Fabrication

2023.11.08

ファブラボ品川の3Dプリンターで自作する暮らしをより良くする道具(自助具)とそれを広げるプラットフォーム「COCRE HUB」 ― Maker Faire Tokyo 2023 会場レポート #4

Text by Noriko Matsushita

Maker Faire Tokyo 2023のファブラボ品川のブースでは3Dプリンターで作られた生活に役立つ道具を展示していた。さまざまな形をしたカラフルなアイテムに来場者は興味深々だ。一見しただけでは使い方がわからず、つい足を止めて手に取りたくなる。


さまざまな形状の自助具たち。どうやって使うのか、思わず説明に見入ってしまう

ファブラボ品川では、2018年の設立当時から3Dプリンターで自助具を作る活動に取り組んでいる。自助具とは、ケガや病気、加齢などで身体能力が弱ってしまった人の日常生活の助けとなる道具のこと。

ファブラボ品川の運営メンバーで作業療法士でもある林 園子さんは、2019年には『はじめてでも簡単! 3Dプリンターで自助具を作ろう』を出版。2021年には、実際のケア現場から生まれた自助具の事例を集めた『無料データをそのまま3Dプリント 作業に出会える道具カタログ/事例集』を出版。この本では200以上の道具が紹介されており、二次元コードからデータをダウンロードして、そのまま3Dプリンターで出力できるというものだ。


ブースでは、書籍『はじめてでも簡単! 3Dプリンターで自助具を作ろう』、『無料データをそのまま3Dプリント 作業に出会える道具カタログ/事例集』、『〈作業〉に出会える3Dプリンター活用事例集』と、6枚セットのカード『3Dプリント早見表』を販売

さらに、2023年は『〈作業〉に出会える3Dプリンター活用事例集』として『入力支援具編』、『日常生活用具編』、『介護支援にもなる道具編/<作業>の練習用具編』の3部作の事例集を制作した。

この新しい事例集をつくるきっかけになったのが、自助具など暮らしの道具を3Dプリンタでともにつくるプラットフォーム「COCRE HUB(コクリハブ)」の開設だ。

3Dプリンターで自助具を作りたい人、自助具を欲しい人たちの情報を集めたウェブサービスとなっている。プラットフォーム上に公開されているアイテムは、3Dモデルファイルをダウンロードでき、一部のモデルファイルについては、ウェブ上で寸法調整も可能だ。


ファブラボ品川の林 園子さん

林さんは、「当事者とその周りの身近な支援者が、自分たちの環境を作り替えて、より良くしていけるようにしたい。その活動を日本中に広めるために、自分たちですぐに作れる情報を集めて提供していきます」と話す。

自助具には市販品もあるが、種類やサイズが限られている。しかし、握力が弱い人向けのペンホルダーは、持つ人の手指の大きさによって使いやすいサイズや形は違うはずだ。これまでは現場の作業療法士と当事者の間で「あったらいいな」というアイデアはあっても、小さなニーズはなかなか商品化されず、多少不便でも我慢するしかなかったという。

業者にオーダーメイドするにしても、どんなものがあればいいのか、うまく伝えるのは難しい。身近な存在である作業療法士であれば、当事者からのニーズを引き出しやすく、手軽に使える3Dプリンターなら相談しながら何度でも作り直して調整できる。

ファブラボ品川設立当初から続けているワークショップやセミナーを通じて、全国のケア現場に3Dプリンターの活用が広がっているという。

「3Dプリンターはこれからもっと初心者でも使いやすくなっていくはず。難しい、という概念をなくして、自分たちが当事者性をもって3Dプリンターを使い、暮らしをより良くする活動が広がればいいなと思います」と林さん。

ファブラボ品川では、リハビリテーション現場向けに3Dプリンター用のフィラメントも開発している。ブースでは、ユニチカ株式会社と共同開発したFDM式3Dプリンター用の感温性フィラメント「TRF+H」を使ったサポーターやアクセサリーの実演をしていた。

「TRF+H」は、45度以上に温めると柔らかくなり、形状を変えられるのが特徴だ。一般的な医療用のサポーターは、シート素材を患部に合わせて切り抜き、温めて成型するが、このタイプは一度硬化すると変形できない。TRF+Hでリハビリ用のサポーターを作ると、腕に合わせながらドライヤー等で温めてぴったりフィットさせることができ、腫れがひいてサイズが変わったら、再度温めて微調整できる。また、3Dプリンターで造形すれば廃棄部分が出ないので、ゴミの削減にもつながる。


「TRF+H」で作ったサポーター

「COCRE HUB」には、熱いドリンクを持ちやすくするカップスリーブ、はんだごてホルダーなど、障がいの有無に関わらず使える便利アイテムのデータも公開されているので、興味のある方はアクセスしてみては。また、3Dプリントができるコラボレーター拠点を随時募集しているそうだ。