Crafts

2013.11.11

3D技術で歴史を甦らせる

Text by kanai

3D技術の資質のなかで私がいちばん好きなものは、汎用性だ。じつに多方面で3D技術が利用されているのは、ご承知のとおり。私たちは常に、世界のクリエイティブな人たちと共に、よりユニークで、奇抜で、革新的な利用法を模索している。3D技術は真っ白な紙だ。そこから、そのツール自身と同じぐらい華々しいプロジェクトのアイデアが生まれてくる。とくに素晴らしいのは、キャンバスの上に描かれる絵に制約がないように、3Dにも制約がないように思える点だ。それは、使い方が限定されることが多い新しいオープンな技術やオモチャにはない特徴だ。それに比べて、3Dは単にインスピレーションを与えるものなのだ。

3Dが、プロの現場でも家庭でもプロトタイピングに使われたり、製造業、航空宇宙、自動車、映画の特殊効果、一般向けプロダクトデザインなどに使われていることは誰もが知っているが、あまり知られていない分野でも、製品だけでなく、この世界や文化を知るための新しい方法として無数に利用されている。そのひとつに、歴史学や考古学がある。そこでは、学者も一般人もいっしょになって、学び、記録し、物語る方法が変化しつつあるのだ。

A 3D surface model of “Kruzof,” the 4-year-old whale (SSSC-2011008) that washed ashore in 2011. SSSC-2011008 was recovered, processed and scanned under NOAA Fisheries MMHSRP Permit 932-1905.)(Image courtesy of Idaho Virtualization Laboratory)
2011年に岸に打ち上げられた4歳のクジラ、Kruzof(SSSC-2011008)の3Dサーフェイスモデル。SSSC-2011008はNOAAの許可(MMHSRP Permit 932-1905)のもとで回収され、処理され、スキャンされた。(写真提供:Idaho Virtualization Laboratory)

科学の民主化

アイダホ州立大学のアイダホ自然史博物館の研究機関、Idaho Virtualization Lab(IVL)は、動物の化石を3Dスキャンして保存しているだけではない(しかし、鳥、セイウチ、アシカ、カワウソ、クマ、ラクダ、それに貴重なヘリコプリオンなど、かなりの数の化石がスキャンされている)。Herb Maschner博士とその研究チームは、スキャンデータをインターネットで公開し、科学の民主化に努めている。そのため、誰でも、どこにいても、見たいときに見ることができる。博物館ではその3Dプリントも作っていて、研究者たちは簡単にそのモデルを手に入れて、教育や研究に使えるようになっている。IVLは、これまで閉ざされていた分野の壁を取り払い、広く一般に開放したのだ。

Idaho Virtualization Laboratoryのプロジェクトには、3D Virtual Zooarchaeology of the Arctic Project (VZAP)、Virtual Museum of Idaho、Virtual Museum of the Arctic、Whales of the Worldが関わっている。考古学者、教師、研究者はみな、このすべてにアクセスしてIVLのウェブサイトが見られる。ある研究者はこう話している。「学生たちに動物の基本的な分類や種の見分け方を教えるとき、VZAPが本当に役に立つ」

古代の文化を保存する

南フロリダ大学のTravis DoeringとLori Collinsの両博士は、野外考古学の方法と、教室での遺物の使い方を変えようとしている。

3D scan of a monumental stone sculpture from La Venta, Tabasco, Mexico (Image courtesy of AIST at the University of South Florida)
メキシコのタバスコ州ラベンタで発掘された石の彫刻を3Dスキャンしたもの。(画像提供:南フロリダ大学 AIST)

彼らは、掘り出したり、動かしたり、破壊したりせずに、遺物を細かく3Dスキャンしている。彼らの研究により、学生たちは遠い大陸の現場を仮想的に訪れて遺物を見ることができる。

彼らは、メキシコ、タバスコ州ラベンタのように、重要な遺跡を守りつつ、記録し、分析するために、レーザースキャナーと写真技術を使用している。ラベンタは、紀元前900年から400年ごろのプレコロンビア時代の祭祀センターで、大きな石の頭など巨石遺跡が無数に存在しているため、すべてを記録することは大変に難しい。そこで、DoeringとCollinsは3Dデータで記録することにした。これなら、腐食もせず、壊れたり風化したりすることもない。この貴重な遺跡を永遠に保存できるのだ。

過去に触れる

博物館を訪れた人に、遠くから見るだけでなく、手で触れる体験をしてもらうにはどうしたらよいか。目が不自由な人にすれば、展示物を手で触れないならば、博物館も本を読むのとまったく変わらないのではないか。Christopher Deanが彼の会社、Touch & Discover Systemsでイギリスのマンチェスター博物館のためにProbos systemを開発したきっかけは、そんな疑問だった。Probosは、世界をリードする仮想現実と高度な可視化技術の会社、Virtalisがソフトウェアを担当し、Geomagic Sensable Phantomという、感触と動きをユーザーにフィードバックする触感装置を採用している。簡単に言えば、博物館を訪れた人は、ベルベットのロープで仕切られた厚いガラスの奥に置かれている展示品の3Dデジタル版に触れることができるのだ。そして博物館の側では、壊れやすい展示品にまつわる話を存分に披露できるというわけだ。

Touching vitrual artifacts with the Probos system (Image courtesy of Touch and Discover Systems)
Probosシステムで展示品に触る。(写真提供:Touch and Discover Systems)

古代の壺を作るのに、どれだけの労力と職人技が使われたか、という話は、その一面に過ぎない。もし、実際に触って、模様の凹凸など、手作りの感触を得ることができたら、その壺とつながることができる。それを、Probosが実現してくれるのだ。利用者は、スタイラスを使って、紀元前4000年の壺の凹凸、質感、重さを感じることができる。Probosには音で体験を深める機能もある。割れた陶器の鈍い音と、高温で焼かれた陶器の澄んだ音を聞き比べることもできる。

歴史の未来

世界中の博物館、考古学サイト、歴史アーカイブには、まだたくさんの3D技術が持ち込まれようとしている。ブルックリン博物館では3Dプリントされた展示品を触ることができる。アフガニスタンの破壊された文化遺産を3Dスキャンで復元するというプロジェクトもある。

3Dは、物を改良していく以上に、私たちの生活を改善している。それにより私たちは、失われたものを復元したり、過去の出来事をより深く知ることができるようになった。今、3Dの助けを借りて、私たちはより明瞭に、自分たちの歴史を知り、未来のより明るい展望が開けるようになるのだ。

(共著:Josh O’Dell)

– Ping Fu

原文