[日本語版編注:本記事のリンク先はすべてアメリカ国内向けの英語サイトですが、日本ではこれまで紹介されていないようなDIY感染防止対策も多く、参考のために紹介します。衛生基準や法律はアメリカ国内のものであることにご注意ください。日本の厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A」なども合わせて確認していただきますよう、お願いいたします]
画期的な大発明をしようと思えば、貴重な時間を使ってしまう。今すぐCOVID-19に対処するなら、メイカーには何ができるだろう?
ここに、新型コロナウイルス危機から愛する人や医療従事者の身を守るために、誰でも家やメイカースペース(開いていれば)で作れるプロジェクトをいくつか紹介しよう。
だが、プリントしたり切ったり作ったり縫ったりを始める前に、ちょっと落ち着いて、自分が住んでいる地域では何が必要とされているかを考えて欲しい。まずは、OSCMS(オープンソース・COVID-19医療用品)の「Guide to Effective Local Response」(効果的な地域対処法のガイド)を読んで、Get Us PPE(個人用保護具を医療従事者に届ける運動)をチェックしてみよう。マスクを縫いたい場合はRelief Crafters of America(アメリカ救済クラフターの会)とAsks for Masks、そして病院が求める自家製マスクのリストをチェックしてもらいたい。3Dプリンターで作れるものに関しては、米国立衛生研究所の3D Print ExchangeとAsks for MasksのCalls for Helpで調べられる。これらのプロジェクトについて詳しく知りたい人は、OSCMSのFAQをじっくり読んで欲しい。
このリストは日々変化しているので、頻繁にチェックすることをお勧めする。有効なプロジェクトが新しく登場するごとにリストを更新し、現状にそぐわなくなったものや、新バージョンに置き換えられたものは削除していく。
手指消毒液
WHOが推奨する手指消毒液だ。グリセロール、過酸化水素水、大量のエタノールまたはイソプロピルアルコールを使う。(PDFをダウンロード)
家庭向けWHO推奨手指消毒液の作り方
YouTubeがわかりやすい。
[訳注:動画の内容は主に以下のようなもの|99パーセントのイソプロピルアルコール240ミリリットル、過酸化水素水15ミリリットル、グリセリン5ミリリットル、水320ミリリットルを混ぜる。ゴーグルで目を保護し、火気を遠ざけること]
アメリカのメイカーに向けた米食品医薬品局(FDA)のガイドライン|非常時の間は、免許のないメイカーでもWHOの方法で作ることをFDA(米食品医薬品局)は公式に認めている。他人に配布する場合は、このガイドラインに沿ってテストを行いラベルを付けること。
マスク
飛沫感染対応のサージカルマスクは、医療従事者からの要望が高い。通常のファブリック製サージカルマスクは、レスピレーターのフィルターにも使える他、咳やクシャミの飛沫を防止できることから、あらゆる人に適している。医療機関ではゴムの紐は好まれない(ラテックスアレルギーのため)。実際に作る前に、地元のメイカーのグループや医療施設に何が求められているかを確認するとよい。
中央がサージカルマスク。それをゼロとして、左に行くほど息がしやすく、右に行くほど息がしにくい。左から、食器用布巾2枚重ね、掃除機の紙パック、食器用布巾1枚、綿の混紡のTシャツ、抗菌枕カバー、枕カバー2枚重ね、サージカルマスク、綿100パーセントTシャツ2枚重ね、綿100パーセントTシャツ1枚、シルク、スカーフ、リネン、枕カバー。[訳注:0.02マイクロメートルの粒子のフィルター性能はサージカルマスク89パーセント、掃除機の紙パック86パーセント、食器布巾73パーセント、綿混紡70パーセント、抗菌枕カバー68パーセント、リネン67パーセント……などとなっています。ちなみにコロナウイルスのサイズは0.1マイクロメートルと言われています]
ファブリックのマスクは、綿100パーセントのTシャツや抗菌枕カバーが効果的だ。もし手に入るのならサージカルメッシュがいい。もっと細かい粒子をフィルターできる素材もあるが、目が細かいほど息がしづらくなってくる。この比較レポートが参考になる。
MakerMask(ウェブサイト)|ポリプロピレンの不織布を使ったプリーツ付きの3層構造。ポリプロピレン製エコバッグを外側に使い防水にする。[訳注:このサイトでは防水加工していないエコバッグを使うと書かれています]
Freesewing.orgのフーマスク(ウェブサイト)|食糧の買い出しなどの際の個人的使用に適したシンプルなサージカルマスク。素材はなんでもいい。
Providenceコミュニティのマスク(ウェブサイト)|病院に依頼されて作ったプリーツ付きのサージカルマスク。サージカルメッシュ(医療機関に問い合わせてください)またはその他のファブリックを使用。
Joannの寄付用マスク(ウェブサイト)|シンプルな綿100パーセントがお勧め。Joann(ジョアン)の生地屋さんを覗いてみて。
車のカバーで作るマスク(ウェブサイト)|自動車のカバーも飛沫を防ぐ不織布で作られている。1枚のカバーからマスクが150個作れる。
マスク用のアクセサリー
サージカルマスクを顔にフィットさせる方(ウェブサイト)|病院で使われているサージカルマスクは、N95マスクと同程度のフィルター能力があるが、顔にうまくフィットしないという短所がある。そこで、輪ゴムを使うとN95マスクのように顔にピッタリさせることができる。これは元Appleのエンジニアが考案した方法。
マスクのゴムを改善(ウェブサイト)|マスクを長時間着用していると耳が痛くなるが、それを緩和するため、3Dプリントで作れるストラップアジャスターをHPとPeak Sportが考案した。
マスクのカバーを3Dプリント(ウェブサイト)|医療従事者は、N95マスクをファブリック製のマスクでカバーして、汚れを防いで長持ちするようにしている。そのカバーを3Dプリントで作る方法がこれだ。
フェイスシールド
飛沫から目や顔全体を守るための防具。切るだけ(手で切ってもレーザーカットでも)で作れるものは、3Dプリントよりもずっと楽だ。安全性が高い順に紹介しよう。
切るだけで作れるシールド
ウィスコンシン大学COVID-19フェイスシールド(ウェブサイト)|医療認可された、すぐに作れるフェイスシールド。ビニールのシールドと、額に当たる部分にフォーム性のパッドが付く(上の写真)。材料はすべてMacMasterで手に入る。ウィスコンシン大学で考案された。(このマスクに関するDelveの記事)
Kansas City Open Sourceのフェイスシールド(ウェブサイト)|全ビニール製。レーザーカッターやCNCならすぐにできる。プラスティック製のロックラダー式ヘッドバンドは、ゴムバンドに交換できる。カンザス大学と地元企業が共同開発した。
Providenceのフェイスシールド(ウェブサイト、Powerpoint)|額の部分にフォームのパッドが付くビニール製シールド。キリスト教系医療慈善団体Providenceが採用している。
ABV4レーザーカットフェイスシールド|Hackadayのメンバー、Konrad Klepacki(コンラッド・クレパキ)とMateusz Dyrda(メイティウス・ディルダ)が、Andrew Blackstock(アンドリュー・ブラックストック)のデザインを改良したもの。
Wilbert Yuqueのレーザーカット・シールド(Googleドライブのファイル)|OSCMSコミュニティーのRui Costa Ruimestre(ルイ・コスタ・ルイメスター)のデザインの改良版。アクリルのバイザーがシールドを顔から離してくれる。
Hammerspaceフェイスシールド(ウェブサイト)|3Dプリンター不要。レーザーカッターで作れる。ヘッドバンドはゴム。
HowToonsペットボトル・フェイスシールド(ウェブサイト)|昔のプロジェクトのリバイバル。子どもたちに作らせて、家の非常用キットに入れておくといい。医療認定されているとOSAMSは言うが、「大惨事級」の使用に限る。
3Dプリントで作るシールド
Prusa防護フェイスシールドRC3(ウェブサイト)|3Dプリントのパーツとビニールで作れる(写真右上)。二重のヘッドバンドによりシールドと顔の間に空間ができる。
Design that Mattersフェイスシールド3.0|Prusaシールドのリミックス版。バイザーを上に延長して、上からの飛沫の浸入を防ぐ。洗って再利用できるよう改善されている。アメリカ国立衛生研究所のウェブサイトでも公開されている。
RC2フェイスシールド + Maker Nexus Extensions(ウェブサイト)|Prusaのシールドのリミックス版。透明なシールドを上まで延長し、額までカバーする。カリフォルニア州サニーベイルのMaker Nexusメイカースペースが考案。
Budmenフェイスシールド(ウェブサイト)|3Dプリントしたパーツとビニールで作れる。ニューヨークの病院向けに作られている。アメリカ国立衛生研究所のウェブサイトでも公開されている。
レスピレーター
レスピレーターとは、顔を覆って密閉し、濾過した空気を供給するフェイスマスクのこと。
サージカルマスクをN95に変換するレスピレーター(ウェブサイト)|そう、上で紹介したのと同じプロジェクトだ。病院で使われているサージカルマスクはN95素材で作られているが、顔にフィットしない。輪ゴムを使えば、N95マスクのように顔に密着する。元Appleのエンジニアが効果を実証している。はい、インスタント・レスピレーターの出来上がり。
COVID-19水中メガネ・ヘパフィルター付きPAPR(Instructable)|PARR(動力式空気清浄器付きレスピレーター)は、濾過した空気を強制的に密閉したマスクに供給し、医療従事者を守る。これは、医師のRandell Vallero(ランデル・バレロ)が5ボルトのコンピューター用ファン、掃除機のヘパフィルター、フルフェイス型水中メガネを使って製作したDIY版だ。
DIY“N95”レスピレーターマスク(ウェブサイト)|家庭用空調装置のフィルターには、レスピレーターと同等の濾過性能がある。OSCMSは「MERV13以上の防塵除去フィルターならDIY N95マスクが作れる」と書いている。これはDIY版で病院での使用には適さないが、家族で使うのなら問題ない。
3Dプリント・レスピレーターマスク(ウェブサイト)|3Dプリントした医療用具は、多孔質で滅菌が難しいために扱いにくい。しかし、少なくともひとつの医療グループが、エアーフィルターが交換できるマスクの3Dプリントの可能性を探っている。
防護服 / 防護ガウン
最前線の医療従事者を守る全身用の防具だ。
PS-1オープンソース防護服(Googleドライブのファイル)|マニラに住むMichelle Dulce(ミシェル・ダルセー)は、市販の防護服をリバースエンジニアリングし、型紙を起こして、家庭で縫えるように作り方のPDFを製作した。ボストンのAlex Crease(アレックス・クリーズ)は、機械裁断できるように、そこからDXFファイルを作成した。OSCMAは、生地にタイベックを使用し、デュポンが提供しているヒートシール方法で縫い目を融着させることを推奨している。
Maker Faire RomeでのCOVIDに関するディスカッション
手で触れないための器具
手で触らなくて済むのなら、触らずに済ませよう。
Materialiseショッピングカートを手で触れないためのハンドル|手ではなく肘を使ってショッピングカートを押すための3Dプリント・ハンドル。(ファイルをダウンロード)
Materialiseドアノブを手で触れないためのハンドル|レバー式のドアノブを肘で開けられるようにする3Dプリントハンドル。(ファイルをダウンロード)
メイカーフック|手で触れずにドアを開けたり電気のスイッチを操作するための3Dプリント・フックが他にもあり、Prusaコミュニティ、Thingivers、Facebookなどいろいろなところで公開されている。
- https://www.prusaprinters.org/prints/26461-door-opener-fight-coronavirus-covid-19
- https://www.thingiverse.com/thing:4242313
- https://www.thingiverse.com/thing:4243593
- https://www.thingiverse.com/thing:4192643
滅菌
滅菌して再利用すれば、医療用具を長く使える。
N95マスクの再利用方法|標準的な研究室では、70℃のオーブンで30分間加熱するか、熱湯の蒸気で10分間蒸して滅菌を行っている。ただし、キッチンでこれを行うと家中にウイルスが飛散する恐れがあるので注意とのこと。アルコールや塩素を使うと、N95フィルターの性能が落ちてしまう。紫外線でも滅菌は可能だが、プラスティック部品を劣化させてしまう(スタンフォード大学の研究)。
ニトリルゴム手袋の再利用方法|電気圧力鍋をニトリルゴム手袋用の加圧滅菌器として使うことができる。Ryan Singel(ライアン・シンゲル)は30分間と言っている。ただし、金属や水分に触れさせないこと。
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4460945/
- https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0208769
- https://instantpot.com/who-knew-that-instant-pot-can-provides-scientific-grade-sterilization-actually-we-did/
人工呼吸器
人工呼吸器は、自発呼吸ができない患者の肺に空気を送り、肺の膨張と収縮を促す機械。ハードウェアとソフトウェアが関係してくる高度なプロジェクトだ。早く安価に作れる人工呼吸器を共同開発するプロジェクトがいくつも立ち上がっているものの、まだ実際に作るまでの準備が整っていない。ただこのプロジェクトだけは、HP Multi Jet Fusionプリンターと、その他のハイエンド機器を使える人なら実行可能だ。
Leitat-1緊急現場用人工呼吸器(ウェブサイト)|非常時用の手動式3Dプリントバッグバルブマスク(BVM)だ(上の写真)。スペインのカタロニアに住む医師が開発した。HPが、興味のあるメイカーとデザイナーたちの間を取り持っている。最新情報はTwitter(@respira_leitatX)で確認して欲しい。
完成間近のプロジェクト
ここからは、まだ完成に至っていないが、まもなく準備が整うプロジェクトだ。
Apollo BVM人工呼吸器(ウェブサイト)|ライス大学のOshman Engineering Design Kitchen and Metric Technologiesが開発したオープンソースのデザイン(上の写真)。操作系は臨床医がデザインしている。3Dプリントしたラック・アンド・ピニオンのダイレクトドライブをArduinoが制御してBVMの圧迫を自動調整し、重篤でない患者を安定させる。それより、重篤患者により高度な人工呼吸器が回せるようになる。300ドル以下で製作できる。
MIT E-Vent人工呼吸器(ウェブサイト)|自動化したBVMによる手動人工蘇生器。オープンソース。米食品医薬品局の承認申請中。
射出成形Prusaフェイスシールド(Gofundme)|シャーロット・ラテン・スクールのファブラボは、Prusaの3Dプリント版フェイスシールドの部品を射出成形できるように改良した。間もなくファイルが公開される。
UV-C滅菌グリル|UV(紫外線)ライトは目や皮膚に有毒であり、ほとんどすべての素材を急速に劣化させる。M95マスクは、1回UV滅菌しただけで硬質なプラスティックはもろくなり折れやすくなってしまう。病院の部屋の中で大量の用具を日常的にUV-C滅菌しないのはそのためだ。チューブやその他のプラスティック器具が破壊されてしまう。だが適切に時間さえ計れば、効果的な滅菌方法となる。Building Momentumは、UV-C滅菌「グリル」を3時間で開発した。部品表の公開が待たれる。
MatterHackers COVID-19積層製造リソースハブ(ウェブサイト)|3Dプリンターで作れる医療承認済みのアイテムのリストが間もなく公開される。
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