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2024.10.03

完全非接触クレープ、減圧蒸留器が作る新しい香りのカクテル、Scratch制御のトースター。食文化を進化させるフードメイカー ―Maker Faire Tokyo 2024 会場レポート #4

Text by Noriko Matsushita

Maker Faire Tokyoの広い会場を歩いているとお腹がすく。甘い香りに誘われた人々でにぎわうのがフードメイカーのブースだ。完全非接触の調理ロボットで焼きたてクレープの試食を提供していたモリロボ、お花や果実のみずみずしい香りを体験できる巴波重工の卓上減圧蒸留器、Scratchで制御するプログラミングトースターのブースを紹介しよう。

クレープロボの仲間にホイップを絞ってくれる「ポーションストライカー」が登場

クレープロボットQでおなじみのモリロボは、ホテルビュッフェ向けに開発された小型クレープロボットのMaker Faire Tokyo 2024特別モデルと、焼きたてのクレープに一人分のクリームを絞ってくれる「ポーションストライカー」を出展。

ホテルビュッフェ用の小型クレープロボットは、コロナ感染症対策としてロボットの非接触の利点を最大限にPRするために考案したもので、大阪市にあるホテル京阪 ユニバーサル・タワーのレストラン「トップ・オブ・ユニバーサル」に2023年5月から導入されている。「スタッフもお客さんも誰も触らずにクレープを焼いてサーブできるように、操作ボタンをなくして、お皿を乗せる動作をスタートボタンの代わりにしました」と森さん。


リング型の台にお皿をセットすると、プレートに生地が流れる


約1分で焼き上がり、台がスライドしてセットしたお皿に移る

Maker Faire Tokyoモデルのコンセプトは、「小学4年生を1分間夢中にさせる」こと。本体の横にはモリロボの代表である森さんに似たマスコットが設置されている。お客さんが手元のハンドルをくるくる回すと、森さん人形がクレープを伸ばす動作をする仕掛けだ。このマスコット人形は学生アルバイトの串本こころさんによるアイデア。「生地を焼きあがる待ち時間に、一緒にクレープを作っている気分になれるように」とのこと。

今回は、3月に開催された「Kariya Micro Maker Faire 2024」でお披露目された自動クリーム絞りマシン「ポーションストライカー」の改良モデルも展示された。開発したのは静岡大学工学部と静岡文化芸術大学デザイン学部の学生たちによるチームだ。


「ポーションストライカー」という名称は小学生が喜びそうな語感で選んだそう

開発期間は約2年。納品したホテルのビュッフェでは、クレープはロボットが焼くので非接触だが、トッピングはセルフサービスなので、多くのお客さんが触った絞り袋はべたべたになってしまう。これを解決するのが「ポーションストライカー」だ。森さんはお題だけを提示し、学生だけで開発に取り組んだ。

メカ設計を担当した池上雄基さんによると、最初は、クリームの押し出しにはマキタのコーキングガン、タンク部分はクレープロボットの端材を使って試作したそうだ。2号機はマキタ部分をスチールで覆い隠したもの。しかし、マキタのコーキングガンをそのまま使うと大きく重く無骨だ。そこで、クリームの押出機構を独自開発して小型化を図ることに。クリームの押し出しには20キロ程度の力が必要だが、パワーのあるモーターが見つからず、3号機では特殊な歯車のギアボックスを作り、力を稼いだ。

今回お披露目された4号機は、20キロのモーターが見つかり、構造を簡略化したことでデザインもスッキリさせている。また、3号機では上部にあったボタンが4号機は下に配置された。これは、お皿を下に置くのでボタンも下のほうが導線として良い、小さな子どもでも手の届く位置がいい、といったデザインチームからの指摘によるもの。

最初のうちは、製造チームとデザインチームの意思の疎通にも苦労したそうだ。デザインを担当した関根珠音さんは、「感覚的な表現ではなく、具体的な言葉を選ぶようにし、スケッチを見せるなど開発メンバーに伝わりやすい提案を心掛けました」と話す。製造側も、デザイナーの求める形が実現可能なのかを知ってもらうために、金属パーツはどこまで折り曲げられるのか、といった説明をしながらすり合わせていったという。


(左から)開発メンバーの串本こころさん、野末翔さん、池上雄基さん、関根珠音さん

ポーションストライカーは、4号機でほぼ完成だそう。3Dプリンターで造形しているパーツを製品向けに調整し、近々ホテルビュッフェ向けに製品化される予定だ。

加熱しない蒸留で花やハーブのみずみずしい香りを抽出。巴波重工の卓上減圧蒸留器

通常の蒸留装置は、加熱沸騰させた蒸気を冷やすことで香りの液を抽出するが、繊細な草花や果実は熱に弱く、香りが変化してしまう。減圧蒸留器は、外圧が下がると沸点が下がることを利用し、常温で蒸留を可能にする装置だ。蒸留装置内を0.1気圧以下にすると、30~40℃で沸騰し、夏の気温程度で植物を蒸留できる。


減圧された蒸留ビーカーの水の温度は30℃。上の冷却器を通り、蒸留液が左の試験官へ落ちる

巴波重工さんは、いまは企業に勤めながら趣味として卓上減圧蒸留器を作っているが、いずれは卓上減圧蒸留器の販売で独立も考えているそうだ。

卓上減圧蒸留器の開発費を稼ぐため、まずは市販の瓶や3Dプリンターで作ったパーツを組み合わせた試作機をバーに持ち込んで営業して回ったところ、バーテンダーのクチコミで広がり、30台を販売したそうだ。その売り上げを元手に、ガラス瓶や真鍮の冷却管を特注した製品を開発して、本格販売へ向けて活動を始めているという。


会場では、減圧蒸留器で抽出したオレンジ、八角、ジュニパーベリーの香りを体験させてもらった。中華料理では独特の甘い香りが強い八角だが減圧蒸留すると清涼感が際立つ

これまでバラや桜といった花の香りのカクテルにはシロップが使われていたが、花の蒸留水なら甘さのないフレッシュな香りを活かして、ノンアルコールのカクテルなどへの利用が広がりそうだ。東京や京都に導入店舗がいくつかあるそうなので、興味のある方は訪れてみては。

身近な家電でプログラミングが学べるプログラミングトースター

プログラミングトースターは、パナソニックが開発したScratch制御専用のトースターだ。本体にボタンはなく、PCとBluetoothで接続し、Scratchで3つのヒーターを制御する。これは、パナソニックのSTEAM教育プロジェクトの一環で、IoT家電のプログラミングから暮らしの中で創造性を育むために開発されたものだ。

プロジェクトのメンバーとして活動している京都芸術大学専任講師の中山晴奈さんは、「普通のトースターや電子レンジには同じようにプログラムが組み込まれている。自分でプログラムをつくり、いろいろなメニューを作ることで、プログラミングをもっと身近なものと感じてもらえれば。同時に、食の科学にも興味を持ってくれるとうれしい」話す。

ブースで展示されていたのは、米国と日本の小学生がScratchで作った焼きマシュマロのスクリプト。

1つ目のスクリプトは、3つのヒーターをオンにし、庫内の温度センサーが180℃以上になったらヒーターをオフにし、キャラクターがニャーと鳴いて余熱完了をお知らせする。次の2つのスクリプトでは、180℃を超えたらヒーターをオフにし、180℃以下になったらオンにすることを90秒間繰り返す、といった内容だ。


本体にボタンがなく、Scratchとつながないと使えない仕様

中山さんは自宅でこのトースターを日常的に使っているそうで、「忙しい日は、朝のパンを焼くたびにScratchを開くのがちょっと面倒くさい」とも話していた。

プログラミングトースターの販売は未定だが、いずれ各小学校の調理室にも置かれるようになる日が来るかもしれない。