2014.11.19
スノーボードを空撮するための自動追尾ドローン「SoraCam」―ソラカムプロジェクト[MFT2014出展者紹介]
9月にmakezine.jpで掲載したYouTube動画を元にした記事を覚えているだろうか。「ソラカムプロジェクト」と名乗るグループが公開したこの映像は、雪山のゲレンデでスノーボーダーが持つビーコンを自動追尾するドローンによるもので、迫力のある映像と安定した追尾性能が目を引くものだった。
彼らのウェブサイトによれば、機体はDJIのPhantom、制御ソフトにArduCopterを利用しながら、ビーコンと追跡アルゴリズムは独自開発のもの。さらに、今年は3DRobotics、DJIの部品を流用しながら、機体を独自設計するとある。
同プロジェクトのウェブサイトには、前述の映像の他にもドローンのテストの様子の映像や、開発のメンバーと思わしき写真のほかに、ドローンやビーコンに関する技術情報もアップされている。また、完成の暁にはソフトウェア、ハードウェアともにオープンソースとして公開する予定だというのも興味深い。
その彼らがMaker Faire Tokyo 2014に出展するというのでコンタクトをとり、チームや機体についてリーダーの福田健太郎さんにお話をうかがった。なお、ソラカムプロジェクトは愛知県をベースに活動しているため、今回はスケジュールなどの都合のためSkypeによるビデオ通話で取材を行った。
スノーボード×モノづくり=自動追尾ドローン
福田さんがSoraCamを開発しようと思ったきっかけは、趣味であるスノーボードと、仕事で培ったモノづくりのスキルを掛け合わせられないかと考えたことだという。
「ちょうどGoProがかなり普及していたため、GoProの次を考えていたときに空撮じゃないかと思い、ちょうどその頃発売された初代Phantomを購入して空撮をしてみたところ思った以上に難しく、これを自動にできたらいいんじゃないかと思い、開発を始めました」
福田さんの本職は自動車部品メーカーのエンジニアで、周囲には機械設計や電子制御の専門家が多くいる。そこで、自身が参加していた社内勉強会のメンバーなどに声をかけたところ10人ほどのメンバーが集まった。それぞれ専門のスキルを持っており、主に機械系、電気系、制御系に分かれて作業を分担して、SoraCamの開発がスタートした。
趣味とはいえ10人近い人数が集まって作業するため、ある程度のマネージメントなどが必要になってくる。また、作業スペースの確保も必要だ。そこで、FacebookグループやDropboxなどで情報共有をはかり、専用の作業スペースとしてアパートを借りるなど、かなり本格的な取り組みとなっている。開発作業は、基本的に週末に集まれるメンバーが作業スペースに集合して行っているが、平日の夜に自宅で作業をするメンバーもいる。そして、全体のとりまとめを福田さんが担っている。
「2013年3月の映像ですが、思っていたよりもうまくいきました。ただ、できすぎのところもあって、ドローンが近づいてきてしばらく併走しているんですが、あれは偶然だったんです(笑)」
当初は1年で終了するつもりだったが「もっと完成度を上げたい」とメンバーの意見がそろったため、2015年3月までプロジェクトを延長。そして、今回の新たな挑戦として、ドローン本体の独自設計に取り組んでいる。新しいドローンのポイントは、外骨格だという。
「多くのドローンはラダー状の骨組みにパーツをマウントしているんですが、新しいドローンは外骨格にしています。元々は、簡単な防水性を持たせるために全体をカバーで覆うつもりだったんですが、どうせカバーで覆うならフレームを取り除いて、カバー自体を強度部材にした。いわゆるモノコックですね」
スノーボードの空撮という目的のためには、当然ながら雪山で問題なく利用できる必要がある。そのための防水だという。だが、現在のところ、モノコック構造をとっているドローンはあまり例がなく、福田さんの知る限りではDJIのPhantomくらいだそうだ。ボディそのものは機械設計担当のメンバーがCADで設計し、DMM.makeの3Dプリント出力サービスを利用している。
SoraCamを作りたいという人のためにオープンソースへ
まもなくスノーボードシーズンに突入する。「スノーボードを自動で空撮する」という目的のためには、もちろん雪山でのテストが欠かせない。
「ゲレンデでのテストは1日がかりなのでメンバー間の調整がつかず自分ひとりでテストに行くことも多かったですね。でも、残念なことに、テストの時は好き勝手に滑れないんですよね(笑)」
2015年3月までに「メンバー以外のユーザに使ってもらえるレベルの使いやすさと性能を持つプロダクト」という目標を達成したら、ソラカムプロジェクトは終了となる。その後に付いては、現在のところ未定だという。
「1年ごとのプロジェクトとしてやっているので、継続は(2015年3月時点の)状況次第ですね。もっとやりたいというメンバーがいれば、やるかもしれない」
さて、冒頭にも書いたが、完成の暁にはボディの3Dプリンター出力用のデータも、制御ソフトのソースコードともに公開する予定という点が気になっている読者も多いだろう。ソフトについては、すでにGithub上で公開されているが、それ以外にもSoraCamの再現に必要な情報は全て公開する予定だという。
また、フライトコントローラやESC、モーターなどの部品のほとんどは、クリス・アンダーソンの3DRoboticsやDJIから購入したもので構成されており、入手しやすさも考慮されている。部品の総額はおよそ10万円前後で、このクラスのドローンとしては妥当なところだろう。
「起業とかを考えているわけではないし、完成品の販売は法的責任などもあって難しいのですが、自分たちでSoraCamを作りたいという人が取り組めるようにはしたい」(福田さん)
ドローンは急速に認知され、利用者が拡大しつつあるが、同時に安全性について指摘する声も高まってきている。誰もが簡単にドローンを飛ばせるようになるほど、周囲への配慮や安全性確保のためのルールが必要になってくる。福田さんたちも、そうした状況への配慮とSoraCamへの高い注目とを勘案した結果、現時点ではこういう形での情報公開が妥当だとの判断をしたという。
なお、Maker Faire Tokyo 2014では、開発中の実機の他、これまでの試作機の展示や、映像を流す予定だという。また、開発が間に合えば、会場でのフライトデモも行う予定だとのことだ。楽しみにしたい。
(写真提供:ソラカムプロジェクト)
– 青山 祐輔
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