Fabrication

2022.09.08

全長2.5メートルの巨大変形ロボ「勇者ファイバリオン」をリモートで共同制作。With / Afterコロナの新しいメイカー活動 ― Maker Faire Tokyo 2022 会場レポート #2

Text by Noriko Matsushita

2022年9月3日・4日に開催されたMaker Faire Tokyo 2022。会場入口すぐのモビリティゾーンでひときわ目立っていたのが、ロボットサークル「勇者技術研究所」が開発する等身大ロボット「勇者ファイバリオン」だ。ロボットゾーンではなく、モビリティゾーンにブースがあるのは、ビークルに変形できるから。勇者ファイバリオンには搭乗または遠隔で操縦でき、ビークルモードに変形すると1人乗りの4輪オフロードカーとして公道を走れるようになるという。2023年中の完成を目指しており、現在は上半身のみで、顔と左手の動作が可能だ。


サークルメンバーのみっちーさん(左)と石田賢司さん(右)

子どもの頃にアニメで見た、ビークルに変形する勇者ロボをリアルサイズで具現化

勇者技術研究所は、ロボット開発の会社、BRAVE ROBOTICSを経営するロボット建造師・石田 賢司さんを中心にメンバー4名で活動。石田さんがハードウェア、みっちーさんがソフトウェア、タタメルバイクICOMAの生駒さんが全体のスタイリングを担当。また、CuboRexの社員の方もデザインに参加している。

石田さんは、学生時代から二足歩行ロボットの開発に取り組み、2002年の第1回ROBO-ONEから出場。みっちーさんも個人でぬいぐるみのかわいいロボットを作ってROBO-ONEに参加しており、お互いに選手として知り合ったのが始まりだそう。

みっちーさんは仕事で医療系のソフトウェアを開発しており制御が得意なことから、お互いの得意分野で協力することになった。


石田さんは2013年のMaker Faire Tokyoに1/12スケールの変形ロボット7.2号機を出展


ビークルに変形するとコンパクトに。リモコンと一緒にケースに収納できる

しばらくはそれぞれ個々にロボット制作活動を続け、サークルを立ち上げて本格的に1つのロボットを作ることになったのは3年前の2020年頃から。当初は1メートル20センチのものをつくる計画だったが、徐々に大きくなり、今や全長2.5メートルの巨体だ。

「昔アニメで見ていた変形ロボットは、乗り物から人型になるものだった。どうせなら、がんばってぎりぎり人が乗れるものにしたほうが労力は増えても意義はずっと大きくなるよね、って。人が乗れるようにしていったら、だんだん大きくなって2メートルを超えてしまいました」(石田さん)

あくまで趣味の活動なので、ジャンク品などをうまく使って開発費用を抑えている。減速機は市販価格の10分の1で入手できたそう。パーツごとに開発を進め、2020年のMaker Faire Tokyoでは頭部などばらばらの状態で展示。この形に組み上げられるようになったのはMaker Faire Tokyo 2022の開催1週間前のこと。

開幕後も手やライトパーツを組み上げていき、その場で調整していった。1日目の閉場間際には腕が付き、2日目の午後には手指を遠隔操縦できるようになった。着々と組みあがっていく様子を見られるのもMaker Faire Tokyoの醍醐味だ。

普段は石田さんの自宅兼会社の工場内に置いているそうだが、「会場で組み上げて、さらに会場でも腕を付けたり少しずつ大きくなっていったので、Maker Faire Tokyoが終わったあと持ち帰って置くところがあるのか心配」と石田さん。


1日目は上半身のみ組み上げた状態。下半身は木製


取り付け前の腕パーツ


2日目には腕とライトが取り付けられた。肩のライトはビークルモードに変形すると、クルマのヘッドライトになる

コロナ禍でリモートでの開発作業がはかどる

石田さんの会社は東京、みっちーさんは香川県に在住。ほかのサークルメンバーの住む場所もそれぞれ離れている。サークルを立ち上げたとたん、コロナ禍で移動が制限されたこともあり、打ち合わせやソフトウェアの開発は、現場に集まることなく、ほぼリモートで進められた。石田さんがパーツを作るごとにみっちーさんの自宅に宅配便で送り、制御プログラムを開発したり、完成したソフトウェアを石田さんに送って試してもらったり、とやりとりしていたそうだ。

「行き来しづらい状況で本当にできるのかな、と不安でしたが、逆にリモートで打ち合わせたり、リモートでものを作る、という環境がすごく整ったのは良かったですね。フルリモートでデカいハードウェアを作るっていうメイカー活動もおもしろいのでは」(みっちーさん)

みっちーさんはMaker Faire Tokyoの搬入日に上京し、閉幕したらすぐに香川に戻らなくてはならず、会期中は、現物でプログラムのテストや調整ができる貴重な時間だったようだ。2日目には左腕が取り付けられ、腕や指を遠隔で動かすデモが見られた。


PCにつないだアームに連動してロボの腕が動く


仮に右手パーツを使ったデモ。右指を動かすと、ロボの左手の指が動く

来年はビークルモードに期待!

「勇者なので、何か人の役に立つことをしたい」とのことで、手のひらにワイヤレス充電器を搭載。左右の手で2台のスマホ充電ができ、Maker Faire Tokyoのようなイベント会場でスマホの電源が切れて困っている人を助けられるそうだ。人よりも背が高いので、木から降りられなくなった猫を助けてあげたりもしてほしい。


背中部分に体育座りで搭乗できる

ロボットの状態でも背中部分に搭乗できる。最終的にはハンドルを付けて操縦できるようにするそうだ。もちろん変形すれば、クルマとして公道が走れる。次回のMaker Faire Tokyo 2023では、実際にナンバープレートが付き、会場を走る姿がお目見えするかもしれない。