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2019.02.22

車椅子をインタラクティブなバンブルビーにトランスフォームさせた「アシスティブテクノロジー」のMakerたちのストーリー

Text by kanai

Alexとバンブルビー

Alexは自動車と作曲と映画『トランスフォーマー』が大好きな16歳の少年。全身の筋緊張低下症を患っているため、筋肉を思うように動かせず、車椅子が欠かせない生活を送っている。バンブルビーは、Alexの車椅子に施された最高のコスチュームだ。Alexのためのいくつもの入力装置が備えられ、大音量の音響システムに、LEDもたくさん装備されている。これは、私たちが車椅子をトランスフォーマーに作り変えた記録だ。

背景のお話

2018年6月、ニューメキシコ州サンタフェで開かれたNation of Makersカンファレンス(NOMCON)の会場で、私たちはMagic Wheelchair(魔法の車椅子)という団体と出会った。Magic Wheelchairには、とてもわかりやすくて素晴らしい使命がある。それは……

「Magic Wheelchairは、車椅子の子どもたちにビックリするようなコスチュームを、家族の負担なしに製作する非営利団体です」

これを知ったとき、私たちのメイカースペース、MakerFXも彼らのリストに加えて、ビックリするようなコスチュームの製作に参加させて欲しいとお願いした。私たちはまた、NOMCON 2018の会場でATMakersのBill Binkoにも会った。ATMakerは、「Makerムーブメントの中の卓越した才能と、STEMおよびロボティクス関連組織と、アシスティブテクノロジー(生活支援技術)の分野で常に何かを必要としている人たちとを結びつけること」を目標にしている。ATMakersは、私たちが活動拠点としているオーランドからわずか数時間のターポンスプリングにあることを知り、今後、いっしょにやっていこうと話し合った。

2019年に入り、Billから連絡があった。セントラルフロリダの子どもにMagic Wheelchairがコスチュームを作ることになりそうで、その仕事をいっしょにやらないかとの誘いだった。Assistive Tech Industry Association(ATIA:生活支援技術工業協会)で大々的に披露する計画があるとのこと。これはまたとない参加のチャンスだ。ただし、期間は3週間しかない。

「大きなことをやり遂げるには、2つのことが必要だ。計画と、足りない程度の時間だ」—Leonard Bernstein

作業開始

私たちはチームを結成し、何人かのメンバーがAlexと彼の両親、KimとJeffとの面談を設定した。私たちは、Alexがコミュニケーションの専門家と訓練を行っているセントラルフロリダ大学のUCFFAASTセンターで会うことにした。Alexは、最近、新しいバンブルビーの映画を見て、とても気に入っているという。私たちは、カーラジオを使って会話するというバンブルビーのキャラクター設定に即座に飛びついた。Alexがアシスティブテクノロジーデバイスを使って会話しているのと同じだ。無駄にできる時間はない。タコスを腹に詰め込むと、スケッチを描き込んだ紙ナプキンが大量に積み上がった。

Makers HollowのStefanとErinは、半分トランスフォームしたバンブルビーをデザインした。特徴的なフォルクスワーゲン・ビートルのフロントのフェンダー、バンパー、ヘッドライト、それにバンブルビーの頭。これらがAlexを取り囲む。私たちは、Alexが大好きなキーボードにもこだわった。それを演奏できる状態でコスチュームに組み入れたい。

部品の製造に時間がかかるのを避けるために、私たちは既存の製品を再利用することにした。市販されているバンブルビーのヘルメットや子ども用の乗用おもちゃだ。

メンバーの多くがMaker Faire Orlandoで開催された、子ども用乗用オモチャを改造してレースを行うPower Racing Seriesに参加していたので、いくつか車体が余っていた。さらに、私たちは新しいフォルクスワーゲン・ビートルの乗用オモチャを買っていたのだが、その店の人がこのプロジェクトの話を聞いて、オートバイを1台ゆずってくれた。さらにMakers HollowとMakerFXをプラスティック加工工場代わりに使って、必要な部品をほぼ揃えることができた。

 

しっかりとした土台

Magic Wheelchairの製作ガイドを読み始めると、実用的な車椅子にするためには、シートの実物大模型を作ることが重要であることがわかった。同じモデルの車椅子を代車として借りることを考えたが、メーカーと連絡がつかなかった。地元の販売店では、そのタイプの車椅子は高価なために扱っていないという。そこで私たちは、シートの構造図を描いてKimに渡し、重要な部分の寸法を測ってもらうことにした。

私たちは3/4インチ径の塩ビパイプでモックアップを作り、これが本物に十分に近いことを願って、その他に着手できる部分の作業を進めた。

フレームとボディ

Alexの両親はバンブルビーを運搬する必要があるはずだ。そこで急遽、車椅子の前と両側を三面で囲み、そのパネルを取り外しできる構造にすることとした。頭と肩の部品はAlexの車椅子の背もたれに後で取り付ける。組み立てを開始してから最初の週末には、MakeMIAのAndreaとMike、それにWitch Doctor Battlebotsの面々がマイアミからMakers Hollowまで車で駆けつけ、手伝ってくれた。

フレームとボディの製作はMakers Hollowで続けられた。プラスティック部品は塗装し、Stephanがメインのフェンダーをファイバーグラスで製作した。

この部分の製作には、かなり時間がかかった。毎晩、Makers Hollowに遅くまで残って、製造、ヤスリがけ、塗装、組み立てを行った。

両脇のパネルは、子ども用の乗用おもちゃのいろいろなパーツを切断し、塗装し、トランスフォーム途中の姿に組み直した。パターンを決めるのに少し手間取ったが、Harryが作業を引き受け、両側のパネルを6時間ほどで仕上げてくれた。

「タオル掛け」と称されるフォルクスワーゲンの象徴的なバンパーが、オートバイのフェンダーに銅管と1/2インチ厚の塩ビシートと、StefanとAndrewによる山のような手作業によって再現された。

部品を作りながら、いろいろなものをフレームに溶接していった。フロントフェンダーのサポート、リアのバンパーを固定するための両脇の張り出し。下の写真はフロントフェンダーのサポート。いい形をしている。

フェンダーが片側だけ完成した。水曜日の午前2時。大お披露目会の前日だ。

私たちがフレームとボディを作っている間、Jean Paulが並行してリアバンパーを作っていた。

リアバンパーには数本のロッドがあり、2本のスライドフレームの後ろに挿入することで、Alexの車椅子が正しい場所に固定されるようになっている。これで、どの角度からでもバンブルビーに見える。リヤバンパーの作業に取りかかるのと同時に、私たちはバンブルビーのナンバープレートとそのフレームを電話で依頼した。Andreaはすぐにプレートを作ってくれた。BobはMakerFXのレーザーカッターでフレームを作ってくれた。Andrewが特別なときに使おうと隠しておいたスペシャルなアクリル板で作られている。下の写真が完成したプレートだ。

頭と肩

バンブルビーの頭と肩を作ることは最初から考えていたが、フレームやボディやリアバンパーや操作用の装置などの製作で時間が取れず、木曜日、お披露目の直前にまで手が付けられなかった。下の写真は頭と肩のモックアップだ。塗装は済んで、片方のホイールキャップを3Dプリントした(未塗装)。だが、これから鉄を使った作業に入る。

もう時間がない。私たちはがんばって部品の取り付けを完了させた。Stefanは魔法の技を繰り出してバンブルビーに解剖学的に正しい首の中身を追加した(そうさ、全員がこのバンブルビーと自撮りしたよ)。このアセンブリーは車椅子のヘッドセットに取り付けることになっているのだが、本物の車椅子がないため、設定が難しかった。

ぴったり合うのだろうか?

常軌を逸したスケジュールで製作を進めてきたので、公開の前日の木曜日の夜まで(ヒヤヒヤだ!)、実際に合わせることができなかった。とても不安だったが、我々の計画も、Kimの採寸も、そしてモックアップの車椅子もバッチリだった。すべてがぴったり合わさった!

仕上げまで24時間とちょっとしかない。パーツはATIA会議の金曜日のセッションに間に合うように送る必要がある。休んでいる暇はない。これからエレクトロニクスの組み込みだ。

インタラクティブな仕掛け

最初の面談のとき、私たちはこのバンブルビーをビックリするような見た目にするだけでなく、Alexと対話できるようにしようと決めていた。ATMakersのBillは、アシスティブテクノロジーのプロなので、Alexが使えそうな、そして将来の理学療法にも役立ちそうなインターフェイスの選定で活躍してくれた。

ダッシュボード

フォルクスワーゲンの乗用オモチャから必要な部品を取り出した後に、ダッシュボードが残っていた。最初の計画には入っていなかったが、Alexはきっと気に入るという確信があったし、バンブルビーにはダッシュボードがなくちゃね。

MakerFXのメンバーであるMark、Rita、Johnの3人は、ピンク色の飾りのダッシュボードをアシスティブテクノロジーのデバイスに生まれ変わらせた。

マイクロコントローラー、Teensy 3.6をベースにしたダッシュボードには、Proto-pastaの導電性フィラメントで3Dプリントした静電容量タッチセンサー式のホーンボタンが備えられた。Teensyのインターフェイスとボタンの感度の調整にはAdafruit 12-Key Capacitive Touch Sensor Breakoutを使用。さらに、アシスティブテクノロジーのためのボタンが2つ、320×240ピクセルの液晶画面、アドレサブルLEDリングが3つ付いている。

ダッシュボードの電源はUSBで供給され、その他のコスチュームにはUSB MIDIの音声でコマンドが送られる。なぜMIDIかって? Alexはカシオのキーボードが大好きなのだ。このキーボードがAlexの使い慣れたツールであることを知った私たちは、25キーのAKAI MPK MINI MKIIキーボードを使うことに決めた。このキーボードには8つのタッチパッドがあり、それもAlexの役に立つ。コントロールインターフェイスとして、かなり豊富な機能を有している。コスチュームのメインのコントローラーは、キーボードからでも、ダッシュボードからでも操作できる。どちらもUSB MIDI機器だからだ。

MIDIキーボード

キーボードは、チャンネル1に鍵盤の音を送るようになっている。パッドの音はチャンネル2に送られる。ダッシュボードのTeensyは、ホーンボタンと2つのサイドボタンから送られるMIDI音声をチャンネル3に送る。3つの音源からの信号を別のアクションに切り替えることも可能だ。

メインのマイクロコントローラーであるTeensyのソフトウェアのセットアップが完了した。鍵盤は、押せばその通りに音が鳴る。8つのパッドは、現在の楽器、アニメーションモード、主として使うLEDのカラースキーム、ヘッドライトのオンオフの切り替えと、ホーン、トランスフォーマーの音、バンブルビーの声を鳴らすのに使う。これらのアクションの鍵盤、パッド、ボタンへの割り当ては、簡単に変更できる。または、キーボードのユーティリティを使って出力を変更することも可能だ。

リモコン

私たちは、Alexの両親がバンブルビーの操作を手伝うこともあるだろうと想像し、プレゼン用のリモコンも装備した。最初は「あれば便利かも」程度の感覚だったのだが、システムのテストには必須で、デモンストレーションの際のバンブルビーの操作にも必要なものであることがわかった(私はこのリモコンを、将来、Teensyを使ったUSBプロジェクトに使おうと思って、ひとつ確保した。テスト用のボタン類を追加しなくて済むので、すごく便利なのだ)。

メインのコントローラー

すべての音声とキーからの入力は、Teensy 3.6で処理される。これには、USBホストケーブル 、7ポートの電源付きUSBハブ、Teensyオーディオアダプターボード、自作のレベルシフターボード、自作の5チャンネルトランジスタードライバーボードが接続されている。Teensyのスケッチは、楽器からの音声入力、12ボルト増幅器への音声出力、高速フーリエ変換による音声解析、ピーク音声解析、鍵盤などからの入力とMIDI音声のアクションへの割り当てを行う。このアクションには、バンブルビーの音声ファイルとフォルクスワーゲンのホーン音の再生と、アニメーションの色とモードの変換が含まれる。私はTeensyを初めて使ったのだが、そのUSBホストとして、また音声処理の性能に驚いた。使ったことのない人は、音声ワークショップの動画と資料をぜひ見て欲しい。このボードの性能がよくわかるし、音声デザインツールもすぐに使えるようになる。このシステムのコードはMakerFXのGitHubで公開されている。どうか、コメントはお手柔らかに。私はTeensyを学び始めたところだし、すべてのコーディングは、最初に手にしたTeensyに電源を入れてから7日間で書いたものだからだ。いくつかのバグはすでに発見されている。来週にはバンブルビーをMakerFXに戻してアップグレードする予定だ。

LED

TeensyにはWS2812アドレサブルLEDが4セット接続されている。これは、バンブルビーの目(16LEDリングが同じデータピンにつながっている)、トレーLED(Alexのトレーを囲む60個以上のLED)、ヘッドライトリング(24LEDリングが2つ、同じデータピンにつながっている)、バンブルビーのサイドにあるオートボットのロゴ(片側に10ストリップLED、これもデータピンが共通)をドライブする。また、グランドエフェクトやサイドパネルの照明効果用に12ボルトのRGB LEDストリップが何カ所かに埋め込まれているが、これらは自作のドライバーボードの3チャンネルを使ってドライブしている。このドライバーの残りの2チャンネルは、左右のヘッドライトのスポットライトをドライブしている。これも12ボルトだ。パーツを集めているときに面白いことを知った。いろいろなメーカーのLEDリングを混合して使っているのだが、リングの場合、メーカーごとのもっとも大きな違いは、コネクターのタイプとLEDの方向(時計回りか反時計回りか)だった。私たちはFastLEDライブラリーTeensy用のノンブロッキングWS2812Serialライブラリーを使用した。自作のレベルシフターボードは、アドレサブルLEDに74HCT245でデータ線を使って5ボルトを供給する。5ボルトをフルに使うためだ。

アニメーションモード

現在は7つのアニメーションモードがある。高速フーリエ変換音声スペクトル解析モードが2つ、ピーク音声レベルモードが2つ、光が追い駆けっこをするパターンが3つだ。音声に反応するモードでは、音声レベルがピークに達するとヘッドライトの白色LEDが点灯する。音声解析によるアニメーションには、バンブルビーの音声効果、Alexが奏でるサウンド、AUX音声入力からの音楽や音声に反応するものがある。Alexのお母さんが古いiPodを掘り出してきたのだが、それが今ではバンブルビー専用の音楽音源になっている。

下のタイムラプス動画でLEDアニメーションを見ることができる。配線して塗装してテストしたのが最後の2日(遅い!)だった。動画の2分あたりでLEDを点灯している。撮影したのは公開前夜の午前2時だ!

ありがとう!

3週間という短い期間に関わってくれた25人以上の人々に感謝したい。そして、これを可能にしてくれたMagic Wheelchairのみんなにも感謝する!

原文