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2014.11.07

つくっている人たち[01]─ KIMURAさん

Text by guest

「Maker Faireと私」── KIMURAさんの場合

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Makerに話を聞くこのシリーズ、最初の登場は株式会社TASKOのKIMURAさんである。

TASKOは、ステージ、広告、プロダクト、アートの各業界にまたがってものづくりを展開している会社だ。アイドルの電飾衣装やステージ(例えばももクロのNHK紅白とか)、メーカーの企画ものプロダクト(例えば富士ゼロックスの「ドラえもん四次元ポケットproject」とか)、ファッションブランドのPR用プロダクトなど、幅広く制作活動をしている。

そのTASKOを立ち上げ、設計制作事業部で工場長を担当しているのが、KIMURAさんだ。お仕事面について興味のある向きは、ぜひウェブ検索などされたし。ここで伝えたいのは、KIMURAさんがMaker Faireの第1回からの出展者だ、ということなのである。

第1回に江東区の小学校でやったとき、出展したんですよ。最初は、何のイベントなのかさっぱりわかっていなかった。「なんかのオフ会がある」って聞いて(笑)、作品をクルマに積めるだけ積んで、行った(笑)。

自分はそのころ福生に住んでいたから、遠すぎて人との接点があまりなかったんです。で、Faireに出展してみたら、(出身の)多摩美つながりの人たちがいて、雑誌の「Make」の存在もはじめて知って、「あ、みんなはいまこういう方向に向かってるのか」なんて気づきました。

思い出すと、第1回は、懐かしいですね。セグウェイに乗って、ムチを振って(笑)。バズーカ砲もありましたね。プラネタリウムのヒゲキタさんや、テスラコイルの菊地君と話をして、「へぇ、こんなおもしろい人がいるんだ」と思ったりもしたんです。

自分の作品、「テレビジョン」のDVDは30枚も売れました。「このイベントはイケるな」と感じましたよ(笑)。Maker Faireは、来場する人が選別されていないのがいいんですよね。Makeに興味のある人はもちろん、近所だから来る、新しいものが見たいから来るという人もいる。ガジェット系の人がいれば、アート系の人もいる。いろんな人がいるのがいい。

自分は、第1回から「もっとどんどんやればいいのに」と思いました(笑)。

日本のMaker Faireの第1回(当時は「Make: Tokyo Meeting」だった)は、2008年、江東区のインターナショナルスクールの古い体育館とグラウンドを借りて実施された。オライリー・ジャパンのT氏が、ほとんど身内みたいな関係者に声をかけ、実現されたのだった。KIMURAさんだけではなくて、出向いた人ほとんどが「なんじゃこりゃ?」と思ったはず。そして、「なんだかおもしろい」と思ったはず。

ちなみに“ムチ”とは、雑誌「Make」で紹介された「牛追いムチ」。みんなでムチを振り、空気砲で粉砕されるキャベツを見て、笑ってた。出展者も来場者もいっしょに。

第1回のあと、KIMURAさんは3回ほど出展している。「毎回出たいけれど、ステージやイベントの仕事は土日に本番が多くて都合をつけにくくて…」とのこと。

しかし、今年の「Maker Faire Tokyo 2014」には、新作で出展しますよ!(詳細は後述)

【KIMURAさんの個人アート活動「KIMURA」の作品群】

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(左)PEACE WALKER(2001-2002年)ふわふわフォルムが愛らしいモーター/リモコン作品。トコトコと二足歩行する。(右上)Foottawayシリーズ(2003年)1号機はカブのエンジンで作成。2号機は乗用を目指したが安全性を考えて「乗用不可」とした。
(右中)INUシリーズ(2006年)(右下)TELEVISION(2004年)MacOS9の「プラチナサウンド」によるサンプリング音声のDVDと、DVD再生機付きブラウン管テレビで制作。こいつを相棒に「ロボット漫談」もやった!

「KIMURA」には、ペーパークラフトもあるんです。ペーパークラフトのシリーズは、ゼンマイで動くオモチャ。レーザーカットした紙を組み立てて動かす。このキットをFaireで販売したときは、すごく売れたな。たしか、1日に6万くらい、荒稼ぎしちゃったんだな(笑)。

もともと自分は、機械指向なんです。機械、とくにアナログの機構で動くものが好き。機械接点をつなげて動かす、古い電話交換機みたいな仕組みなんかが大好きなんですね。

工業高校の出身ですが、高校では建築科でした。そこから多摩美に進みましたけど、やっぱり機械が好きだった。学生時代は不思議とパソコンやプログラミングには興味が向かなかったんですよ。フィジカル・コンピューティングは、全然…。大学時代はそっちが全盛で、研究室(電動芸術研究室)も電動の人が多かったから、「エンジンを使いたい」なんてのは自分だけでした。

エンジンは、高校の時から好きです。音がいいし、トルク感もいい。雨の日は調子が悪いし、声をかけると調子がよくなった気がする。ずっと“生物的なパワーリソース”だと思っていました。

大学2~3年の時に「PEACE WALKER」シリーズをつくったあと、4年の卒業制作ではエンジンの「Foottaway」をつくりました。モーターの「PEACE WALKER」がうまくいったから、やれると思ったんですね。エンジンを探したら、先生が(HONDAの)オートバイの「カブ」をくれたんです。つくってみたら、すぐにできた。そのころ、たまたま学校にHONDAの人が来たんですよ。「Foottaway」を見せたら、「ふむ。で、キミはどうしたいの?」って聞かれて、「う~ん、とくに何も…」って答えた(笑)。「とりあえずエンジンください」と言ってみたら、HONDAの家庭用耕耘機「プチな」をもらったんで、それで2号機ができた。

いま思うと、「Foottaway」シリーズは“若気の至り”。エンジンで二足歩行って、なに? 「どうしたいの?」って聞きたくなるよ(笑)。

【KIMURAさんの出展作】
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ペーパークラフトシリーズ(2008年)

脳内にたまったものをガシガシ描くのが自分のやり方

学生のKIMURAさんが、二足歩行にこだわったのには時代背景があった。HONDAのロボットASIMOの登場は2000年。「21世紀はロボットの世紀だ!」という個人的な盛り上がりが作品の「PEACE WALKER」につながったのだという。

それから何年かして、当時のアメリカのゴア副大統領が地球温暖化問題の啓蒙活動をしていた(そうそう、それでこの人はノーベル平和賞を受賞したんだった)。「石油はあと20年で枯渇する」という発言もあったものだから、ガソリンエンジン好きのKIMURAさんとしてはあせった(結果的に20年枯渇説は消えてしまったけど)。「ガソリンエンジンへのトリビュート的な作品をつくりたい」と、KIMURAさんは考える。「エンジンと人間の関係について考えていったら、それは犬と人間の関係に近いように思えたんです。それで、エンジンの行きたい方向に散歩をさせる犬(edge)ができた。エンジンのができたら、仲間がいないとかわいそうに思えて、亜種のモーター版motoもつくったんです」。「INU」シリーズの根底には、そういう思いがあるのだ。

ペーパークラフトシリーズはエンジンなどの重工業的作品とは対極にあるようだが、「紙」というマテリアルは誰でも加工でき、データさえあれば再現できる。今まで金属などの硬いもので堅牢な作品を製作してきたが、データと紙の堅牢さは実は物体以上なのではないかと考えている作品群。当時目新しかったレーザーカッターを使用、紙での二足歩行機構を繊細に実現している(おそらくMake Faire初のレーザーカッター作品)。

「販売でもうかった」話はMake Faireではレアケース(!)なのだけれど、KIMURA作品にはそれだけ魅力があるということでしょう。その魅力、KIMURA作品らしい発想のふっ飛び方はどのあたりからくるのか、もう少し聞いてみた。

作品のコンセプトは、考えます。割と…というか、かなり考えてるほうかもしれない。感覚的なところでも、割と…というか、けっこう意識しているところがありますね。いま、自分はプロになって、作品をつくって稼いで、生活をしています。けれど、ある種の「シロウト感覚」みたいなものは忘れたくないんですよね。

例えば、最初の「PEACE WALKER」は、まったくバランスなどは計算していません。感覚で曲げてつなげてやっていったら、できた。モーターやリモコンの電気的な回路などは、つくりながら覚えていった。必要な知識は、興味があればどんどん吸収できるものです。そうやって知識が増えてくわしくなるのはもちろんイイことなんだけど、そればかりでもないんですよね。アイデアに従って手を動かしているとき、知識がジャマをすることがある。どこかで「無理だろう」とブレーキが働いてしまうんです。すると、「とにかくやってみる」の選択肢が消えてしまう。

反対に、覚えることがたくさんありすぎると、興味がそがれてしまうというのもあります。例えば自分はいま、Arduinoを趣味でやっています。知識が増えてきたことは、実際に仕事の発注の場面で役立っているんだけど、あと1000時間くらい本気でやらないと自在に扱えそうにない。限界があるので、もう少し趣味にしておきたい。そんな風に意識的に留めていることもあります。

自分の脳みその中にあるアイデア、これを自分では『脳内規格』って言っているんですけれど、これはいい意味での「シロウト感覚」を満載にしていかないと実現しないし、下手すれば消滅してしまう、と思っているんですよ。
脳内規格のアウトプットは、自分の場合は、ほとんどスケッチです。手描きです。まずは脳内にたまったものをガシガシ描いて出していく。脳内規格は、あまりたまりすぎると、どよんとして気持ちが悪くなってくるんですよね(笑)。描くだけでなくて、手を動かして何かつくってみることもあります。

脳内ではなんとなく、形(イメージ)になっています。それをアウトプットしたら、観察します。描きながら考えていく感じ、ですかね。この一連の作業、調子がよくなると手だけが動いて自動筆記みたいになるんですよ。描くのはほんとうは紙がいいけど、紙だと紛失するから(笑)。最近はiPadです。ええと、こんな感じ。

【インスタレーション共同制作・プラン段階】
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ハイパーニットクリエイター力石咲さんの展示会(2014年・NTTインターコミュニケーション・センター (ICC))におけるインスタレーション。まずは会場の全景写真に手描きスケッチ

これが、最終形態ではこうなります。

【インスタレーション共同制作・実際の展示】
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プラン段階での脳内規格がうまく実現されている!

こういう手描きからはじめるプロセスが、自分にはいちばんしっくりくるんです。パソコンとマウスで描いてもきれいになりすぎちゃって、脳内規格に近い仕上がりにはならないんですよね。

KIMURAさんが手がけるものは、アーティスト作品もクライアントワークも、たいていスケッチからはじまる。プライベートの作品づくりと仕事との違いで大きいのは、「成功率」だそうだ。やはり、依頼されてつくるものは「印象的に80%くらいできそうなもの」でないと提案はできない(当たり前だね)。

ただ、Makerとしては「危ない橋を渡って、わけのわからんものをやっていきたい」と言う。それがやりたいから、個人ライフワークの「KIMURA」プロジェクトなのだ。

【わけのわからんもの代表:歩く自転車】
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二足歩行へのこだわりは、まだまだ密やかに続いている! 「なぜ人の足は車輪に進化しなかったのか」の疑問から「二作歩行の自転車があってもいいのではないか」のアイデアに至る脳内規格スケッチ

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TASKOの社内はこんな感じ。(右下)が制作中の歩く自転車「フットボーイ」。ここまでできたけど、頓挫してる

「KIMURA」のマシンバンドを実現させたい、その理由

「わけのわからんもの」をつくってみたいMakerゴコロ、そこのところも、もう少し聞いてみた。

ものづくりの理想形は、「小宇宙観」みたいなものだと思います。「これをつくりたいからつくる」という、ただそれだけの思いからつくられる世界。作品と制作者の間にはその小宇宙しかないんです。

趣味としての作品づくりに没頭していくと、作品との距離がどんどん短くなっていくんですよね。視野にあるのはその作品だけになって、まるで作品が愛しい恋人のようになってしまう。その小宇宙観は、他人が見れば「大丈夫かな、この人」に見えるものですよ(笑)。でも、自分はそういう純度の高いものづくりがすごく好きなんです。Maker Faireにはそういう人がちらほらいる。

ネットだと、自分は、例えばこのフランスの人をずっとフォローしています。

スゴイでしょ、この旋盤、ボール盤のミニチュア。ノギスまでこんなに小さく手づくりして。このおじいちゃんの作品は、全部がいいんです。こういうタイプの人にMaker Faireで出合って話をしたりすると、自分としては「生きててよかった」とさえ思う(笑)。こうしてものをつくって、たまたまフューチャーされることもあるけどそこを狙ったりもしていなくて…そして人生を終えていくんです。いいですよね。

さて、今回のMake Faireでは、「KIMURA」プロジェクトの作品が展示される。新作は、マシンバンドだ。バンドの構成をどうするかは、現在アイデアを練っているところ。

バンドの1パートは、明和電機と「大人の科学」マガジンが共同制作した「オートマ・テ」の改造作品のギターになる。もともとKIMURAさんは明和電機のアシスタントワークをしていて、オートマ・テの作例開発でも協力しているのだ。

【オートマ・テ改造作品「オート・オートマ・テ」】

円形の3連のカムをサーボモーターで動かしている。ピックを動かす「ピックマ・テ」とフレットを押さえる「プットマ・テ」の2台使用で、演奏能力は3弦・2フレット。「6弦を弾くのも制作可能だけれど、この制約も活かしてみたいところ…」だそう。

2013年に制作されたロボットバンド「Z-Machine」では、自分は機械部分を担当しました。そのときから、「バンドをやりたい」と思うようになったんです。というのは、つくったマシンが別のミュージシャン、別の才能と組み合うと別のマシンになっていくんですね。想定していない動き、想定しない使われ方があるんです。それと、音楽を聴いて高揚するあの気分は、音楽にしかないでしょう? マシンバンドでないと表現できない高揚感をつくりだしてみたいんです。

いまのところのアイデアでは、これまでにない新しい楽器も出てくると思う。電磁石、テスラコイルのパート、ムチをふる機械のパート(笑)。「ざわざわざわ」「わーーっ」「おーーっ」という観客も、機械的に再現したい。
最低限の3ピースを、年内にそろえることからはじめます。それをMaker Faireに出します。とりあえずは、「オートマ・テ」ギターとドラムかな、ベースかな。どうなるかな。

最終的にはどんなかたちをもってマシンミュージックの完成とするか、そこのところを試してみたいです。既存のマシンミュージックの先には何があるのか――マシンの動きが大きいとか、見ておもしろいとか、機械をふくめてのバンドグループであるとか、あるいはそれだけではない何かがあるのか…そういうことをつくりながら考えてみたいと、いま思っているんです。

というわけで、このKIMURAプロジェクトのマシンバンド計画は、長期的な視野で進行中であります。そんなKIMURA脳内規格の一端は、Maker Faire Tokyo 2014で!

─ 窪木 淳子


[PROFILE]
KIMURA(木村匡孝・きむらまさたか)
1981年、東京生まれ。2004年、多摩美術大学情報デザイン学科卒業。多摩美在学中からモーターやエンジンを使った作品を制作、発表。卒業後は明和電機のアシスタントワークを経て独立、「東京KIMURA工場」を設立。2012年、総合制作会社「株式会社TASKO」の設立に参加、現在は同社の設計制作事業部・工場長を務めている。(公式サイトTwitterFacebook)

TASKO Inc.(official WebsiteTwitterhttps://www.facebook.com/taskoinc)


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