Electronics

2023.01.27

手のひらサイズのペンプロッタを作り続ける理由

Text by editor

この記事はいしかわきょーすけさんに寄稿していただきました。


ペンプロッタが好きです。小さなペンプロッタが音を立ててけなげに動く姿を見ていると、時間が経つのを忘れてしまいそうになります。これまでペンプロッタを80台以上作成しMaker Faireを中心としたメイカー系イベントに出展してきましたが、「なぜペンプロッタばかり作っているのか」「何を目指しているのか」といった問いかけをいただくことが何度もありました。本記事では、なぜ自分がペンプロッタを作り続けるのかについて、これまでのペンプロッタ製作の軌跡を振り返りながら記します。

はじまりは直動機構から

10代のころ、BASICが動く8bitのパーソナルコンピュータでマイコンに触れてから、趣味の活動としてマイコンを楽しむ生活が続いています。最初は画面に映るキャラクタを動かすTVゲーム作りを楽しんでいましたが、徐々に画面の中のものを動かすだけでは物足りなくなってきました。そしてマイコンにモータを接続してロボットアームを動かしたり、移動ロボットを作ってロボット競技会に参加するようになりました。

TVゲームやロボットを作ることの原動力の1つは、自分が見たTVゲームやロボットと同様のものを手元で動かしたいというものでした。マイコンを楽しむ前はプラモデルや鉄道模型を楽しんでいたこともあり、本物のミニチュアが手元にあるのが好きだったからかもしれません。

そんなロボット作りを楽しんでいるうちに、いつしか小さな直動機構を作ることが好きになっていました。直動機構とは直線状に動く機構のことで、最近では3Dプリンターの機構としても身近な存在になっています。小さな直動機構を見る機会が少なかったこともあり、自分が作ったものが動く姿を見ていると本物のミニチュアが目の前に現れたように感じて楽しくなりました。そしてネジやベルト、ラックギヤなどさまざまな機構を使った直動機構を作って試行錯誤を重ねるようになりました。


Nゲージのレールをガイドとして使用したベルト駆動方式の直動機構

直動機構を直交させてペンプロッタの楽しさに気づく

直動機構は単体で動かすだけではなく、3Dプリンターのように複数の直動機構を組み合せて任意の位置に動かすメカとして使われることが多いです。ある時、自分が作った直動機構を直交させたところ、3Dプリンターのミニチュアが目の前に現れたように感じました。さらに直動機構にボールペンと紙を取り付けて動かしたところ、直動機構の動きが紙の上の線となって現れる様子に今までにない楽しさを感じました。

ペンを動かして絵を描く機械はペンプロッタと呼ばれ、昔の8bitパーソナルコンピュータにも、周辺機器としてボールペンを使ったペンプロッタが周辺機器としてラインナップされていました。小さな直動機構を作って楽しむだけだった世界が、紙の上に絵を描く小さなペンプロッタを楽しむ世界に姿を変えた瞬間でした。


最初に作成したペンプロッタ。この時はペンの上下もネジ駆動の直動機構を使用していた

ペンプロッタはメカ、エレキ、ソフト、コンテンツ、すべてが上手く組み合わさることで初めて絵が描けるところが楽しいと感じています。メカやモーターを動かすソフトウェアに加えて、図形を描くアルゴリズムや文字を描くフォントデータの自作も楽しめます。この楽しさは8bitのパーソナルコンピュータでTVゲームを作っていたころと同じようなものだと思います。そしてメカの良し悪しが絵の質となって現れるところも楽しいです。さらに3Dプリンターやカッティングマシンのように熱も刃物も使わないため安全、デバッグも気軽にできることも魅力的です。

ペンプロッタに引きよせられる方々との出会い

自分の作る小さなペンプロッタは気軽に持ち運びができるため、イベントなどに参加している知人のところに持って行って見てもらったりしていました。さらに自分の知らない方にも見てもらいたいと思うようになり、これまで見学者として参加していた「Maker Faire Tokyo」に自分も出展してみようと決意しました。この時はまだ3台のペンプロッタしか手元になかったのですが、試行錯誤の過程も楽しんでもらいたいと思い、過去に自分が作った直動機構も一緒に展示することにしました。


Maker Faire Tokyo 2014に出展したペンプロッタ。この後、レーザーカッターとアクリル板でペンプロッタを作るようになった

初めて出展者として参加した「Maker Faire Tokyo 2014」では、これまで接することのなかった多くの方に自分のペンプロッタを楽しんでいただくことができました。出展は一度で十分かと思っていたのですが、翌年再び見学者として足を運んだ時に物足りなさを感じてしまい、「Maker Faire Tokyo 2016」からは毎年出展を申し込むようになりました。そして出展を重ねるうちに、小さなメカが動く様子を見るのが好きな方はたくさんいるのだということを知りました。

出展者としてペンプロッタを動かしていると、一目見て通り過ぎる方と引きよせられるように近づく方に見学者が分かれるように感じられます。一度自分の出展ブースを訪れて、その後何度も足を運ばれる方も多いです。そのような時は、言葉を交わさなくても小さなメカが動くのが好きだという気持ちが伝わってきてうれしく感じます。自分の作品を見て感じたことを伝えてもらえるのも出展者ならではの喜びです。ペンプロッタを見て「けなげ」と表現された方には、自分の気持ちを言語化してもらえたとうれしく感じました。


Maker Faire Tokyo 2017に出展したペンプロッタ。門型、片持ち型、ガントリー型と様々な形のペンプロッタを動かした

ペンプロッタを見に来て下さる方に楽しんでいただけるように、Maker Faire Tokyoでは毎回新しいペンプロッタを並べて動かすようにしています。また試行錯誤の過程も楽しんでもらえるように、思ったような絵を描けなかったペンプロッタも一緒に並べて動かすようにしています。Maker Faireへの出展に向けてペンプロッタ作りを続けることで、素材や機構を新しいものにするといったチャレンジの機会も増えました。またMaker Faireは自分の作品を見てもらう場だけではなく、たくさんのペンプロッタが目の前で動く姿を自分が一番良いところで楽しめる場としても貴重な機会だと感じています。こうして自分は手のひらサイズのペンプロッタを作り続けるようになりました。


Maker Faire Tokyo 2018に出展したペンプロッタ。似たような形をしているがすべて異なるペンプロッタである

多くの方がペンプロッタを作って楽しむ世界を夢見て

趣味の活動としてペンプロッタ作りを続けていましたが、「Maker Faire Tokyo 2022」では意を決してペンプロッタのキット販売を始めました。これまではMaker Faireの会場で自分のペンプロッタを楽しんでいただきましたが、手元でペンプロッタが動く姿を楽しんでもらいたいというのがキット販売を決意した理由です。キットとしてメカやエレキを提供したもののソフトやコンテンツは不十分な状態での見切り発車でしたが、ペンプロッタキットを元に作品を作られた方が現れた時には販売して良かったと感じました。


Maker Faire Tokyo 2022で販売したペンプロッタキットを組み立てたもの

ペンプロッタには製作者の個性が宿ります。メカの違いだけでは無く描画コンテンツにも個性が出ます。自分がペンプロッタを作り続けるだけでは数もバリエーションにも限界があるため、多くの方が個性豊かなペンプロッタを作って楽しむようになれば、自分も、さらにペンプロッタを楽しめるのではと思っています。ペンプロッタ作りを楽しむ方が増え、Maker Faireの会場でペンプロッタ作りを楽しむ方が一堂に会するようになることを夢見ています。


Maker Faire Tokyo 2022ではプレゼンテーションで「ペンプロッタ島をビッグサイトに」と呼びかけた