何年も前から、微生物学者や生物工学者はバイオリアクターを使って微生物や、薬剤のための前駆的化学物質の生成の研究を行ってきた。バイオリアクターとは、バクテリアに必要な栄養素を与えてそれを育成させる装置のことだ。ひとつの身近なバイオリアクターの例として、ビールの発酵器がある。また別の例として、シアノバクテリアのためのフォトバイオリアクターがある。シアノバクテリアは空気中のCO2を吸収して、太陽光で光合成を行い、バイオマスを作る。最近の代謝工学では、合成生物技術を使って、細胞の中の炭素の流れを変えて有用な燃料を作り出している。バイオリアクターは何十年も前から存在しているが、市販されているものは非常に高価で、あらゆる目的に柔軟に対応できるというわけでなく、その利用範囲は大変に限られていた。
バイオリアクターの設計という点では、1950年にNovickとSzilardが開発した「ケモスタット」(連続培養)が有名だ。この2人の物理学者は、連続的に栄養素を供給できるよう培養容器にポンプを追加して、一定の個体数を保てるようにした。この「一定の状態」は大変に重要で、突然変異の研究の基礎となる。これがなければ、限られた量の栄養素だけでバクテリアが増殖し、栄養素は消費され、結果としてストレスを与えることになる。
2013年、Nature Geneticsで「morbidostat」の開発をしていたRoy Kishony教授と偶然に出会った。彼は私たちのグループを、Arduinoを使ったさまざまなバイオリアクターの開発へと導いてくれた。当時ハーバード大学にいたRoy Kishony教授は、現在はTechnion-Israel Institute of Technologyに所属し、耐抗生剤研究の先駆者となっている。抗生剤の使いすぎを原因とする耐抗生剤は、講習衛生上の大きな問題となっている。Morbidostatは、バクテリアを継続的に培養するための装置だが、そのフィードバックアルゴリズムによって、薬剤を投与し、微生物の成長を抑制する。これを使うことで、人間や動物の体の中での、複数の抗生剤を使ったときのバクテリアの進化の様子を、管理された環境で調べることができる。彼らは、光学密度の測定に、低コストのコンポーネントを使っているが、それでも全体のシステムは大変に複雑で、リアクターごとに個別にプログラムすることができない。
それから、私たちのチームはバイオリアクターを作り始めた。その結果できあがったものは、非常に低コスト(1ユニット100ドル以下)で、それでいて性能は一流学会誌で紹介されるほど高い。構造も非常にシンプルだ。このバイオリアクターユニットは、培養容器、攪拌ユニット、光学濃度測定器で構成されている。磁石付きの冷却ファンは攪拌ユニットを兼ねていて、栄養媒体がバクテリアと均等に混ざるようになっている。LEDとフォトトランジスターのセットが、バクテリアの光学的吸収を利用して光学濃度を測定に使われる。栄養媒体と抗生剤を継続的に注入するのは、ピエゾマイクロポンプだ。このすべてをArduinoが取り仕切っている。電源は東芝のパワーICだ。これが機能することを確認するために、10日間までの実験を行い、フィードバックアルゴリズムを用い、次第に薬物濃度が増して耐抗生剤が観察できるようになった。ベンチマーク実験では、一般的な抗生剤であるトリメトプリムを使ったが、バクテリアは1,000倍の耐性を示した。
これほど安価なバイオリアクターだから、拡張モジュールを使ってもっといろいろなことができるとお思いになるだろう。たとえば、このバイオリアクターは、LEDを光合成の光源用に追加すれば、シアノバクテリアのフォトバイオリアクターになる。もうひとつの大変に便利なツールとしては、蛍光測定ユニットがある。緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光マーカーは、遺伝子発現のレポーターとして広く使われている。蛍光測定ユニットは、LEDを励振源、光検知器、光学フィルターとして使うことで簡単に実装できる。オペレーションを拡大したいときは、単純にバイオリアクターを増やすだけでよい。これまでの方法だと、巨大な蠕動ポンプを使って媒体を各バイオリアクターに同時に送り込む必要があった。私たちのデザインでは、それぞれのユニットにポンプがひとつずつ付いているので、バイオリアクターごとに異なる実験を行うことが可能になる。
私たちのグループでは、現在、合成光生物学のためのバイオリアクターを開発している。詳しく言うと、薬剤のかわりに光を使って遺伝子発現をコントロールするというものだ。LEDのような光源がどんどん安くなっている。それは、バイオリアクターの生物学的工程をコントロールするのに非常に都合がいいことになっている。これを教育キットとして役立てることもできるだろう。高校生に、高度なバクテリアの培養体験をさせて興味を持たせることができる。「Make:」の過去の号で「Biology in the Backyard」(お庭で生物学)というビジョンを示していてたが、そこにバイオリアクターも加えることができる。
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