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2024.01.17

自作楽器に加え、年々多彩なプロジェクトが増えていく「Hamamatsu Micro Maker Faire 2023」会場レポート

Text by editor


上は当日の様子をまとめた動画(事務局制作)

「地域に根ざした小型分散型メイカーフェア」を目指して展開している「Micro Maker Faire」の一つ「Hamamatsu Micro Maker Faire 2023」が、2023年12月2日(土)、浜松科学館で開催された。

2024年3月には「Kariya Micro Maker Faire 2024」の開催も控えて盛り上がる東海圏のメイカーたちが集まった会場を、静岡県島田市で活動する映像制作者/メイカーの小野寺啓が取材した。地元メイカーの視点から、「なんでも地域でつくる」ことの可能性をみつけたい。


ファブラボ浜松/テイクスペース


このHamamatsu Micro Maker Faireの共催として運営にも関わっているファブスペース「ファブラボ浜松/テイクスペース」のブースは、最近導入したという自動ミシンと刺繍機などによる実演と作例の展示。機械類や直線的なデザインの多いメイカーフェアの中で、刺繍やテキスタイルの展示物は華やか。陶器3Dプリンタによる作例は、人が作った陶器とは違うけど一般的な3Dプリントの制作物とも違う不思議な温かみがあった。

れおみ研究所

有志のグループで数年前から活動しているプロジェクト。LEGO社の「レゴ (LEGO) アイデア ウォーリー 21303」を基にM5Stackやmicro:bitなどでさまざまな改造を施して映画『Wall-E』のようなロボットを目指している。近年話題となってきたChatGPTなどの生成AIの機能を扱えるようになってきたことで「対話」機能が一気に充実したのだそう。あえて最新バージョンではないChatGPT3.5を使っているのに、その不器用な返事は確かになんだかWall-Eっぽい。

BBコリー

「世界最薄ピアノ」の宣伝文句の正体を見に行ったら、鍵盤が一つしかないピアノのことだった。内蔵マイコンに曲のデータがインストールされていて、鍵盤を押すたびに自動的に音階が変化して確かに「曲を演奏している感じ」がした。

浜松発明研究会

3Dプリンターで作ったギアの噛み合わせによる「逆回転する歯車によるからくりアート」など、デジタルな技術を使いながらも、しかけは非デジタルな工作物や発明品が楽しい。連動する回転文字盤の組み合わせで「100年分の日にちと曜日を表せるカレンダー」は、何度もしかけを教えてもらったけどとうとう理解することはできなかった。アナログだからって誰にでもできるわけじゃないと言うか、アナログだからこそ誰にでもできるわけじゃない。

Yara:Makers

浜松市に拠点をおいている大手メーカーの社内ものづくり部活動。浜松や遠州地方のメイカーにはこんな形で活動している人たちがとても多いらしい。今回は、現代ではあまり見かけなくなった自動描画機械「ペンプロッタ」をカッティングマシーンなどをハックして再現した装置などを展示。「再現」と書いたけど、元になっているのがカッティングマシーンだからこそのデザインを描画してくれて、かわいい。

鷲山技研

「トイピアノからトイピアノの音が出る」というガジェットなど。どういうことかと思っていたら、トイピアノの中身を「トイピアノの音色のデジタル音源」に入れ替えて、鍵盤を叩くとトイピアノの音のデジタル音声が鳴るという仕組みだった。「だからなんだっていう話なんですけどね!!」と、やたらと謙遜していたのが印象的だった。こんなふうに、別に目的があって作ったわけじゃないガジェットに出会えるのも楽しい。

naan de moo ya san

なーんでもやさん。DVDピックアップを使って作った、試料をレーザー光で走査して像を得る仕組みの顕微鏡の実機展示。小さな試料を精密に動かして走査するために、台座にはカメラの手ブレ補正ユニットを使っているのだそう。既存の顕微鏡と同じ機能を自分で作ってみたという話かと思ったら、得られた像のピンボケ具合から試料までの距離を割り出して3次元形状を得る機能というのも作りつつあるのだそう。そんな精密なことをDIYで?と思ったけれど、ある程度できつつあるところに執念を感じた。

吉田朝麻

今回の出展者の中でひときわ「メイカーっぽくない」ように見えた。リソグラフの印刷物で小ロットのデザイングッズやZINEを発行する活動をしているのだそうで、どちらかというとデザイナーさんたちということかもしれない。風合いのあるリソグラフの印刷物を使ったワークショップは子どもたちに大ウケだった。

QUICCO SOUND株式会社

普通のヘッドホンやスピーカーで音を出すために振動している部分はコーン型をしているのだそうで、そのために音の出方に歪みが出るのだとか。それを解決するために「全面駆動の平面振動板」というものを使ってヘッドホンを作っているのだそう。理屈は完全には理解できなかったけど、音を聴かせてもらったらたしかにクリアに聴こえる! というところまでは分かった。個人や小規模で自作して大手のとはちがうとんがった性能の音響機器を作るというカルチャーがあるのは聞いたことはあったけど、これはたしかに楽しいのかもしれない。

門奈哲也

缶ビールというのは、缶から直接飲むのではなくてグラスに注いだ状態の時に最もバランスが良くて美味しい状態で飲むことができるように作られているのだとか。ただしそのためには正しい注ぎ方というのがあって、缶ビールメーカー各社はホームページなどでその注ぎ方を公開しているのだそうな。そんなの知らなかったぞ……。で。門奈さんは、自動的にその注ぎ方をしてくれる「缶ビールサーバー」を作っている。なんにでも、「正しいやり方」があるんだなあ。

PLAY A DAY

スケボーにエレキギターを組み合わせた創作楽器「滑琴」の展示と体験。作者のおおしまたくろうさんはこの楽器を使った演奏などで活動するアーティストなのだそう。自分の音楽活動のためのオリジナル楽器ということなのかなと思ったらちょっと違って、本人としてはこの滑琴を使って色々な人たちと一緒に演奏をしたいのだとか。たしかに「滑れば鳴る」楽器は誰でも演奏できるので、楽しそう。

MOBIUM

各地のMaker Faireに現れてはその迫力で来場者を圧倒してきた各種アート搭載型バス「MOBIUM」が、浜松にも登場。黒板でできた外装パネルは今回も来場者たちの楽しいラクガキで埋まっていた。車内に展示されている自作楽器などの作品はいつもの楽しさだったけど、新しく作ったという「全国各地の実在の郷土料理のレシピを生成AIを使って自動的にアレンジするアプリ」というのが新鮮だった。


今回のレポートでは、自分自身も東海地域で活動するメイカー/クリエイターである筆者の視点から、特に個人ベースで活動している人たちの活動に注目した。

東京や京都のMaker Faireにも出展している人たちも多いけど、それでも浜松に集まることで出てくるユニークさというのが間違いなくここにはあった。「音響モノが多い」とかは、明らかなこの地域の特色だと思う。地域の人たちが地域で実践している「ものづくり」の動向に、これからも注目したい。