審査はデモを中心に行い、プレゼン資料は使わない。アイデアの独創性、ソフトおよびハードの実装力に加え、無線の活用度が評価のポイントになる。特に重視されたのはユースケースの有用性、ユーザー体験のストーリーだ。
審査員は、村井純氏(慶應義塾大学環境情報学部教授 大学院政策・メディア研究科委員長)、小林茂氏(情報科学芸術大院大院(IAMAS)産業文化研究センター教授)、瀧田佐登子氏(一般社団法人WebDINO Japan 代表理事、実行委員会 副査)の3名。
当初の予定では最優秀賞のみ選出するはずが、審査の結果、加えて3作品に優秀賞が贈られた。優秀賞は「酔い度判定アプリ」「自動地雷位置検知IoTシステム」「スマート犬小屋」の3つ。
酔い度判定アプリ(リォウチーム)
ビール・酒といった飲み物を分別して飲み歴を記録したり、呼気センサを使ってアルコール成分を測定するシステム。酔っ払う前に人形を動かすことで警告を出す。IoTで習得したデータを使って「酔っ払う限界」を可視化できるため、飲む量のコントロールにもつながる。
酔い度判定アプリ。アルコール成分がしきい値を超えると人形が暴れだす。プロトタイプでは色で日本酒とビールを区別した
プレゼンの質疑では使うシーンに疑問も上がった(居酒屋に置くのか、個人が持ち歩くのか)が、お酒の事故が多い中、ぜひキャンパスに置きたいと村井純氏。優秀賞に選んだ理由は重さ、色、呼気センサなどを組み合わせ、それがデモで動いていたことがまず評価できる、どう表現するかというところで猿の人形を使ったところがいい、とした。
村井純氏(慶應義塾大学環境情報学部教授 大学院政策・メディア研究科委員長)
自動地雷位置検知IoTシステム(地雷検知班チーム)
ラジコンの車にGPSセンサと金属センサを搭載して、地雷が埋まってる場所を検知し、通知する。通知は3種類、1. 地雷があった場合は地雷位置情報をサーバに送信し緊急地雷発見メッセージを送信、2. スマホで地雷の場所を地図に表示する、3. 自分の位置情報を送るといま利用者がいる場所が危険か/安全かのメッセージを判定して返信するというもの。
自動地雷位置検知IoTシステム。金属検知センサはIoT端末ではあまり使用例がないが、そこに着目し差別化した
説明を聞くと、すでにありそうなのに筐体含めここまで安価にできるシステムが、まだなかったというところに驚きの声があがった。1台のコストが安ければそのまま地雷を爆破させることもできる。また、ただ検知するだけではなく、その結果を周辺住民で共有できるサービスにしたところもおもしろい。
優秀賞の理由として瀧田佐登子氏は、自動地雷位置検知IoTシステムが地雷という社会的な問題解決をどう解決できるかという点にチャレンジしたこと。この発想、コンセプトは他のいろいろな課題に使える可能性をあげた。
瀧田佐登子氏(一般社団法人WebDINO Japan 代表理事、実行委員会 副査)
スマート犬小屋(トゥインクル・犬・ユニバース チーム)
飼い主と犬の双方が幸せになれる「スマート犬小屋」。スマートハウス化した犬小屋は天気予報に合わせて屋根を開閉して犬が過ごしやすい環境をキープする。また、犬の首輪にセンサ類を入れることで犬の状態を監視し、Slackで通知する。
スマート犬小屋。屋根は天気と連動し、晴れると開く
プレゼンの質疑では、犬の体調ともっと連動するとおもしろいという声があがった。天気が良い日に屋根が開くという仕様に、逆に夏は暑い日差しを避ける意味で屋根がおりたほうがよいのではないか、匂い検知で自動換気の機能に展開してはどうかなど、ユースケースを広げる意見も出た。
小林茂氏が優秀賞の理由としてあげたのは、センサの活用だけではない「屋根が開く」という動作を伴うIoTである点。もう一歩犬と寄り添う、このシステムによって犬がどう幸せになるというところまで発展し続けてほしいとした。
小林茂氏(情報科学芸術大院大院(IAMAS)産業文化研究センター教授)
最優秀賞は「寝落ち検出システム」に
最優秀賞はTeam Dによる「寝落ち検出システム」に贈られた。これは寝落ちしたときにライトを消し、カーテンを閉める、布団をかけてくれる装置だ。寝落ちしたかどうかの判断は、OpenCVを使って顔検出できない(=つまり、下を向いていたりして顔を検出できないとき寝落ちしたと判断する)状態が一定時間続くことで行う。
寝落ち検出システム。mqttでコマンドを送りモータドライバを動かして布団を落とす
決め手になったのは「Make Someone Happy」なテーマであったこと、また寝落ちした人に毛布をかける、カーテンを閉めるというシステムを実物大のスケールで動かすデモができたこと(村井純氏)。
ただプレゼン時には、人が値落ちしたとき「そっと寝かせてほしいのか」「起こしてほしいのか」、対応は2種類あるがこの作品でのゴールはどこかという質問が上がっていた。メンバーからは両方を考えていたがなかなか実装が追いつかなかったと説明があったが、そこも含めて、さらに開発を進めてほしいとした。
毛布を落ちる仕掛け(棚をモーターで回転させるというシンプルな原理)に際し、モーターが回転しすぎないようストッパーで止めているところに実際にやって試したことがわかるという評価があがっていたのが印象的だった。
最優秀賞受賞のTeam Dのメンバーと審査員で記念撮影
IoTの可能性と難しさを知る
ここで紹介できなかった作品も含め、すべてのチームが発表ではデモを行った。制作にかけられる時間に限りがあった中、IoTで課題解決というテーマだけではなく、チームの役割分担、タスク管理といった面でも学びが多かったと言えるだろう。
最後に、審査員の3人から参加者全員へ講評があった。「アイデアソンやハッカソン中、デモの質疑応答など、さまざまなアドバイスがあったと思います。それらは今後、みなさんの財産になる。ここでの学びをオープンにしていってください」と瀧田氏。「IoTの難しさは、全体を通して考えることが重要になってくるところ。こうすれば当初の課題は解決できる。でもその後、ものごとはつながっていく。やってみないとわからないし、その全体を考えた上でじゃあどうしようとなる。それを繰り返していくことで、今回のアウトプットのその先に行くことができると思います」と小林氏。デジタル技術がこれだけ進むと何か夢を現実のものにしたり、課題を解決することが遥かにしやすくなる。この要領でいろいろなことができるようにはるはず。がんばってほしい」と村井氏。
Web×IoTメイカーズチャレンジ 2018-19 全地域のハッカソンの最優秀賞受賞作品は東京・神田で開催された「スマートIoT推進フォーラム総会」にて展示された。