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2022.02.25

修理戦争:SF作家、活動家、ジャーナリストのCory Doctorowが語る「修理する権利」

Text by Cory Doctorow
Translated by kanai

2019年1月、AppleのCEO、Tim Cookは株主に向けた年次書簡を発表した。そして同時に、Appleの投資家に対する恐ろしい警告を発した。Appleの顧客は自分の携帯電話を長く所有するようになり、毎年アップグレードするというランニングマシンから降りて、落とした電話機をアップグレードの言い訳にすることなく、割れた画面を修理するようになったため、iPhone市場は冷えかけていると。

これはつまり、「本音を言ってしまった」ということだ。Cookの書簡は、2018年が絶頂点としているものだ。それは、20の州が提出した州レベルの「修理する権利」法案を打ち負かした年だ。この法案が通れば、Appelや、John Deere(農業機械メーカー)からWahl(電動シェーバー大手)にいたる数々の企業は、独立系の修理業者による修理に便宜を図ることが義務づけられるところだった。厳しい戦いだった。修理活動家(環境保護主義者、メイカー、デジタル権利擁護者、修理業者の代理人)が政治家たちに正しいことをするよう懇願し、一方、敵対する企業は、独立系業者による修理がデバイスから個人データを漏洩したり、はては目の前で爆発するような時代を招くものだと警告していた。

このグロテスクな反修理パレードには根拠が不足していたが、政治家は賛同した。それは、Appleとその利益の甘い汁を吸いたい企業たちにはグッドニュースだった。独立系業者による修理を攻撃することで、メーカーは修理事業による膨大な利益を獲得し、交換部品を作るライバル企業を締め出し、そして何より、ユーザーが新機種に「アップグレード」せざるを得なくなる「修理不能」の判断をメーカーが下せるようになった。

そもそも、なぜ私たちは修理する権利を必要とするのか? なぜ、修理業者やサードパーティーの部品メーカーが協力して、本体のメーカーの協力があるなしに関わらず、私たちの電話、ノートパソコン、シェーバー、Xbox、車やトラクターを直すことができないのだろうか?

まあ、できないことはない。何年間にもわたり、修理革命の偉大なるヒーロー、iFixitは、あらゆる種類の機器の、独立した、非公式の、非公認の、無料でオープンアクセスの修理マニュアルを作ってくれている。彼らは、メーカーの助けなしに、自分たちで分解して、第一原理に従って修理方法を編みだし、そのようなマニュアルを制作している。

同様に、私たちが利用する機器のための、サードパーティー製部品製造の積年の取り組みがある。仕様書を見れば誰にでも作れる標準的な部品もあれば、メーカーと修理業者とのゲリラ戦を経て鋭いリバースエンジニアリングにより作られる部品もある。

修理を困難にする

独立系の修理ガイドやサードパーティーのマニュアルを利用して、独立系修理セクターは、私たちの機器の修理に必要なすべてを備えておくべきだった。または、自分で修理する方法を示すべきだった。メーカーは、それを阻止するために、技術的にできることなら、どんなこともしてきた。たとえば、自社製品の仕組みをわかりづらくしたり、ケースを開くためだけに特殊なツールが必要な構造にしたり……、しかしこの戦場において、挑戦者側はつねに防衛側よりも有意な位置にあった。サードパーティーには絶対に修理できないように製品を作っているメーカーは、自社の技術者にすら、ほぼ修理不能な製品にしてしまっている(そして同様に、自身の顧客から依頼された修理も不可能にしている)。

そのため、修理を巡る戦いの前線は、技術的な問題から法的な問題へと大きく移動している。メーカーは、修理における独占を維持するために、(しばしば通常の認識や感覚を超える歪曲があものの)一連の法理論を使用している。著作権法を見てみよう。1998年、ビル・クリントンはDigital Millennium Copyright Act(デジタルミレニアム著作権法:DMCA)に署名した。するとこのDMCAの第1201条により、著作物の「技術的保護手段」の回避を助けるツールや情報の提供は重罪となった。

そもそもこれは、DVDプレイヤーの認証機能を無効に(海外のディスクが見られるように)する方法、またはセガ・ドリームキャストの脱獄(自作ゲームをプレイできるようにする)方法の伝授を犯罪とするために使われていたものだ。ゲームコンソールやDVDのメーカーは、そうした制限を実施する内蔵オペレーティングシステム(OS)はDMCAで規定された「著作物」であり、そのOSの改変を阻止するデジタル鍵は「技術的保護手段」であると主張した。そのため、OSの改変は技術的保護手段の回避であり、メーカーの許可なくOSを改変することは、DMCA第1201条違反とになり、そのツールや手順の解説を誰かに提供することは、初犯で懲役5年、罰金50万ドル(約5700万円)という重罪にあたるとした。

現在、この前世紀の遺産が、修理阻止戦略の主軸となっている。そこでは、John Deereは真のパイオニアだ。同社は、自社製交換部品にマイクロチップを埋め込んだ。部品を取り付けたとき、アンロックコードを使って「初期化」しなければ、エンジンはその部品を認識しない。これによりJohn Deereは、トラクターを修理したい農家に、有償の出張修理を依頼してトラクターの運転台でパスワードを打ち込むという厳粛なる部品交換を行うよう促すことができるようになった。この無意味な「修理依頼」には最大で200ドル(約2万3000円)かかる。さらにボーナスとしてJohn Deereは、この暗号ハンドシェイキング方式により、サードパーティー製部品や再生部品を検知して拒絶することが可能になった。インクジェットプリンターが、詰め替えインクカートリッジの使用を嫌がるのと同じだ。

この方式は、自動車業界でさらに積極的に取り入れられている。「VINロッキング」と呼ばれるものだ。それは、エンジンから消すことができない車両識別番号(VIN)と部品とを紐付けする。VINロッキングは自動車やトラクターが発祥かも知れないが、マイクロチップを内蔵したすべての機器に、つまりあらゆる機器に広がっている。

パンデミックの間に、そのことが頭に浮かんだ。Medtronicが、その主力製品であるPB840型人工呼吸器に修理を阻止するVINロッキングを採用したおかげだ。Medtronicは、競合他社に対する節操のない買収と殲滅の戦略により世界最大級となったメドテック企業だ。それが可能になったのも、あるアイルランド企業に市場最大の「逆さ合併」で自らを売却して得た資金のおかげだ。便宜置籍船によりアイルランド旗をなびかせることで、事実上、Medtronicは課税を免れ、競合他社を無力化するための現金を蓄えることができた。

病院で働く医療技術者たちは、長年にわたり、自分たちで修理することに慣れてきた。緊急治療室に患者がいる状況で、メーカーの修理担当者が来て部品を交換するまで、あるいはハンダ付けのやり直すまで、3日間も待つことなどできないからだ。Medtronicは、そのVINロッキング戦略に、患者の安全のためという衣装を着せているが、実際は病院から利益を絞り取るためだ。もしMedtronicが本当に患者の安全を思うのなら、Medtronicの正規技術者が来るまでの間、故障した世界中の人工呼吸器を、物置の中で埃をかぶせておくのではなく、現場の医療技術者の技術支援を優先させるはずだ。

秘密の対応

言うまでもなく、こんなことがパンデミックの間にさらに悪化した。一夜にして、人工呼吸器の需要が天井を突き抜けた。ロックダウンの影響で、Medtronicの技術者が飛行機に飛び乗って、人工呼吸器が故障した病院に駆けつけることができなくなったのと同時だ。

世界中で病により死と直面している人たちの救いとなったのは、悪役を買って出たポーランドの技術者だった。その無名の技術者は、Medtronicの元修理担当者だった。彼は修理後にVINロッキングの初期化に使われるソフトウェアに狙いを定めた。彼はその暗号化署名ルーチンを解析し、現場での修理を初期化できるマイクロコントローラーを使った装置を開発した。彼は、やや大きめのこの装置、目覚まし時計やギターのエフェクターを利用したケースに収め、世界中の病院に郵送した。これにより病院の技術者たちは、壊れた人工呼吸器数台から部品を取り出して、動く1台を作れるようになった。

VINロッキングは、世界的に魅力的な邪魔者となった。あのポーランド人の元Medtronicの技術者は、名前を公表していない。なぜなら、ポーランドはEU加盟国であり、EUは愚かにも、DMCA第1201条に相当する独自の法律を2001EU著作権指令第6条に組み入れよ、とのアメリカの通商代表の圧力に屈してしまったからだ。カナダは2012年に独自バージョンを制定し、メキシコは2020年に、そしてその間、オーストラリア、ロシア、中央アメリカ、アンデス諸国などその他の国々も、それぞれ独自に法律を成立させた。

機器の所有者はメーカーの許可なく改造や修理を行ってはならないとする世界的な法の網の存在は、あらゆるものをインクジェットプリンター化するという悪事に荷担する強力な動機を与えることになった。Appleは、新型iPhoneには勝手なスクリーン交換を阻止するVINロッキングが使用されると繰り返しアナウンスしてきたが、それは一般からの抗議により取り下げる結果に終わった。最後の試みは、2021年11月のことだった。

サプライチェーンの停止

DMCA第1201条は、単に修理への法的障壁に留まらない。メーカーは偽の特許請求項をでっちあげ、サードパーティー製部品の輸入を水際で止めた。さらに彼らは商標権をかざして、再生部品の国内流入も阻止した。彼らの製品が中古品として転売された時点で「模造品」になるという主張だ。そのうえ、メーカーはサービス利用規約とエンドユーザー使用許諾契約を持ち出して、脅迫によって独立系修理を強引に阻止してしまった。サーバーセキュリティー法(1986年のコンピューター不正行為防止法など。最高裁判所は、2020年夏、ヴァン・ビューレン対アメリカ合衆国事件においてその範囲をようやく制限した)と「不法な妨害」に関する奇妙な契約法理論により、独立系修理を民事および刑事問題に仕立て上げた。

もちろんこれは、きわめて不公平だ。デバイスが修理されずにスクラップとなり、世界を電子廃棄物に溺れさせてしまうレシピだ。しかもこれは、経済的な破壊ももたらす。独立系修理セクターは、経済成長のエンジンだからだ。修理協会は、電子廃棄物を1トン分リサイクルすれば、15人分の雇用が生まれ、さらに、その量の故障した機器を修理すれば、150人分の雇用が生まれるとしている。地域社会に貢献する、良質で、中流で、地元に根ざした、スモールビジネスの仕事だ(独立系修理は全体で、アメリカのGDPのなんと4パーセントを占めている)。

修理戦争は、まさにこうした仕事の抹殺にぴったり照準を合わせている。もし、ひとつの業界が5年から10年にかけて独立系修理を困難にしたり不可能にしたりすれば、そのスモールビジネスは立ちゆかなくなる。地域の携帯電話修理サービス店が、iPhoneを5年間にわたり修理できなかったら、どうやって生き延びられるだろう。独立系修理セクター(そしてメイカーコミュニティー)が独占的ビッグテックが投げつける妨害を回避する方法を見つけたとしても、さまざまな反修理戦略により、店を出せるほどの技術者の人材プールは縮小されてしまうことになる。

ここで、利害関係を見失ってはいけない。独立系修理は、自分のものをどう役立てるか、いつ引退させて新しいものに切り替えるかを自分で決める権利を代弁するものだ。これは、技術的自己決定の権利だ。その製品が何をするかだけでなく、誰のために、誰に対してそれを行うかを決める権利だ。

小さな勝利

今、これを書いている時点で、Appleは修理にまつわる戦争の和平を求めてきた。2021年11月、Appleは、自分で修理ができるよう、顧客にツールと部品を販売すると発表したのだ。この発表は、劇的ではあるが、心配なほどに曖昧なものでもある。Appleは、修理戦争の先導者だ。実際には役に立たないオーナー修理プログラムを実施する方法は、いくらでも持っている(たとえば、自宅で修理するには個々の部品ではなくアセンブリー全体を交換しなければならず、そのため画面を交換しようと思えば、新型機が買えるほどの費用になってしまうなどだ)。しかも、オーナー修理プログラムがあるというだけでは、メーカーに部品、マニュアル、診断の方法を競合他社に提供するよう強制し、独立系修理業者を保護することになる将来の修理する権利法案を、粉砕する口実を集結させることになりかねない。

Appleが、ユーザーによる自身のデバイスの修理を許すと決断したのは喜ばしいことだが、突き詰めて言えば、これはAppleが決めることではない。iPhoneを買って所有する。誰がそれを修理するかは、自分が決めることだ。同じことが、トラクター、人工呼吸器、シェーバーなどその他のあらゆるガジェットにも言えるのだ。

Cory Doctorow(craphound.com)はSF作家、活動家、ジャーナリスト。Cory Doctorowのその他の記事はこちら

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