2012.07.18
Maker Conference Tokyo 2012基調講演「Makerムーブメントを先導すること・追いかけること」
2012年6月2日、日本科学未来館で、Maker Conference Tokyo2012が開催され、約300名のMakerが参加しました。本稿では、「Make」誌のファウンダー、出版人であり、Maker Faireの共同創業者のDale Doughertyによる基調講演「Makerムーブメントを先導すること・追いかけること」の内容を紹介します。
中心がないMakerムーブメント
おはようございます。世界的に見て東京のMakerムーブメントは、比較的初期のころに立ち上がったものでした。やっと皆さんにお会いできるということで、本日をとても楽しみにしていました。
本日のテーマは「Makerムーブメントを先導すること・追いかけること」です。私は、Makerムーブメントを立ち上げ、先導してきましたが、同時にMakerの皆さんを追いかけ、応援しているという、両方の立場に立っています。
「Make: Technology on Your Time」という雑誌や、Maker Faireは、そもそも仲間同士で、技術を使って新しいことをしようというドキドキ感や、ひとつのものを作り上げていく過程の中でコミュニティが生まれるという動きが出発点でした。そして、Makerムーブメントには主導者らしき存在がなく、中心がありません。みんなが同時に作り上げていくものと言えます。
私はこの文章をとても気に入っています。ある高校の壁に書いてあったものなのですが、Makerの哲学に近いと思います。
Life can be much broader once you discover one simple fact
And that is that everything around you that you call life
Was made up by people who were no smarter than you
And you can change it, you can influence it,
You can build your own things that other people can use
Once you learn that, you’ll never be the same again.「あるシンプルな真実を発見すれば、人生はより広がる。
あなたの人生に関わる身の回りのものすべては、人間が作ったものだ。
それはあなたより賢い人ではなくて、あなたのような普通の人である。
そして、あなたはそれを変えることができるし、影響を与えることもできる。
あなたも、他のだれかが使うものを作ることができる。
一度そのことを知れば、人生はこれまでとはまったく違うものになるだろう。」
これが誰の言葉か、ご存知の方はいるでしょうか? Apple Computerの創業者スティーブ・ジョブスのものだそうです。
Apple ⅠにみるMaker哲学
Appleは、サンフランシスコの「ホームブリュー・コンピュータ・クラブ」というコミュニティからはじまりました。スティーブ・ジョブズという、ビジョンと創造性を持つ人間と、ウォズニアックという非常に技術に詳しい2人は、そこで新しいコンピュータの世界を想像しつつ、いろいろな人と交流をしていました。彼らは、それができれば幸せでした。彼らはパソコン革命を起こしましたが、ジョブスもウォズニアックも学校を中退しています。そんな経歴では、普通、技術的な革命を成しとげるとは思えないでしょう。
Appleのはじめての製品である「Apple Ⅰ」は、Maker Faireで展示されていてもおかしくないぐらいの手作り感にあふれたものです。木製で、キーボードも完璧ではありません。しかし、技術についてオープンで、誰でも参加できるというMaker精神のDNAが「Apple Ⅰ」からは伝わってきます。
この30年間のコンピュータ産業の発展を考えると、現在さまざまなMakerの集まりに出展されているような作品が、もしかすると未来のApple Ⅰになるかもしれないという気持ちになります。
もうひとつ、Makerの皆さんと、Appleの創業者に共通な点としては、名誉やお金のためではなくて、「友達にちょっと見せたかった」というレベルの動機で物づくりをはじめたということが挙げられるでしょう。
今投影されているスライドは、「What is a Maker」というリストで、Maker Faireの参加者が作った、Makerの特徴を列記したものです。
1つ目は、異なる分野の人同士が、新しい意外な接点を求めており、その接点でいろいろなものを立ち上げたいと思っているということです。
2つ目は、世の中を情報で理解するだけではなく、科学技術的な好奇心を持ち、「参加すること」で世の中を理解しようとしていることです。
3つ目が、お金や知名度のためではなくて、素直な遊び心で参加しているということ。
4つ目は、著作権だなんだと気にする前に、コラボレーションを重視するということです。
そして、最も大切なのが5つ目で、「世の中を改善するための力は自分の手の中にある」という哲学を持っていることです。これは、どんなMakerにも共通して言えることだと思います。
海を越えたプラネタリウム
写真は、アメリカで作られているDIYガイガーカウンターです。日本の原発事故は、世界中の注目を集めました。そういうときに、ただ何もしないで落ち込むのではなく、自らこういうツールを作ることができる、という精神の重要性を表している作品です。このようなツールを、個人が作ることができるようになったのは、非常に大きなことではないでしょうか。
そして、原発事故のように大きな問題が起きたときには、自分たちに何ができるのかということを、世界中のMakerたちが考えました。このように、技術の民主化と言えるような動きが広まりつつあります。3Dプリンターやレーザーカッターのようなファブリケーションツールを、個人が使えるようになったのも大きいでしょう。Makerが作っているパーツを集めて、交換や販売をするという文化も広がりつつあります。
ウェブの世界では、例えばオライリーの技術書を何冊か読めば、誰でもウェブサイトを作ることができます。ハードウェアの世界では、自分が作りたいものを自分で作ることは、以前は難しいこととされてきましたが、現在ではそれが容易になりつつあります。
この数十年の間「我々は消費者であり、生活者である」と言われていました。しかし、私たちは消費者(Consumer)ではなくて、Makerなんです。
次の世界の子供たちが、自分たちを単なる消費者ではなくて、Makerと認識するようになってもらいたいと思います。そうすれば社会に自ら参加し、周囲を改善する力を持つことができます。次の時代の社会には、Makeの精神が広がって、一般的な社会にまで影響をもたらすことができたら、私もうれしく思います。
ちょうど2週間前に、アメリカで7回目のMaker Faireが開催され、2日間で11万人が参加しました。Maker Faireには、いろいろと美しい物や役に立つものもありますし、そうでないものもあります。私は会場を回って、人間の心がどういったきっかけでこのような作品を想像し、どんなきっかけで作品を作ろうとするのかを考えるのが楽しみです。
2年前のMaker Faireで見た北村満(ヒゲキタ)さんの手作りプラネタリウムは、もっとも心に残っている作品のひとつです。暗室の中にバルーンがあります。そのときは、ちょうどMaker Faireが終了して、ほっとしているところでした。その時、北村さんが私を片付ける前の暗室の中に招いてくれて、きれいなプラネタリウムの中で、スターウォーズの何場面かを影絵で一生懸命演じてくれたんです。日本で彼がはじめた取り組みは、海を越えた私たちのところに届いています。Maker Faireは世界60か国で開催されています。国境を越えて、出展されている作品が交流できるようになることを私たちは望んでいます。
そして、次の世界の子供たちに、自分たちが単なる消費者ではなく、世の中をよくすることができる「Maker」であるということを伝えていきましょう。今日は参加することができて本当に光栄です。ありがとうございました。
─ まとめ:keiko Kano