Fabrication

2013.12.06

StratasysがAfiniaを提訴:デスクトップ3Dプリンター業界の岐路

Text by kanai

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この訴訟の結果如何では、将来のデスクトップ 3D プリンターの開発に大きな衝撃を与えるかもしれない。

業務用3Dプリント業界の老舗であり、先日、デスクトップ3Dプリンターのメーカー、MakerBotを買収したStratasysは、Afinia H-Series 3Dプリンターのメーカー、Microboards Technology, LLC,(長いので、この記事では単にAfinaと呼びます)を特許侵害で提訴した発表した

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この訴訟の意味は大きい。デスクトップ3Dプリンター業界全体に、大変な影響を及ぼす可能性があるからだ。Afiniaは有名な3Dプリンターブランドだ。去年の『MAKE: Ultimate Guide to 3D printing』で、もっとも使いやすいプリンターに選ばれている。Radio Shackなどの大手量販店でも売られている。

大変なことになる理由は、この訴訟がAfiniaだけの問題に収まらないことにある。まだ初期の段階だが(詳しくは後述)、Stratasysの最初の訴えは、すべての3Dプリンターメーカーと、スライシングソフトを対象にしてもおかしくない。この訴訟は、デスクトップ 3D プリントに関わるすべての人に関係してくるのだ。

特許

特許の話に入る前に、いくつか確認しておくことがある。まず、今あるのはStratasysの訴えだけだということ。Stratasysの弁護士が書いた文書があるが、それはできるだけStratasysに利益をもたらすように、あらゆる事実を白日にさらすものだ。だから、その主張の中に事実に反するものはないことを意味するが、訴状の中のどの主張もまともに受け止めるべきではないことも意味している(これはどんな訴状にも言えることだが)。

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次に、訴状は少量の特許に関するものだということだ。この特許は米国特許庁が認可したものだが、だからといって問題がないわけではない。Stratasysはあまり詳しく読んでいないようだ。さらに、Afiniaは裁判の中で(もし裁判が開かれるなら)、特許に異議を申し立ててその範囲を狭めたり、あるいは取り消させることもできる。

3つめは、特許の訴訟には金がかかるということだ。たとえ、Afiniaが特許を侵害していないと確信していても、訴訟に勝つためには何百万ドルもの費用を要する。だから、訴訟に勝てるとわかっていても、和解に応じざるを得なくなる場合も考えられるのだ。

925号特許

訴状では、Stratasysは、Afiniaが4つの特許を侵害していると訴えている。米国特許庁はすべての特許に番号を振っているが、利便性と簡便性を考えて、訴訟の際には、特許番号の下三桁だけで呼ばれることがある。米国特許5,653,925号は925号となる。

Stratasysは、925号は、原則的に3Dプリントオブジェクトのインフィルのコントロールに関わるものだと主張している。3Dプリンターを使ったことのある人なら、インフィルが何かおわかりだろう。3Dプリントするオブジェクトは、中に素材を詰め込むこともできるが、中空にもできる。その使用目的に応じて、中身を50パーセント、75パーセント、25パーセントなどと調整が可能だ。Stratasysによれば、925号は、インフィルの密度を調整して、オブジェクトの内側に隙間を作る方法に関わるものだという。


インフィルの例(STRATASYS INC. Plaintiff, v. MICROBOARDS TECHNOLOGY, LLC d/b/a AFINIA)

少なくとも訴状によれば、Stratasysは、Afiniaがインフィルのコンセプトの実装は気にしていないようだ。そうではなく、Afiniaがインフィルを行っていること自体を問題にしているのだ。つまり、これはあくまでStratasysの訴状を見る限りのことだが、どのプリンターも、何らかのインフィルをコントロールする機能があれば、特許侵害となってしまうわけだ。インフィルを行うソフトウェアも、すべて特許侵害とされる恐れがある。

058特許

Stratasysは、この特許は、加熱式のビルド環境に関わるものだと主張している。とくに、加熱式のビルドプラットフォームだ。加熱式のプラットフォームは、プリントの彎曲を防止するために多くのプリンターに採用されている。今のプリンターでは、珍しくない機能だ。

925号のインフィルもそうだが、058号を侵害する加熱式ビルドプラットフォームも Afiniaだけの問題とは言えない。この特許を回避するための面白い議論がここにあるが、Stratasysの解釈では、これはAfiniaに限ったことではなくなる。

124号特許

124号特許は、Afiniaのエクストルーダーに関わるという主張だ。正直言って、この特許がAfinia以外のどれだけのプリンターに関わってくるのか、ちょっとわからない。Afiniaのエクストルーダーにどれだけ独自の改良が加えられているか、特許で使われている言葉をどれだけ広く解釈するかによる。私が思うに、Afiniaのエクストルーダーは、唯一この特許を侵害していると言えるほどユニークなものではない。あまり自信がないので、反対意見のある方はコメントを書いてほしい。

239号特許

最後に、239号特許は、レイヤーのつなぎ目の塞ぎ方に関するものだ。基本的に、レイヤーの始点と終点を隠して、つなぎ目を目立たなくする方法だ。下の図は、訴状に載せられた特許の説明図だ。レイヤーのつなぎ目の隠し方がよくわかる。

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Afiniaのソフトウェアでは、プリント用にモデルを準備する際にこれが行われ、あとはプリンターがそのとおりにプリントする。124号特許によれば、Afiniaが、この特許に触れる何か特別なことをしているようには見えない。私は、特別なものはないと思ったのだが、Afiniaが継ぎ目を隠す特別に素晴らしい技術を使っていると思われる方は、コメントに書いてほしい。

つまりどういうことか?

この訴訟が抱える大きな問題は明確だ。業務用3Dプリントの老舗として確固たる地位にある企業が、デスクトップ3Dプリンターを訴えたということだ。3D SystemsがFormlabsを訴えたときとは話が違う。Afiniaは、多くの3Dプリンターに広く使われている技術を使っていただけだ。それがどうであれ、この訴訟の結果は将来のデスクトップ3Dプリンターの開発に大きな影響を与える。

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FormlabsのForm 1デスクトップSLA 3Dプリンターは去年、3D Systemsに訴えられた。

より詳しい影響は明確ではない。いろいろなものが振り落とされていく状況による。とは言え、ここにいくつか考えておくべき疑問を提示する。先に言ってしまうが、最初の2つについては、いい答が見つからない。というか、ほかの答えもわからない。それについては申し訳なく思う。

なぜ Afinia なのか?

上でも述べたように、どのような特徴的な機能または要素が原因でAfiniaが訴えられることになったのかは、訴状からはハッキリとはわからない。問題の特許について、コミュニティが深く議論していくうちにわかってくるのかもしれない(Have Blueが立ち上げたこのRepRapコミュニティのスレッドでは、すでに議論が始まっている)。しかし、今のところは、ほとんどのデスクトップ3Dプリンターに対して、問題の特許の少なくともひとつを侵害していると Stratasysが訴えてくることを覚悟しておくほうが安全だ。

Afiniaは好意的な注目を浴びた。それがStratasysの目に留まったのかもしれない。去年、MAKEから「もっとも使いやすい」と賞され、今年のガイドブックでも好意的なレビュー記事(ちなみに70ぺージ)が書かれている。さらに、Radio Shackと販売契約を結ぶなど、大いに目立った。

そうしたことから、Afiniaは人目を引く標的になった。しかし、一番ではない。Afiniaは、UP Plusプリンターのアメリカ販売代理店に過ぎないのだ。それが特別視されたとも思えない。Afiniaは他の3Dプリンターメーカーよりも大きなポケットを持っているが、もっと大きいポケットを持つメーカーも多い。3D Systemsは、Stratasysと同じ機能を持つプリンターを販売している。金銭目的なら、ずっと肥えた獲物になる(実際は、Stratasysと相互ライセンス契約を交わしているのだけど)。もっと重要なのは、この訴訟の目的が、特許侵害による損害を回収することではなく、おそらくAfiniaを止めることにあるという点だ。

それにしても釈然としないのだが、なぜStratasysがAfiniaを訴えたのか、よくわからない。

なぜ今なのか?

Stratasysは、これらの特許を1990年代の後半から持っている。しかし、Makerbotを買収するまで、デスクトップ市場に入ろうとはしていなかった。Afiniaなどのプリンターが彼らの特許技術を使っているとするならば、10年前に低価格なデスクトップモデルを販売していてもおかしくない。しかし、どんな理由からかわからないが、彼らはそうしなかった。

Afinia and UP printers during this year's 3D printing shootout weekend.
今年の3Dプリンター・シュートアウト・ウィークエンドで使用したAfiniaとUPプリンター。

なぜ今、Afiniaを訴えたのか? デスクトップ市場が爆発的に成長していることは、誰の目にも明かだ。Stratasysは、このデスクトッププリンターの狂乱をとうとう止める時期が来たと考えたのか、それとも、市場の主導権を握ろうと行動に出たのか。もしStratasysが、この訴訟を発表した広報資料にあるように、知的所有権の侵害が新技術開発のための投資を躊躇させると思うのなら、なぜ今まで黙っていたのか。ライセンス契約をしていないプリンターは、その技術をもう何年も前から使っているのに。Stratasysは、ここまで耐えてきたが、とうとう技術開発への投資がイヤになって、訴訟に踏み切ったというのか?

タイミングを考えると、StratasysによるMakerbot買収が完了した直後だ。MakerbotのプリンターがStratasysの特許を侵害していると考えていたとしたら、面白い。これによって、Makerbot以外のデスクトッププリンターが市場に入りにくくなったとしたら(または既存のプリンターが市場に残れなくなったら)、これまた面白い。

もしかしたら、大きな企業が訴訟を起こしたがるのは感謝際のせいかもしれない。去年の感謝祭には3D SystemsがFormlabsを訴えた。今年の感謝祭にはStratasysがAfiniaを訴えようとしている。2014年の感謝祭にもどこかが訴訟を起こしたら、私は先見の明があるということになる。

今何が起きているか?

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MakerBot Replicator 2。MakerBot は先日、Stratasys に買収された。

まず、Afiniaは反論ができる。この訴状は、Stratasysが非常に都合良く書いている。この訴状に穴を開けるような反論を準備することが、Afiniaにとって得策だ。この記事の目的のために、私はStratasysの特許が、彼らが主張するようにすべてに及ぶと想定している。しかし、それは大大大間違いになる可能性がある。Afinia側の動きに注目だ。

やがてこの訴訟は法廷に持ち込まれることになる。前にも言ったが、特許訴訟は恐ろしく金がかかるものだ。実際に勝てるかどうかの判断に加えて、Afiniaは、裁判費用を支払ったうえで会社が存続できるかを考えなければならない。Formlabsと3D Systemsの場合は、和解に持ち込まれたとしても驚くことではない。Stratasysの主張がどれだけ強いかに関わらず、これが現実だ。

次に何が起こるか?

もっとも、または少なくとも他と同じぐらい興味深いのは、次に何が起こるかだ。 判決が下されるか、和解が成立した後のことだ。

Stratasysが勝てば(または和解が成立すれば)、彼らは何をするだろう? 他のデスクトップ3Dプリンターのメーカーを訴えて、彼らを市場から一掃しようとするだろうか。特許のライセンスを要求して、実質上、市場の一部を取り込むことで生き残りを図ろうとするか。3Dプリンター関連のソフトウェアを作っている人たちはどうだろう。彼らには免役があるのか?

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他の3Dプリンターメーカーはどう反応するだろうか。Stratasysとライセンス契約を結ぼうとするのか。特許を回避するために独自技術の開発を始めるのか。それとも資金が底を突いてビジネスから退場するのか。

さらに、RepRapなどのオープンソースの3Dプリントコミュニティはどうするのだろうか。アメリカには、Stratasysの特許を侵害している市販のプリンターと同じぐらい、特許を侵害しているRepRapプリンターを個人で作って使っている人たちがいる。StratasysはRepRapコミュニティも標的にするのだろうか。いろいろな意味で、それは大きな間違いだ。しかし、訴訟の世界ではたくさんの大きな間違いが毎日まかり通っている。

これにより、コミュニティと業界全体が冷や水を浴びせられて縮み上がり、デスクトップ3Dプリンターの急速な発展の時代は終わりを告げるのだろうか。もしそうなら、Stratasysはその責任をどうとるのか。

疑問はいくらでも浮かぶが答には時間がかかる

この記事の冒頭に書いたとおり、この訴訟は大変な問題をはらんでいる。それは、デスクトップ3Dプリントの将来に関する根本的な疑問が数多く含まれている。その疑問の一部をここに列挙したが、これだけに止まらないのは明白だ。

疑問はいくらでも出てくる。しかし答はなかなか出てこない。それは、Stratasysの特許について詳しく調べて、デスクトップ3Dプリンターの技術的な理解を深めるにつれて、わかってくることだと思う。その他は、訴訟が結着したときにわかるだろう。さらに、この訴訟の後遺症が治まったあとにならないとわからないこともある。

それまでは、この訴訟から目が離せない。みなさんの直感が大切だ。これはこの2つの企業間だけの問題ではない、と考えるのが正しい。この数年間、3Dプリントの世界はエキサイティングだったが、その基盤は危ういものだったのかもしれない。今、私たちは、このコミュニティがどれだけ強くなったかを確認できるいい機会を得たと言えるだろう。

– Michael Weinberg

原文