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2023.11.07

劇的な進化を遂げた自作の「ビーダマン」。ビー玉を供給するヘリカルサーバーの開発の試行錯誤がスムーズな競技のポイントに― Maker Faire Tokyo 2023 会場レポート #3

Text by Yusuke Imamura

「ビーダマン」は、ビー玉の発射機構を備えたフィギュアのシリーズである。ビー玉を打ち出し、的に当てて遊ぶ。マンガやアニメにもなり、2000年前後に特に流行した。ブームはその後下火になり、2010年に発売されたのが現在最後のシリーズとなっている。


オリジナルのビーダマン。シリーズごとにさまざまなギミックを備え、異なるストーリーが展開された

2015年ごろから個人向けの3Dプリンターが普及し始めた。アイデアを形にするハードルが下がってきたのを契機として、ビーダマンを自作するムーブメントが4年ほど前に発生。今も最強のビーダマンを目指して日夜改良を続けているのが「球体発射玩具研究会」である。


3Dプリンターで作られた、さまざまな自作ビーダマン。片手で握りもう一方の手でビー玉を補充するタイプ、両手で握り左右の親指で交互にビー玉を打ち出すタイプなどがある


Maker Faire Tokyoで配布されていたパンフレットの内容。ビーダマンの情報やマンガが掲載されていた雑誌「コロコロコミック」の誌面を意識したという

ビーダマンを持ち寄って競技を楽しむ集まりは毎月開催されている。自作ビーダマンに新しい機構を取り入れて勝っても、ライバルは次回までにそれを上回るしくみを投入してくる。「1か月の開発期間で前回より強くなっていないと負ける」という環境は過酷だが、同じテーマで切磋琢磨する仲間がいるということでもあり活動は充実しているという。

Maker Faire Tokyo 2023のブースには、かつての公式大会で使われた競技台の自作レプリカが並べられていた。レーンの奥には3つの的があり、それぞれが左右に動く。1つだけ光っている的にビー玉を当てると得点が入り、光る的がランダムに変化する。1分間にどれだけ得点できるかを競うルールになっていた。


競技台はM5Stackで制御されている。試遊コーナーは子供たちでにぎわっていた

両手で持ち、左右の親指で交互にビー玉を打ち出す「ペンデュラム」タイプで挑戦してみた。本体にビー玉を貯める「ヘリカルサーバー」を空にしてスタート! 競技台の下にあるビー玉をヘリカルサーバーに入れ、ビー玉を打ち出していく。光る的に当たると次の的はランダムに変わるが、同じ的が続けて光ることもある。確率は3分の1だ。2発ずつ打ち出すようにするとビー玉の消費が早い一方、3分の1の確率で一度に2点入る。このことに気付いて、2発ずつビー玉を打つようにしたところ、1日目の午後早い時点で2位のスコアを記録した。

終了後にビー玉を2発ずつ射出するテクニックについて話したところ、「確かにそれで有利になります。ですので、光っていない的に当てると減点する上級者向けの設定もあります」とのこと。ルールを自分たちで工夫し、楽しんでいる様子がうかがえた。


「ペンデュラム」タイプの射出機構を解説する模型も用意されていた


多数のビー玉をスムーズに送り出すヘリカルサーバーの解説用モデル。ペットボトルを流用した手前のサーバーに対して、奥側のヘリカルサーバーは詰まることもなく一気にビー玉を流してくれる

開発のエピソードで興味深かったのは、ビー玉を貯めてビーダマンへ供給する「ヘリカルサーバー」である。現在はビー玉を大量に入れてもスムーズに供給されるが、ここに到達するまでの開発は困難を極めたという。

ビーダマンのビー玉供給システムには従来、下半分を切断したペットボトルが多く使われていた。ビーダマン側には、ペットボトルの飲み口に合うようねじ切りされたアタッチメントがある。しかしこれではビー玉が詰まることがある。ビー玉が詰まると振動を与えるなどする必要があり、時間をロスしてしまう。自作ビーダマンの設計が高度化するにつれて、射出時の衝撃や振動が少なくなったことも詰まりの一因となった。そこで3Dプリンターで理想の形状を出力しようと考えるのは自然な流れだった。

ところが、理想の形状を割り出す試行錯誤が想像以上に大変だった。ヘリカルサーバーの設計は全体の直径やビー玉が流れる坂の角度、ビーダマンへビー玉を送り出す供給口に向かうカーブの形状など、検討する要素が多い。変数が多い上に1ミリ以下のわずかな違いで性能が大きく変わる場所もあり、試作に次ぐ試作を行うことになったという。ビー玉がスムーズに流れていくようにする参考にと、「砂時計のくびれや、渋滞のメカニズムなどを調べた」と語るメンバーもいた。


3Dプリンターでオリジナルの的も製作した。赤や青の的にビー玉が当たると上部のフラッグが上がる。的全体も回転するため、飛び出している部分にビー玉を当ててしまうと的を狙いにくくなる

今回、球体発射玩具研究会がMaker Faire Tokyoに初めて出展したのは、研究会のメンバーが固定されてきたからだという。会場でアピールして新しい人に来てもらいたいとのことだった。

球体発射玩具研究会が活動しているのは、「川崎玩具会」(@kawasakigangu)と「仙川ビーダマン交流会」(Xを「仙川ビーダマン交流会」で検索)の2つ。毎月交互に開催されており、ビーダマンを持っていなくても参加できる。かつてビーダマンで遊んだ人もそうでない人も、ビーダマン活動に加わってみてはいかがだろうか。