英語版編集部より:社会の役に立つ新しい技術をデザインし、製作し、実用化するコンテスト、SamsungのSolve for Tomorrowに、アメリカ全国の中学生、高校生が参加し、環境問題から社会問題まで、さまざまな問題を解決するためのプロジェクトが提出された。参加者のうちのいくつかのグループは、応募の動機や難しかった点などについて書いてくれた。ここに、そんな彼らの話を紹介しよう。
ベビー・セイバー 2000
アーカンソー州ビービ中学校、Mason CovingtonとTyler Duke
車の中で高温のために赤ちゃんが亡くなる事故をなくそうと、Baby Saver 2000の開発を思い立ちました。昨年は、高温になった車内で37人の子どもたちが亡くなっています。2017年でも、すでに2人が命を落としています。これは、夏に高温になる南部だけでなく、世界中で深刻な問題になっています。外が摂氏27度のとき、子どもが耐えられなくなる摂氏50度になるまで、わずか60分しかかかりません。人間の体は、内部体温が摂氏41.6度に達すると、臓器が停止し始めます。
2015年、アーカンソー州でひとりの少年が高温の車内に放置されて死亡しました。その事件と裁判の様子は、今でも地元のニュースで取り上げられ、記憶に新しいところです。私たちは、世界中で起きているこうした事故を防ぐことができないかと、このプロジェクトを思いつきました。開発の開始時点で、私たちは、自動車にはすでに多くの技術やセンサーが搭載されていることを知っていました。キーを入れたまま車を降りようとしたとき、ヘッドライトが点きっぱなしだったとき、シートベルトが装着されていないときなど、アラームが鳴って知らせてくれます。
しかし、子どもの命を守ることを目的にしたセンサーは、自動車には組み込まれていません。2017年の時点で、そんな技術が実現し、安く手に入るようになっているべきでした。車の中では、赤ちゃんはどこに座るでしょうか。チャイルドシートです。そこが、子どもの状態をモニターする技術を組み込むには最良の場所です。
最初のプロトタイプは、レゴ マインドストーム EV3で作りました。私たちのコンセプトが実際に機能したときはうれしかったです。ところが、それをチャイルドシートに組み込むことができませんでした。そこで、考え方を変えて、親に警告を送ることにしました。最初は、ArduinoとSIMカードを使って親にメッセージを送るようにしたいと考えました。
いろいろ話し合った結果、電話に気がつかなかったり、携帯電話を家に忘れてきたり、圏外だったりする可能性もあることがわかりました。私たちはEvenFloの技術者を訪ね、貴重な助言をもらいました。装置を起動するためのスイッチは使わないこと。スイッチを入れなくなったり、ヒューマンエラーで犠牲者を出したりする恐れがあるからです。そして、装置はユーザーフレンドリーでシンプルであるべきだとのことでした。
私たちは、このアイデアを、リトルロックにあるArkansas Innovation Hub(アーカンソー・イノベーション・ハブ)に持ち込みました。そこでは技術者のNick Jonesが、さらなるプロトタイプの開発を助けてくれました。私たちは、圧力パッドをグラウンド線に接続して、Arduinoのコードが起動するようにしました。子どもをチャイルドシートに座らせるだけで起動するので、とてもシンプルでユーザーフレンドリーな仕組みができました。
この装置には、いろいろな応用の道があります。ソーラーパネルでバッテリーを充電できるようにしたり、車のエンジンを切ったときに、シガーライターからArduinoに信号が送られ、温度変化の測定を開始するようにもしたいと思っています。今後も改良を続け、子どもの命を守るためのシンプルな技術を人々に提供することが重要だと考えています。
野生動物検知器
アリゾナ州スノーフレーク中学校、Kaika Burk、Christian Watson、Anna Burger、KayBree Raisor
アメリカでもっとも危険な動物には、大きな爪も、鋭い歯も、毒牙もありません。驚くべきことに、毎年、150人もの人々が、鹿などの大型の野生動物との衝突により亡くなっています。
米連邦高速道路局研究技術部は、野生動物との接触事故は、1年間に百万件を超えると発表しています。大手保険金融会社の計算によれば、野生動物との接触事故による去年の損害の平均額は3,995ドルにのぼります。アメリカでは、昨年だけで、野生動物との接触事故のために400億ドルも使われたことになります。
こうした動物との接触事故を防ぐために、私たちは、安価な野生動物探知システムの開発を決心しました。動物の探知システムは以前から存在していますが、非常に高価で、広範囲をカバーする能力に欠けています。
開発当初、私たちのデザインは、柱に固定する方式の大型で高価なものでした。しかし、経済的な理由と、製造の難しさから、プロジェクトは進化してゆきました。成功するためには、装置は安価で、製造が簡単で、取り付けが簡単であることが求められます。
最終デザインでは、高さ30センチの動作感知器となりました。それは、道路脇のガードレールの柱に取り付けることができます。動きを感知すると、すべての装置に無線で信号が送られ、30メートルにわたって、ガードレールに沿ってプログラムされたパターンでストロボが光ります。これで、ドライバーに、道路の近くに動物がいることを知らせます。
すべての立体パーツは、SketchUp Makeでデザインしました。そのファイルを3Dプリンターに送りました。プリントした部品は、レイヤーの跡が見えなくなるように紙ヤスリで磨き、塗装して、滑らかな表面に仕上げました。
3Dプリントには時間がかかるので、スピードアップするために、私たちはオリジナルのプリントからシリコンで型を作り、レジンを使ってパーツを量産しました。そのため、型から取りだしやすいように、すべてのパーツの側面に傾斜を付ける必要がありました。また、シリコンを節約するために、アクリル板を使って、他の型に比べて、すべての方向に約2.5センチ大きな型を作りました。アクリル板はCO2レーザーカッターで切断しました。
電子機器は、Arduino互換のPro Miniで制御しています。昼間はフォト(光)センサーとMOSFET buz11トランジスターですべての電子機器がオフになります。夜は、2つのPIR(受動型赤外線)センサーで鹿などの動物の移動を体温で検知します。
動きを検知すると、マイクロコントローラーは2つの仕事をします。まず、他のすべての装置にNrf2401トランシーバーモジュールで無線信号を送信し、次に、すべてがストロボ発光シーケンスに入ります。すべての装置が互いに「会話」ができるようにするための通信設定で、ちょっとした困難に直面しました。しかしそれは、動きを検知して信号を発信する状態になるまで、すべての装置はリッスン状態にしておくという方法で解決できました。
こうした装置が世界中で使われるようになり、道路上での事故を防ぎ、人と野生動物の両方の命が救われることを望みます。
シャワーの自動販売機
ミシシッピー州ガルフポート高校、Patrick CamachoとJendayi London
これからのプロジェクトのアイデアを出し合うとき、私たちは、National Technical Honor Society(NTHS:全米技術名誉協会)のメンバーとして、技術を社会のために役立てる方向で考えるよう努力しています。最近では、ホームレス問題が何度も話題にのぼります。そこで私たちは、その問題をプロジェクトのテーマとすることに決めました。
ガルフポートの学区には、143名のホームレスの生徒がいることがわかりました。NTHSのメンバーは、そうした人たちが何を提供できるかに注目しました。私たちが考えたのは、無料の食堂、悪天候の際の避難場所、仮設住宅とシャワーを提供しているCenter of Hopeへの入所案内などです。しかし、このセンターにはいつでも入れるわけではなく、シャワーのサービスも、1週間に1度、朝8時半から11時半までしか提供されていないため、学校に通うホームレスの生徒は利用することができません。
そこで私たちは、この地域で貧困に苦しむ生徒たちの身体の衛生状態を改善する方法を探りました。私たちはさんざん話し合い、ブレインストーミングを行い、Taylor Rosenthalの応急手当用キットの自動販売機に影響を受けた結果、体の衛生状態を保つための品物と安全なシャワー室を提供する自動販売機を作ろうということになりました。
これには、アップサイクル可能な技術が使われています。コストを削減し、マシンを動かす電力を確保するために(必要なときにいつでも使えるよう)、ソーラーパワーを使うことにしました。ソーラーパネルは、日中、マシンを動かすのに十分な電力を生むだけでなく、船舶用のディープサイクルバッテリーに充電もできます。夜間はこのバッテリーで動きます。
NTHSの製作チームは、現在、ソーラーエネルギーを専門とする地元の技術者や電気技師と共に、マシンに必要な電力を供給できるソーラーシステムの設計を行っています。このマシンは、学校カウンセラーや地元の非営利団体が貧困な人たちに配布するコインが使えるようになります。また、ガルフポート高校の建設技術教員の協力を得て、NTHSのメンバーは、シャワー室コンポーネントの設計を行うことにしています。
コミュニケーションチームは、地元の非営利団体や企業を訪ね、このプロジェクトの周知と寄付の要請を行っています。世間の反応は、とても心温まるものでした。Allen Beverages社は、古い自動販売機を寄付してくれました。非営利団体、Nourishing Placeは、最初にマシンを設置してくれる場所となりました。ガルフポートの非営利団体の集まりであるCongregational Partnershipは、このプロジェクトへの支援を約束してくれました。また、地元の数々の企業がマシンに入れる商品を提供してくれました。
農業でドローン活用
ネブラスカ州ジェリング高校、Elexus JohnsonとEric Crane
これから20年のうちに、子どもたちは、飛行機で畑の全面に農薬を散布する光景を見なくなるでしょう。そのかわりに、ドローンが正確に最小限度の農薬を散布するようになります。この新しい方法により、農家は、より経済的に、環境を破壊することもなく、雑草や病気の管理が行えるようになります。
2016年10月、私たちの住む地域では、水道水の硝酸濃度が大きな問題になりました。オガララ帯水層は、230万の住民の水源であり、ネブラスカの宝とも思われています。しかし近年、帯水層の硝酸濃度が記録的な高さとなり、私たちは、対策を打たなければならないと考えました。
私たちは、その主な原因が、全面的な農薬の散布方法にあることを突き止めました。たとえば、5エーカー(約4,050平方メートル)分の作物を収穫するためには、農薬は1エーカーあたり72リットルも必要になります。つまり、全体で360リットルの農薬を散布するわけです。これは1回だけの量です。こうした散布は何回も行われます。そして、ほとんどの農薬は無駄になって流れてしまいます。畑全体を雑草が覆っているわけではないからです。
こうした農薬散布の方法をやめて、それでも効率的に除草ができる方法はないものか。しかもコストも削減できる方法はないか。そして決定的な解決策として考え出したのが、ドローン散布システムです。
私たちの計画では2機のドローンを使うことにしました。偵察ドローンと作業ドローンです。偵察ドローンに搭載したNDVI(植生指数)用カメラと、GPSによる地点調査と、畑の映像のデータを用います。偵察が終わると、画像をコンピューターにダウンロードします。画像は、データマッピング用のアプリに送られ、それらのデータは1枚の画像に合成されます。その画像は、いくつかのフィルターをかけることで、作物と雑草が異なる色で表示されるようになります。
North Platte Natural Resources District(ノースプラット天然資源保護区)の地理情報システムの専門家(GIS)の協力を得て、私たちは、誰にでも、特別な訓練を受けることなく使える、ユーザーフレンドリーなプログラムを開発しました。ドローンからの映像と複数のフィルターを使って雑草の位置を特定することで、植生指数画像の解析の回数を減らすこともできました。雑草が特定されると、作業ドローンが偵察ドローンの飛行経路を辿り、雑草の数センチ上空にホバリングして、雑草に農薬を振りかけます。
クラスでは、最終的な農薬散布プラットフォームのデザインを3Dプリントしました。管理された環境で、畑をもした人工的な枡目パターンを作り、雑草を示す赤いXマークを点在させて実験しました。私たちの技術が、そこで証明されました。作業ドローンはすべての列の上を飛行し、雑草の位置に間違いなく農薬を散布できました。
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