Crafts

2023.10.27

メイカー歴1年未満の一家が子どものために作った、理想のコミュニケーションロボット「ハルモニア」― Maker Faire Tokyo 2023 会場レポート #2

Text by Noriko Matsushita

生き物のように脚がうごめく白、茶、黒の6本脚ロボットたち。コミュニケーションロボット「ハルモニア」をMaker Faire Tokyo 2023に初出展した芝村ひばりさんと厚志さん(出展者名:コルドロン)はロボット作りを始めて1年未満のルーキーだ。


ひばりさんがハードウェア、厚志さんがソフトウェア、娘のハルちゃんが動きのアイデアを担当

ひばりさんは、大学は人文系で外国語を専攻し、医療関係の会社に勤務。現在は主婦として子育てに専念しており、メカや電子工作とは無縁な生活を送ってきた。厚志さんはウェブ系のソフトウェアエンジニアで、マイコン制御に興味はあったものの、実際に触れたことはなかったそう。

そんなふたりがロボット制作に目覚めたのは、家族で「攻殻機動隊」の映画を観たのがきっかけだ。

「攻殻機動隊のタチコマを見て、こんなロボットが家にいて、子どもとインタラクションできたら楽しいだろうな、と思い立ち、その日の夜からつくり始めました」とひばりさん。

ひばりさんはハードウェア、厚志さんがソフトウェア担当と役割分担をして、さっそくひばりさんはモデリングの勉強を始める。お子さんが幼稚園に行っている時間を利用して、YouTubeの教材動画でロボットの設計やCADソフトの使い方を学んでいった。

数日後には、CADソフト「Fusion360」と3Dプリンターを購入。3Dプリンターは、機種選びを相談できるメイカー仲間が身近にいなかったため、ネット検索を頼りに手頃な価格で、初心者向けの商品から選んだ。思い切って購入したことで、「身銭を切ったからには使いこなして完成させたい」とモチベーションに火がついたとか。

ロボットの機構学や力学を本格的に学ぼうとすると途方もないが、趣味のロボット制作は、理屈はわからなくても動けばいい。ひばりさんの場合、最初に理想とする6脚ロボットのイメージをスケッチして、それに近づけていく、というやり方だ。スケッチをもとにCADソフトで脚や動体のデータを作り、3Dプリンターで出力して組み合わせ、うまく動かなければまた作り直す、という試行錯誤を繰り返していくうちに、徐々にロボットの構造がわかってきたという。


ハルモニアのイメージスケッチ

CADを一から勉強して着々とロボットのボディを組み上げていくひばりさんの姿に触発され、厚志さんも仕事のかたわら、マイコン制御を勉強。歩行や脚の動きによる表現、音声コミュニケーションの機能を次々と開発していった。

厚志さんは「ふたりともまったく何もわからない状態から手探りで作っていったので、数秒ほど歩いたら脚が折れたり、たくさん失敗作がありました」と振り返る。


6本脚のコミュニケーションロボット「ハルモニア」。頭脳として、M5Stack Core S3を搭載し、歩行、音声対話、プロジェクターでの感情の投影機能がある。円筒ボディのデザインは、横浜の新港サークルウォークがモチーフ。

2022年の1月から作り始めて、わずか1カ月後には歩行できるハルモニアの試作機を完成させた。その翌月の3月には、ChatGPTを使った音声対話機能を追加し、ペットのようにコミュニケーションが楽しめるようになった。4月には試作機よりも一回り大きなハルモニアを完成させ、M5Stackのユーザーグループのイベント「M5 Japan Tour 2023 Spring 東京」に参加。


胴体に樹木の模型を載せて全体を木目調に塗装した「ルボワ」。動きもゆったりと大樹らしく調整されている。


コントローラーで、ぴこぴこと動かせる黒いハルモニア

さらに、音声以外の感情表現を持たせるため、音声と同時にディスプレイに吹き出しでロボットの気持ちを投影するプロジェクションマッピング機能を追加し、より親しみを感じられるようにしている。


コミュニケーションロボット「ハルモニア」・「ルボワ」紹介動画

9月にはM5Stack Japan Creativity Contest 2023に応募し、ロボットアイデア賞を受賞した

ロボット制作の輪を広げようと、Maker Faire Tokyo 2023の会場では、小さなハルモニアの組み立てフィギュアキットを販売。現在は通販サイトをオープンして受注生産している(ハルモニア通販サイト)。


Maker Faire Tokyo 2023で販売したフィギュアキット

制作過程を日々Twitter(@skylark_mmm)で発信し、イベントの参加を通じて、ロボット仲間やファンを増やし、1年足らずですっかりロボットのコミュニティに溶け込んでいる芝村夫妻。ちなみにハルモニアは、4歳になる娘さんの名前(ハル)から命名したそう。普段のハルモニアたちは家族の一員として、ハルちゃんの弟妹のように仲良く一緒に遊んでいるそうだ。