2016年のMaker Faire Tokyoで初公開され、話題を集めたモリロボの「クレープロボットQ」が、この7月からサーティワンのイクスピアリ店に導入されている。最初に声がかかったのは2018年の秋。世界最大級のアイスクリームチェーンの要求レベルに応えるため、試行錯誤しながら改良を重ね、正式導入が決まるまでに1年以上かかっている。株式会社モリロボ代表の森 啓史さんに導入までの経緯と改良の苦労、今後の展開について伺った。
サーティワン・アイスクリームのクレープメニュー
大手アイスクリーム店の厳しい基準をクリアするため1年がかりで20ヵ所以上を改良
サーティワンアイスクリームでは、以前からクレープを提供していたが、クレープを焼ける人材の確保の難しさなどから、取扱店は一部の店舗に限られていた。取扱店舗を拡大するため、自動でクレープを焼く機械を探していたところ、たまたまインターネットの記事でモリロボのクレープロボットを見つけて、白羽の矢が立ったという。
「まずは一度検証をしてみたいとの依頼があり、18年の12月に最初の納品をしました。しかし、お店で使うのには厳しいとの返事。それでも、なんとか正式導入をしてもらいたかったので、やり取りを続けることにしました」(森さん)
サーティワンに採用されれば、全国から世界の店舗へ導入される可能性があり、大きなプロモーションにもなる。このチャンスをつかむべく、その後も2〜3ヵ月に1回、モリロボのオフィスがある浜松から都内まで改善した機械を持ち込み、フィードバックを得て修正を繰り返していった。
モリロボでは、これまでに大阪の「あべのハルカス」と福岡のクレープ店にクレープロボットを稼働させているが、サーティワンがほかの2店舗と大きく違うのは、店員の入れ替わりが激しく、1店舗当たり数十人とスタッフが多いことだ。しかも、イクスピアリ店は新規にオープンするため、すべての人が新人で、クレープを焼いた経験もなかった。入ったばかりのアルバイト店員がすぐに使いこなせて、安定した品質も求められる。洗浄などのメンテナンスのしやすさも大切だ。
従来のモデルは、生地を入れるタンクにステンレスの牛乳缶を利用していたが、サーティワンでは生地を冷却することを求められた。
最初に作ったのは、プラスチック製のタンクとアクリル製のクーラージャケットを組み合わせたもの。しかし、樹脂製の素材は徐々に削れて異物混入の不安がある、と品質保証部門から指摘され、すべてステンレス製で製造し直した。
Maker Faire Tokyoで展示していたオリジナルの牛乳缶タイプのタンク
ステンレス製のタンクと冷却用のクーラーケースに改良。ケースは結露対策として2重構造になっている
また、クレープ生地を鉄板に落とす量を調節するためのドロップタンク部品は、洗浄をしやすくするため、ネジやバネ類をすべてなくしてほしいとの要望があり、ネジやバネなしで取り付けられる方式に変更。さらに改良を重ねてドロップタンク自体を廃止し、最終的には、工具なしですべてのユニットを取り外して洗浄できるように改善した。そのほか、パッキンなどのゴム素材は、すべて食品衛生法に適合したシリコンゴムにするなど、数十の変更が加えられている。
最も苦労したのが結露対策だ。クーラージャケットをステンレス製にしたため、冷却すると結露し、水滴が生地に落ちてしまう恐れがある。そこで、ケースを2重構造にし、間にクーラーボックスなどに使われている断熱材を敷き詰めることで結露対策を施した。
「改良すればするほど、新たな要望が出てきました。とにかく納得してもらえるレベルまでやっていこう、と続けていたら1年後にOKがでました」と森氏。
当初は4月のゴールデンウィーク前に導入される予定だったが、新型コロナの影響でディズニーリゾートが再開した7月のタイミングからスタートすることになった。スタッフからの反響は上々だ。「お店のスタッフからは、『クレープを焼いたことがないのに、この機械があればちゃんと焼ける。練習もしなくていいから助かっています』と喜んでいただいています」と森さん。
稼働中の現在も新たな要望や取り扱い方法についての問い合わせがくるそうで、週に1度は現地に通ってサポートをしているとのこと。
一口サイズのクレープが焼ける小型モデル「クレープロボットQミニ」を新開発
Maker Faire Tokyoに初出展した2016年当時、森氏は自動車会社の社員で、起業までは考えていなかったらしい。事業化を考えるようになったのは、翌年2月の「国際ホテル・レストラン・ショー」に出展し、大手厨房機器メーカーや飲食店から声がかかったのがきっかけだ(参考記事
)。ちょうどその頃、地元の浜松市がベンチャー支援に力を入れていたこともあり、周囲から背中を押されて起業を決意し、2017年7月に株式会社モリロボを設立した。現在は、開発から事務作業、サポートなどすべてを森氏1人でこなしており、新製品の開発や販路の拡大にまで手が回らないのが実情だ。今後の事業拡大に向けて、社員を絶賛募集中とのこと。
今後の目標は、国内に1,000店舗以上あるサーティワンの全店へ導入すること。そこから、ほかのクレープ専門店へと拡げていきたいそうだ。レストランやホテルのビュフェ向けに、一口サイズのクレープを焼く小型モデル「クレープロボットQミニ」を新たに開発し、2月に開催された国際ホテル・レストラン・ショーで発表している。アフターコロナもビュフェの再開は厳しそうだが、家庭向けとして量産化する方向でも検討中だ。