Electronics

2022.03.04

iFixitの「修理する権利」への戦いの内側

Text by Kyle Wiens
Translated by kanai

私は、自分で自分のものを直したい人を支援するためのオンライン修理コミュニティー、iFixit(アイフィックスイット)を運営している。

人々に製品を頻繁に買い換えるよう促す仕組みをメーカーが展開するごとに、私たちはそれに抵抗してきた。私たちは、オープンソース活動と政治的圧力を組み合わせて、この数十年間に消費者の期待に与えられてきたダメージと、メーカーの対応をリセットする取り組みに着手し始めている。

修理を守れとの訴えに耳を傾ける政策立案者の数も増えている。アメリカでは昨年、27の州の議員たちが修理する権利法案を提出した。その法案は、ニューヨーク州とアーカンソー州の上院を通過したもののゴールを決めることはできなかった。しかし今年は、その躍動的な闘争は全国に舞台を移すこととなった。米連邦取引委員会は記念すべき調査報告書「Nixing the Fix」(修理拒否)を発表し、問題の詳細を明らかにした上で、「修理の制限に関する製造業者の言い分を支持する証拠は乏しい」と結論付けた。これに続いてバイデン大統領は、「所有者、またはサードパーティーによる自身の製品の修理を製造業者が禁ずることを制限し、自身が所有する製品の修理を簡便に安価に行えるようにする」ことを目標とした大統領令を発令した。

この戦いは世界に広がっている。フランスは、修理のしやすさを評価する制度を開始した。スペア部品や提供される情報に基づき、製品を格付けするものだ。オーストラリアでは、自動車メーカーは、部品、工具、情報を独立系修理業者が入手できるようにしなければならない。オーストラリア政府は、電子製品の修理の制限に関する報告書を審査し、いくつかの法案が提出される見通しだ。カナダの修理する権利法案は、2021年、全会一致で議会を通過した。2022年は、修理する権利法の象徴的な年になるに違いない。


Apple Macintosh 128Kを分解したところ。写真提供:iFixit

チャレンジその1:部品

私たちの修理する権利を確かなものにする上で、もっとも大きなハードルになるのが、独立系修理業者やDIY修理人にスペア部品を確実に供給する手立てだ。2012年、ニコンは小売業者への部品の供給を取りやめた。キヤノンは同様の方針をとり、実質的にアメリカ地方でのカメラの修理はできなくなった。かつてはメーカーに部品を直接注文できたのだが、現在は、深圳から頻繁に部品を直輸入しているオンライン小売り業者のネットワークやeBayの出展者に頼らざるを得ない。

とは言え、まったくもって悲惨で絶望的な状況というわけでもない。ミノルタは、消費者に直接部品を販売するようになった(じつはiFixtiを通じて販売される)。また、スタートアップ企業のFairphoneとFrameworkは、部品の販売を含むビジネスモデルを構築した。もっともよく知られているのは、Appleによる、消費者に直接部品を販売し、同時に部品と製品の適合を調べられるソフトウェアを提供するという11月の発表だ。何かにつけてAppleと戦ってきた20年間を振り返ると、Appleは信用しがたい。なので、注意深く監視してゆこうと思う。


Fairphone 3を分解したところ。写真提供:iFixit

チャレンジその2:排他性

OEMから直接入手しなくてもよい部品が多くある。いずれにせよ彼らは、実際に部品を製造しているわけではないのだ。現代の製造業は、集積と呼ぶべきものだ。「メーカー」は、さまざまな供給業者から部品を買い集めている。

だがここには、メーカーの弁護団が仕掛けた別のワナがある。独占契約だ。法律用語では排他的取引と呼ぶ。部品を大量に購入するという約束と引き換えに、供給業者は自主権を手放し、他の誰にも売らないことに合意する。私たちの部品買い付けチームは、メーカーの許可がなければ部品は売れないと断られることがじつに多い。Appleの悪名を高めたもうひとつの策略は、部品メーカーに、市販版とわずかに違いを持たせるよう依頼し、その部品の販売を制限させるというものだ。これは、新品の部品のサプライチェーンではなく、部品取り用のジャンク基板に頼らざるを得なくなったLouis Rossmannをはじめとする、基板修理が行えるレベルの修理技師にとっては頭痛の種だ。


iMac Proを分解したところ。写真提供:iFixit

チャレンジその3:ノウハウ

私がiFixitを立ち上げたのは、自分のiBookを修理するのに必要な修理マニュアルが、Appleの知的財産を担当するやり手弁護団によって削除されてしまったためだ。Appleは、ウェブ上にある修理に欠かせない資料の非公認コピーを探し回り、その責任者に、情報を削除しない場合は違反1件につき罰金15万ドル、最大で懲役3年の刑を科すという法的な脅しをかけてきた。Appleだけではない。東芝の弁護団は、非常に便利なウェブサイト、Future Proofを運営するオーストラリアの若者Tim Hicksを締め上げた。そこには何百ものノートパソコンのサービスマニュアルが収められていたのだが、自身を弁護する資金を持たなかった彼は、マニュアルを削除してしまった(それ以来、iFixitはそれに代わるオープンソースのマニュアルをクラウドソーシングしている)。基板レベルの修理に欠かせない回路図は、かつてはテレビからApple IIまで、あらゆる製品に用意されていた。昔の話だ。今ではプロの修理技師も、OpenBoardViewや、数百機種のスマートフォンのリバースエンジニアリングによる回路図を収めたZXWという79ドルの中国製ソフトウェアツールに頼っている。しかし、回路図が完全に解読され公開されたデバイスは、市場では限られている。

iFixitは、あらゆるものの修理マニュアルの無料公開を達成しつつある。7万5000件以上のハウツーガイドをオンライン公開し、つねにその数は増え続けている。その実現には、メーカーの協力も期待できる。Appleは、iPhoneのサービスマニュアルを一般公開することを初めて表明した。Frameworkは、修理業者に直接、回路図を提供している。

だが、自主的な取り組みはその程度で限界だ。修理する権利法案が可決されたなら、すべての電子機器の一般向けサービス情報という基盤ができあがるのだが。


ニコンD5100を分解したところ。写真提供:iFixit

チャレンジその4:ツール

私は、任天堂のGameBitやAppleのPentalobeといった特殊なドライバーを販売して生計を立てている。ハイエンドのコーヒーマシンには、楕円形のネジが使われていたりもする。自分自身の営業妨害になるのだが、私は言いたい。プロダクトデザイナーたちよ、もうやめてくれ。世界にはもう十分な固着具がある。

メーカーのサービスマニュアル(それとAppleの最近の発表で示唆されるツール)を見ると、特殊な修理器具が山ほどあることがわかる。これらの工具は、工具箱に入れておきたいものと言うよりは、むしろ製造段階で使われる治具に近い。重くて大きくて、ひとつのデバイスのフォームファクターに合わせて作られていることが多い。そんな特殊工具は、高価で無駄が多い。これは、公差を小さくしたい気持ちと、再生可能な完璧性を求める気持ちが合体した結果だが、一般のメイカーの世界から修理を遠ざけてしまった。

私たちに必要なのは、そうしたものではなく、幅広い製品デザインに対応できる汎用工具だ。修理では、工場で製造されたときと同じ精度が求められることはないからだ。


Apple iPods 2を分解したところ。写真提供:iFixit

チャレンジその5:デザイン

iPodはデザイントレンドの先駆けであり、そのトレンドはまず他社のメディアプレイヤーに、次にiPhoneに、やがては世界中のあらゆる電話機に広がった。2005年にMister Jalopyが草案を示した「Maker’s Bill of Rights」(メイカーの権利章典)は、iPodに対してことごとく注文を付けているように見える。「ケースは簡単に開けられなければいけない」……iPodのケースはツメではめ込まれていて、これを開けるのはカキの殻をむくのに近い。「接着剤よりネジ」……接着剤を取り除くために、吸引カップやら加熱器具など、特殊な道具一式を揃えなければならなかった。

かつてはまれだったことが、今では普通になった。MicrosoftのSurfaceが最初に登場したとき、私たちは10段階の修理スコアのうち、初めて0点を付けた。バッテリーはケースの内部に溶接されていて、本体を破壊せずにそれを交換することはできない。幸いMicrosoftは、その方針の誤りを認めた。彼らはSurfaceの設計を変更し(今は5点!)、その工業デザインで妥協することなく、「特定の部品と修理資料をMicrosoftの認定サービスプロバイダー以外も入手できるように拡大せよ」との株主の提案に同意した。

iPod以来、私たちはメーカーの基本的サポートなしにやってきている。部品なし、情報なし、そして修理を試みる人に敵対的なデザイン。だがそれは変わろうとしている。企業はしぶしぶながらも、修理経済との共存と参加を始めている。彼ら導くのは、私たち全員の使命だ。

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