医薬品の特許は通常20年で切れるが、わずかながらも少しずつ改良が加えられているインスリン製造プロセスに関する特許は100年も続いている。そこでOpen Insulin Project(オープン・インスリン・プロジェクト)の面々は、1922年から糖尿病患者が頼り続けてきた化合物の製造手順を独自に開発しようとがんばっている。その研究結果をジェネリック医薬品メーカーに役立ててもらい、安い薬を作ってもらうことが目的だ。
「最新の糖尿病治療は、この数十年間、ほとんど進歩してません。そこが、他の糖尿病患者と同じく、私が大いに不満に感じているところです」とプロジェクトのまとめ役のひとり、Anthony Di Francoは言う。「直接的にも間接的にも、インスリンへのアクセスをもっと改善したいと考えているのです」
Di Francoは2005年から1型糖尿病を患っている。彼の最初の興味は、グルコースの閉ループシステムとDIYポンプを開発することにあった。インスリンを生成する生体反応器を開発するというこのアイデアは、2011年、カリフォルニア州オークランドにバイオハッカースペース、Counter Culture Labsを共同設立したときには遠い夢だった。そして2015年、Di Francoはインスリン研究の経歴を持つIsaac Yonemotoと、DNA合成サービスを行うバイオ科学のスタートアップ、Arcturus BioCloudに紹介された。これにより、オープン・インスリンは到達可能なゴールとなった。彼らはミートアップグループを結成し、クラウドファンディングで研究費を獲得した。そして、2016年1月に研究が開始された。
「私たちが目指している方法は(中略)ヒトのプロインスリンを大腸菌の中で発現させ、体の中で行われる処理と並行して、それを酵素や化学物質による一連の処理段階を使って切って畳んでインスリンにするというものです」とDi Francoは説明する。
現在のところ、彼らはプロインスリンの生成に成功し、それが適切に作られているかを確認しているところだ。次の段階は、そのプロインスリンを切断して折りたたんでインスリンを作ることにある。最初から、製造に向いた純粋で大量なインスリンが作れるとは思っていない。この時点で彼らは、パートナーとなるべく「信頼できる中小のメーカー、またはその研究を進めるための設備が整った研究所」を探すつもりでいる。
「最優先事項は、十分な予算と設備があれば、バイオハッカーにも何かができると示すことです。それに刺激を受けた人たちが、さらに野心的なプロジェクトに挑戦するようになり、その過程で得られた知識を交換できるようになればと思います。ゆくゆくは、小規模な設備で研究をする人たちが、大きな研究所や企業がすでにやっていることを後追いするのではなく、実際に革新的なことをしてくれるよう力を与えたいと思っています」とDi Francoは言っている。
[原文]