Crafts

2018.06.13

イスづくりを通じて子どもたちが国際交流 ― Fab Lat Kidsが世界中でワークショップをする理由

Text by Noriko Matsushita

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ローマ在住の建築デザイナーであり、Fab Lat KidsのメンバーのIlaria La Mannaは、子どものワークショップ向けのイス「Emosilla(エモシージャ)」を開発し、世界各地でワークショップを開催している。日本では、FabLab浜松のメンバーである加藤昌和氏によって紹介され、2016年にFabLab長野で初めてのワークショップが実施された。そして今年の5月上旬、Ilariaが初来日し、各地のFabLabや小学校でワークショップやトークイベントを行った。

Emosillaは、CNCでカットされた5枚の板で構成され、釘やネジを使わずに組み立てられる。子どもが安全に扱えるように、角はすべて丸く、背板にある穴に手を入れて引っ張れば小さな子どもでも動かせる。Emosillaとは、スペイン語のEmosion(感情)とSilla(椅子)を組み合わせた言葉で、椅子の背部分を顔に見立て、ワークショップでは子どもたちが思い思いの表情を描く。


Taller Emosilla 2.0 [FabLat Kids]

Ilariaによると、もともとEmosillaは、南米の小学校向けに考案したという。しかし、プロジェクトが途中で頓挫してしまい、Emosillaは行き場を失ってしまう。一般向けに販売することも考えたが、個人が製造販売をするのはハイリスクだ。そんなとき、子どもの教育支援の活動をしていたFabLabブエノスアイリス(アルゼンチン)の仲間から「子ども向けのワークショップの教材にちょうどいいのでは」と提案され、その仲間たちとともにFabLat Kidsを設立した。

「私自身、FabLabに参加したことで、創作の可能性がとても広がった。子どもは私たち大人よりもずっと発想が自由で無限。デジタルファブリケーションを活用してモノづくりの楽しさを知れば、すごいものが生まれると思うの」とIlaria。

地域文化に合わせた形、子どもの描く表情で文化の違いを伝え合う

建築家として、世界中の国々で仕事してきたIlariaは、国や地域によって、同じ用途のモノでも、好まれるデザインや使い方が異なり、文化が色濃く反映されることに興味を持ったという。そこで、子ども向けのワークショップを国際交流のツールとしても活用することを思いついた。

例えば、アルゼンチンの小学校向けにデザインされた初代Emosillaは、座面の横にフックがついていた。アルゼンチンでは、「ファクトゥーラ」と呼ばれる菓子パンをおやつに食べる習慣があり、そのファクトゥーラを入れた袋を下げるためだそう。

Emosillaのデザインデータはインターネットで公開されており、世界中のどこでもダウンロードでき、オープンソースなので、用途や文化に合わせて、自由に改変できる。例えば、拡大/縮小して、大人用から子供用、人形を置く卓上サイズなどがつくれる。

前述の加藤氏は、長野県・飯山市の雪まつり用にそり形のEmosilla、大阪のファブ工房「谷6Fab」のワークショップ向けには、正座椅子タイプのEmosilla、小物を飾れる卓上Emosillaなどのデザインを考案している。

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そり型のEmosillaには、背板と座面の両側に持ち手がある

こうしたそれぞれの国や地域のワークショップで制作した作品をシェアして見せ合うことで、子どもたちは離れた国の文化の違いを知ることができるのでは、というのがIlariaの考えだ。

今回の来日では、5月10日に長野市立加茂小学校5年生の特別授業として、小型のEmosillaのワークショップが行われた。このEmosillaは連結タイプで、クラス全員のEmosillaをつなぐと輪になるというもの。小学校の教室で約30人がつくることを想定して、加藤氏とIlariaがネットでやりとりしながら考案したそうだ。

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授業では、FabLab長野のレーザー加工機を使用して、カッティングシートで表情のシールを制作

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完成したみんなのEmosillaをつなぐと輪ができる

授業の最後には、ハングアウトで南米のFabLabと接続し、オンラインでの交流も行われた。

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ウェブカメラを通して、アルゼンチンのFabLabメンバーへ完成した作品を見せる児童たち

その2日後の5月12日には、長野県・富士見町の森のオフィスでプログラミング工作に興味がある子どもたち向けに、LEDを使った光るEmosillaのワークショップを開催。これは、顔の目や頬の部分にLEDを使い、点灯によって感情のオン/オフを表現するものだ。

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富士見町でのEmosillaワークショップは屋外で行われた。最初にそれぞれの好きな表情を紙に描く

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組み立て後、ポスカで着色。顔の目やLEDと電池ケース、クリップを導電テープでつなぐ。クリップのスイッチでLEDをオンオフできる

時差や通信環境の都合でリアルタイムでの交流ができない場合も、ワークショップの様子を撮影し、子どもたちによるそれぞれの地域の紹介とともに、ウェブサイトやFacebookで公開している。

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八ヶ岳を背景に完成したEmosillaを記念撮影

「日本の子どもたちは教育環境も恵まれているし、便利なモノも身近に手に入る。学校や地域の外にある、いろいろな人や文化と交流すれば、もっとアイデアの幅が広がると思う」

Illariaは、ワークショップを通じて、子どもたちがさまざまな文化に興味をもち、新しい発想を得るきっかけとなるように、自ら世界中を回りこの活動を続けていきたいそうだ。