Science

2020.03.27

南欧を脅かすパンデミック #1|医療崩壊寸前の病院を助けるイタリアのメイカーたちとFab Labネットワーク

Text by Toshinao Ruike

本シリーズでは南欧在住のmakezine.jpコントリビューター、類家さんに南欧の現状と“何もせず手をこまねいているわけではない” メイカーの動きをレポートしていただきます。

日本でも報道されご存知の方も多いと思いますが、3月下旬の現在、南欧で新型コロナウィルスCOVID-19が猛威を振るっています。イタリアに続き、スペインやポルトガルでも非常事態宣言が出され、この1、2週間市民の移動は制限されています。私はスペインのバルセロナを拠点にしていますが、仕事でポルトガルを訪れている間にスペインの状況が悪化し、まだスペインほどは深刻ではないポルトガルの海辺の小さな町にそのまま滞在しています。うららかな春の光が降り注いでいるのに外出もままならず、太陽や友人知人との対話を尊ぶ南欧の人々の間には不穏な雰囲気が漂っています。

そのような状況ですが、南欧のメイカーたちも何もせず手をこまねいているわけではありません。

ダイビング用マスクを人工呼吸器に転用、各地のメイカーが部品を3Dプリンティング

イタリア北部の中でも特にロンバルディア州は感染者が多く、集中治療室での治療に使われる人工呼吸器やその器具も患者の数に対して不足しています。この地域では医療システムへの負荷が深刻化し、いわゆる医療崩壊が懸念されています。

そこで地元の3Dプリンティング専門業者、Isinnovaが地域の拠点病院と連携を取り、準集中治療室での治療のためにダイビング用マスクを転用して活用することを考え、そのアタッチメントの部品をイタリア各地のメイカーと共に3Dプリンティングしました。Isinnovaのスタッフがヨーロッパで最もポピュラーなスポーツ用品店で簡単に調達できるシュノーケリング用のマスクを用いてデザインを行い、地元のFab Lab Bresciaを通じて有志に部品の3Dプリンティングを呼びかけると、イタリア全土からまたたく間に500キットの部品が集まりました。何名かの患者でテストした後、マスクとそのアタッチメントはすでにイタリア市民保護局(Protezione Civile)に届けられ、要請のあった病院へこれから渡される予定です。

今回3Dプリンティングの設計を担当したIsinnovaは、すでに今月半ばにロンバルディア州ブレシアの病院で人工呼吸器に使うためのバルブが足りなくなった際にも病院に3Dプリンターを持ち込み、その当時人工呼吸器を必要としていた10人の患者を助けるために既製品のバルブの複製に成功した実績がありました。今回はそれに続く快挙になります。

ちなみに人工呼吸器が足りなくなった際にブレシアの病院とIsinnovaを繋げたのは、イタリアのFab Labのネットワークでした。病院の窮状を知った地元紙の記者が、ミラノのFab LabのファウンダーでインフルエンサーのMassimo Temporelliに不足しているバルブを3Dプリンティングできないか相談します。そこからブレシア周辺のFab Labや3Dプリンティング関連の会社と連絡が取られ、IsinnovaやブレシアのFab Labがそれに応え協力したという経緯があった模様です。

昨年のMaker Faire Romeの記事ではイタリアのFab Labの現状について「以前イタリアにはFab Labがたくさんあったが、場所を設けたものの何をすればいいのかわからなくなっている。近年はあまり活動していないところも多い」ということを書いたのですが、今回のような非常事態になって再びそのネットワークが生かされる形になりました。

オンラインで語り合うBar Arduino

とにかく何がすることがあるわけでもなく、時々バーに足を運ぶ習慣のあるイタリアの人々。何はともあれ、「元気かい」「ああ、元気だよ」と声をかける、それだけのことを日々していたいのです。ところが今はバーもレストランも閉鎖されています。Arduinoはそこでイタリア人コミュニティのために今月からBar Arduinoを配信しています。Arduinoの15周年を祝うArduino Dayも今年はオンラインで開催しました(英語)

Maker Faireのようなオフラインでのイベントと合わせて、これまでもメイカーコミュニティはオンラインで知識を共有し交流を深めてきました。世界各地でロックダウンが進み長期化する中、これまでの蓄積を我々も生かしてオンラインでの学びや交流を積極的に深める機会を作っていきましょう。南欧ではイタリアに次いで深刻な被害を受けているスペインでもメイカーがオンラインで協力関係を短期間で作り上げ、困難な状況に立ち向かっています。次回はそちらを紹介します。