2013.06.24
メイカースペースをMakeする:ビジネスモデルを作ろう(1)
(日本語版編注:Part.2はこちら)
これは「メイカースペースをMakeする」シリーズの第2弾。Artisan’s AsylumとMAKEがプロデュースしているHow to Make a Makerspaceワークショップの内容をまとめたものだ。この記事は、ほぼ週一のペースで掲載する予定だ。シリーズ第1弾となった記事は、メイカースペースの保険に関するものだった。こちら(日本語版編注:未訳です)をどうぞ。
メイカースペースのビジネスモデルを作る
今日は、メイカースペースを自分で立ち上げようとする人のために、世界の一般的なメイカースペースの通常の運営で生じる支出と収入について考えたい。この収支を知る上で、アメリカ国内で安定的に運営されているいくつかのスペースの場合を参考にするが、これが正しい収支の姿だとは思わないでほしい。スペースの場所や環境によって支出は大きく変わるし、収入の道もたくさんあるからだ。
始める前に、いくつか注意をしておきたい。話に出てくる数字を整理したり記録しておくために、スプレッドシートを開いておくといいだろう。もうひとつ、持続可能なスペースを作るために、安定した収支を保つモデルを作ることを目標としているので、初期費用は含まれていない。それに関しては今後の記事で解説したいと思う。最後に、ここで示すのはあくまでも大まかな数字なので、実際にスペースを立ち上げる際には、これを実情に合わせて調整をしてほしいということだ。
それでは、本題に入ろう。
スペースに特徴を持たせる
1. スペースのタイプ
数字の話を始める前に、どんなスペースを作りたいかを決めておく必要がある。そして、その規模も決めておこう。友だちとガレージに集まりたいのか、小規模で密なMakerのコミュニティで工具を共有したいのか、専用スタッフを配置した持続性のあるビジネスとしての収入のあるスペースを作りたいのか、コミュニティセンター、または学校や街全体のハードウェアのインキュベーターを作りたいのか。今、望む形になっていようがいまいが、それは関係ない。予算を考えるという今の目的においては、最終的に目指す形が問題だ。これが、これ以降の判断に影響を及ぼすので、時間を惜しまずよく考えてほしい。私がこれまでに見てきたメイカースーペースのなかで、一般的と思われるタイプは次のとおりだ。
- 小規模(45〜280平方メートル)で、数人のインストラクター(1〜10名)がいるだけの教室専用のスペース。比較的少ないインフラとフルタイムのスタッフで維持できる。
- 小規模でボランティアで運営されるコミュニティ(積極的メンバーが10〜80名)で、ときどき教室を開いたり、工具や場所を開放している。比較的安い会費で、90〜750平方メートルのスペースを有償で借りている。
- 大きな建物(370〜2,300平方メートル)の区画を持ち、多くの個人やスモールビジネスのグループが広さに応じた低価格の料金で区画を借りることができる。非公式に設備を借りることもできる。通常は小さなグループ(1〜3名)が無給で管理をしている。
- 大規模なコミュニティワークショップ(750〜3700平方メートル以上)で、日常的に教育的プログラムを実施している。会員は工具や作業場が使える。倉庫やスタジオのレンタルもある。
- 非常に大規模な地域開発施設(3,700〜14,000平方メートル)で、新興企業へ18〜90平方メートルほどの広いスペースの貸し出しを目的としている。会員のネットワークがあり、有給のスタッフ、工具や作業場が開放されているところもある。
2. サイズとスペース
どれほどの広さが必要か。最終的にどれくらい広くしたいのか。そのスペースを何に使うのか。教室、工房、倉庫、レンタルスタジオ、どれをとってもかなりの広さが必要だ。継続的にフルタイムの有給スタッフを置くには、ざっと調べたところ、少なくとも750平方メートル以上(家賃の安い地域で)は必要だとわかった(補助金やクラスで運営されているもので、設備や作業場の貸し出しにあまり力を入れていないスペースは除く)。750平方メートル以下でも成功しているスペースも見てきたが、大抵がボランティアや外部の援助で成り立っている。スタッフのいるスペースの例は次のとおりだ。
- Artisan’s Asylum:3,700平方メートル、フルタイムスタッフ3〜5名、パートタイムのインストラクター40名以上。
- MakerWorks:2,800平方メートル、フルタイムスタッフ2名、パートタイムスタッフ8名。
- TechShop:平均1,400平方メートル、1店舗あたりフルタイムスタッフ5〜15名。
- sprout:190平方メートル、フルタイムスタッフ3名、パートタイムスタッフ5〜10名。補助金とクラスで賄われている。
3. スペースの区分
スペースの中に、工房、教室、オフィス、レンタルスペースなどをどう配分するか。まだハッキリ決める必要はないが、経験と建築上の観点から、大まかで基本的な助言をしておこう。下のリストを読んで、後で考察する収支をもとに、今の自分に適合すると思われるものを拾ってほしい。ここへは何度も戻って割合を調整することになると思う。ここで使用した人口密度の数値は、The Engineering Toolboxを元にしている。建築家とエンジニアのための便利な資料集だ。
- 避難通路。レイアウトを始めるにあたって、最初に、法令に従って、全床面積の25〜35パーセントを避難通路にしなければいけない。ここは使うことができない。物を置いたりせず、つねに開けておく必要がある。そうしないと消防検査に通らない。このパーセンテージは建物によって異なる。
- 玄関。フロントデスクや受付などを置く場合は、一般に5〜25平方メートルが必要になる。
- 食事や雑談のエリア。利用者が集まったり食事をしたりする場所も必要だ。そうした場所を提供しないと、利用者が自分でその場所を探さなければならなくなる。広さは一度にどのくらいの人数が集まるかによって変わるが、一人が座るのに、少なくとも1.4〜3.7平方メートルが必要となる。
- 教室、会議室。教育的プログラムを行おうとするならば、騒音の入らない静かなスペースが必要になる。こうした部屋を、ひとつは確保したい。広さは、一人が座る面積を2〜4.7平方メートルとして計算する。
- 作業場。工具を使う専用の場所とするならば、安全に作業できる広さが必要になる。私の経験では、ひとつの作業に必要な最小の広さは、2.8〜4.6平方メートルだ。その中で、一人の人間の作業に必要は広さは7〜14平方メートルとなる。工作の内容(木工、裁縫、溶接など)によってはそれぞれ専用の場所が必要となるので、ひとつの場所でいろいろな工作をするという考えは持たないほうがいい。多くのスペースが、Grizzly Workshop Plannerをレイアウトに役立てている。
- レンタルスタジオ。Artisan’s Asylum が成功した要因で、プライベートなレンタルスタジオを多く提供できたという点が大きい。私たちのホームタウンは大変に混み合っていて、建物が密集しているため、会員は何よりもスタジオスペースに大きな価値を置いている。我々の調査では4.6平方メートルが最低限。23平方メートルが最大だ。
- 倉庫。会員にはプロジェクトを置いておく場所が必要だ。自分のスタジオを持っていない人にはなおさらだ。できれば、棚を置ける場所を確保しよう(ひとつの棚に対して0.7〜1平方メートル)。Artisan’s Asylumにはレンタルスペースがある。パレットベースの保管場所で、ひとつのパレットは1.2平方メートルある。
- ギャラリー、展示エリア。会員の作品を展示したり、サービスの宣伝をしたいなら、それにはどれだけのスペースが必要かも考えておかなければならない。
- 販売エリア。材料や製品やサービスを販売するなら、品物を保管しておく場所と販売する場所が必要だ。
出費を特定する
収入を見込む前に、スペースを運営するのに実際にどれだけお金がかかるのかを見ていこう。支出を先に考えることで、スペースを維持させるために、最低何人が参加すればよいかという考え方ができるようになる。もしこの人数が、あなたが予定しているスペースやコミュニティでは集らないとなれば、ビジネスモデルを考え直さなければならない(または、目指す運営状態より低いコストでのスタート方法を考える。まずは、月単位の賃貸スペースを借りてはじめ、次第に大きくしていくといった具合)。ではここでスプレッドシートを開いて、本題に入ろう。
1. 賃料
現在のところ、Artisan’s Asylumで、単独でもっとも大きな支出は「賃料」だ。840平方メートル場所を借りていたころは、毎月の支払いの中で賃料が75パーセントを占めていた。それに、スタッフの給与と高額な光熱費が加わって、現在は25〜30パーセントの範囲で落ち着いている。賃料には気を配らなければならない。それが、その他のビジネスプランを左右するからだ。だが、ひとつ注意しておこう。賃料を気にしすぎて半端な建物を借りてはいけないということだ。壊れた建物の修繕費は、質の良い物件の賃料よりも、ずっとずっと高い。この事実を知らないメイカースペースは、やがてやっていけなくなる。工業施設の屋根の葺き替えは(10年から20年に一度は必要になる)、1平方フット(約1/3平方メートル)あたり5〜10ドルかかる。木工作業をする場合はスプリンクラーを付けなければ消防署に怒られる。従わなければ閉鎖にもなりかねない。これには1平方フットあたり10〜15ドルかかる。壊れたエアコンの修理や交換は、業務用の新品を入れると5,000〜15,000ドルは軽くかかってしまう。これらは建物のメンテナンスにかかる一般的な項目のほんの一部だ。今予定している物件の賃料がわかれば、ここでそれを書き出しておこう。
まだ物件を決めていない場合は、スペースを開く場所から、だいたいの賃料を予測しよう。建物は広いほど、単位面積あたりの賃料は安くなる。また、街の中心地に近いほど高くなる。ここに私たちが知る範囲の、470〜2,300平方メートルの商業向け物件の例を紹介しよう。ここからあなたが目的とする物件の見積もりを立てて、スプレッドシートに記入してほしい。
- ミシガン州デトロイトとカリフォルニア州オークランドは、質を問わず、郊外の工業施設が年間、1平方フット(約1/3平方メートル)あたり0.25ドル。
- ペンシルベニア州フィラデルフィアとピッチバーグでは、市街地からの距離と建物の状態に応じて、年間、1平方フットあたり2〜8ドル。
- マサチューセッツ州ソマービルでは、都心と隣接する人口の多い小さな街(4平方マイルあたり77,000人)の築20〜30年の工業施設で、年間、1平方フットあたり8〜14ドル。
- マサチューセッツ州ケンブリッジとボストンでは、ケンドールスクエアや臨海地区を含む「イノベーション地区」の中心地で、年間、1平方フットあたり35〜65ドル。
よく見てほしい。同じ広さのメイカースペースでも、デトロイトとボストンとでは、賃料が260,000パーセントも違うのだ。ビジネスプラン全体がこの賃料に左右されるので、慎重に考えなければならない。
2. 建物の管理 / 固定資産税
大家さんが、物件にお金をかける人であったり、非常に寛容であったりしないかぎり(または州の借家法で定められていないかぎり)、たいていの大規模な商業施設はトリプル・ネット(NNN)リースに従って管理されることになる。住宅と異なり、固定資産税の支払い、保険、建物外面の管理(雨漏りの修繕、外壁の塗装、空調、水道のメンテナンスなど)は借り手側の責任になる。大家は、賃料に加えて、これらのコストを受け取ることになるのだ。建物の管理費の支払いに関しては、次の3つの方法がある。
a) 修繕やメンテナンスは借り手がライセンスのある業者を使って行う。b) 大家がそれらを行い、請求書を送ってくる(タダだと思っていたらビックリすることになる)。c) 毎月管理費を支払うことで、大家が定期的にメンテナンスを行ってくれる。固定資産税に関しては、大家から毎月(または毎年)、請求書が来る。または借り手自身が役所に支払うという形もある。
Artisan’s Asylumでは、建物の管理のために、年間1平方フット(約1/3平方メートル)あたり2.50〜3ドルという大きなNNNレートが課せられている。さらに、固定資産税として年間1平方フットあたり1.20ドルを支払っている。大家がこれらの経費を賃料に上乗せするかどうか、また借り手の責任がどこまであるのかをしっかり確かめておくことが大切だ。定期的に大家に支払う形でなかった場合も、メンテナンスにかかる実際の費用は、最低でも年間、1平方フットあたり1〜2ドルを見込んで、別立ての銀行口座に確保しておく必要がある。メンテナンスを想定した準備をしておかないと、実際に何かが壊れたときに、修理の請求書を見てビックリすることになる。前にも話したが、業務用のエアコンを新しくするのに、1台あたり5,000ドルから15,000ドルかかる。油断はできない。ここで、予想されるメンテナンス費用と固定資産税をスプレッドシートに記入しよう。
3. 光熱費
アパートや一軒家では、月々の電気料金は50ドルから250ドルといった程度だろうが、それが月5,000〜7,500ドルとなったときのことを想像してほしい。暖房、冷房、それに大きな商業施設の電源の費用は、そのサイズときれいに比例はしてくれない。ここに示すリストを参考にして、あなたのスペースの光熱費を見積もってほしい。地方ごとの料金の違いも加味すること。
- 電気。地域によって月、1平方フット(約1/3平方メートル)あたり0.10〜0.20ドルと異なる。我々の地域ではkW時あたり0.15ドルを支払っている。
- 天然ガス。冬のボストンのピーク時には、月、1平方フットあたり0.15ドルになったことがある。建物はあまり断熱がされていない。
- ゴミ。どのような業者を使った場合でも、我々の場合、ゴミの回収には常に100〜300ドルかかる。
- インターネット。商業グレードのサービスを提供しようと思えば、月75〜150ドルは軽くいってしまう。ウェブサイトのメンテナンスやインターネットベースのサービスは除く。
- その他の公共料金。リサイクル費用、危険物処理など、その他にもコストがかかる。
予想される光熱費や公共料金をスプレッドシートに記入しよう。
4. 給与
Artisan’s Asylumは、830平方メートルでやっていた1年間は、すべてボランティアでまかなっていた。しかし、その年の終わりに、すべてのボランティアが疲れ果ててしまい、我々のプログラムは破綻し始めた。教室は宣伝されず、時間通りに開かれなくなった。会費は効率的に徴収できなくなった。ずっとスペースを維持する仕事で手一杯で、自分のプロジェクトができなくなった。そしてとうとう、スペースの維持管理と、教室の運営と、工具の修理を専門に行うスタッフを常駐させるのに必要なサイズで、持続性のあるビジネスモデルを作ろうということになった。メイカースペースの本当のコストのひとつに、自分の精神状態がある。もしあなたが(友だちが、ボランティアが、同僚が)、自由時間に働いてスペースをなんとか維持するような状態に置かれて、休みが取れないようでは、ビジネスが成り立たない。
しかし、従業員を雇うことは出費に直接響く。我々は、同程度のサイズのi3Detroitの10倍以上の賃料を払わなければならなかった。i3Detroitは、4年経った今も、750平方メートルのスペースでボランティアによる運営を続けている。そこでは会費と出費が釣り合っている。ときどき、仕事抜きで教室も開いている(ビジネスとは関係のないところでやっているからだ)。早い話が、毎月の出費をまかなうための収入を得ようと必死になっていたことで、我々は極限まで疲れきってしまったのだ。
どんなスタイルのビジネスにしたいか? ここに、人を雇ったりボランティアを使ったりしてやらせる仕事の内容を列挙する。ひとりでいくつもの役割を果たすことも可能だ。フルタイム、パートタイムを問わず、仕事に応じた月給を払うこととする。このリストの順番は、大まかにArtisan’s Asylumで雇ったときのものだ。それに、他のメイカースペースで行っているがウチではやっていない仕事も追加した。実際に必要な仕事はスペースによってさまざまだろう。
- 経理:帳簿管理の責任者。仕事の経理業務を行う。我々は、まっさきに経理担当者を数人雇った。なぜなら、収支の管理と税金の支払いは、お金を払ってでもやってもらうべきスペースの存続に関わる最重要事項だからだ。
- CEO / 専務取締役:主要な連絡窓口であり、初期の組織ではまとめ役となり、その後の組織では管理責任者となる。
- 施設管理責任者:工房と工具の修理やメンテナンスの責任者。早い時期にこれを行う人が必要になる。全体の管理者や責任者には、機械の修理に深く手を突っ込む時間がない。
- 会員サービス:電話、電子メール、苦情の受け答えと、ビジネスが円滑に進むように管理を行う。
- 渉外:外部団体の補助金やパートナーシップを探す。有能な渉外係は給料の何倍もの働きをする。とくに非営利団体では大切だ。
- プログラム:収入源となる教室やプログラムを企画実施をする。
- マーケティング:ビジネスとプログラムを広く宣伝する。
- フルタイム講師:新しい会員に機材の使い方を教え、テストする。
この他の仕事も考えられるだろう。スプレッドシートに、彼らの給与を記録しよう。その前にちょっと助言。講師やトレーナーは、スタッフとは別の契約となる。契約従業員の解説は後で行う。次のセクションに移る前に、給与総額の10〜15パーセントを給与税のために加算しておくことが大切だ。
5. 健康保険と従業員特典
州によっては、従業員を健康保険に加盟させることを義務づけているところがある。Asylumでも、従業員の健康保険料を支払っている。給料はそれほどよくないが、従業員がいつでも必要なときに医者にかかれるように計らっている。我々は、月、1人あたり500ドルという健康保険を見つけた。見積もりでは、月、1人あたり350ドルから1,500ドルというところもあった。また、従業員の特典として、会員権とレンタルスペースを与えている。これは、月150ドルから300ドルの収益に相当する。これを支出として記録するのは納得いかないかもしれないが、お金の流れを明確にして計画を立てやすいように、従業員特典と、それに相当する収益の両方(合計で0になる)を記録しておくことが大切だ。スプレッドシートに、従業員特典のコストを記録しよう。
– Gui Cavalcanti
Gui Cavalcanti、マサチューセッツ州ソマービルのArtisan’s Asylum共同創設者。「How to Make a Makerspace」ワークショップを運営している。
訳者から:広さの単位は平方フィートを平方メートルに「ざっくり」と換算してあります。
[原文]