Fabrication

2014.07.25

Joe Olsonの車椅子ハッキング

Text by kanai

Joe Olsonは障害者だが、DIYabilityに参加するMakerでもある。DIYAbilityとは、John SchimmelがDIY支援技術のための同名のウェブサイトで使っている言葉だ。私は6月8日に開かれたワシントンDCのMini Maker FaireでJoeに会った。彼は1999年に高校を卒業した直後に交通事故で首の骨を折り、以来、車椅子生活を送っている。

彼は私に、小さな“金属製のミット”を見せてくれた。それは、彼の車椅子を操縦するためのジョイスティックのハンドルとして作られたものだ。標準的な“ゴールポスト型”のジョイスティックは彼には使いづらかったので、自分に合った形をデザインして3Dプリントしたのだ。プラスティックでも作ってみたが、彼はShapewaysでプリントした金属のほうを気に入っている。他にもこの“エルゴジョイスティック”を欲しがる人がいるに違いないと思った彼は、デザインを公開して製造させている。彼が使っているのはStingrayというモデルだが、ergojoystick.comには他にもいろいろなモデルがある。

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Joeはスペリオル湖に近いミシガン州マーケットの出身。事故の後、コロラドでしばらくリハビリ生活を送り、ミシガン州立大学に進学して、2004年に機械工学の学位を取った。そして2007年、ピッツバーグ大学でリハビリテーション科学および技術の修士号を取るために引っ越した。ピッツバーグでは、Rory Cooper率いるHuman Engineering Research Laboratoriesで研究を行った。彼はそこで「それまでは絵に描いたり頭で考えたりするだけだったものを実際に作る方法を学んだ」という。さらに2010年、政府の施設エンジニアとして働くためにバルティモアに移った。

Joeは、Todd Blattを始めとするBaltimore Node MakerspaceのメンバーといっしょにDC Mini Maker Faireに参加していた。Joeはそのメイカースペースのメンバーではないのだが、彼はそこを何度か訪れ、友だちになり、手を借りているのだという。彼はこう話す。「Baltimore Node は、MakerBotで働いていた友人のMarty McGuireと、ピッツバーグ時代からの知り合いでUMBCの教授、Amy Hurstが教えてくれました」

「数年来の友人です」と語るのはAmy Hurst博士。UMBC(メリーランド大学バルティモア郡校)Human-Centered Computingの助教授。彼女はそこで近接性における“メイキング”の可能性について研究している。彼女とJoeは、ピッツバーグの大学院で同じ研究室にいたのだ。「たまたま2人とも、卒業後にバルティモアに引っ越してきて、よく会うようになったんです」と彼女は話す。彼女とJoeは、Joeのコントローラーについて、そして「彼が他の人を助ける方法(製造、マーケティング、宣伝の戦略)」について話し合った。

彼女のウェブサイトに詳しく書かれているが、Hurstはこの分野で数多くの論文を発表している。2011年にJasmine Tobiasと共同執筆した『DIY支援技術で個人をエンパワーする』という論文では、高速プロトタイピングツールとインターネットのコミュニティが支援技術の導入を加速し、市販品を使う方法に取って代わるソリューションを拡大していると指摘している。

「私たちは、既存のDIY文化とツールを使って、支援技術の創造、改良、強化を行う方法を研究しています。新世代の安価な高速プロトタイピングツールの登場により、車椅子のアクセサリー、装具、食事や着衣やコンピューターの使用といった日常の活動を支援するツールなど、物理的な装置の製造や改造が、個人で行えるまでになっています」

Hurstは、新しいプロジェクトのひとつに「電動車椅子をモバイルコンピューティング・プラットフォームとして活用する機会を探るChairable(チェアラブル)コンピューティングの研究」だと付け加えている。『Wearables and Chairables: Inclusive Design of Mobile Input and Output Techniques for Power Wheelchair Users』(ウェアラブルとチェアラブル:電動車椅子ユーザーのためのモバイル入出力技術の総合的デザイン)と題された論文(Carrington、Hurst、Kane)では、車椅子生活のためのデザインについて語られている。研究者の1人はこう強調している。

「私の車椅子は、単に移動するための椅子ではありません。1日のほとんどの時間をこの上で過ごし、家の中でも外でも、私の活動のほとんどすべてに車椅子を使用しています。ある意味、これは私の家のようなもの……私の体の一部です。そのため、もっと高機能であってほしいのです」

Joeがやっているのはそれだ。そして、私たち全員がもっと学ぶべきことでもある。私はJoeに電子メールでいくつか質問してみた。

車椅子のジョイスティックを改良できるということは、どのように知ったのですか?

私は、好機に恵まれ、そして必要に迫られてハンドルのデザインを始めました。私は新しい車椅子を入手したのですが、ハンドルが手に馴染みませんでした。私は数年間、Solidworksでデザインの仕事をしていたので、研究室の3Dプリンターを個人的な目的で使うことを許されていました。最初のデザインは、単に恰好をよくするためのものでした。しかし、それは以前のハンドルよりもずっと使い心地がいいことがわかったのです。またそれは微調整を必要としました。およそ7年間をかけた微調整です。

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開発のプロセスを教えてください。

最初のデザインは、ハンドルが手の凹凸にフィットさせたいというところから始まりました。ハンドルの下に親指がぶらぶらするのも嫌でした。最初に作ったものは、その両方にうまく対応してくれました。しかし、すぐに気がついたのです。ハンドルを前に倒すと、手首が前に曲がるため、手が前方に滑ってしまうのです。他のハンドルではそんな問題はありませんでした。それは、数年前にハンドルをテーブルにぶつけて、シャフトを曲げてしまったことが原因でした。ハンドルは後ろに傾いているのです。新しい車椅子をガンガン叩くのは嫌だったので、ハンドルのほうを、傾きを考慮した形に作り変えました。それがうまくいきました。そして、オリジナルデザインのよいところを残したまま、使う素材の量を減らして軽量化と低価格化を行いました。

いい気になった私は、Solidworksを使いこなせるようになった自信も手伝って、見栄えも本当にクールなハンドルを作ろうと決めました。私は、高級な自転車用ヘルメットの空気を通すデザインが大好きでした。モデリングにはいつもの10倍の時間がかかりましたが、出来上がりは上々でした。それは、Aeroというハンドルです。

image02私はそれを赤いツールグリップに浸しました。滑らなくなり、艶が出て、さらに使い心地がよくなりましたが、剥がれやすいのです。なので、販売する製品には使わないことにしました。このハンドルはそれから4年間使いました。そしてある日、車椅子を運転しているとき、私はハンドルについて間違った考えを持っていたことに気づきました。力を分散するためには、できるだけ大きな面積で手の平を受けることが大切だったのです。そして、私の手の平の形状に合わせたモデルを作り始めました。もし3Dスキャナーが使えていたら、クレイでモデリングしたかったのですが。そうもいかず、私はフラットベッドのスキャナーで、自分の手の平を4分の1のサイズでスキャンしました。そして仮想の手の骨格を作り、適切な位置を想像して配置し、サーフェイスを使って“スキン”を作り、それをプリントしました。それは、私の手にとても近いものとなりましたが、角度がまるで狂っていました。それを修正したあと、あることに気がつきました。手がけいれんを起こしたとき、親指と人差し指の間にある突起から親指が離れなくなるため、車椅子がめちゃくちゃに動き回るのです(怖くてちびりそうになります)。それから3回イテレーションを行った結果、手が前方にずれることを抑えつつ、突起に親指が引っ掛からない形にできました。さらに2回イテレーションを行い、手が滑り落ちず、手首が外側に回転しない形にしました。これで左に曲がるときも肘を上げずに済みます。これはStingrayというモデルになりました。

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今は何を作っていますか? 次はなんでしょう? または今必要なものは?

今は売りたいんです! 自分で作ったものが、自分以外の人の役に立つのなら、この製品のことを多くの人に知ってもらって、使ってもらいたい。私は、ものを実際に作るよりもデザインすることのほうが向いていると気づきました。さまざまな状態の電動車椅子のユーザーから、とても前向きな意見もいくつかいただいてます。マーケティングの経験があり、そちら方面で手伝ってくれる人を探しています。

あなた自身や他の人たちのために解決すべき問題は?

自分でテストして試してみながら問題を解決したいと思っています。最良のデザインは、ユーザーであるデザイナーから生まれると私は思います。車を運転しない人がデザインした車を買いたいと思いますか? 今、取りかかっているプロジェクトがいくつかありますが、それを楽しく実行するためには、助けが必要です。電動式と手動式の新しい車椅子を作りたいんです。溶接のうまい人、電気系統に詳しい人、オートメーションに経験のある人を紹介して欲しいと思っています。

Joe OlsonのErgoJoystickウェブサイトも見てほしい。Joeの製品を売る方法や、DIYabilityに手を貸してくれる人を探す方法について意見のある人は、コメントに書いてほしい。

訳者から:「赤いツールグリップ」というのは、Tool DipかPlasti Dipのことだね。

– Dale Dougherty

原文