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2017.06.09

糖尿病患者の健康をモニターするSiren Careのスマートソックス

Text by DC Denison
Translated by kanai

5万ドルの賞金をかけたTechCrunch Hardware Battlefieldは、毎年ラスベガスで開催されるCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)での最大のイベントと言えるだろう。今年の勝者は、衣服にセンサーを埋め込んで人の健康状態をモニターするウェアラブル製品を開発する企業Siren Care@SirenCare)だ。

この企業の最初の製品が、糖尿病を患う人のためのスマートソックスだ。このソックスは、体温をモニターして、リアルタイムで傷を検知し、神経にダメージを受けていて痛みを感じられない患者に警告を発する。

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写真:Hep Svadja

Siren Careの共同創設者でCEOのRan Ma(@RanimalMa)は、以前はオランダの家電製品スタートアップ、VolsetのCMO(最高マーケティング責任者)だった。彼女は、VolsetでKickstarterキャンペーンを行い、11万3,548ドル(目標の192パーセント)を獲得した。

すでに強力な製品が存在する分野でのキャンペーンだったわけですが、不安はありませんでしたか?

たしかに、競合相手はいました。しかし、競合相手がいなかったら、同じようなことをする人が一人もいなかったとしたら、相当な大天才か、馬鹿でなければやっていけません。だから、競合相手がいることは、素晴らしい仕事をしてくれた人が他にいることは、良いことなのです。自分は馬鹿じゃないって、納得できます。

また、私たちには長期的な計画があります。ひとつ、ふたつ、みっつ、さらにその先も製品が作れる技術を開発することを理想としています。同じ人材、同じ技術、同じ専門知識、同じ知的財産を使って、製品のファミリーを作りたいのです。まずは糖尿病の足での実績を取っ掛かりにして、周辺の市場に拡大してゆこうと考えています。

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写真:Hep Svadja

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写真:Hep Svadja

その長期的な計画とは?

私たちは、最新のスマートファブリックを使って、健康と予防に焦点を当てた製品を作ろうとしています。また、生地にエレクトロニクスを統合させるための、さまざまな技術を試そうとしているところです。

私たちは、ウェアラブルを次の段階に引き上げることに注力しています。私たちはそれを、独立していながら、関連していて、使う人が日常の動作を変えずに済むようにしたいと考えています。たとえば、私たちのソックスは洗濯機で洗えて、染めることもでき、充電の必要もありません。普通のソックスとまったく同じです。それが次の段階のウェアラブルです。

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プロトタイプ作りで経験したことを教えてください。

私は、自分の部屋でプロトタイプを手縫いしました。Sparkfunで導電性糸を買い、いろいろ使い回していた古いArduinoを使いました。サンフランシスコのミッション地区にあるNoisebridgeというメイカースペースでハンダ付けも習いました。そこへ行って、こう尋ねたのです。「私のソックスのハンダ付けを手伝ってくれる人いますか?」

そうして作った初期のプロトタイプには、説得力がありましたか?

最初の2つのプロトタイプは最悪でした。見た目が怖かったんです。いたるところから電線が見えていて、ハンダ付けもお粗末で。医療関係のカンファレンスに持って行って医師たちに見せたのですが、手応えはありませんでした。それでも開発を進めました。電子部品は小さくなり、アプリも改善されて、ソックスは肌触りがよくなりました。すると、医療コミュニティが、なんとか受け入れてくれるようになったのです。

挫折の連続だったようですが、何があなたを支えたのですか?

外へ出かけて、潜在的な顧客、潜在的な患者の話を聞いたのです。看護師や介護施設や医師や傷の専門家とも話し合いました。カンファレンスにもたくさん参加しました。私の製品について糖尿病患者に話すと、彼らは感情的になりました。つま先や足を切断すること、それによって自立性が失われることを大変に恐れているのです。現実的な必要性を感じました。諦め気分になったときは、いつもこう思うことにしています。これは重要なことなのだと。

TechCrunch

会社を立ち上げるときの、うんざりするような作業の中で、それはとても重要だったと思います。

スタートアップの創設者が取材を受けるのは、その最高に輝かしいときです。カンファレンスのステージで講演したり、新製品を発表したり、Siren Careの場合では、CESのHardware Battlefieldで優勝したとか、そんなときです。みなさんには、私たちの最高に輝いている部分だけが見ていますが、見えていないところでは、2日寝ていないとか、2日シャワーを浴びていないとか、オフィスから出られないとか、そんな日々の連続です。スタートアップが低迷したり潰れていたら、また道を外したり、製品の出荷が送れたりすれば、取材には来てもらえません。スタートアップの設立は、血と汗と涙なんです。

ほとんどの人は、日が当たる面だけを見ています。それは、輝かしいとか、寒いとか、そういう話ではありません。サバイバルの話なのです。1日の半分は、翌日まで生き残るための挑戦です。会社を立ち上げたいと思うなら、最高のときと最低のときを生き抜く覚悟と準備が必要です。家族や友人の力強い支援も大切です。とりわけ、いっしょに苦労してきた共同出資者を大事にすることです。懸命に働いて、謙虚でいること。それが私の助言です。

Makerにとって、センサーやプロトタイピング用のツールが身近になったことで、流れが変わったと感じますか?

はい。センサーは毎日のように小さく安くなっています。ウェアラブルやIoTデバイスにはとても有り難いことです。入手しやすくなることで、より多くのMakerに扉を開くことになります。より多くの人が、プロトタイプを作れるようになります。アイデアを思いついても、うまく言い表せないとき、実際に作って人に見せられるようになることは、とても重要です。立派なプロトタイプが作れるとは限りませんが、何もないよりはましです。

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あなたの最初のプロジェクトであるVoltsetのマルチメーターでは、Kickstarterを利用していましたが、次のプロジェクトはベンチャー投資家に話を持って行きましたね。なぜ路線を変更したのですか?

どの企業にも異なる事情があります。大切なのは、何が作りたいかです。私の友人の会社では、KickstarterやIndiegogoをうまく利用しているところもあれば、収益で持ちこたえているところもあります。研究開発と製造のために大きな資金が必要な会社は、ベンチャー投資家に頼ることになります。私たちは、大きな会社を作りたかったのです。研究開発、技術の特定、未来へのロードマップ作りに時間をかけたかったのです。なので、私たちの場合は資金集めが最優先でした。そこで、外部の投資を使って、できるだけ早く成長しようと考えたのです。

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最近も資金調達をしていましたね。常に資金調達しているのですか?

私たちには大変な勢いがあったので、資金調達をしてきました。ここで資金調達を止めても、収益があるので1年か2年は持つでしょう。しかし資金調達は、1日とか1カ月とか、そういった話ではありません。私たちのような新規企業にとって、それは信頼関係を作ることなのです。資金調達をしなかったとしても、ネットワークを作り、強くて前向きな関係を長期にわたって築くことが重要です。それには長い時間がかかります。なので、私たちは積極的に資金調達をしなくても、そうした関係は常に築いてゆくつもりです。

医療用製品を販売するにあたって、食品医薬品局やその他の規制機関とのやりとりは大変ではなかったですか?

医療製品の認可を取るのは大変に難しく複雑でもありますが、それは身を守る術にもなります。時間があって、しっかり調査をして、専門家の指導を受ければ、規制の中身がわかってきます。食品医薬品局の認可の中には、意外に簡単に取得できるものも多くあります。認可を得たなら、それは自分の周りに堀を築いたのと同じ。身を守ることができるのです。他社が簡単に真似できなくなり、私たちのレベルには容易に近づけなくなります。

Makerにも取得できる認可はありますか? たとえば、診断装置というより、ツールを作るとか。

私たちが提供するのはツールであって、診断は行いません。人の足の体温をモニターするだけです。体温は、傷による反応である炎症によって変化します。その傷が、マメなのか、棘なのか、もっと深刻なものなのかは、私たちには判断できません。体が傷に反応していて、医者に診せる必要があるということを知らせるだけです。私たちが開発したものは、特定の事柄を測定するツールなのです。

最初の製品であるVoltsetのマルチメーターから学んだ教訓はありますか?

あれは、モノのインターネットと、デバイスをつなぐことによる大きな可能性を私に教えてくれました。そしてそれが、私のネットワークをMakerコミュニティにつないでくれたのです。Maker Faireには何度も通いました。Voltsetでは、プロトタイピングを学び、Arduinoを始めとする数々のボードを学びました。アイデアが生まれたら作れ、ということを学びました。

もうひとつ、私が学んだ重要な教訓は、強力なチームを作れ、ということです。問題を解決したいときに、仲間を頼ることができます。作りたい製品を思いついたとき、次にするべきことは、その方面の専門家による世界に通用するチームを作ることです。私の場合は、テキスタイルとエレクトロニクスでした。やがて、製造から数千数万のユニットの出荷を可能にするチームを築くことになります。

自分のスキルレベルや工学のレベルがどうあれ、リソースは探せばいくらでもあります。メイカースペースがひとつの例です。最初のプロトタイプは不出来であっても、その経験は必ず役に立ちます。今思うに、最初のプロトタイプを作ることは、その製品の基本を理解する上で大変に重要です。なぜなら、自分の手で作ったからです。

原文