Electronics

2014.04.21

DIY人工衛星の今と未来

Text by kanai

人工衛星を自由飛行させて、方向の認識と制御、地上との交信、軌道上でリアルタイムで複雑な計算を行うのに必要な技術の価格と重量とエネルギーが大幅に下落したことで、より多くの人が宇宙にアクセスできるようになってきた。

DIY人工衛星作りが新時代の夜明けを迎えられたのは、シリコンバレーのNASA Ames Research CenterPhoneSatを完成させたことが大きく貢献している。PhoneSatは、その名前から想像できるとおり、スマートフォンの部品とソフトウェアから作られた航空電子工学バスだ。今これを書いている時点で、PhoneSatベースの衛星4基が宇宙を飛んでいて、2つが4月14日に打ち上げられるSpaceXの3回目のCargo Resupply Services ミッションに便乗して打ち上げられる予定だ(日本語版編注:成功しました)。

PhotoSatは、当初、オープンソースで一般の参加が可能な形を目指していたのだが、その夢を実現するためには、人工衛星のハードウェアとソフトウェアに関する政府の時代遅れで強固な輸出規制を緩和する必要があった。PhoneSatチームのオリジナルメンバーの多くがNASAを去り、秘密主義のスタートアップ、Cosmogiaを設立したのは、そうした政治的妨害に一因がある。そしてわずか数年間の短いながらの解放された期間に、この起業家となった衛星屋たちはこれまでに最大数の地球撮影衛星を製作し、国際宇宙ステーションから放出した

今ではPlanet Labsという名前で知られるこの会社は、その技術の大きな可能性を大々的に示したことで、Steve JurvetsonYuri Milnerをはじめとするシリコンバレーの多くのベンチャーキャピタルからの多額の投資を引き出すことに成功した。Planet Labは、そのビジネスモデルの優位性を実証する一方で、その多額の投資は、これからもDIY人工衛星市場に大きく好意的なインパクトを与えることになるだろう。Planet Labsは公言したとおり数百基の小型衛星を作り続け、それが実質的に、彼らのサービス事業者である NanoracksSpaceFlight Servicesのリスクを減らし安定化させる。それにより、Planet Labsはロケット打ち上げ業者と宇宙ステーションから小型衛星を打ち出す業者のアンカーテナントとなり、小型衛星を扱うさらに多くの人たちに対応できるようになる。

宇宙をキックスタート

このように小型衛星市場が成長している最近だが、ひとつ簡単な問題が残っている。衛星の開発を成功させるには資金が必要だということだ。しかも多額の。幸い、Makerには、簡単に使えるクラウドファンディングのプラットフォームがある。これを使えば資金集めも楽にできる。間もなく打ち上げられるもの、またはすでに宇宙を飛んでいるものの中にも、こうした資金援助によるものがある。

1) KickSat: 2011年12月3日、Zac ManchesterのKickSatは、Kickstarterで初めての宇宙プロジェクトとなった。NASAのEducational Launch of NanoSatellites(ELaNa)プログラムによって打ち上げられることになっていた。3Uサイズの四角い衛星で、NASA Ames PhoneSatをベースにした航空電子工学バスとデプロイヤーという2つの部分で構成されている。このデプロイヤーは100基以上の超小型衛星を放出でき、もっとも小さい衛星の放出と、実際に機能する衛星をもっとも多く放出したという2つの記録を打ちたてることになっている。

Zacは、彼のオープンソースソフトウェア、ハードウェアデザイン、地上局などに関して支援者とこまめにコミュニケーションをとり、KickSat Github WikiGroundstation GoogleGroupsでも熱心に情報を提供していた。衛星は期限に間に合ったが、NASAとSpaceXとアメリカ空軍のスケジュールの変更によって打ち上げは何度も延期された。

じつは私とZacと同僚のAndrew Filoは、そのミッションのいろいろな場面でいっしょに仕事をしていた仲だ。Chief TechnologistのNASA Ames Officeに支援してもらい、プライベートな時間も削って働いた。

2) ArduSatsは、2012年7月4日に、Kickstarterで2番目に資金を獲得した人工衛星だ。2013年11月19日、国際宇宙ステーションから初めて放出された衛星でもある。最初の2基のArduSatは、NanoRacksとの契約で国際宇宙ステーションに運ばれた。この衛星にはカスタム版のArduinoとセンサーが搭載されていて、お金を払った一般の人がコントロールセンターからアクセスできるようになっている。ArduSat-1とArduSat-Xのビーコンは地上局で受信されているが、衛星の状態について最新の情報は公表されていない。また、画像や衛星のコントロールに関する情報を寛大なKickstarterの寄付者に提供していない。NanoSatisFiの創設者、Peter Platzerにコメントを求めたところ、次の返答があった。

私たちは、5年間で50万人の子どもたちというゴールに向けて努力しているところです。アメリカおよび海外の学校関係のコミュニティでは大きな進展がありました。ArduSatの利用に関しては、当初期待していたよりも小さくなりましたが、CubeSatを使ってSTEM教育に貢献するという全体的なゴールには着実に向かっています。大きなゴールへ向けての製品とチームに関しては、近々大きな発表を行います。DIYコミュニティは大変に協力的で、ArduSatを支える大きな柱になってくれています。

じつは、私はこのプロジェクトに150ドル寄付している。NanoSatisfiの資金集めはある程度の成功を収めるだろう。私は、Kickstarterの寄付者への謝礼が何になるかを楽しみに待っているところだ。ウェブサイトによれば、「宇宙の写真を15点撮影する権利の予約、衛星の方向の操作、好きな時間に受信できる権利」が与えられるそうだ。

3) SkyCube: 人気スマホアプリ、Sky Safariの作者、Tim DeBendictisが主催するプロジェクトだ。これは、2012年9月12日、Kickstarterで3番目にキャンペーンに成功したDIY人工衛星。2014年2月27日に打ち上げられた。これもNanoRacksの仲介で国際宇宙ステーションに運ばれたのだが、残念なことにSkyCubeは不調をきたして、地上局と定期的に通信することが難しくなってしまった。そのため、正常に機能していることが確認されたのは27日後のことだった。SkyCubeのスタッフは、現在その不調の原因を探しているが、Timはソーラーパネルを展開するメカニズムに問題があったのではないかと見ている。ソーラーパネルが開かなければ、アンテナはわずかなデータしか地上に送れないからだ。発表によれば、それ以上のリンクはないそうだが、この状態でも1年は軌道を回ることができるという。

Timは、自分で小型衛星を作ろうと考えているMakerたちに、次のようなアドバイスを送っている。

(衛星のデザインは)シンプルであるべきです。最初からバイキングやキュリオシティーやボイジャーを作ろうと思わないこと。最初はモールス信号程度にするべきです。

[Skycubeは]折りたたみ式のソーラーパネルにするべきではありませんでした。可動部品は故障のリスクが高いからです。

DIY衛星を作る上では、技術的なこと以外の問題もたくさんあります。地上との通信は、今でも非常に難しい。衛星通信のタイプごとの違いが大きく、テレビと電話と、そして小型衛星で使われるものとはまったく違います。共通の地上ネットワークは存在せず、CarpcommやGENSOなどのこれまでの試みはうまくいっていません。

DIY衛星では、商用打ち上げ業者にイライラさせられることも多くあります。それらの事業者は、政府機関や大学などの大きな組織と仕事をすることが前提で設立されているので、スモールビジネスをどのように相手にしてよいか、まだわかっていないのです。仕事上のコミュニケーションの遅さにカルチャーショックを受けることを覚悟しておいてください。

実は私はSkyCubeに20ドル寄付していて、通信不良の問題を解決してほしいと願っている。私には3枚の写真を撮って20のツイートを受け取る権利があるのだ。Timは大変に責任感のある人で、時間を惜しまず情報を出してくれる。

Makerが作ったクラウドファンディングによる自由飛行衛星の例

前述の3つのKickstarterによる衛星プロジェクトに刺激されて、いくつものグループが、いろいろなクラウドファンディング・プラットフォームで衛星プロジェクトを立ち上げている。どのKickstarterが成功して、どれが失敗するかは市場が決めることだが、ここではキャンペーンに成功したDIY人工衛星プロジェクトを紹介しよう。

DIY 人工衛星を打ち上げに役立つ情報源

衛星が完成したら、さて、どうやって打ち上げる? 今の時点では、行列に並ばないといけない。現在、衛星を打ち上げる方法には、大きく3つある。

  • SpaceFlight Services: SpaceXなどの打ち上げ事業者と提携して、Nanoracksを通してロケットでの打ち上げ、または国際宇宙ステーションから放出を行う。
  • ISIS Space: Dneprなどの国際的な打ち上げ事業者と提携して、ロケットによる打ち上げを行う。
  • NASA CubeSat Launch Initiative: アメリカ合衆国政府の資金を使って、いろいろなロケットで無料で打ち上げてもらえる。

今はまだ、打ち上げを行う業者は非常に少ないが、将来は増えることが期待できる。
NASA Launch Servicesプログラムは、Generation Orbitの空中打ち上げシステム、Go Launcherと契約したことを発表した。Virgin Galactic Launcher Oneプログラムも同様のサービスを検討している。この2つの業者が競い合って小型衛星専用の打ち上げシステムを確立するまでは、CubeSatの打ち上げの順番待ちは続く。

MAKEの次のDIY Space Weekまでにこの問題が解決していればいいのだが。

– Matthew F. Reyes

原文