Fabrication

2014.09.04

StratasysはAfiniaに対する訴訟でひとつの特許を取り下げた

Text by kanai

Stratasys_versus_Afinia.fw

最終章

去年の11月に、StratasysMakerBotが所有する会社)がMicroboards Technology, LLCAfiniaデスクトップ3Dプリンターを販売している会社)を特許侵害で訴えたのを覚えておいでだろうか。4つの特許を侵害しているとしてStratasysがAfiniaを訴えたのだ(リンクは日本語版記事)

これは単にStratasysとAfiniaだけの問題ではない。なぜなら、Stratasysの特許技術は多くのデスクトップ3Dプリンターも使用しているからだ。先月、法廷はStratasysに対して、インフィルの制御に関する特許に関する侵害訴訟を取り下げるように命じた。つまり、問題とされた4つの特許のうちひとつ(インフィルに関係するもの)には効力がないということだ。さらに、この特許は永遠に法的効力を失うことになる可能性がある。

背景

最初の訴えでは、StratasysはAfiniaを4つの特許侵害(リンクは日本語版記事)で訴えた。インフィルの制御に関連する925号、ビルド環境の過熱に関連する058号、Afiniaのエクストルーダーに関連する124号、つなぎ目を目立たなくする方法に関連する239号だ。

この訴訟に対抗して、Afiniaはこの4つの特許は無効であると反論した(リンクは日本語版記事)。そして、特許制度を悪用して3Dプリンター市場を独占しようとしているとStratasysを訴えた(リンクは日本語版記事)。それぞれの特許に対する反論は、それぞれの事実に基づいて行われているが、ここでは、取り下げの命令が出された925号に的を絞ってお話ししたい。

先行技術の発見と昔のStratasysの特許

USPatentOfficeSeal925号特許は3Dプリントされるオブジェクトのインフィル(充填)の制御に関するものだ。特許を取得するためには、申請者はこの発明が明らかに新しいものであることを証明しなければならない。そのため、“先行技術”の侵害を避けるために、申請された内容が狭められて認められることが多い。出願された技術の中に、出願以前より存在した技術が含まれていれば、それは先行技術と見なされる。出願以前に同じ発明が特許を取得していたなら、その発明は新しいとは見なされない(特許は下りない)。

Afiniaは、その反論の中で、そもそもStratasysが925号特許を申請した際に発見されるべきであった先行技術を示している。だが、これは単なる先行技術ではなかった。Afiniaは、Stratasysが特許申請した発明のなかに、すでにStratasys自身が持っている特許技術が含まれていたと指摘した。この古い特許のことがわかっていれば、925号特許は認可されなかったはずだ。

不正行為の指摘

Afiniaの反論はさらに続いた。もし、古い特許が本当に925号特許に含まれていたなら、925号を無効にするだけの十分な理由になる。ところが、古い特許は単なる古い特許ではない。Stratasysの古い特許だ。つまり、Stratasysは、特許を申請する際に、そのことを知っていたはずなのだ(または、知っているべきだった)。特許庁でこの事実を調べ上げたAfiniaは、不正行為と特許権乱用を主張した。Stratasysには、古い特許の存在を特許庁に申告する義務があったのにしなかった。それが不誠実であるとAfiniaは言っている。

Stratasysは取り下げを決断

scalesOfJusticeAfiniaの反論の後、Stratasysは自主的に925号の特許侵害に関する訴えを取り下げることを決めた。ところが、Stratasysは、もしAfiniaが反訴を取り下げるなら特許侵害訴訟を取り下げると申し出た。Stratasysの特許は無効であり、Stratasysは不正行為を行っているというAfiniaの訴えだ。Afiniaはこれを蹴った。

そのすぐ後、StratasysAfiniaは、法廷に2ページの短い書簡を送り、自主的に特許侵害訴訟を取り下げるというStratasysの提案に対して、Afiniaは反訴を取り下げるべきか、あるいは取り下げるべきでないかを説明した。

Stratasysの立場はわかりやすい。Stratasysは最初の訴訟を取り下げる。Afiniaは最初の訴訟に対する反訴をすべて取り下げる。

Afiniaの反応はこうだ。たとえStratasysが特許侵害訴訟を取り下げたとしても、Afiniaは反訴を取り下げない。なぜなら 1) AfiniaはStratasysが特許を使って再び彼らを訴える恐れがあるからだ(StratasysがAfiniaのプリンターの特許侵害の訴訟を取り下げたからと言って、Stratasysが、将来、新しいプリンターに対して同じことをしないとは限らない)。2) Afiniaは925号特許で行ったような調査をすれば、058号にも同じような問題が発見されるはずだと考えている。3) Afiniaは、925号に関する訴訟でこれまでに請求されているすべての弁護士費用を取り戻したい。

Stratasysは取り下げを命令される

7月11日、裁判所はStratasysに対して925号特許に関する訴えを自主的に取り下げるよう促した。しかし、Afiniaには反訴を取り下げよとの命令はなかった。その代わり、Stratasysが925号の訴訟を取り下げた後、裁判所はAfiniaの反訴に基づいて、両者の訴えを再考するという。何も新しいことが出てこなければ、これでStratasysの訴訟とAfiniaの反訴とのつながりはなくなる。

これが意味するもの

Stratasysは925号特許に関する訴訟を取り下げたいと考えた裏には、少なくともAfiniaの反撃を避けたいという考えがあった。つまり、Afiniaの反訴に真実が含まれていたと考えられなくもない。ともかく、どう少なく見積もっても、現在のAfiniaのプリンターが925号特許を侵害していると指摘されることはない。

しかし少なくとも現時点では、Stratasysは他のメーカーに対してその特許権を行使することができる。だから、Afiniaの反訴に対する裁判所の決断は大きな意味を持つ。もし裁判所がAfiniaの反訴を棄却すれば、Afiniaはその特許の無効性を証明することができなくなる。裁判所が反訴を認めれば、AfiniaはStratasysの925号特許の取り消しを訴えることができる。925号が無効とされれば、Stratasysはその特許権を使って誰かを訴えることができなくなる。

Afiniaが反論を行ったときの記事で、Afiniaの法的根拠の強さはまだわからないと書いたが、現在、少なくとも925号に関して言えば、Stratasysが訴訟を取り下げさせるだけの十分な強さがある。

残念ながら、より大きな3Dプリント業界やコミュニティにこの訴訟が与える影響については、まだわからない。Stratasysが925号の特許権を使って他のメーカーを訴える可能性は低くなっているが、訴えないとは言い切れない。しかも、Stratasysの特許が認められるか、取り消されるか、それとも何も決まらずに和解してしまうかも、まだわからない。さらに言うなら、この訴訟で生き残った特許を使ってStratasysが何かを仕掛けてくるかどうかもわからない。

今はっきりしているのは、公判期日が2015年12月1日と決められていることだ。今からそのときまでの間に、925号特許に対するAfiniaの反訴の結果がわかる。その他の特許と反訴に対する判決も下されるかもしれない。

結論として私たちにわかるのは、デスクトップ3Dプリントの成長がこれからも続くということであり、そうなるのが望ましいということだ。

– Michael Weinberg

原文