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2022.10.07

“雑に作っているわけじゃないのに雑になるんだよ”―「パネルディスカッション:雑にやることが世界を変えるかもしれない」— Maker Faire Tokyo 2022 会場レポート #6

Text by Junko Kuboki

Maker Faire Tokyo 2022で開催されたステージプログラムで、聴衆から共感を得て会場を大いに沸かせたのが、パネルディスカッション「雑にやることが世界を変えるかもしれない」だった。このパネルディスカッションは、「電子工作を雑にやること」「雑にやってきた人が導く側に立つこと」をテーマに話し合われたもので、モデレーターはヘボコン主催者でデイリーポータルZ編集者の石川大樹さん。パネラーには、ギャル電のきょうこさん、無駄づくりの藤原麻里菜さん、青山学院大学大学院特任教授の阿部和広先生が招かれた。

最初に、石川さんが本パネルの目的を説明。「雑にやること…」のテーマを発想したそもそものきっかけは、ギャル電さんと藤原さんの本の発売だったという。


(左)『無駄なマシーンを発明しよう! ~独創性を育むはじめてのエンジニアリング』(藤原麻里菜著/技術評論社/2021年7月発売)/(右)『ギャル電とつくる! バイブステンアゲサイバーパンク光り物電子工作』(ギャル電著/オーム社/2021年9月発売)

昨年立て続けに発売されたこの2冊を見て石川さんは、「これはひとつのエポックメイキングではないか」と考えた。そして、かねてから自分の中にあった電子工作についての思いがまとまってきたのだという。それはざっくりと紹介すると、次のような感じ。

石川:十年前の電子工作はすぐ怒られる趣味だった……気がするんですね。ネットで質問すると「そんなことも知らんのか」と怒られる、感じ(笑)。作品をアップすると「この部品をそんな使い方するとはバカか」とまた怒られる、感じ(笑)。これは、このジャンルが電子工作を仕事や専門教育で覚えたガチ勢がデフォルト、多数派であったからだと思うんです。その人たちにとって知識や技術が不足していることは、「勉強不足」と映っていたのでしょう。

石川:そこに、雑に電子工作をする界隈が出現しました。ここにいる藤原さん、ギャル電さん、僕であったり、オモコロ編集部のマンスーンさんみたいに、「最低限の技術を/都度おぼえて/雑な作品を作りまくる」製作態勢でやる人です。これはみなさん、メディアに発表する関係もあって、締切に追われながらどんどん作っていくのですね。そうするうちに本が作られるまでになってきて、僕は「こんな雑な先輩は、ものづくりの大衆化に貢献するのでは?」と考えるようになったわけです。「最低限の技術を/都度おぼえて/雑な作品を作りまくる」のは、初心者のステップアップに最適ではないですか? だって、「最低限の技術」を使うことは、最低限の技術しか持っていない初心者のものづくりを促進します。「都度おぼえ」ていくことは、要するにステップアップです。「雑な作品を作りまくる」のは、技術を少ししか持っていない人でもどんどん作ってよいのだ、インプットを超えるアウトプットを出していってもよいのだ、とものづくりを奨励していく効果があるでしょう。

石川:というわけで、初心者に最適な入り口を彼女たちが作ってくれているわけです。その二人にくわえて、長いことこの分野の教育に携わってきた阿部先生に、「阿部先生、そのあたりどうなんですか!?」と聞く、というのが今回のトークセッションの目的になっております。

なおこのテーマは、石川さんの個人ブログに、昨年9月に記事がエントリーされている。ギャル電さんや藤原さんの本や作品、ここまでの経緯について詳しくは石川さんブログ記事(「雑にやることが世界を変えるかもしれない」)をご参照のほどを。


石川さんは主催する「ヘボコン」ロゴのTシャツで登場

石川さんの主旨説明のあとには、各パネラーの自己紹介があった。藤原さんは面白作品群をビデオでたっぷり紹介。ギャル電きょうこさんはプレゼン風の紹介で、「ドンキで深夜3時にArduinoが買えるのがテクノロジーの民主化」「ちゃんとした知識と技術はマジリスペクトだけど、今週末のクラブでギャル全員を光らす、とりまLEDを光らせたいってのがうちらのスタンス」と会場を盛り上げてくれた。SqueakやScratchの日本語化という大きな仕事をしながら「世界聴診器」や「なのぼ~ど」「いぬボード」といったデバイスも作ってきた阿部先生は、これまでの多彩な活動を紹介。阿部先生も「ずっと自分が楽しいこと、面白いことだけをやってきた」ということなのである。こんな4人のやり取りを以下に紹介していく。

その場しのぎでがちゃがちゃとやってきた?

石川:ここからは電子工作を雑にやるということについて、掘り下げていきます。雑といっても、僕が「雑」と言っているだけなんだけど(笑)。これは要するに、藤原さんやギャル電さんがどうやって電子工作を覚えてきたかに関係しているのかもしれなくて。まずはどんな感じで電子工作を覚えたのか、教えてください。

藤原:……たぶん、インターネットでその都度。それこそ石川さんのブログとかを読んで、こういう風にやれるんだ、となって、コードをコピペして自分の好きなコードと組み合わせて。やりたいコードとコードを組み合わせてそれでうまくできるかどうかを試したり、みたいな感じです。

石川:サンプルコードをがちゃがちゃ組み合わせて?

藤原:ここのif文を変えたらセンサーを違うの使っても同じようにできるかな、とかそういうのでやってきた感じですね。

石川:そういうので10年……。

藤原:そ、10年! もっと勉強しろよ、ってことですけど(笑)。

石川:最近はどんな感じなんですか?

藤原:今はわりとノウハウは溜まってきていて。使うセンサーもモーターも似たようなものなので、検索して新しい部品を使って新しいコードを考えたりというのは少なくなってますね。

石川:もしかしてそれは、プログラミングに対する理解を深めさらに様々なことを理解していくというよりは、使う部品を決めて扱い方がわかったからオーケー、ってことでしょうか?

藤原:ですね。サーボモーターならサーボモーター、キーボード入力ならキーボード入力と決めて……いや、決めてというわけでもなくて、そこからアイデアを考えることも多いです。圧電素子とキーボード入力を組み合わせたら、パンチで文章が入力される仕組みを作れるな、じゃあどんなマシーンが作れるかな、みたいな感じで考えていくことがあったりします。

石川:深く理解していくよりも手駒を増やす、使えるものを増やす感じ、なのかな?

藤原:そう。道具みたいな感じ? プログラムをイチから書くんじゃなくて「コードを手に入れた!」みたいな。で、手に入れたもので、例えばサーボモーターなら角度とか、LEDなら光り方とか、ちょっとここの数字をイジったら変わるかな、とかを検索して知識も深めていきながら、みたいな感じですかね。

石川:なるほど、なるほど。ギャル電さんはどうですか?

ギャル電:私もけっこう、今この部品が買えてこのテクが使えるからってところから、だんだんとインターネットの作例サイトでちょっとずつ範囲を広げていって覚える、みたいなのでした。あと、外で使うことが多いので、故障しなくて修理しやすいものの作り方をやってきたのかな。100均のは分解しても惜しくないから、100円ショップで2,000円分くらい分解できそうなものを買ってひたすらに中を見る、電池だけつなぎ替えてみる、でテクを学んだりも。小賢しく、検索技術を上達させたりもしましたよ。Google検索はめちゃめちゃうまくなった。技術を勉強して体系的に覚えるというよりは、その場しのぎでやってきた、感じです。


藤原さん、本日はメガネ女子風

電子工作は急にムズくなる――「間がない」問題

石川:都度調べるやり方だと、調べ方がどんどんうまくなるよね。

ギャル電:部品の名前とか、DeepLで翻訳してから検索してます。英文で検索するとむちゃむちゃ引っかかるから。みんな、やってね!

石川:そういう手探り、都度都度の対応で作っているんだよね。電子工作の本を読み込んだりではなくて。

藤原:いや、本は読みましたよ! それこそ『Arduinoをはじめよう』とか。読んで、Lチカやって「なるほど」って思って、「でもわからないな」って終わるの(笑)。

石川:そっと閉じて、おいといておく。

藤原:文章はあまり読まないで、サンプルコードだけ取って、ね。90度のところを180度に買えたらどう動くのかな、なんてやってみる。あと、ギャル電さんの言うとおり、日本国内の作例よりも海外のほうが壮大なので……。

石川:壮大?

藤原:雑に言ったほうがいいのね、いっぱい(笑)。英語だと作例がいっぱいあるから、英語に強くなりますよね。

ギャル電:うん、英語に強くなる! それに土地が広いのはいいな、という気持ちにもなる!

石川:それ、僕も心当たりがあるな。英語を読む力だけがどんどん伸びていく。全然しゃべれないのに(笑)。

藤原:私も。しゃべれないのに、英語を読むのが苦じゃなくなる。YouTubeでも「こういうことを言っているな」と聞けるようになってくるし。

ギャル電:技術系のこと、雰囲気でわかるようになってくるよね。

石川:そうやって技術を身に付けてきた二人。それは僕が思うに、初心者が最初にやるときのやり方をずっと大切にしているとも言えるんですよね。あ、成長していないみたいな言い方になっている?(笑) 悪意があるわけではありません。そういうスタンスをずっと維持しているのではないか、と思うんですけれど。

藤原:んー、どうなんですかね? だって、自転車に乗れるようになったのも、本を読んで乗れるようになったわけではなくて。あれは勢いで乗れるようになるから。そういう、目標達成に対する「しつこさ」はあるのかな、と思いますね。

ギャル電:ギャル電は、始めるとき明確に、「難しいことはやんねーゾ」って思ったんです。なぜかというと、電子工作をやってるってことで注目されると、みんなすぐに「初心者がこんな難しいことをしている」というところに価値を求めようとします。どんどん難しいことに向かうのが価値、みたいになる。でも、「そうじゃなくね?」派もいるわけで。私も電子工作を始めたとき、めちゃ本を買いました。そして本を読んでくと、「なんで急にそんな難しいことすんの?」となる。間がないんです。基本のサーボモーターを動かす、LEDチカチカさせる回路作るとかから、AIに顔認識をさせて判定させる工作なんてのに急に飛ぶじゃないですか?

石川:うん、うん。

ギャル電:なんか、「間がなくね?」と思って。逆に言うと、その間が狙い目なんですよね。ギャル電は、その間のことをずっとやっていくことにしています。

石川:間がない問題、電子工作には確かにあります。

藤原:電子工作って、名前からしてコワいですよね。Arduinoも、名前がコワいですよ(笑)。ちゃんとやらないと大変なことになっちゃうんじゃないかという怖さを感じさせる名前が付いている。石川さんが言ってたみたいにちゃんとやらないと怒る人たちもいるから、みんながちゃんとやるようになっていくんだろうけど、そうして成長した人たちの下、超初心者の上のところに層がないんですよね。

ギャル電:私なんか、ちゃんとやらなくても動くよ、というスタンス。だけど、こんな需要もちゃんとある、とすごく思っています。

石川:阿部先生も、この間がない問題は感じているのではないですか? 授業で基本はやるけれどもその次のステップが適切でないとか、あるかもしれないけれど、そこはどうですか?

阿部:実は私は、授業やワークショップで基本をやらないんです。お二人が話してきたような、いきなりの行き当たりばったりのことをやらせてみて――それを私は「教えない授業」と呼んでいるのですけれど、自分でググって問題解決しなさいよ、とやっています。長期的に見るとそのやり方のほうが問題解決につながると私は思っていて、基本を習っているはずの大学生、つまり小・中・高と勉強してきたはずの子が、数学の公式を現実のものに当てはめられなかったりするんです。とするならば、行き当たりばったりでやったほうがよほどよくって、その結果として「昔習ったあの公式はこういうことだったのか」と気づく。そのほうがいい、と思っています。そういうやり方はティンカリング――「やっつけ仕事」と私たちは呼んでいるんだけれど、工作はむしろティンカリングでやったほうがいい、というのが今の私の考えです。

石川:これは、早くもほぼ完全な結論が出ましたね。「雑な先輩がいることはものづくりの大衆化につながる」ということに、もう「イエス」の答えが返ってきたようです。


ギャル電きょうこさんのパンチあるデコアクセにも注目!

誰だってハマってしまう――「作りたいものがない」問題

石川:では、次は技術の先にいきます。例えばサーボモーターを動かせるようになりました、センサー使えるようになりました、というのがあって、藤原さんもギャル電さんもやりたいことが明確です。その目的に対して知識を習得していくタイプなのだと思います。よくありがちなのが、授業でやり方を習ったとしても「作りたいものがない」ということがなんですよね。そのあたりに対しての考え方、ヒントのようなのはありますか?

藤原:作りたいものがない問題、私もすごく困っています。たまに作りたいものがない時間があって、そういうときにはすごくユウウツ。そういう時にどうしているのかというと、作りたくないものを作る、というのをやっています。例えば、(私の作品で)「服がびちゃびちゃになるスプーン」(#3スプーン・トゥ・ヘル)。あれなんて、絶対にこの世に存在してはいけないものじゃないですか(笑)。そういうものを考えて、あえて作ってみたり。アイデアの出し方として私はそういうことをやっています。

石川:そうか、何が作りたいかと考えると別にないから、何があったらイヤかを考えるということですね。

藤原:それだと、自ずと雑になるんですよ。きっちりと自分の中で「コレ」と考えたカッチリしたものではないから。ふんわりとしたアイデア、言葉だけで出ているアイデアを形にするときは、手探りになってどうしても雑になる。手探りで技術を覚えて形にしていく。ともかく、存在して欲しくないもの、作ってみるといいですよ。

石川:すごく参考になりますね。僕も昔、醤油をかけすぎてくれる装置なんて作っていたけど、人が嫌がるものを作ろうとするとけっこう気持ちが愉快になります。

藤原:あまりそこ、愉快になってはいけない気もするけど(笑)。さすがに人をボコボコにする装置とかは作っちゃダメです。存在して欲しくはないけれどちょっと作りたいかもな~って程度のもの、あるはずなんですよね。

ギャル電:藤原さんの言う、作りたいものがない時期、私もめちゃわかります。私の場合は、欲望を優先させているので、だいたいはそういう時は面白そうなクラブイベントはないかな、と探すんですね。そのクラブイベントで私がいちばん盛れている感じになるアイテムはどうやったら作れるんだろう、と考えます。クラブイベントにはテーマがあったりするので、そのテーマに合わせたアクセ、それを見た人が楽しくなって声をかけてくれるようなアイテム。このコロナ禍でのイベントだと顔が出せない、声を出せないがあるから、それを雑に解決するアイテムを考えたり。あとSFと異世界転生漫画が好きなので、SFや漫画からアイデアをもらうと作りたいものが出てきて、それを作ったりもしています。

石川:ギャルは異世界転生ものを読むんだ。

ギャル電:そう。最近読んだ異世界ホストクラブもの、最高によかったです。

藤原:ギャル電さん、けっこうディストピアを目指していますよね?

ギャル電:そう。ディストピアでサバイブする電子工作。その空想の中で生きている感じはある。

石川:あ、行きたいクラブイベントを探すというのは、作りたいものが思いつかなかったらその上のレイヤーで自分が何をしたいかというところに行って、そこからおろしてくる、そういう感じになるのかな。

ギャル電:そうです。もともとの「楽しみたい」という欲望から生まれる何か ―― そこから発想すると、もやっとしたものが固まりやすくなります。

石川:なるほど。阿部先生にもお聞きします。この作りたいものがない問題は、先生もいろいろな場面で遭遇していると思います。どんな解決法を取っていますか?

阿部:私がアドバイスをする時は「子どもに戻れ」と言っています。子どもの頃、何が好きだったのか、何を大事にしていたのか、何を作っていたのかを、一度思い出してもらう。大人になればなるほど、余計なこと、これは役に立つだの立たないだのを考えてしまうんですよ。そんなことは置いておいて、なぜあなたは子どもの頃に積み木を積んでいたのか、なぜクレヨンさえあればいいかげんな絵を描いて遊べたのか。そういうまさに雑な作業、そこの時点に戻るんです。私はそういう活動を、ワークショップなどの最初に行っています。

石川:今の自分で考えるのではなくて、生き物としての根源に戻って――というとなんだか大げさすぎるけれど……。

阿部:つまり、「野生の思考」ですよ。

阿部先生はキラーンなシール(「メガネに貼るとひらめいたように見える!」デイリーポータルZ林雄司さん作)を装着

「雑に作っているわけじゃないのに雑になるんだよ」問題

石川:野生に戻れ、ですか。それも雑につながるのですかね?

阿部:ええ。完全に、雑です。雑であればあるほどよい、とは言えません。最終的にできるものはやっぱりちゃんと動作して欲しいので、そこは雑ばかりではいけないけど、アイデアレベルならば、雑なのはまったくかまわないことです。

藤原:ええっと……石川さんは今日、私の作品を「雑」、「雑」って言ってますけど(笑)、ワタシ的にはこれらを雑な作品だとは思っていないんですよ。

石川:あ、ごめんなさい(笑)。これは僕が謝らないと。

藤原:自分の中では、ちゃんとした製品みたいにキレイに作っているつもりなんです。でも、なんだか雑になってしまっている。最初から雑を目指しているわけではない、というのはここでいっこ、言っておきたいですね。

石川:僕、過去に同じこと、言われたことがあります。「雑に作っているわけじゃないんだけどな」って。

藤原:がんばって作ったけど、デザイン性のなさが目立ってしまう、それはわかるんです。例えばこの目の前のマイク、この曲線にこだわってデザイナーさんは作っていると思う。私だったらここは直線で長方形になっちゃいます。そっちのほうが簡単だから。そういう自分への甘えがあるから雑になっちゃう、ってことなのかもしれないですね。そんなこと、思います。

石川:ちょっと言い訳をすると、僕は「技術力の低い人限定ロボコン(ヘボコン)」をやっていて、ヘボコンはどんな悪口を言ってもそれが褒め言葉になるんですよ。そういう環境にで生きているから、つい褒め言葉として悪い言葉をつかってしまいがち、なんだね。

藤原:いや、全然いいんです。私も「無駄づくり」なんて言っているので(笑)。もしかすると、私だって自分に厳しくしてたらもっとカッコいいものが作れるかもしれないんだけれど、自分に甘えたものづくりをしているから雑になっちゃう、きっとそうなんだと思うんですよ。

石川:逆に言うと、自分に甘えてもいいんだよ、ってことですよね?

藤原:そうです、そうです。

石川:ものを作るうえで修験者みたいなことをやらなくてもいい。

藤原:それこそ、怒る人がいるから厳しく、ではなくて、自分がこれでオッケーだからそれでいいんじゃね?っていうレベルとやり方でいいんだと思います。

石川:テキトー……またテキトーとか言うとよくないけど(笑)、それでいいんだよね。けっこう、ギャル電さんが言ってる「ストリート」感覚、僕の「雑」なものづくり、藤原さんの「自分への甘え」は通じるところがあって、同じものを指している気がするんですけど、どうですかね?

ギャル電:私は「雑」と言われても納得するところがあります(笑)。私、ヘボコンでテクノロジーを学んだヘボコン出身者ですし。私も、自分に甘いのは大事だと思うんです。甘いだけだと進まないこともあるけれど、「生きててはんだ付けができただけでもエラいね」なんて自分で自分の落ち込んだ気持ちを爆上げしたりもすることもあります。マジ、エラいよ、みんな。自分でLEDを光らせた人類、みんなエラいんだから。そういうことだけは言っておきたいですね。

石川:最後に阿部先生、改めてお伺いします。こういう雑な先輩がいることは、ものづくりの大衆化に貢献するのでしょうか?

阿部:貢献するでしょう。それは反面教師としてなのかもしれないけれど……というのは冗談ですよ(笑)。実は、ウチの大学ではお二人の本を教科書として採用しているんです。そんなことからも、こうした本が役立ち、ものづくりの大衆化に貢献するのは自明のことです。

石川:ということで、この雑な先輩二人がこれからのものづくりに貢献して、最終的に世界を変えるかもしれない、という到達点に着地することができまして、このトークセッションを終了します。

ヘボコンを主催する石川さんが前々から考えていた「電子工作は雑でもよいのでは?」の提言は、電子工作にありがちな見えない壁やレベルの境界線をクリアに見せて、取り組みを幅広く応援する効果があるのかもしれない。石川さんがギャル電さんや藤原さんと語り合う「間がない問題」や「作りたいものがない問題」とその解決方法に、深くうなづく電子工作界隈の人々もまた、大勢いるはず。阿部先生の後方支援も心強く、メイカーを元気づけてくれるパネルディスカッションとなった。