Electronics

2018.05.22

“タコ焼きロボット” はコモディティ化したロボットアームを使って社会のニーズに応えるプロダクトの最初の一歩 — コネクテッドロボティクス代表 沢登哲也さんインタビュー

Text by Takako Ouchi

2017年のMaker Faire Tokyoに出展していた、タコ焼きロボット「OctoChef」。なかなかうまくタコ焼きをひっくり返せず、子どもたちから声援を受けていた姿が印象的だったが、その後、「コネクテッドロボティクス」社として複数の投資先からの出資を受け、OctoChefの開発を進めている。コネクテッドロボティクスが現在オフィスを構える東京都小金井市の農工大・多摩小金井ベンチャーポートに代表の沢登哲也さんを訪ねた。

タコ焼きロボットを囲むコネクテッドロボティクスのメンバー、中央が沢登さん

タコ焼きロボットを囲むコネクテッドロボティクスのメンバー、メンバーはフランス、イギリス、香港、日本とさまざまな国から集まっている。中央が沢登さん(Photo: Kurage Kikuchi)

身近なところで役に立つロボットを

タコ焼きロボット「OctoChef」の発端は、2017年4月に行われたStartup Weekend Tokyo Roboticsだ。そこでチームになったメンバーで開発が始まり、3日間で実装しデモを行った。その結果、優勝を飾り、その勢いのまま、8月のMaker Faire Tokyo 2017に出展し、さらに勢いに乗り、6,300万円の資金調達を成功させ、現在、リリースへ向け開発を進めているということになる。ロボットがタコ焼きを焼く、これは素人でもその難しさが想像できる。実際、Startup Weekendでは、どういう形でプロトタイピングを進めていったのだろうか。集まったのはエンジニアを中心に6名、沢登さんを含めて7名。ロボットを使ってタコ焼きを焼けるよう実装するチームと、それをビジネスとしてどう訴求するかをまとめるチームの2つに分かれて開発は進んでいった。

「急造したチームで、しかも、私が勝手に持ち込んだロボットでいきなりタコ焼きを焼けという。これは、やはり技術的にもかなり難しくて、技術のほうは難航しました。2日目にどうしても動かないところがあって、チームもかなりあきらめムードになりかけていて…… 3日目に一人こなくなってしまいました」

最終的に、当初ビジネス面を固めるチームにいた沢登さんが力技で技術的な課題を解消し、3日目、ロボットが動いたところでビデオを撮影し、コンセプトビデオを作った。そして最終ピッチを行い、優勝に至る。沢登さんがそれまで何度か参加しているStartup Weekendで、優勝は初めてのことだった。

「前職では、基本的には工場のロボットを動かす、ロボットコントローラーのソフトウェアを作っていたんです。ロボットは昔から好きで、大学時代はロボコンも出ていますし、NHKロボコンで優勝した経験もあります。ただ、やはりロボットはもっと身近なところで、もっというと、自分の役に立って欲しいという思いがずっとありました」

大学ではソフトウェア工学(アルゴリズム)を学んだという沢登さん、卒業後は飲食業界に職を得て、新規店舗の立ち上げも経験している。実際に飲食店で働いてみると、想像以上に厳しい環境だったという。人手不足であったり、過剰サービスになっている構造的な問題もあるが、沢登さんが指摘するのは、ワークスタイルに起こっている変化だ。働いている人を見ていると、年配の人のほうががんばる傾向があり、若い人のほうはきつい肉体労働を嫌がる。これは、就職先として農業が避けられてしまうように、飲食業も避けられるようになりつつあるということ。現状をそうとらえた沢登さんは、そういう状況をロボットで支えられないかと考え始めた。

「今まで工場で見てきたロボット制御のコンセプトが、おそらく生きるんじゃないかと考えていました。ただし、Startup Weekendではとにかく楽しもうと思いました。問題意識はありつつも、まずは人を集める、仲間を探すという段階では人をわくわくさせなければいけない。飲食業がたいへんだと言っても、経験がない人にはなかなか響きません。家庭の食卓を楽しくする、というようなワクワク感が必要です」

なぜ、「タコ焼き」だったのかというと、この「ワクワク感」につながる。たまたま1ヶ月くらい前にタコパ(タコ焼きパーティ)をやったところ、これはおもしろいぞと、Startup Weekend Tokyo Roboticsに持ち込んだのだ。

コネクテッドロボティクス 代表 沢登哲也さん
コネクテッドロボティクス 代表 沢登哲也さん(Photo: Kurage Kikuchi)

そして見事、優勝したわけだが、その後、どう事業化していくという話になる。進め方を悩んでいたときに、声がかかったのがMaker Faire Tokyoへの出展だった。Startup Weekend Tokyo Roboticsをオーガナイズをしていた羽根田智子さん経由でMaker Faire Tokyoの運営スタッフとつながったことがきっかけだ。ちょうど2017年のMaker Faire Tokyoではフードセクションを作ろうという動きがあり、クレープロボットや食品系の出展者を集めていた。ただ、Startup Weekendの3日間で作ったプロトタイプでは、たまたまうまくいったときしか食べられるものができないという状況だったため、これは実際に人前に出すレベルではないと判断し、あらためてMaker Faire Tokyoに出るためのプロトタイプを作り始めた。

「本格的な産業用ロボットを使って、タコをつかみ、タコ焼きをひっくり返して、盛り付けて出す、というデモにしようということになりました。自分でロボットを作ろうとも思いましたが、普通に作るとなかなかしっかり動かないんですね。フラフラとは動くんですが、それではかなり難しいので」

産業用のロボットアームをレンタルし、沢登さんがメインで制作作業が始まった。何度かプロトタイピングで動きを試しつつ、本番のMaker Faire Tokyoには80%くらいの出来で臨んだという。

「2日目にかなりまともに動くようになって、お客さんもかなり集まってきました。子どもは非常に楽しんでくれましたね。「こんなこともできるの?」「おもしろい!」と言って。ウケはよかったです。まずタコをつかみにいく、生地を入れるとか、そういうところもかなり関心を呼んでいましたね。あとはひっくりかえすところ。失敗もあったので、みなさん応援してくれるんです。うまくいくと「おお!」という感じで」

Maker Faire Tokyoでのデモを通して、楽しめるロボットとして、お客さんに体験してもらう、ユーザー体験のところはうまくいったことになる。とはいえ300万円、400万円もするロボットを作って家庭に導入する、というのはなかなか難しい。当初からの計画通り、このプロダクト(ユーザー体験)をどうにかして飲食店に売っていこうという方針で、ビジネス面を詰めていくことになる。

“見せるロボット”から”確実に作るロボット”へ

いま取り組んでいるのは、飲食店向けといっても厨房の中に収まるものではなく、タコ焼き、大判焼き、焼き鳥、天ぷら、揚げ物、あるいはソフトクリームといった店頭で見せる調理をするロボットだ。業務用のロボットアームを使って、ある程度汎用性を持たせつつツールや器具を自社で開発し、さまざまなシーンに活用できるシステムを目指している。前述のように、Maker Faire Tokyoでのタコ焼きロボット(OctoChef)はタコをつかんで、生地を流して、くるっと返す、これらを見せるプレゼンテーションを中心にしていた。しかし、現在のタコ焼きロボットはもっとシステマチックだ。見せることを意識しつつも、効率化された動きになっている。デモ動画が以下のリンクで公開されている。

自動タコ焼きロボット Octochef

タコ焼きの器に横一列いっせいに油を引き、生地を流し込む。人がセットしたタコを落とし、さらに生地を追加し、焼いていく。ディープラーニングによる焼き色判定でひっくり返す。ひっくり返す際には、ロボットアームは人間のように串を回すことが難しいため、下から振動を与えることでひっくり返す。皿に盛る部分はロボットアームがトングを操作して行う。

「生産性、確実性を考えてやっています。実際にお店で人間と同じにさばけるくらい。でも、生産性を重視しても、人が見て「おっ」というところを残さないといけない。人間が驚くポイントにはいくつかあります。たとえば、ロボットがアナログにボタンを押すところがおもしろがられます。あとは盛り付けのところ、トングでつかんで持っていくところです。工場のような場所では吸着させて一気に取り出すほうがいいんですが、店頭で使うものならトングのほうが喜ばれますね」

開発中の自動タコ焼きロボット Octochef
開発中の自動タコ焼きロボット「Octochef」(Photo: Kurage Kikuchi)

開発中のソフトクリームを作るロボット
開発中のソフトクリームを作るロボット(Photo: Kurage Kikuchi)

開発の基本的な考えは、既存のロボットアームを使うことだ。実際の作業に必要な、細かいところで用いるツールは自社で設計したり、あるいは専用のマシンを購入して使っている。既製品のロボットアームに依存してしまうことへの不安はないのだろうか? それについて、沢登さんはきっぱりと否定する。

「もともとロボットコントローラーを開発してきたので、どんなロボットになっても、ほとんどのロボットをコントロールできる知見はあります。ロボットアームは、今、コモディティ化が進んでいます。既存のロボットアームをベースに、周辺の細かい専用ツール、専用機を作り込んで行く。今後は、そこが重要になると思っています」

今回のタコ焼きロボットでは、アームの先に取り付けたカメラで焼き加減の色、大きさ、そして、ひっくり返っているかどうか、の3点を見ている。その判断にはディープラーニング(tensorFlow)を活用して。すでに画像データは数万枚レベルで用意できている。精度はまだ80%から90%といったところ。食品工場で使われるものなら、99%以上にまで持っていく必要があるが、現時点では、8割、9割の精度でも許される店頭デモ的な使われ方を想定している。

Keep it simple, Visible, Tangible(シンプルで、見えて、さわれるものを必ず見せてくれ)

きっかけも含めて、開発をドライブしていったのはStartup WeekendやMaker Faire Tokyoといったイベントだということは確かだ。プロトタイプを作ること、人に見てもらう、試してもらう。その反応や感想をもとに、また作り直す。見せることによって開発は加速する。やりがいにつながるし、チャンスにつながるからだ。

「人に見てもらうというのはすごく重要なことです。会社で、社員にいつも言っているのは『Keep it simple, Visible, Tangible(シンプルで、見えて、さわれるものを必ず見せてくれ)』です。頭の中にしまっておかないで、手を動かして作って見せてくれ、と。こういうことがやりたいんですと具体的に見える形で、さわれる形で提示するのが大事だなと思います」

最初は根拠のない自信だったが、今、やれるだろうという手応えを感じている、と沢登さんはいう。

「とにかくやりたいという気持ちだけでやっていたんです。やっていくうちに、まわりも信じてくれるようになって、盛り上がってきてくれた。飲食業界のオーナーや社長と話をしていると、ロボットでも使わないと、もうどうにもならないという、非常に切実なニーズがあります。そういう意味でも、やらなければいけないという状況になっています。でも、深刻になるというより、我々も楽しんで開発を進めていますし、非常にいい感じで進んでいると思っています。今は、非常に世の中にニーズがあって、求められていることをやっているという気持ちを持っています」

もちろんこれらは現在の技術と、ニューラルネットの研究、ロボットの制御、飲食の現場、といった沢登さんのキャリアが適切なタイミングでつながった結果だ。物作りにしろ、テクノロジーを用いた課題解決にしろ、1つの技術だけで成立することは少ない。いろいろな分野の掛け合わせが新しい”コト”を起こすのだ。すでにコネクテッドロボティクスは、複数の大手企業との提携も決まり、具体的なリリースに向けて開発を進めている。目指すのは、楽しい、ワクワクする、飲食の世界だ。


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編集部から:今年のMaker Faire Tokyoでは、沢登さんのインタビューで言及されたStartup Weekendが会場内にて開催される予定です。出展者、スポンサー、来場者といっしょになったこれまでにないスタートアップイベントになりそうでStartup Weekendのスタッフのみなさん、そしてMaker Faire Tokyoのスタッフも楽しみにしています。参加の申し込み方法はこちらをご参照ください。お楽しみに!