メイカースペースのプランCは、危機的な医療用具不足に対処するメイカームーブメントの草の根活動の記録だ。今回はシリーズ第2弾の記事をお届けしよう。
Cは市民のC
プランCの「C」が何を指すか、今ようやくわかった。Civic(市民)だ。プランAが政府、プランBが産業界の対応だとすると、プランCは市民の活動だ。
「Foreign Affairs」誌のJaron Lanier(ジャロン・ラニアー)とE. Glen Weyl(E・グレン・ウェイル)は、その共著記事「市民テクノロジーはいかにしてパンデミックを阻止できるか」の中で、新型コロナウイルスの拡散予防に成功した台湾でのボトムアップの活動を称賛している。「その基本理念は、トップダウンによるコントロールではなく、互いに尊重し合い、協力することだった」と書かれている。台湾の活動は「テクノロジー、積極的行動主義、市民参加の融合」だった。中国やアメリカの動きが遅いトップダウンのアプローチとは異なる。またこの記事は、アメリカのパンデミックへの今の対応と、「幅広い政府機関と市民主導による工業とテクノロジーのイノベーション」という、真珠湾攻撃直後に起きた目覚ましい現象とを対比させている。
あの当時のアメリカと、今の台湾に共通する鍵は、市民の間に大きく広がった、消費者でいるのではなく、敵に立ち向かうためのツールの生産者として役に立ちたいという願望を媒体として活用したことだ。外国の軍隊だろうが、恐ろしいウイルスだろうが同じことだ。危機に際してそれができない社会は、もっとも貴重な資源を無駄にしている。
アメリカ政府の向こう側に目を向けよう。プランCの組織的活動に参加する人の数と質に、希望が持てる証拠が見えてくる。たとえば、FacebookグループのOpen Source COVID-19 Medical Supplies(オープンソースCOVID-19医療用具:OSCMS)は、参加者が5万5000人に膨れ上がったと、リーダーのGui Cavalcanti(ギー・カバルカンティ)は私に話してくれた。それに加え、400人近いボランティアが運営を支えているという。カバルカンティの計算では、グループはフェイスシールドを2万個、マスクを50万枚作ったとのこと。ちなみにこのFacebookグループは、ほんの2週間前に立ち上がったばかりだ。
どんな人がグループに参加しているのだろう?「フォーチュン500の企業の元経営幹部が数人。医師が40人とちょっと。司書とか医学記録転写士とかを含む資料作成の専門家も120人います」とギーは言う。彼らは経歴や興味を1行か2行でまとめた簡単な自己紹介文を掲載している。LinkedInの職務経歴へのリンクも肩書きもない。そんなものは邪魔になるだけだ。
Building MomentumのBrad Halsey(ブラッド・ハルジー)は、革新的な新型コロナウイルス対策を生み出す「多才な」と彼が表現するチームを結成した。メンバーには「博士号を持つ電気技師から、工学技師、大学を中退して学位のない人、演劇を専攻している人などあらゆる人材」が集まっている。
プランAとプランBが何かをしようとするとき、彼らは作戦本部(タスクフォース)を設立する。プランCの場合は、何かの役に立ちたいボランティアによる自発的なグループが真の力(フォース)となる。多くの人が、おそらく自分でどれだけ抱えているかの自覚もなく、同時にいくつもの仕事を手掛けている。しかし全員が、どの仕事も緊急であり命に関わるものだという覚悟で取り組んでいる。ほとんどの人が職を失っているか、職場とは関係なく参加している。これはまったくの無償の仕事だ。なぜ彼らがこの仕事をしているのか、そしてなぜ今なのかは、敢えて言うまでもないだろう。
声の大きい人間を黙らせろ
メイカー、ドゥーアー(Doer、行動家)、呼び方はどうあれ、みな声の大きい人間ほど中身がないことを知っている。オズの魔法使いみたいな輩は、政府や業界をレバーひとつで操れると豪語するが、カーテンの裏で何をしているのかは誰にもわからない。
頭を低くして作業に励んでいる人たち、メイカーやドゥーアーは、行動が物を言うことをよく理解しており、同じように大変な仕事を引き受けたいという意思を持つ人々を惹きつける。それが、自ら力になりたいと進み出る人たちの自由意志の決定プロセスだ。彼らの活躍があまり報じられないのも、そこに理由がある。彼らは忙しいのだ。彼らはオンラインでアメリカ全土、世界中と、そして業界の壁を超えてつながっている。彼らは、自分たちで仲間を見つけ、協力する方法を考え出す。市民の抵抗運動と同じだ。
かたや、プランAとプランBを主張する人たちは、協力というものができない。木曜日、ホワイトハウスはGMとの人工呼吸器製造の合意を取り消し、人工呼吸器の増産は必要ないと語った。金曜日、ホワイトハウスはGMを厳しく非難し、国防産業法による人工呼吸器の製造を同社に命令した。しかも、連邦政府の努力に、各州の知事たちはもっと「感謝」すべきだとまで述べている。そこには互いを尊重する気持ちも協調もない。
CNNのアンカー、Brianna Keilar(ブリアンナ・ケイラー)は、先週、見事にハワード・ビール(映画『ネットワーク』の主人公)ばりにこう叫んだ。
ケイラーのその疑念の叫びを聞くのは、ある種のカタルシスだった。ありがとう。
別のインタビューで、ケイラーは、決断を渋る政府高官のPeter Navarro(ピーター・ナバロ)にこう言った。
先週、ナバロは、医療用具不足の政府対応の責任者である国防生産法調整役に指名された。時がすべてだ。危機はもう我々の頭上にある。
今こそ重大局面だ
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、緊急事態の対応モードを明確に定義している。従来型モード、有事モード、重大局面モードだ。あるカリフォルニアの医師は、彼が今勤務している病院は有事モードだが、すぐに重大局面モードになると私に話してくれた。「個人的にはみな重大局面対応になっています」と彼は言う。そのとおりだ。マスクが不足したときは、マスクを洗って再利用する重大局面モードでの対応になるとCDCは話している。それを過ぎてマスクが入手できなくなると、CDCのガイドラインは次のように指示している。
HCP(医療従事者)は、COVID-19患者を看護する際の最後の手段として、自家製のマスク(バンダナやスカーフなど)が使用できる。
「重大局面になると、物事の考え方が変わってきます」とカリフォルニアのあの医師は言う。「バンダナを顔に巻いた患者など見たくありません」
N95マスクの重大局面モードでは、「アメリカの標準的な医療基準には合致しない代替手段」が許されるようになるとCDCでは話している。恐ろしい話だが、これが現実だ。私たちは今その状態にある。これが新しい現実だ。OSCMSグループのギー・カバルカンティは私にこう話した。「ニュースの更新周期は現実に追いついていません」
3Dプリントはハンマーだ
私が話を聞いたメイカーの中には、3Dプリンターを使う方法に異議を唱える人が大勢いた。3Dプリントは、あらゆる問題を解決するかのように思われているが、それは「ハンマーしか持っていないときは、すべての問題が釘に見える」という格言そのものだ。3Dプリントの最大の欠点は、遅いことだ。何であれ、大量に作ろうとすると時間がかかりすぎる。3Dプリントは、ひとつだけ作ればいいプロトタイピングには大変に便利だ。型を作ったり、デザイン工程の一部として応用するのなら有効だ。しかし、メイカースペースには、もっと早く作れるツールがたくさんある。工場には大量生産のための設備がある。それでも3Dプリンターがたくさんある工房を持っていて、それを活用したいと思うのなら、使い方を間違えないようにして欲しい。
イーストテネシー州立大学(ETSU)の工学科教授、Bill Hemphill(ビル・ヘンフィル)は、opensourceventilator.ieでフェイスシールドの3Dデザインを発見し、その装着部分を3Dプリンターを使わずにレーザーカッターで作れるように改良した。「私は2003年から3Dプリンターを使っています」とヘンフィルは話す。彼はETSUでCNCクラスを担当している。「3Dプリンターは素晴らしい。セクシーです。でも遅い」と彼は言う。「こいつはレーザーカッターを使えば光速で作れて、スループットを少し広げることができる」と彼は考えている。
バージニア州アーリントンで、ブラッド・ハルジーは、ニューヨーク市長の執務室で開かれたニューヨーク製造業者コンソーシアムの電話会議に招かれた。「先週の今日に電話があり、3Dプリントマスクを大量生産する方法について聞かれました」とブラッドは先週の金曜日に話していた。彼は電話に「3Dプリントはしないほうがいい」と答えた。もっと大量生産に向いた方法を考えるよう伝えたという。
「その夜、家に帰ると、私は自分で作った石膏の型から真空成形法でいくつかマスクを作り、いくつかの顔に合わせた型を3Dプリントしました」と彼は話す。翌日、彼はコンソーシアムに、これが最良の方法だと伝えた。そして彼は、製造業者たちにそのデザインと作り方を教えた。「すべて公開しました。すべての知的財産、すべてのCADモデルを、最終的にあらゆる人たちに行き渡るように全部公開しました」
来週の初めには、本体を熱成形法で、フィルターをレーザーカットか打ち抜き加工で作り、週5,000個のペースでマスクを生産しようと考えている。「私たちは両方を試しました。もっとも反復率が高い方法を見極めなければならないからです」。ニューヨークの会社では、真空成形法で1日に1万個のマスクが生産できると見込んでいる。「それにより1週間に10万個の生産に近づけます」と彼は言う。
しかし、ニューヨーク市の注文は6月までに1億個だ。「つまり、もっと生産量を増やす必要があります」と彼は言う。そのため、問題点が解決されたわけではない。3Dプリントは、型のプリントや、マスクのテストに使う人の顔のモデリングなど、このソリューションの中で重要な役割を果たす。「3Dプリントチームは並外れて優秀でした」と彼は話している。
UV滅菌ユニット
ブラッドは、アメリカと中東でハンダ付けを教える移動訓練ラボを設立した。人々がメイカームーブメントのツールを使えるようにして技能を与え、メイカーに育てるためだ。彼はハリケーンで被災したカリブ諸島の復興活動に参加し、その様子を「Make:」誌に書いてくれた。元軍人で科学者でもある彼は、その両方の経験から、危険と隣り合わせの場所で問題を解決するきわめて有能な人物となった。彼と彼のBuilding Momentumのチームは、アーリントンのThe Gardenメイカースペースで何かを計画していると、私は聞いていた。
最初に彼がチャレンジしようと決めたのは、化学的洗浄剤を使わずに安全に器具を滅菌できる方法だった。「私は彼らに、1週間のロボット短距離コンテストを挑みました。紫外線(UV)を使って物の垂直面と水平面を滅菌するロボットの開発です」
なぜUV滅菌装置が必要なのか?「コミュニティから病院に物品が大量に届くようになったときに、それを作ったすべての人の感染の有無を確認する手立てがありません」と彼は言う。先回りして、「それをすべてまとめて滅菌する方法」を見つけたいと考えたのだ。
なぜ滅菌にロボットが必要なのか?「UVには逆二乗の法則という弱点があります。つまり、対象物からUV光源を離すと、滅菌の効果は指数関数的に低下するのです。ロボットなら、常に適正な距離と適正なパワー密度を保つことができます」とブラッド。滅菌に使用されるUV-C光線は、UV-AやUV-Bよりも毒性が強く、皮膚が日焼けしてしまう。そのため、人間の被曝をできるだけ避ける必要がある。月曜日に開始して金曜日までの間に、チームは物を滅菌して回るロボットを開発した。そして第2週目には、カーペットの上でも移動できるよう改良を加えた。
部品の調達が思い通りにいかなかったが、無限軌道などを以前のプロジェクトから流用することで解決した。UV-C光源を探すのは大変だったが、なんとか入手した。「そんなわけで、現在これは、本当に実際に部屋の中のあらゆるものをイオン化して滅菌できます」とブラッドは言う。UV-C滅菌ロボットは、医療専用というわけではない。あらゆる場所で滅菌が行える。そのため、コミュニティーセンターや空港からも引き合いがあるという。
次なるプロジェクトは、UV-C滅菌グリルだ。バーベキューグリルと日焼けベッドを掛け合わせたような姿をしている。「これも同じ科学理論に基づいています」とブラッドは説明する。「光源と滅菌したいものとの距離を一定に保つことができれば、つまり固定距離と使用するワット数がわかっていれば、メッシュグリルが使えます。それを調整して、蓋を閉めてスイッチを入れれば、グリルの中のあらゆる物が死滅します」。グリルは3時間で作れる。彼らは下の動画をYouTubeで公開した。
ブラッドは、この滅菌グリルに2つの入手法を用意した。ひとつはDIY、もうひとつは洗練された製品版だ。「このアイデアは、DIYコミュニティの強い興味を惹くためと、我々自身が学ぶためのものでした」とブラッド。しかし、彼らは商業的な機会にも応えることにした。たとえば、建設現場の滅菌をしたいという建設会社などからの要望だ。ブラッドのチームはそれに応じたが、彼の会社はCOVID-19によって打撃を受けていた。「すべてのトレーニングが中止となり、会社のイベントも、The Garden(メイカースペース)のイベントも中止になりました」。だが彼らの動きは速かった。彼は、政府期間や軍隊がプランCの活動を後押しできないかと考えた。
つまり、宇宙ステーションとのドッキングのようなものですよ。最終的にスペースシャトルと宇宙ステーションをどうドッキングさせるかで、たくさんの圧力がありましたが、一度やってしまえば、あとは順調に動きます。我々と彼らを結びつけるのも、それはぜひ実現させるべきことですが、同じことを一緒に行えば、ずっとうまくできるようになります。
彼はまた、テクノロジーを既存の政策に当てはめるのではなく、テクノロジーが活かせるよう政策のほうを変更する方法も探っている。「今私たちが使えるテクノロジーが活用できるように、敏速に政策を見直して作り替えることができる政治家が必要です」と彼は言う。
サプライチェーンが切れてしまった
部品がなければ何も作れない。大手製造業でも小さな工房でも同じことだ。州知事たちは、人工呼吸器が奪い合いになっていると不満を漏らしている。さらに深いところでは、人工呼吸器の製造業者同士で部品の奪い合いになっている。そこにGMが人工呼吸器製造業者として参入すれば、他のみんなと同じように、この巨大企業が部品の争奪戦に加わることになる。ある情報筋は私にこう聞かせてくれた。「未完成の人工呼吸器が山ほど作られるようになる。どの製品にも共通する部品がひとつかふたつ不足しただけでね」
ギー・カバルカンティ
OSCMSのカバルカンティは、そもそもロボティクス企業のCEOなのだが、5〜6週間前にサプライチェーンが途切れてしまったことを知ったという。「ロボットが作れなくなりました。なぜならロボットは、世界中の無数の箇所から無数の部品を集めて組み立てられるものだからです」と彼は私に話してくれた。サプライヤーに発注ができなくなると、単に「難しい問題ではなく、解決不可能な問題となります。専用の特殊な部品を作れるところは他にないからです」と彼は言う。
医療用具の供給がすでにアメリカ中で滞り始めていると彼は感じている。加えてサプライチェーンが途切れている。これは大問題だ。彼はこんな例を示してくれた。「たとえば、アメリカで製造されたN95マスクがあるとします。そのひとつのプラスティック部品は中国から買っていて、別のプラスティック部品はインドの別の業者から調達していたとします。また別の場所からゴムバンドを調達していたとしましょう。そのいずれかひとつでも入手できなくなれば、すべてが破綻します。製品が作れなくなります」
「私が予見したのは、時間通りに部品が届く鉄壁のサプライチェーンを有し、無数の製品を生産してきた中央集中型の製造業全体の問題であり、そのすべてが崩壊する恐れがあるということです。インドから部品が届くのを待っているとしたら、インドは国全体がロックダウンしているため、何ひとつまともに届きません。それが全世界に連鎖するのです」
「人々に今すぐ物品を供給するには、自分たちで作るしかないとすぐに気づきました。それは、病院のすぐ近くにあるメイカースペースが、フェイスシールドが底がついた病院のためにそれを作ることなのかも知れません」
必要なのはデザイン、仕様、規格、資料
ただ無闇に作り始めるのは賢いやり方ではないが、多くのメイカーがそれをしがちだ。それがために、変人に見られることもある。ギー自身もこう話す。「私はエンジニアです。だから早く作りたくなりますが、それは正しいやり方ではありません」。3Dプリンターと同じく、何かをゆっくり作るのがいい。
集合的知識を借りようとするならば、資料が必要だ。設計図、仕様書、必要部品、業界標準などだ。どの業界でも、企業はこれらの情報を持っているが、一般公開されているとは限らない。独自仕様は業界の知的所有権を保護するが、オープンソースの市民活動の妨げになる。
FreeRead.org — オープンな規格のための戦い
FreeRead.orgというグループは、国際標準化機構(ISO)に対して「COVID-19と戦うために人工呼吸器の製造に必要な規格をエンジニアに公開」するよう求めるChange.orgのキャンペーンを立ち上げた。声明の一部を転載しよう。
人工呼吸器の安全性、品質、効率性を保証する技術的詳細はペイウォールの向こう側にあります。ボランティアグループは必要な規格を手に入れるために数万ドルを支払わなければなりません。2月、FreeRead.orgは学術系パブリッシャーに、コロナウイルスに関するあらゆる科学記事のペイウォールを取り去るよう求めました。今日、その科学記事は、世界中の誰もが無料で読めるようになっています。強く要求したことで、聞き入れられたのです。さあ、再び要求しましょう。
私たちは国際標準化機構(ISO)と欧州標準化委員会(CEN)に対して、人工呼吸器の製造に必要な規格をエンジニアに公開するよう求めます(ISO 11.040.10および必要なすべてのコード)。
私たちは、医療従事者を支援し命を救う戦いを援助するために、マスク、医療用ガウン、手袋、種子消毒液、レスピレーターの規格を公開したASTMに、ISOとCENも加盟してもらえるよう願うものです。
そうした規格がイノベーターたちの手の届かないところにあり、膨大な費用がかかるならば、それは存在しないのと同じことであり、最初から作り直さなければならなくなる。
オープンソース医療用具ガイド
「OSCMSの目的は、入念に審査した情報の宝庫になることでした」とギーは言う。グループは、疾病の説明、治療方法、治療に必要な医療用具を網羅する正確なコンテンツを作る必要を感じた。必要な用具に関しては、オープンソースの代替品にも期待を寄せた。「何もないところにポツンと建つ地方の病院には、中国で生産されるN95マスクをすべて買い上げるだけの地域システムとしての購買力がありません。彼らには選択肢が必要です」とギー。その取り組みから、Open Source Medical Supplies guide(オープンソース医療用具ガイド)v1.1が完成した。現在それは80〜90ページに及んでいる。
既存のオープンソースデザインを医療と工学の専門家に審査してもらうことも、その目的のひとつだ。「そのため、私たちのガイドを開いて、サージカルマスクをクリックすると、さまざまな人たちから提供された、さまざまなマスクのパターンが現れます。サージカルマスクとは何かといった解説もあります。サージカルマスクとして必要な規格を見ることもできます」とギー。
「自分で作るという選択肢が可能になるのです。私たちにとって重要な課題は、人々にひとつの供給元に依存したひとつの答を提示することではありません。そうしたものは、各地域ですぐに在庫切れになってしまいます。自分で作るためのデザインに必要なものは何かという知識を、人々に備えさせることです」
OSCMSは先週、ひとつの勝利を収めた。米国標準技術局(NIST)が、その製造拠点のネットワークでオープンソース医療用具ガイドを配布したのだ。
たくさんの仕事があるが、ほとんどは地元で必要とされる
そうしたグループを初めて訪れた人は、気持ちが圧倒されてしまうという感想を聞いたことがある。大勢の人たちが、たくさんのことをやっている。だが多くの活動は、いくつかの段階に分かれていると考えると、気が楽になるかも知れない。
- デザインとプロトタイピング
- 製造
- 必要としている場所に配達
ほとんどのプロジェクトが、現在はデザインとプロトタイピングの段階だろう。一部には製造に入ったものもあるが。どの段階においても、異なる役割があり、異なる人々が関わっているはずだ。デザイナーやエンジニアだけが必要とされているわけではなく、またそうであってはいけない。ギーが話していたように、そこには大勢のいろいろな人たちが、幅広いスキルを持ち寄って仕事をしている。誰もが役に立てて、貴重な存在になり得る。数の比較で言えば、1の段階で必要とされる人は少ない。グローバルなスケールで協働されるものだからだ。大勢の人が必要になるのは、デザインが完成して製造に移ってから、そして出来た物を配達できる段階になってからだ。この2つの段階は、かならずそれぞれの地元で行われる。これには多くの人の手を要する。
各地元での組織的活動を支援しようと、OSCMSは「よく連携された地元対応チーム」を組織するための登録フォームとガイドを発行した。OSCMSのコミュニケーション責任者、Ja’dan Johnson(ジャダン・ジョンソン)は、個々のメイカーや、その他の人たちが個人で病院に協力を申し出ても、混乱を招くばかりで抵抗に合うと話している。「よく連携された」アプローチでは、病院や地元行政との仲介グループを組織する。このグループは、審査を通った用具を、地元コミュニティを通じて適切な場所に配達する方法を確立する。
「私たちは回復力のある地元グループを作る必要があります」とギーは言う。「ひとりの人間には依存できません。その人が感染する可能性が高いからです」
「病院が受け入れを渋っている限り、何を作っても意味がありません」とギーは話す。「自分たち活動を信頼してもらえるよう、病院と話ができる人が必要です。それを経て、病院は受け入れる気持ちになってくれます。また、地元の地域社会で病院以外に、それらの用具を必要としているところがないかを探す人も必要です」
プランCの活動の大きな要点は、組織化されたグローバルな取り組みは、その成果が目的の効果を発揮できるよう、組織化された数多くの地元の活動とつながる必要があるということだ。
ビル・ヘンフィルとETSU緊急フェイスシールド
イーストテネシー州立大学(ETSU)工学科のビル・ヘンフィルが、彼のフェイスシールドプロジェクトについて私に最初に語ったのは、地元に解決策があると報じるだけで、その地域の「大きな不安」を緩和できるという話だ。
なぜかと私は尋ねた。彼が言うには、病院、とくに田舎の病院では、フェイスシールドなどの医療用具が底を突いてしまうことと、足並みを揃える他の病院に遅れをとってしまうことが心配されているという。自分の地元の大学でもフェイスシールドを作る能力があると知ったとき、彼らは安堵した。
ある日、山岳地帯の人里離れた病院が、医療用具の不足に備えて在庫を確認したところパニックに陥った。だが翌日、緊急フェイスシールドプロジェクトのことを知り落ち着いたと、ヘンフィルは話していた。「すぐに届くと彼らは知った。そして実際に手に入った」と彼は言う。特別なエピソードのようだが、同様の事例を彼はいくつも見てきた。
1週間前、土曜日の夕方、ビルは上司であるKeith Johonson(キース・ジョンソン)博士からの電話を受けた。フェイスシールドを頭に装着するための3Dハーネスを作って欲しいというのだ。テネシー州政府が、フェイスシールド用のヘッドバンド1,500ユニットを募集していたのだ。ナッシュビルで必要だという。ビルは大学の近くに住んでいたので、すぐに駆けつけ作業を開始した。3時間後、ひとつのデザインを見つけると、改良を加えプロトタイプを製作した。
彼は、ソーシャルメディアのフィードでハーネス用の「フラットストックのマスク」のデザインを見つけた。それには突起した部品があり、タブをスロットに差し込んで組み立てる形になっていた。「でもそれは、1枚の板から切り出せるんです」とビル。「これならレーザーで作れるぞと気づきました。材料もたくさんある」。3時間後、彼は普通の工具で作れるようにオリジナルのデザインに改良を加えて、プロトタイプを製作した。
ビルは、廃棄されるはずだったプラスティックシートを保管していた。シートの製品名はトライタン・コポリエステル。イースト・テネシーの企業、イーストマン・ケミカルの製品だ。「数年前、彼から電話がありました。『大量のシートを埋め立て処分するんだけど』と言うので、『持ってきてくれ、保管場を探すから』と答えました。そうして1,400キログラムほどの在庫ができました。一生使える量です。それを使うことにしました」。地元ならではのサプライチェーンのおかげで、簡単に安く作ることができた。
彼は、スロットを穴に変更して、どこでも手に入る長めのボルトを使うようにした。ビルは、ウォルマートや金物店などで普通に手に入る材料で作れるように、できるだけシンプルなデザインを心がけた。「ストラップは手芸店で買いました。それ以外は、すべてLoew’s(ホームセンターの大手チェーン)で揃えました」
ビルはCADとCNCのプログラミングを教えている。「ここは大学なので、大人の学生がいます。正直言って、世界一いい仕事です」と彼は話してくれた。彼の研究室にはウォータージェットがある。彼は学生たちに、栓抜きをデザインさせてウォータージェットでカットさせるといった小さな課題を与える。「そのデザインの途中で、学生たちは私に、標準的なシートにパーツをどのようにうまくレイアウトしたかを見せに来ることになっています」。今、学生たちは現実のプロジェクトに取り組んでいる。デザインは自宅でもできる。
彼はデモンストレーション用のユニットをいくつか作り、大学の危機管理責任者、Andrew Worley(アンドリュー・ウォーリー)に見せたところ、彼はテネシー州向けの生産が学内でできるとビルに伝えた。土曜日、1週間と待たずに「丸1日費やした末、10時間で500個のシールドをドタバタと作り上げました」という。他の教員仲間の手助けもあった。別のプログラムのメンバーだったが「手をこまねいて待っているのが我慢できなかった」とボランティアを申し出てきたのだ。ビルは彼に、レーザーカッターの使い方を5分で教えた。
ウォーリーは大学施設の責任者と一緒になり、学内での製造プランを立てた。「施設担当者が待機していて、彼らには時間もあるので、(ETSU職員は)フェイスシールドが作れる」と彼はビルに告げた。
学長のBrian Noland(ブライアン・ノーランド)博士は、フットボール部のロッカールームを製造所にしようと提案した。フットボールチームの練習は、すぐには始まらないからだ。そして彼らは、金曜日の朝に製造試験を行い、その日の終わりには150個のフェイスシールドを組み上げた。月曜日、寄付されたハードウェアや材料を使って製造を始める。ビルは電子メールでこう書いてきた。
数日以内にETSU職員は、もらった原材料や素材を使って、1日8時間のシフトで、ゆうに100ユニット以上を作れるシステムを構築しました。今キャンパスにいる「中心的な従業員」だけの最小限の人員で、学内で行っています。需要に応じて、ボランティアが週7日24時間態勢で製造に当たれば、1週間に最大で2,800個のフェイスシールドが簡単に作れます。ここは学校だし、1週間前までは、そんなものは何もなかった。
ビルはこの1週間をこうまとめた。
私は製造を教えています。CADとCNCを教えています。我々ならできると私は言いました。できないわけがない。もう一度、私は既存のデザインを検討し、今では少しだけバリエーションが増えました。基本的な考え方は、道具と材料があれば誰にでも作れるように、この情報をまとめてメイカーたちに公開して、自分も貢献しているんだという感覚を持ってもらうことです。
どのようにテストしたのかをビルに聞いてみた。「妻は、私よりもずっと体が小さいんです。彼女は医師資格を持つ看護師ですが、それを見せたところ、『うん、これなら使えるわ』と言ってもらえました」
下は、緊急フェイスシールド・プロジェクトのレーザーカットの様子を伝えるETSU公式動画だ。
CADデータと暫定的な写真、初期のPowePointドキュメントの臨時のリンク:dropbox.etsu.edu/message/kFeBqPsBFmakK4EVVar3HP
マスクのデザインとテスト
マスク、とくに医療従事者が使うN95規格のマスクの不足は、多くの団体が解消に努めている。そのなかのひとつに、FixtheMask(フィックスザマスク)がある。私は、元Appleのプロダクトデザイナーで機械工学の職歴を持つSabrina Paseman(サブリナ・パセマン)と、Amazonを経てPrintfobiaを共同創設した先端製造とフィルフィルメントの職歴を持つDavid McCalib(デイビッド・マッキャリブ)に話を聞いた。デイビッドはポートランドの近くに住み、サブリナはサンフランシスコ湾岸地区に住んでいる。
サブリナは、問題とその解決策について、非常に明確な説明をしてくれた。私が考えていたよりも、ずっとシンプルなものだった。彼女は自分の手でN95マスクの解析し、研究を行った。
「それを部品ごとに分解して、N95マスクの何が優れているのかを確かめようとしました」。そして彼女は「メルトブラウンという繊維で作られていて、自作はとても困難」だと発見した。調査中に彼女は、NPR(アメリカの公共ラジオ放送)で中国が国内のすべてのメルトブラウン製造機による生産を最大化し、急いでメルトブラウン製造機も増産するというニュースを聞いた。その製造機の原理は、綿アメ機と似ている。彼女が誰かに聞いた話では、大きなプラスティック製のスプールを備えているという。
糸状になった砂糖がシートやロールに付着するように、メルトブラウンの繊維も同様のことが起こります。したがって、非常に細いプラスティックの繊維がシートに付着するのです。そうして、細い繊維による非常に精細な格子が形成され、大変に微細な粒子もなかなか通り抜けられなくなります。
彼女によると、これは2つの要因によりフィルターとして作用するという。ひとつには、粒子が格子に接触したときに発生する数々の力学的な現象がある。粒子は跳ね返されるか、通過しようとすれば引っ掛かってしまう。静電気の要素も関係してくる。一部のN95マスクは、表面が毛羽立っている。それにより、一部の粒子は静電気を帯びて繊維に吸着するのだ。「N95とは、小さな粒子を95パーセント濾過するという意味です。小さなとは、私が知る限りでは、0.3ミクロン以下と定義されています」
研究を進めるうちに、彼女はサージカルマスクとN95マスクのどこが違うのか疑問に感じるようになった。サージカルマスクは大量に販売されている。彼女は、N95マスクもサージカルマスクも、メルトブラウンで作られていることを突き止めた。つまり小さな粒子の濾過能力(95パーセント)は変わらないのだ。大きな違いは、顔にフィットするかどうかだった。サージカルマスクはゆるいため、顔の両側に隙間ができやすい。さらに研究を進めた彼女は、どちらのマスクも同じアメリカの規格に沿って作られていることを知った。彼女は私にこう教えてくれた。
アメリカでは1日に60万枚のN95マスクが作られているというNPRの統計を見ました。少し前なので、今は違っているかも知れませんが、通常のマスクは1日に2億枚作られています。統計によると、サージカルマスクは、N95マスクよりも300倍も早く作れるとのことです。なので、私たちが、日常の使用に有効だと認められたサージカルマスクを使うことが、マスク不足を乗り切るための現実的な解決策になります。
問題は、医療従事者がサージカルマスクを顔に密着させる方法だ。難しいのは、きっちり密閉すること。彼女は、Simon Lancaster(サイモン・ランカスター)とMarguerit Siboni(マーゲリット・シボナイ)という2人のエンジニア仲間とブレインストーミングを行った。サージカルマスクを装着した彼女はマスクに手を当て、指で顔に押しつけてみた。「こういう具合に密着できたらよくない?」と彼女は考えた。そして、いろいろ作ってみた。すべて自宅での作業だ。
サブリナが思いついた答は、子どもでも思いつくような、そして子どもにも作れるものだった。彼女の、そしてチームの仲間たちの目の前にあるものだ。「めちゃくちゃパーフェクト」なアイデアが彼女に降りてきた。彼女はその答を手で掲げ、チームのみんなに最初に見せたに違いない。輪ゴムだ。
そこで、顔の上に付けてみました。「オーケー、これならいいわ」といった感じです。紐で頭の周りを巻いて縛るだけです。これを(チームに)見せると、仲間の一人がこう言ったんです。「こうやって輪ゴムをつなげればいいんじゃないか?」と。そうして鎖状につなげた輪ゴムに辿り着きました。
彼女は実演して見せてくれた。鎖にした輪ゴムを顔に当てて、両側の輪ゴムを耳にかける。実演しながら私にこう話した。「サージカルマスクは手に入ります。輪ゴムもどこにでもあるので、自分で作れます」「そう、DIYできます」とサブリナは言った。
その実演を見た後、私は少し間を置いて、サブリナに聞いた。これが有効であることを、どうやって確かめますか?
まさに、そこを検証したいのです。この方法で、疾病予防管理センターのN95規格をできるだけ早くクリアしたいと願ってます。ある研究所から、6,000ドル支払えば代行してくれるという申し出がありました。私たちにその資金はありませんが、テスト待ちの列に並べるように、今すぐなんとかお金をかき集める手段を考えています。お金を払えば、14日間だと言っています。正直言って、ものすごくじれったいのですが。
もちろん、彼らは別の方法も探っている。マスクから漏れる空気の量を測定するテストも行いたいと考えている。金曜日、サブリナは、シャワーヘッド、ホースとコック、テフロンテープ、コンプレッサーなどを使って試験装置を作ろうとに研究室にいた。マスクを着けて実験するための、人の頭の3Dプリントもあった。
デイビッドが参加を決めたのは、彼らの仕事と、どのように協力しているかを見てきたからだ。デイビッドは、Home Depo(アメリカの大手ホームセンター・チェーン)で買った材料で個人用空気清浄器付きレスピレーター(PARP)を作ったメイカーなのだが、自分のプロジェクトを進めるより、FixtheMaskグループに参加しようと決意した。「遠く離れたメンバー同士が協力し合うスピード感に衝撃を受けたからです」と彼は言う。サブリナは、「たぶん6日前にチームを作って、5日前には本物らしくなってきました」と話す。「最高に素晴らしいのは、私の投稿を見てこのプロジェクトに集まってきてくれた人たち全員が、曖昧なところがひとつもなく、私たちのビジョンにぴったり沿っていることです」
テストの必要性
デイビッドとサブリナは、どちらもテストを行う研究室の必要性を強調する。サブリナは、彼女の方法をテストするのに必要な器具のリストを私に送ってくれた。「私たちが今すぐ欲しい、いちばん重要なものは、高解像度の流量計、圧力計、エアーコンプレッサーを備えたベイエリアの研究所です。そこなら私たちのデザインをテストできます」
私たちはテストの重要性と、専門知識を持つ人と、装置の必要性について話し合った。話し合いの後、デイビッドはテストの必要性に関するメールを送ってくれた。その一部を紹介しよう。
現実のいいこと、悪いこと、残念なこと — テストが必要!
DIYムーブメントはパワフルで、革新的で、クリエイティブで、非常に便利です。そしてそれが、個人用保護器具や医療機器の開発に関する新しいアイデアに向けられるなら、いいことだ!
悪いこと……現在のテスト能力の欠如と、真実を語る資料ひとつだけを指針として依存するのが危ういこと。有望な解決策をデザインしても、その有効性をテストする定量的な方法がなければ、間違った期待となってしまう。
残念なこと……誤った防護方法が使われたら、人を危険にさらしてしまう。
革新的なデザインコンセプトのテスト手段を開発する方法を考え、真実を語る資料として活用できるように、速やかにその結果を公開すべきです。これは、そのものをデザインするのと、同じぐらい重要なことです。サブリナとそのチームの仕事の進め方を私が深く信用しているのは、その点です。彼女たちは、すでに性能がわかっている製品を使い、それを改良し、オープンソース化して迅速に公開しています。
私たちには、サブリナ・パセマンのようなイノベーターが、求められる範囲、規模、スピードに応じてパンデミックを半減させる変化を引き起こせるよう、適切な場所での行動のきっかけが必要であり、自己組織化する資源、製品テストを助けるチームが必要です。
今は緊急事態だ。テストなんかすっ飛ばして、すぐに使い始めるべきだと思われるかも知れない。サブリナは、最大の目標は、このアイデをできるだけ早く医師たちに受け入れてもらえるようにすることだと言っている。「私たちは数人の医師に見てもらいましたが、輪ゴムは不評でした。DIYはキュートだけど、外の世界のすべての危険から私たちを守ることはできません」。医療の専門家が納得して、そのアイデアを信頼してもらうには、テストが欠かせない。
あるいは、重大局面においては、疾病予防管理センターの推奨策はまったく役に立たないと医師たちが気付くのを待つかだ。
医療のプロはDIY人間だ
医療機関はDIY的ソリューションに懐疑的かも知れないが、必要に迫られてイノベーターになる看護師、医師、その他の医療従事者(HCP)もいる。私がそう思うようになったのは、MITのLittle Devices LabでこれらのDIYソリューションを実際に開発し資料化したJose Gomez-Marquez(ホセ・ゴメスマルケス)のお陰だ。なかでも、今のところいちばん有名な人物は、人工呼吸器を2人で使えるようにする分岐器を開発したイタリアのMarrone(マローン)博士だろう。
This is what we are down to. Splitting ventilators, and facing serious dilemmas like choosing who will be actually ventilated when everybody should. #TakeThisSeriously, bloody seriously.Never thought it was so bad. Thx to @PulmCrit for the inspiration and tips. pic.twitter.com/0aP7gaD9Er
— marco garrone (@drmarcogarrone) March 20, 2020
これが今我々がやっていること。人工呼吸器を分岐することで、みんなが必要としているのに人工呼吸器を使える人を選ばなければならないというジレンマに対処している。
ニューヨーク・タイムズによれば、ニューヨークはこの方式を採り入れる準備をしているという。その記事では、今の状況を大変深刻に受け止めているようだ。「これをしなければ死ぬしかない:ニューヨークは人工呼吸器の共有を開始」
台湾の病院では、賴賢勇(ライ・シェンユン)医師が「エアロゾル・ボックス」を開発した。患者の頭を多う透明なプラスティックの箱で、医師が安全に気管内挿管ができるようにするものだ(『台湾の医師がコロナウイルス危機の最中に安価な防護器具を考案』)
病院は間もなく重大局面に入ると述べた、先に紹介したカリフォルニアの医師は、ローズビルの胃腸科専門医、Randell Vallero(ランデル・バレロ)だ。彼は、息子さんと一緒に開発した動力付き空気浄化マスク(PAPR)を見せようと私に連絡をくれた。「私は医師でメイカーです。ただし、医師になるずっと以前からのメイカーです」と彼は私に言った。彼は何年間も家族連れでMaker Faire Bay Areaを訪れている。2018年にHalloween AVとロボット装置で出展もしている。
彼は、息子さんと考えたPAPRの作り方をInstructablesで公開した。PAPRの仕組みを、彼はこう説明している。電動ファンで空気をHEPAフィルターに通して汚染物質を濾過し、清浄化された空気をマスクまたはフードに送り込む。彼らはフルフェイスの水中メガネ、チューブ、コンピューター用の冷却ファン、掃除機用のHEPAフィルター、そして3Dプリントした部品でこれを作った。5ボルトのUSBパワーバンクで駆動する。
スキューバダイビング用のマスクを使ったイタリアの類似のプロジェクトも注目を集めたが、ランデルは、親子でフード型のものをどうやって作るかを考えていたという。だがスキューバダイビング用のマスクがあったことを思い出した。ほとんど使っていなかったとのこと。「スキューバ用マスクは、泳げない人のためにあると私たちは思ってたんです」と彼は話していた。
ランデルは、必要があれば今後も保護器具を作り続けるつもりだ。自分ならできると彼は思っている。医師も看護師もその他の医療従事者も、塹壕の中にいると彼は私に話した。彼らはこの戦争の兵士であり指揮官だが、戦いに必要な道具も武器もないという。
市民の活動は加速度的に広がり続ける
ETSUのビル・ヘンフィルは、物の作り方を知っているだけではない。行動によって危機に対処する方法を心得ている。この記事のために話を聞いた大勢の人たちと同じだ。ビルはまた、今が他の人たちを捲き込む好機であると認識していて、倉庫やガレージの道具を使って貢献できる人たちに話しかけている。彼は、ETSUの活動を紹介した地元地方新聞の記事を読んだある男性に手紙を書いた。
作業工程を文書化して、人々に公表することが、表に出ない潜在的メイカー(あなたのような)と関わりを持つ鍵になります。そうした人たちは、材料と設計図があれば、個々の小さな部品を作ることができ、それが「より大きな大義」への有意義な貢献になります。
このコミュニティの人々は、閉塞感と、無力感と無益感を覚えています。電話、電子メール、ソーシャルメディアの投稿などを通じて、人々が活動に関わり、役に立ちたいと願っていることがわかります。お宅にはガレージがあるでしょう。そこでひとつかふたつ、小さな部品を作って、それらを集中的に組み立てる作業(ETSUが行っているような)に寄与できます。居間やポーチのテーブルの上で、キットから製品を組み立てることもできます。または、垂直統合された設備を設置できる空間(納屋や工房など)があり、原材料と設計図があれば、完成品を作ることさえ可能です。
これが、人々の間に加速度的に広がるウイルスとの戦争ならば、人々の応戦も加速度的に広げなければならない。自宅からであっても、市民参加は、ラニアーとウェイルが言っていたように、この戦いにおける「もっとも貴重な資源」となる。プランCの市民とは、危機に怯える人々ではない。危機への応戦に結集する人々だ。
危機に直面すると、社会は人間性や精神性を見失う。しかし、社会は生まれ変わり反撃に立ち上がることもできる。目的とビジョンを持って行動するリーダーを据え、人々と市民組織が回復力と反撃力を備えれば、いかなる危機にも対処できる。古い世界の中から、よりよい世界を復旧させることができるのだ。
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