2013.06.14
Maker Pro:どうやって価格を決めるか
自分が作った製品にいくらの値段をつけたらいいか、というのが2番目に多い起業家からの質問だ。いちばん多いのは、もちろん「何をつくればよいか」というもの。
最初の問題は通過したものとして、そしてあなたの製品の市場があるとすると、いよいよ製品に値段を付けなければならない。
値段付けで考えるべき問題
eMotimoのBrian Burlingは、この問題をみごとに分類してくれている。
- 製品の原価。
- 販売店の経費(手数料)。
- 量 – いくつ作って売るか。
- 流通業者への支払い – 通常は少なくとも30パーセント。
- 価値 – 顧客はいくらで買う気があるか。リアルと雰囲気(ブランド)の両方。
値段付けの戦略
値段付けには2つの戦略がある。マスマーケットとブティックだ。この記事では、第一の戦略に焦点を当てたい。エレクトロニクスとガジェットを中心とするビジネスでは、そちらが主に使われるからだ。ブティック(小規模な専門店)戦略は、小規模生産で利益率の高い、高度にカスタマイズされる製品(アート作品など)には向いている。この2つの戦略は、自分で選ぶこともできるが、顧客が決めてくれることもある。
また、途中で戦略を切り替えることもできる。しかし、簡単ではない。5年、10年先も会社が存続していることを考えると、なおさらだ。小さな手工業でアート作品を売るビジネスを考えているなら、ブティック戦略がいいだろう。数千数万人の顧客を相手にした数百万ドル規模のビジネスを目指すなら、マスマーケット戦略だ。
ブティック値付け戦略
Woodcut Mapsは、ブティック戦略のいい実例だ。ここでは、注文で木の地図を作っている。価格は150ドルからだ。最初は既製の地図を販売していたのだが、完全な特別注文の地図を作るようになるまではビジネスは振るわなかった。非常に優れた製品ながら市場サイズはとても小さい。しかし利益率は高い。
Ero GearはLEDを仕込んだ服を販売している。非常にコストの高い製品なので、広告やハイエンドのイベントが主なターゲットだ。競争相手も少ないため、これを必要とするイベントや広告キャンペーンなどに対して、かなり高めの価格設定がされている。しかし、これを目にする人は非常に限られている。
ブティック値付けのヒント: 顧客が払おうと思う上限まで価格を上げること。
マスマーケット値付け戦略
マスマーケット戦略には、流通業者や付加価値再販業者(VAR)を使うなど、自分の製品を他の人に売ってもらうことが含まれる。企業と一般消費者の取り引き(B2C)を行う業者ではもっとも一般的な戦略だ。
このタイプの値付け戦略の要点はひとつの属性にある。「売り上げ原価」、つまり製品のコストだ。
製品の販売に関わる価値連鎖の中のすべての人は利益を得なければならず、消費者が支払う気持ちのある金額まで価格を上げようとする。これには流通業者や付加価値再販業者が含まれる。私が話を聞いたハードウェア起業家たちの話では、一般的なルールとして、最終的な販売価格は「4×売り上げ原価」となるという。つまり、100ドルで販売される製品の生産原価は25ドルということだ。その一方で、DIY DronesのChris Andersonは、「2.6×売り上げ原価」を目指すべきだと訴えている。
どちらの数字を使うにせよ、販売価格は、どれだけ安く作るかにかかってくる。同じ原価が25ドルの製品も、2.6倍なら販売価格は65ドルだ。原価に特定の数字を掛けて価格を決めるというやり方には決められたルールはないのだが、たいていは、その2つの数字の間に収まることになる。
マスマーケット戦略で行こうと決めたとしても、自分で製品を売れないというわけではない。だが、流通業者やVARを通すよりも安く売るのは考えものだ。高くした分は、価格を揃えて高くした分はボーナスと考えればよい。
価格はとても重要な問題なので、メーカーは常に効率化や生産規模を増やすなどして原価の削減に努力している。ひとつだけ作るよりも、1,000個作ったほうが1個あたりの原価は安くなるのが普通だ。Faraday BikesのAdamはこう言っている。「時間をかけて生産規模を大きくしていけば、製品の原価が下がることはわかっている。しかし、そのときまでは我慢して、製品価格を低くおさえないといけない」
マスマーケット値付け戦略のヒント:販売価格は製品原価によって決まる。
ハードウェア起業家はどのように価格を決めているか
ハードウェア系起業を立ち上げる人たちの参考になればと、私は現実的の例を求めて数人の起業家から話を聞いた。ここに、彼ら自身の言葉で語られたアドバイスを列挙しよう。
競争が価格設定の助けになる
gTar – Idan Beck
私たちの製品価格は、おもに現在の少量生産の原価と、現在の市場環境 / 顧客の知覚価値をよくよく考えて決めています。gTarに興味を持った人は、その価格を、より安いギター、または中古のギターを買ってYouTubeでレッスンを受けるという方法の知覚価値と比較するでしょう。
私たちは、普通のギターの平均的な販売価格を調査して、それが390ドル前後だと割り出しました(業界調査データ)。そこで、その価格に近づけようとしたのです。この価格なら、現在の営業活動に対して十分な儲けがあり、健全な販売ができます。いずれ生産が効率化されたときに価格の引き下げも期待できます。
値付けのもっとも難しい部分は製品教育だと思います。それはマーケティングにも関係してきます。私たちの製品の場合、量販店では99ドルのギターが普通に売られている中で、とくにそこが問題となります。gTarは通常のギターとはまったく異なる価値提案をしています。今のような状況では、市場の選択肢を大きく離れた製品を売るのは困難です。これが一般的な値付けの要となります。そのため私たちの値付けは、このような現実に根ざして判断されています。
Camera Mator – Usman
私たちは2つのアプローチを使って値付けしています。まずは生産予測数(〜1000)の生産原価を4倍から5倍して販売価格を決めます。その一方で、大手(ニコンやキヤノン)の同等製品の価格を見て、その50〜65パーセントに収めようと考えます。この2つの数字から、だいたいの価格が決まります。もちろん、これは販売価格なので、販売店や流通の費用は別に考えないといけません(ずっと標準化されていますが)。
値段を下げるデザイン
Brain Jr. – Jay Smith
私たちは長年、DIY製品を販売してます。それが起業の第一の目的でした。私たちは常に、本当の消費者価格で製品を販売したいと考えてきました。50ドルです。しかし起業当初は、規模が小さかったために、そこまで価格を抑えることができませんでした。そのため、Brain v1を199ドルで売り出したのです。
価格は常に原価から計算されます。いくら欲しいか、から考えることはしません。作るのにいくらかかったか、この小さな会社の運営にいくらかかるか、を考えます。DIY製品なので、できるかぎり価格は安くしようと努力しています。そのため、価格を50ドルにできるようにデザインするのです。ほかの方法は考えません。
Brain v1は99ドル。v2は189ドルです。上位機種を作りました。よく売れましたが、コストもかかります。私たちは、本当は50ドル以下のものを作りたいのです。本当の入門レベルの価格です。そうするためのデザインをしているのです。
市場調査は精密科学ではない
Sifteo – David Merrill
製品の価格が適正かどうかを確かめるために、こんな質問を自分にしてみる。同じ要求を満たす同等の製品があったら、それはいくらするか? こちらの製品がより高ければ、より多くのお金を支払っても買おうと思わせる高い価値があるか? 見方を変えて、自分の製品は30ドルの要求を満たすものか、200ドルの要求を満たすものか? 販売価格を決める前に、これらの質問に答えることが大切だ。
私たちはいろいろな調査をしました。また、消費者グループの値段ごごの反応を見たりもしました。しかし、こうした「自己申告」型の調査では、あまりよいデータは得られません。「みんながどう言っているか」と「みんながどうするか」はどうしても一致しません。ある価格で実際に販売してどうなるかを見るという、現場の情報に勝るものはありません。結局のところ、私たちの価格は売り上げ原価を見て決めることになります。潜在的顧客を調査して、市場での他の製品の価格を調べ、どれだけ「カミソリと刃」の方式を展開できるかを考えます。私たちには、マイクロソフトやソニーや任天堂と違って、銀行にたっぷり資金があるわけでないですから。新製品の値付け(とくに新しい分野のもの)は精密科学ではなく、製品を作る人なら誰でも使えるいくつかのアプローチなのです。
ブランドが値段を決める
Pocobar – Brian Krieger
まず、製品は原価の2倍、できればそれ以上の価格を付けて販売するべきです。これなら、会社の諸経費、新製品開発費、セールス、マーケティングなどのコストもまかなうことができます(生産規模と1回の販売でいくつ売るかにもよります)。
これに会社のブランドも加味します。たとえば、高級ブランドを立ち上げようとしているのか? 「支出に見合う最高の価値」に頼るのか? ブランドの考え方を持ち込むと、競合製品の機能と価格を元にした名目上の設定点から、値付けの方向性を大きく変えることになります。
価格は常に変化する
Custom Power Solar – Tom Rust
私たちは、比較的短い時間で製品を進化させてきました。新しいバージョンが出ると、古いバージョンの在庫が余っているときは、ネットオークションで販売します。在庫を抱えておきたくないんです。
価格は、競争相手によっても変動します。同等の製品は、機能的に勝る状態を保ちつつ、同等の価格で売ります。相手が価格を変更しても、すぐにこちらの価格を変更する必要はありません。相手が急に価格を下げるのには、それなりの理由があるのです。どこかに欠陥か問題があったのかもしれません。こちらの価格を変更するまえに、そこを探るべきです。
あなたの番だ
あなたは、どうやって価格を決めている? どんな要因を重視している? マスマーケット、それともブティック? それはなぜ? コメントで教えてほしい。
StephenはMBAを持つロケット科学者。Makerムーブメントが世界を変える様子を調査している。詳しくはStephen Murpheyのブログをどうぞ。
写真:seanmcmenemy
[原文]