2020.10.19
「Maker Faire Tokyo 2020」レポート #1 — 1本の糸から立体を編み上げる「ソリッド編み機」
大学でデジタルファブリケーションを研究していた廣瀬悠一氏が出展したのは、編み物で立体形状を出力する「ソリッド編み機」である。
ソリッド編み機が直方体の形状を編んでいく動画
一般的な編み物は、1本の糸から2次元の面を編んでいく。編み方のデータがあれば現物がなくても複製が可能だ。このことは立体データを送信した先で3Dプリントすれば、立体物を輸送する時間や手間がかからないのに似ている。編み物のデジタル的な側面に気付いた廣瀬氏は、2次元の面を積み上げて3次元の形状を編む「ソリッド編み」を考案した。
ソリッド編みではそれぞれの面はつながっており、面を積み上げた3次元形状の全体が1本の糸でできている。面を積層して立体を編み上げるという意味で、これは編み物による3Dプリント技術ともいえる。
人の頭の3次元データを編み物のデータに変換し、手で編み上げた立体形状。編むのに1週間ほどかかった
ロープを編んだ立方体は頑丈で、人が上に乗ることができる。サンダルは2種類のひもで編んだパーツを組み合わせた
編み物はほどけば1本の糸に戻り、別の編み物の材料にできる。そこはソリッド編みも変わらない。樹脂などを積層する3Dプリント技術とは大きく異なる特徴だ。このことを利用すると、ソリッド編みで作った子供用の椅子が小さくなったら大きく編み直すといったアップデートが可能になる。机を椅子に編み直すようなリサイクルもできる。必要なときだけ造形して利用し、不要になったらほどけば保管場所の節約にもなる。
3次元データを編み物のデータに変換して編み上げる様子と、ソリッド編みの立方体をほどいて1本のロープに戻す様子の動画
現在のソリッド編み機は直方体を編むことができる。ソフトウェアの変更によって三角柱を編めるようにはなるが、四角錐やさらに高度な形状を編むにはハードウェアの改良が必要だ。
現在のソリッド編み機で作れる形状と将来的な展望
ソリッド編みに大いなる可能性を感じている廣瀬氏は機械メーカーを退職し、現在はフリーランスとしてソリッド編みを研究している。海外の研究室から「一度来てみては」というオファーも受けており、新型コロナウイルス感染症の拡大が治まれば渡航も検討しているという。
11月22日から29日まで、浜松市の鴨江アートセンターでソリッド編み機の展示やトークイベントが開催されるとのことである。